上 下
38 / 48
冒険者編

冒険者編28 あいつらがいない間は……

しおりを挟む
 翌日、ギルドに向かうとギルドの外でドンキ、グルークパーティや上位ランクの冒険者が大勢、何かの準備をしているのが見えた。
 冒険者たちを見送るかのようにミールもギルドの外に出ていた。

「おはよう、ミール。今日は何かあるのか?」

「おはよう。……今日は皆が遠征に行く日なの。それも今回の遠征は大規模でギルドのAランク以上の冒険者は全員招集。うちのギルドも大勢の冒険者を遠征に送るの。」

 はぇ~、遠征か。確か、新しく発見されたダンジョンの攻略とかだっけ。これだけの人数が行くってことは神造兵装級のダンジョンとかだろうか?


「お、キリアス!今日も早いんだな。」

 そう、俺に挨拶してきたのはグルークだ。昨日あれだけ飲んでいたのに平気な顔をしている。それに比べて後ろには頭が痛そうなドンキの顔が見えた。二日酔いの影響だろうな。

「おはよう、グルーク。遠征に行くんだってな。今回の遠征はどこに行くんだ?」

「今回のはデルタギルドからの応援要請だから、なかなかに遠い場所だ。」

 デルタギルド、獣人族が多いギルドだ。たしか、このギルドから一番遠い。

「これだけの人数が必要なら、神造兵装が核のダンジョンとかなのか?」

「あんま説明を聞いてねえからわかんねえな。ミーちゃんは知ってるか?」

「確か、通常のアーティファクトを核にしたダンジョンの最下層攻略ですね。かつ、とても強力なダンジョンなので応援要請を出したようです。」

「だそうだ。とにかく俺らは全員このギルドを離れるから、ミーちゃんのことと、このギルドのことは任せたぞ!」

 グルークはそういいながら俺の肩を思いっきり叩いた。

「言われなくともわかってるわ!あと、いてえ。」

「はっは!それなら安心だな!……それじゃ、もうそろ行かなくちゃだから。じゃあな。」

「グルークさん、お気を付けて。」

 グルークたちはそういって、駅の方に歩いていった。
 このギルドに来てから三年たったが、これだけの人数がギルドからいなくなるのは初めてかもしれないな。

「なぁミール、こういう大規模な遠征はちょくちょくあるのか?」

「ちょくちょくはないけど、一度もなかったってわけじゃないよ。
 …5年に一度くらいかなぁ。こういう時はあの騒がしさが一気になくなるから少し寂しいんだよね。大体、2,3か月はこの状態が続くから不安になるときはあったよ。……でも、今回はキリアス君がいるから大丈夫だね!」

 ///えっと、…恥ずいっすね。

 信頼している笑顔。頼ってくれているという感覚。ミールの笑顔があまりにも可愛すぎたのだ。仕方ない、仕方ない。

「主、そろそろダンジョン行かないの?イチャイチャするのはもう見飽きたよぉ。」

 唐突に霊体化を解除したラズ。上がった体温が一気に下がった。

「うっせぇわ、それと今日からはダンジョンに行かないぞ。シータの中でできるクエストをするから。」

「急にどうしたの、主?」

「ま、グルークに任されたからな。できるだけシータの中にいたい。」

「ふ~ん、わかったー。」

 やる気なさげに霊体化していってしまった。これまた不機嫌なラズ。あとで謝っておこう。

「それじゃ、そんな感じで適当なクエストを受けるよ。」

「分かった。頑張ってきてね。」




 そうして、俺とラズはシータの中でできるクエストを受けていった。
 久しぶりに討伐クエスト以外のクエストを受けた気がする。町のほとんどのおばちゃん、おじちゃんから…、


「久しぶりじゃな。」

「大きくなったねぇ。」


 と言われてしまった。第二の故郷にも箔がついてきた。

 もう、ご近所さんのお孫さんポジションなんだよなぁ。ただし、ご褒美のお菓子屋ジュースはやっぱりラズの方に向いてしまう。
 こういう光景も久しぶりだ。俺が汗をだらだらかいて働いているその横で、依頼主の人たちからお菓子を貰ってうれしそうに食べているラズ。何というか、こういう状況にも慣れてしまったものだ。
 ラズが魔術を使うときは、俺がよっぽどのピンチの時しかない。ゴブリンの件以降も何度かそういうことがあったがそれでもラズが魔術を使った回数は両手で数えられるぐらいしかない。

 それが俺とラズのデフォルトなのだ。サシタルからは何度も

「お前は精霊使いじゃない。」

 と言われてきた。実際そうなのだ。精霊使いの当たり前を押し付けてこないでもらいたいね。



 そうしてクエストを一通りこなすと、時間は昼頃になっていた。俺とラズは、クエスト達成の報告と腹ごしらえをしにギルドに向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してまで理不尽設定で死にたくない

mitokami
ファンタジー
 (とある一部の)昭和平成にありがちな御話。婚約者がいる相手を狙うparasite(パラサイト)なヒロインと、paranoid(パラノイド)に陥るライバルの設定(ドラマでは、既に婚姻済み設定もw)ってのが多く存在しました。 そんな時代、攻略対象は浮気した上に、略奪者に立ち向かった婚約者や妻との婚約や婚姻を破棄して、婚約者や妻から自分を略奪した女と幸せに成る…ってのがテッパンネタだったのですwが…、それって普通に浮気だよね?駄目じゃね?ってのを…、令和の時代、世間がやっと気付いたっぽいです…な、今日この頃……。最近の流行りネタだし、一度は私もそう言うの書いとくか!と思い。 ドラマ的設定なのはドロエロに成りそうなので、主人公がゲームの世界に入り、[ヒロイン(略奪者)を「ざまぁ」する]と言う話を物語ろうかと思いました。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

ワープ兄妹が行く

右京之介
ファンタジー
ワープ能力を持った兄妹の話。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

処理中です...