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冒険者編
冒険者編6 キリアスに近づく絶望の色
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俺は、シルバダンジョンに向かう途中で渡された資料を見ていた。出てくる魔物は下位の魔獣とゴブリンくらい。ダンジョンのアーティファクトは持ち出し禁止のものらしい。持ち出しが禁止されている理由は簡単でダンジョンがダンジョンとして成立しなくなるからだ。説明を受けたとおりだな。
「ラズってダンジョン攻略とかはしたことがあるのか?」
「うーん、ないかなぁ。」
「……そうか。」
「……主、心配してるの?」
「そりゃ、心配してるよ。初めてのダンジョン攻略なんだからな。」
俺がそう言うとラズは大きなため息をついた。
「なんだよ、心配しちゃダメなのか?」
「そりゃ、ダメでしょ。だってこの私がいるんだよ。心配する必要なんてないない。」
どんだけ自分に自信があるんだこいつは、
「それに、……主にも少しくらいは力がついてきたしね。ま、弱いことに変わりはないし、毎日頑張ってる転移は成功してないみたいだけどね。」
褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしてくれ。
……そう思っていたところ、前からもう一台、街に向かっている馬車が来ているのが見えた。俺たちが行こうとしているシルバダンジョンの方からの馬車なので、きっと帰っているところなんだろう。
馬車が横を通り過ぎる瞬間、見えたのは一人の男。それもボロボロの姿で涙を流していた。もちろん体中から血も流れていた。
「おいおい、ラズ。ほんとに大丈夫なんだろうな?めちゃくちゃ不安になってきたぞ。」
……
「ラズ?…って寝てるし。」
あの火球を放てる奴だ。本当に大丈夫なんだろうな。
「ふん!!」
「はっ!」
「せいや!」
「頑張れ!がんばれ!主!やれやれ!主!」
へとへとになりながらも剣を振る俺に対し、いったいどこから取り出してきたのかわからないぽんぽんを振っているラズ。
「くぅ……ちょっとは手伝え!」
「えぇ、でも私、か弱い女の子だしぃ。」
「魔術使えるだろ。あとそのポンポンどっから出したんだよ。」
「何言ってんのか分かんなーい。それに私、手伝ってるって。魔石拾ってるし。そろそろ魔石の数も多くなってきたし帰ろうよ、主。」
「それもそうだな。」
シルバダンジョンに潜ってからもう二時間くらいたっただろうか。出てくるのはこれまでに少しくらい戦ったことのある魔獣とゴブリンだけだし、数は多いけどさばけるようになってきた。この三か月で少しは成長しているということだろう。
「でも、帰る前に三階層以降に行ってみないか?この調子なら問題ない。行ってみよう。」
「いいよー、いこいこ!」
……
「?どうしたの、主。ラズのことじーっと見て。惚れたの?」
「いや、珍しいなと思ってな。大体こういう時は、早く帰ろうよーおなかすいたー、とか言ってたじゃないか。」
「全然動いてないんだから眠くもないしおなかもすいてないよ。」
馬車の中ではぐっすりだったしな。これまでの経験からして、寝たら魔力が回復するような感じなんだろう。
「それじゃ、行くか。」
「あぁ、行ってくる。」
そういって、キリアスさんはギルドを出て行ってしまった。笑顔で送り届けたが正直不安だ。
いくら、ラズさんがいるからといっても彼は冒険者になって三か月しかたっていない。それに…なんだか嫌な予感がする。
「なんだ、ミーちゃん。あいつのことがそんなに心配なのか?」
「あ、グルークさん。ははっ、…気づいちゃいました?」
「あぁ、わかるさ。いろんなことは笑顔で隠せるがそれだけは隠せねえな。女が男を心配する目だ。」
「……なんですか?からかいに来たんですか。」
「はっはっは!悪いなミーちゃん。そんなつもりはなかったんだが。あいつにはあのラズさんがいるんだぜ。大丈夫だろ。
それにシルバダンジョンだったら半刻前にシュートたちが行ってただろ。あいつらのランクはCだ。もしピンチになっても先輩の肩を借りればいい。」
「……それもそうですね。安心して待っておきますか。」
それから私は、いつも通りギルドの運営の事務作業をこなした。
「お、シュート!もう帰ってきたのか?早いじゃ……ない…か。…………おい、シュート、いったい何があったんだ?」
その場にいた全員が青ざめた。
今、ギルドに入ってきたシュートさんは全身傷だらけ、血をだらだら流しながらそのボロボロな装備を引きずっていた。
だが、一番重要だったのはそこにいたのは「シュートさんだけ」ということだった。
シュートさんはギルドの中に入るなりすぐに倒れた。私はすぐにシュートさんに駆け寄った。
「治癒魔術が使える方はシュートさんの治療にかかってください!シュートさん、落ち着いて、ゆっくりでいいので教えてください。いったい何があったんですか?」
私がそう言うと、シュートさんはゆっくりと話し始めた。
「シルバ‥‥‥ダンジョンの…四階層だ。…四階層に…上位のゴブリンが!」
!!!
「グルークさん!今すぐ、シルバダンジョンの四階層に向かってください!!」
私がそう伝えると、すぐにうなづいて、グルークさんのパーティメンバーに顔を向けた。
「おい、お前ら!!酒捨てて、武器を持て!行くぞ。……生きててくれよ、坊主。」
「上位のゴブリンに………みんな…俺を逃がすために……ごめん、ごめん!!」
そういって、シュートさんは涙を流していた。
上位のゴブリン。あのシルバダンジョンには確認されたことがない魔物だ。それも四階層。
……四階層!!
「キリアスさんはDランクなので三階層までですが問題なければ三階層以降に行ってもらっても大丈夫です。」
死なないで、生きててくださいキリアスさん。
「ラズってダンジョン攻略とかはしたことがあるのか?」
「うーん、ないかなぁ。」
「……そうか。」
「……主、心配してるの?」
「そりゃ、心配してるよ。初めてのダンジョン攻略なんだからな。」
俺がそう言うとラズは大きなため息をついた。
「なんだよ、心配しちゃダメなのか?」
「そりゃ、ダメでしょ。だってこの私がいるんだよ。心配する必要なんてないない。」
どんだけ自分に自信があるんだこいつは、
「それに、……主にも少しくらいは力がついてきたしね。ま、弱いことに変わりはないし、毎日頑張ってる転移は成功してないみたいだけどね。」
褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしてくれ。
……そう思っていたところ、前からもう一台、街に向かっている馬車が来ているのが見えた。俺たちが行こうとしているシルバダンジョンの方からの馬車なので、きっと帰っているところなんだろう。
馬車が横を通り過ぎる瞬間、見えたのは一人の男。それもボロボロの姿で涙を流していた。もちろん体中から血も流れていた。
「おいおい、ラズ。ほんとに大丈夫なんだろうな?めちゃくちゃ不安になってきたぞ。」
……
「ラズ?…って寝てるし。」
あの火球を放てる奴だ。本当に大丈夫なんだろうな。
「ふん!!」
「はっ!」
「せいや!」
「頑張れ!がんばれ!主!やれやれ!主!」
へとへとになりながらも剣を振る俺に対し、いったいどこから取り出してきたのかわからないぽんぽんを振っているラズ。
「くぅ……ちょっとは手伝え!」
「えぇ、でも私、か弱い女の子だしぃ。」
「魔術使えるだろ。あとそのポンポンどっから出したんだよ。」
「何言ってんのか分かんなーい。それに私、手伝ってるって。魔石拾ってるし。そろそろ魔石の数も多くなってきたし帰ろうよ、主。」
「それもそうだな。」
シルバダンジョンに潜ってからもう二時間くらいたっただろうか。出てくるのはこれまでに少しくらい戦ったことのある魔獣とゴブリンだけだし、数は多いけどさばけるようになってきた。この三か月で少しは成長しているということだろう。
「でも、帰る前に三階層以降に行ってみないか?この調子なら問題ない。行ってみよう。」
「いいよー、いこいこ!」
……
「?どうしたの、主。ラズのことじーっと見て。惚れたの?」
「いや、珍しいなと思ってな。大体こういう時は、早く帰ろうよーおなかすいたー、とか言ってたじゃないか。」
「全然動いてないんだから眠くもないしおなかもすいてないよ。」
馬車の中ではぐっすりだったしな。これまでの経験からして、寝たら魔力が回復するような感じなんだろう。
「それじゃ、行くか。」
「あぁ、行ってくる。」
そういって、キリアスさんはギルドを出て行ってしまった。笑顔で送り届けたが正直不安だ。
いくら、ラズさんがいるからといっても彼は冒険者になって三か月しかたっていない。それに…なんだか嫌な予感がする。
「なんだ、ミーちゃん。あいつのことがそんなに心配なのか?」
「あ、グルークさん。ははっ、…気づいちゃいました?」
「あぁ、わかるさ。いろんなことは笑顔で隠せるがそれだけは隠せねえな。女が男を心配する目だ。」
「……なんですか?からかいに来たんですか。」
「はっはっは!悪いなミーちゃん。そんなつもりはなかったんだが。あいつにはあのラズさんがいるんだぜ。大丈夫だろ。
それにシルバダンジョンだったら半刻前にシュートたちが行ってただろ。あいつらのランクはCだ。もしピンチになっても先輩の肩を借りればいい。」
「……それもそうですね。安心して待っておきますか。」
それから私は、いつも通りギルドの運営の事務作業をこなした。
「お、シュート!もう帰ってきたのか?早いじゃ……ない…か。…………おい、シュート、いったい何があったんだ?」
その場にいた全員が青ざめた。
今、ギルドに入ってきたシュートさんは全身傷だらけ、血をだらだら流しながらそのボロボロな装備を引きずっていた。
だが、一番重要だったのはそこにいたのは「シュートさんだけ」ということだった。
シュートさんはギルドの中に入るなりすぐに倒れた。私はすぐにシュートさんに駆け寄った。
「治癒魔術が使える方はシュートさんの治療にかかってください!シュートさん、落ち着いて、ゆっくりでいいので教えてください。いったい何があったんですか?」
私がそう言うと、シュートさんはゆっくりと話し始めた。
「シルバ‥‥‥ダンジョンの…四階層だ。…四階層に…上位のゴブリンが!」
!!!
「グルークさん!今すぐ、シルバダンジョンの四階層に向かってください!!」
私がそう伝えると、すぐにうなづいて、グルークさんのパーティメンバーに顔を向けた。
「おい、お前ら!!酒捨てて、武器を持て!行くぞ。……生きててくれよ、坊主。」
「上位のゴブリンに………みんな…俺を逃がすために……ごめん、ごめん!!」
そういって、シュートさんは涙を流していた。
上位のゴブリン。あのシルバダンジョンには確認されたことがない魔物だ。それも四階層。
……四階層!!
「キリアスさんはDランクなので三階層までですが問題なければ三階層以降に行ってもらっても大丈夫です。」
死なないで、生きててくださいキリアスさん。
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