ミニュモンの魔女

藤枝ゆみ太

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【ミニュモンの魔女】第一章

19話

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「何よ?」

「いやいや……服、脱ぐのか?」

「あなたみたいに全裸になんてならないわよ。胸元に印すって今言ったばかりじゃない」

「そ、そうだけどさぁ……」

「それに、この部屋の明るさじゃあ殆ど何も見えないでしょ?」

「………………確かに」

 ジャムはガッカリ気味な口調で言う。

 クラコが胸元をはだけたのは気配と影で何となく分かったが、肝心のクラコ自身は暗くぼんやりしていて、その顔色を窺う事も出来ない。

「それでは、まずジャムからどうぞ」

「……おお」

 促されてジャムは自分の親指を浸す。充分浸すと、緊張しながらクラコの胸元に親指を押し付ける。

「…………」

 緊張と恥ずかしさで赤くなりながらも、歪な逆三角形を描いてみた。

「センスの欠片も無いとはこのことね……へたっくそ」

「……」

 ジャムの結んだ印を見つめてクラコはため息をつくと、小指を血に浸した。

 ジャムの胸に、彼が描いたのと同じ逆三角形を素晴らしく綺麗に描き上げる。

「よし、これで……」

「終いか」

「違う。完全に契約するにはまだ、誓いの言葉が必要なの」

「最初の、意味分かんねぇ言葉のことか?」

「それとはまた違うわね。私が言うことを後から復唱しなさい。名前の所だけは変えてね」

「分かった」

「……私、クルセウシド・ラインククル・コップシェンシェラーウは」

「わ、わたくしジャムミッツは」

「今この時より、血による契約を交わすことを」

「今この時より血によるけいやくを交わすことを」

「ここに誓います」

「ここにちかいます」

 復唱するジャムの言葉が終わると、二人の胸元……契約の印がほのかに光り出した。

「おおぉ……キレイだー」

「はぁ……。あなたって、無邪気と言うか、お気楽と言うか」

「?……何だよ」

「まぁ、いいけど。契約は無事に終わったようね」

 クラコは素早く胸元を元に戻すと、紫の火を吹き消し小部屋のトビラを開け放つ。

「で?体の調子は何か違う?」

「んー……何となーく体の中が熱いような、そうでもないような……」

「曖昧ね」

「はぁ、何にしても腹が減ってる事は変わらねぇよ。もう足に踏ん張りがきかねぇ」

「死にはしないが、空腹は今まで通り……か。その様子じゃあ、固形の物はまだ無理かもしれないわね」

「ああ。……あっ、なあクラコ?」

「何かしら」

「そう言えばさ、さっき言ってたよな。魔女の髪は力の結晶だって」

「ええ、溢れる力が髪に宿ってしまうのよ。核には遠く及ばないけれど、髪の一本一本が力を蓄えているの」

「おぉー……。なぁなぁっ、そんならクラコの髪の毛一本くれよっ。それ食ったら元気になるかもしれねぇし、俺でも飲み込めるかも?」

「駄目」

「な、何でっ」

「その時のこうも言ったはずよ。『髪は女の命』って」

「それはー……。じゃあ、抜け毛は?」

「駄目」

「ぐぅ」

「全く。そんなくだらない事を考えているようじゃあ、先が知れているわね」

「他に良い案が思いつかなかったんだよ」

「ふぅ……。そうねぇ、脳みそ絞り尽くしたのよねぇ……」

 ため息と共に、クラコは薬棚に行く。

 白い小さな壺を手に取り、中から茶褐色ちゃかっしょくの液体をカップに注ぎ入れる。

「ク、クラコ?」

 ヨロヨロとついて来るジャムを無視し、その上から熱い湯を入れ、最後に蜂蜜を一垂らし。

「出来た。ほら、これを飲む」

「……くせっ!」

「の・むっ!」

「わわ、分かったってっ」

 ジャムは息を止めて、臭い立つ液を一気に喉の奥に流し込んだ。

「ごばっ!」

「その薬は特別製でね、とてつもなく効くわよ。何せ私が熟成に熟成を重ねたもので、今まで誰にも分けたことが無いんですからね。今ジャムが飲んだのが初めて」

「へぇ……。だ、だじがに……ぎぎぞうだ」

「でしょう?」

「ごほっごほつ!……な、何が入りゃあこんな味になんだよっ!」

「な・い・しょ。しばらくはこれを飲んで体力をつけることね」

「ぐえぇっ!」

 クラコは澄まし顔で壺を薬棚に戻す。

 この薬、各種薬草や希少な材料達の中に紛れ込むように、超強力なクラコの髪が入っていたのだ。





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