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【ミニュモンの魔女】第一章
15話
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クラコはバスルームから出ると、床に脱ぎ捨てられていたジャムの服の所までやって来る。
無言のまま、杖の先に彼の服を引っかけて外へ……
今日は晴天で、太陽がとても眩しい。
しかしクラコは外の天気など気にもとめず、庭の中央まで行く。
そこには黒い煤が残る焚き火の跡。昨日クラコが野宿をしていた場所だ。
「くっさ」
鼻に皺を寄せつつ、服をその焚き火跡にボトリ。
台所で出た生ゴミもそこに一緒にドサリ。
薪を数本用意して、ゴミの上に並べる。マッチも用意し、薪とゴミに着火。
……ぼっ
炎は徐々に広がり、薪や生ゴミを燃やして行く。もちろんジャムの服も一緒に。
「ふぅ、これでだいぶ綺麗になったわ」
灰色の煙が空に立ち上って行くのを見ながら、クラコは清々しそうにそう言った。
*****
一皮剥けるんじゃないかと思うほど長時間湯船に浸かり、体がポカポカになったジャムは、脱衣場に置いてあった小さな小さなタオルで体を拭いていた。
「干し肉を湯で戻して食ったことがあったけど、まさか自分が湯に浸かる日が来るとは思わなかったぜ。あれっ?じゃあ俺も干し肉みたいに食われるってのか?……ま、ままままままさか……なぁ」
ブルッと震えて、ジャムはキョロキョロ辺りを見回すが逃げ場は……無い。
どうしようと困惑していたそんな時、ガラス張りのドアに映った自分の姿を目にして思わず息を呑む。
彼の体は枯れ木のように痩せ細り、全体的にくすんだ黄色をしている。
首も細くて、これでは固形の食べ物はろくに通りそうもない。腹などまるで風船ではないかと言う程膨らんでいる。
とてもではないが人の姿ではなかった。
目の前にいるコレは……餓鬼だった。
「嘘っ……だろ……こ……れ。……ほ、本当に俺?俺なのか?…………いつからこんなになってたんだ。……そう言やぁ、スラムじゃ食いたいのに何でか体が受け付けなくなって死んでく奴らがいたっけ……」
ジャムの頭の中に『俺も?』と言う不吉な考えが浮かぶ。
「……あの菓子パンが食えなかったの、そう言うこと、なのかな。…………俺……俺、食われるどころじゃないんだな。もしかして、もう……」
若草色の瞳には、死への恐怖が浮かんでいた。
落ち込むジャムは、石鹸の良い匂いがする脱衣場を出て、自分の服を取りに行く。
「あれ……俺の服がねぇ」
先ほど脱いだ場所には臭い染みがあるだけで、ジャムの服はどこにも見当たらない。
小さなタオルで前を隠しているだけの彼は少し焦る。
「あら、出たのね」
「ぅあっ………………お……おお」
「?……どうかしたの?」
クラコは素っ裸の彼に何の反応も示さず小首を傾げるが、ジャムの方はそうもいかない。
羞恥で顔が真っ赤になりながらもじもじしている。
「恥っ……」
「え?何?」
「い、いや、それが、俺の服が見当たらなくってよ」
「ああ、アレなら燃やしたけど」
「…………」
「……」
「………………」
「……」
「………………え?もや、えええぇぇぇぇぇっ!!」
「そんなに驚くことないじゃない」
「あの服は俺の一張羅だったんだぞっ!」
「…………あれが……『一張羅』?」
「そ、そうだよっ」
「ふぅん。なら、全裸のほうがいくらかましなんじゃないかしら」
「ぬぁっ」
「それにあんなモノを着たら、折角お風呂に入ったって言うのにまた汚れてしまうじゃない。少しはそう言うことも考えたらどうかしら?」
「で、でもっ、何も燃やす事ねぇじゃねぇかっ」
「へぇー……。私の行動に文句でもあるって言うの」
「うぐぅっ。そ、そう言うわけじゃあ……ねぇけどさ」
相手は魔女。思わず忘れそうになってしまった事実を思い出し、ジャムはモゴモゴと口ごもってしまった。
無言のまま、杖の先に彼の服を引っかけて外へ……
今日は晴天で、太陽がとても眩しい。
しかしクラコは外の天気など気にもとめず、庭の中央まで行く。
そこには黒い煤が残る焚き火の跡。昨日クラコが野宿をしていた場所だ。
「くっさ」
鼻に皺を寄せつつ、服をその焚き火跡にボトリ。
台所で出た生ゴミもそこに一緒にドサリ。
薪を数本用意して、ゴミの上に並べる。マッチも用意し、薪とゴミに着火。
……ぼっ
炎は徐々に広がり、薪や生ゴミを燃やして行く。もちろんジャムの服も一緒に。
「ふぅ、これでだいぶ綺麗になったわ」
灰色の煙が空に立ち上って行くのを見ながら、クラコは清々しそうにそう言った。
*****
一皮剥けるんじゃないかと思うほど長時間湯船に浸かり、体がポカポカになったジャムは、脱衣場に置いてあった小さな小さなタオルで体を拭いていた。
「干し肉を湯で戻して食ったことがあったけど、まさか自分が湯に浸かる日が来るとは思わなかったぜ。あれっ?じゃあ俺も干し肉みたいに食われるってのか?……ま、ままままままさか……なぁ」
ブルッと震えて、ジャムはキョロキョロ辺りを見回すが逃げ場は……無い。
どうしようと困惑していたそんな時、ガラス張りのドアに映った自分の姿を目にして思わず息を呑む。
彼の体は枯れ木のように痩せ細り、全体的にくすんだ黄色をしている。
首も細くて、これでは固形の食べ物はろくに通りそうもない。腹などまるで風船ではないかと言う程膨らんでいる。
とてもではないが人の姿ではなかった。
目の前にいるコレは……餓鬼だった。
「嘘っ……だろ……こ……れ。……ほ、本当に俺?俺なのか?…………いつからこんなになってたんだ。……そう言やぁ、スラムじゃ食いたいのに何でか体が受け付けなくなって死んでく奴らがいたっけ……」
ジャムの頭の中に『俺も?』と言う不吉な考えが浮かぶ。
「……あの菓子パンが食えなかったの、そう言うこと、なのかな。…………俺……俺、食われるどころじゃないんだな。もしかして、もう……」
若草色の瞳には、死への恐怖が浮かんでいた。
落ち込むジャムは、石鹸の良い匂いがする脱衣場を出て、自分の服を取りに行く。
「あれ……俺の服がねぇ」
先ほど脱いだ場所には臭い染みがあるだけで、ジャムの服はどこにも見当たらない。
小さなタオルで前を隠しているだけの彼は少し焦る。
「あら、出たのね」
「ぅあっ………………お……おお」
「?……どうかしたの?」
クラコは素っ裸の彼に何の反応も示さず小首を傾げるが、ジャムの方はそうもいかない。
羞恥で顔が真っ赤になりながらもじもじしている。
「恥っ……」
「え?何?」
「い、いや、それが、俺の服が見当たらなくってよ」
「ああ、アレなら燃やしたけど」
「…………」
「……」
「………………」
「……」
「………………え?もや、えええぇぇぇぇぇっ!!」
「そんなに驚くことないじゃない」
「あの服は俺の一張羅だったんだぞっ!」
「…………あれが……『一張羅』?」
「そ、そうだよっ」
「ふぅん。なら、全裸のほうがいくらかましなんじゃないかしら」
「ぬぁっ」
「それにあんなモノを着たら、折角お風呂に入ったって言うのにまた汚れてしまうじゃない。少しはそう言うことも考えたらどうかしら?」
「で、でもっ、何も燃やす事ねぇじゃねぇかっ」
「へぇー……。私の行動に文句でもあるって言うの」
「うぐぅっ。そ、そう言うわけじゃあ……ねぇけどさ」
相手は魔女。思わず忘れそうになってしまった事実を思い出し、ジャムはモゴモゴと口ごもってしまった。
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