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【ミニュモンの魔女】第一章
14話
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ミニュモンに着いていた。
そう、ジャムはとっくにミニュモンに着いていたのだ。それも……
「ま、ままままままま」
「ママ?」
「そうそうママ……いやーっ!そうじゃなくてっ!」
「まぁそうでしょうね。私、あなたのママになった覚えが無いもの」
「じゃなくてっ!そうじゃなくってっっっ!」
「??……じゃあ、一体何だと言うの?」
「まっ………………………………い、いいいや。何でもね」
「そう?」
首を捻りながらクラコはスルリと家の中に入って行く。
「………………魔……女……。ほほ、本物の?……ま……」
「何してるの?さっさと入って来なさいよ」
「うおっ!……お、おお。……ヤッベェ、とてつもなくヤッベェ」
ジャムはあろう事か、魔女の住処に転がり込んでしまったのだ。
彼の暮らしていたサブナリスでは、魔女と言う存在が伝説になっていた。
魔女達が住みにくいサブナリスから少しずつ少しずつ出て行った結果、他の土地より魔法やまじないなどが普及していかなかったのだ。
それと同時に魔女と言う存在も、おとぎ話の中だけになってしまっていた。
伝説では、魔女は天を割き、地を割り、迸る雷で火事をおこし、大水で全てを押し流すと言う恐ろしい存在。
人々を恐怖の底に叩き落とすのが仕事なのだそうだ。
ジャムも幼い頃からそんな大袈裟なはなしを聞かされて育ってきたので、魔女を名乗るクラコを前に体がカタカタと震えてしまう。
「そうだ……一つ言い忘れていたことがあったわ」
「な…………な、なん、何……だ?」
「昨日はよくも家の床を汚してくれたわね。そこよ、そこのシミを見なさい。あなたが寝ていた場所」
「うーっ……わ、悪かったよ。ごめん」
「それにあなた臭いのよ。私、昨日あなたの臭いに耐えられなくて、家から飛び出たんですからね」
「え……そんなに、臭うか?」
「……笑えない冗談を言っているのよねぇ?もし、本気で言っているのなら……分かるわよねぇ?」
「じょ……冗談に決まってるぜ……ハ、ハハ……」
「そうよね。それじゃあこれからあなたがする事が何かも分かる?」
「?」
「当然あなたがすることは、そのー……服?……を脱ぐことよ」
「??何でだ?」
「何で?……ですって?」
「いやいやっ、違うぞっ!素朴な疑問っつうかっ!別に嫌とかそう言うんじゃなくてっ!」
「そぅ。その服みたいなモノを着ていたら、お風呂に入れないでしょ?」
「……おふろ?」
「そうよ、お風呂よ」
「あー……ええっとー、おふろって……何?」
「………………」
「……」
「……………………」
「……あの」
「……し、知らない?……じゃ、じゃあ、え?……一度も入ったこと、無いの?」
クラコは一歩大きく後ずさる。
「無いと思うけど。あの、それをやらないと何かマズイのか?」
「まずいんじゃないかしら。……信じられない」
クラコはもう一歩後ずさる。こっちに来ないでと言うように。
「とにかく、これで決定的だわ。その臭いなりをどうにかしないと、私があなたをどうにかしてしまいそう」
「怖ぇっ」
「そう思うのなら、その…………それっ、ボロっちいそれを脱ぐ」
「脱ぐって……ここでか!?」
「当たり前でしょ。さあ脱ぐ、今すぐ脱ぐ」
「でもよお」
「自分で脱げないなら、私がこの杖の先で器用に剥いであげる。どちらが良いかしら?」
「ぬ、脱ぎます……」
ジャムはドログチョの服を脱ぎ出す……が、クラコの視線が気になって仕方ない。
「なぁ、あんま見てないでくれよ……」
「やかましい」
「……」
これではただの見せ物だと心の中で嘆きつつ、ジャムは服を脱ぎ終わる。
クラコは素っ裸の青年をしげしげと見つめる。
物凄く居心地が悪いし、恥ずかしすぎる。
「……………………とんでもない状態じゃない」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ何も。早くバスルームに向かうっ」
「お、おおっ」
促されるまま、ジャムはバスルームに行く。
クラコの気配もその後からついて来る。
「そこに座る」
「……おお」
バスルームでクラコが手にしていたのは、大きなデッキブラシ。
「そんなんじゃ絶体お湯を汚すから、まずは洗いましょう」
「ああ。あ、あの、一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
「何でそんなもん持ってんだ」
「今言ったじゃない。こう……するのよっ!」
ジャシジャシジャシジャシジャシジャシジャシ
「ぎいゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
不意をついてクラコは勢いよくジャムの背中を擦り出した。
ジャシジャシジャシジャシジャシジャシジャシ
「いーででででででででっ!お前は鬼かーっ!」
「仕方ないでしょっ!我慢なさいっ!」
ジャシジャシジャシジャシジャシジャシジャシ
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
力一杯に擦りつけられ、ジャムの体は全身真っ赤になってしまった。
「ふぅ、大方の汚れは取れたっと」
「いでぇぇ……」
「うるさい。泣き言を言っている暇なんて無いのよ。さあ、しっかり湯船に浸かっていなさい。私はまだやる事があるのだから」
「うう……しっ、しびるぅぅっ!」
「ふん……あなたって本当にあまちゃんよね。名前とおんなじ」
「ぐ……どういう意味だよ」
「ジャム……三つ?」
「ジャムミッツ!」
「あら、そうだったかしら?」
クラコは小馬鹿にしたように鼻で笑うと、バスルームから出て行く。
「ぐぅ、くっそぅ」
不満顔ではあったが、相手は魔女。伝説の中の登場人物だ。逆らうべからず。
「まぁそれに、助けられた?わけだしな……一応。もしかしたら、言うほど魔女って怖ぇわけじゃねぇのかも?」
浴槽の中で、ジャムはたっぷりの湯に浸かりながらそんな事を考えていた。
そう、ジャムはとっくにミニュモンに着いていたのだ。それも……
「ま、ままままままま」
「ママ?」
「そうそうママ……いやーっ!そうじゃなくてっ!」
「まぁそうでしょうね。私、あなたのママになった覚えが無いもの」
「じゃなくてっ!そうじゃなくってっっっ!」
「??……じゃあ、一体何だと言うの?」
「まっ………………………………い、いいいや。何でもね」
「そう?」
首を捻りながらクラコはスルリと家の中に入って行く。
「………………魔……女……。ほほ、本物の?……ま……」
「何してるの?さっさと入って来なさいよ」
「うおっ!……お、おお。……ヤッベェ、とてつもなくヤッベェ」
ジャムはあろう事か、魔女の住処に転がり込んでしまったのだ。
彼の暮らしていたサブナリスでは、魔女と言う存在が伝説になっていた。
魔女達が住みにくいサブナリスから少しずつ少しずつ出て行った結果、他の土地より魔法やまじないなどが普及していかなかったのだ。
それと同時に魔女と言う存在も、おとぎ話の中だけになってしまっていた。
伝説では、魔女は天を割き、地を割り、迸る雷で火事をおこし、大水で全てを押し流すと言う恐ろしい存在。
人々を恐怖の底に叩き落とすのが仕事なのだそうだ。
ジャムも幼い頃からそんな大袈裟なはなしを聞かされて育ってきたので、魔女を名乗るクラコを前に体がカタカタと震えてしまう。
「そうだ……一つ言い忘れていたことがあったわ」
「な…………な、なん、何……だ?」
「昨日はよくも家の床を汚してくれたわね。そこよ、そこのシミを見なさい。あなたが寝ていた場所」
「うーっ……わ、悪かったよ。ごめん」
「それにあなた臭いのよ。私、昨日あなたの臭いに耐えられなくて、家から飛び出たんですからね」
「え……そんなに、臭うか?」
「……笑えない冗談を言っているのよねぇ?もし、本気で言っているのなら……分かるわよねぇ?」
「じょ……冗談に決まってるぜ……ハ、ハハ……」
「そうよね。それじゃあこれからあなたがする事が何かも分かる?」
「?」
「当然あなたがすることは、そのー……服?……を脱ぐことよ」
「??何でだ?」
「何で?……ですって?」
「いやいやっ、違うぞっ!素朴な疑問っつうかっ!別に嫌とかそう言うんじゃなくてっ!」
「そぅ。その服みたいなモノを着ていたら、お風呂に入れないでしょ?」
「……おふろ?」
「そうよ、お風呂よ」
「あー……ええっとー、おふろって……何?」
「………………」
「……」
「……………………」
「……あの」
「……し、知らない?……じゃ、じゃあ、え?……一度も入ったこと、無いの?」
クラコは一歩大きく後ずさる。
「無いと思うけど。あの、それをやらないと何かマズイのか?」
「まずいんじゃないかしら。……信じられない」
クラコはもう一歩後ずさる。こっちに来ないでと言うように。
「とにかく、これで決定的だわ。その臭いなりをどうにかしないと、私があなたをどうにかしてしまいそう」
「怖ぇっ」
「そう思うのなら、その…………それっ、ボロっちいそれを脱ぐ」
「脱ぐって……ここでか!?」
「当たり前でしょ。さあ脱ぐ、今すぐ脱ぐ」
「でもよお」
「自分で脱げないなら、私がこの杖の先で器用に剥いであげる。どちらが良いかしら?」
「ぬ、脱ぎます……」
ジャムはドログチョの服を脱ぎ出す……が、クラコの視線が気になって仕方ない。
「なぁ、あんま見てないでくれよ……」
「やかましい」
「……」
これではただの見せ物だと心の中で嘆きつつ、ジャムは服を脱ぎ終わる。
クラコは素っ裸の青年をしげしげと見つめる。
物凄く居心地が悪いし、恥ずかしすぎる。
「……………………とんでもない状態じゃない」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ何も。早くバスルームに向かうっ」
「お、おおっ」
促されるまま、ジャムはバスルームに行く。
クラコの気配もその後からついて来る。
「そこに座る」
「……おお」
バスルームでクラコが手にしていたのは、大きなデッキブラシ。
「そんなんじゃ絶体お湯を汚すから、まずは洗いましょう」
「ああ。あ、あの、一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
「何でそんなもん持ってんだ」
「今言ったじゃない。こう……するのよっ!」
ジャシジャシジャシジャシジャシジャシジャシ
「ぎいゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
不意をついてクラコは勢いよくジャムの背中を擦り出した。
ジャシジャシジャシジャシジャシジャシジャシ
「いーででででででででっ!お前は鬼かーっ!」
「仕方ないでしょっ!我慢なさいっ!」
ジャシジャシジャシジャシジャシジャシジャシ
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
力一杯に擦りつけられ、ジャムの体は全身真っ赤になってしまった。
「ふぅ、大方の汚れは取れたっと」
「いでぇぇ……」
「うるさい。泣き言を言っている暇なんて無いのよ。さあ、しっかり湯船に浸かっていなさい。私はまだやる事があるのだから」
「うう……しっ、しびるぅぅっ!」
「ふん……あなたって本当にあまちゃんよね。名前とおんなじ」
「ぐ……どういう意味だよ」
「ジャム……三つ?」
「ジャムミッツ!」
「あら、そうだったかしら?」
クラコは小馬鹿にしたように鼻で笑うと、バスルームから出て行く。
「ぐぅ、くっそぅ」
不満顔ではあったが、相手は魔女。伝説の中の登場人物だ。逆らうべからず。
「まぁそれに、助けられた?わけだしな……一応。もしかしたら、言うほど魔女って怖ぇわけじゃねぇのかも?」
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