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【ミニュモンの魔女】序章
9話
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「……ん」
翌朝、クラコはいつも通り太陽と共に起き出した。
昨日そのままにしてしまった部屋を片付け、窓を大きく開けると爽やかな朝の空気が部屋に流れ込んでくる。
「はぁ…………また、朝が来てしまったのね……」
ぐったりと息を吐きつつ、夕食の仕込みをしながら新聞に目を通すと、近隣の情勢が書かれていた。
『サブナリスの治安ますます悪く……』
「サブナリスは怖いわね……」
クラコはおぞましい色のシチューをかき混ぜながら何の感情も出さずに呟く。
……鍋から何かの骨が飛び出している。
「んん……良い香り」
シチューの仕上がりに満足し、大きなテーブルの上に真っ黒な布切れを敷く。
今日は一日自宅に籠り熱冷ましの薬を作る予定でいたクラコは、部屋の大棚に並んでいる壺を手に取りテーブルの上に置いた。
「あら、嫌だわ。キシプス草が全然無いじゃない。……これじゃあ薬が作れない」
もしかしてっと思い他の壺も確認をしてみると、キシプス草以外にも底をつきそうな材料がいくつかあることが分かった。
「これじゃあ駄目だわ。今日は森に行かないと」
クラコは黒いショールを肩に引っかけてから籠を手に森へと向かった。
ロイロリックの森はクラコの庭だ。
何処に何があるか、本当に危ないモノは何か、本気で行ってはならない場所はどこか、彼女は体に森のありがたさ、恐ろしさをたたき込んでいる。
「今の時間帯ならば、豊穣の朝露が採れるわね」
大きく枝を広げた巨木達により、朝陽は殆ど差すことがなくヒンヤリとしている。
木々の間を進み続けると、小さく開けた場所に出た。
青く光る花達が暗い森の中で自分を主張している姿を無視し、その葉から朝露を採る。
小瓶が半分くらい朝露で満たされたところで更に奥へと分け入る。
途中、群生しているキシプス草を大量に手に入れ、朽ちた大木に生えていたララッコ茸まで発見した。
「こんな時期にララッコ茸なんて。今晩は特製シチューにララッコ茸のバター炒めね」
ガァーガァー……ギギャーギギャー……カアーカアー
「カラス……か。ここ最近、やけに騒がしいのよね。……一体何なのかしら??」
首を傾げながらもクラコの足は、森の奥へ奥へと進んで行く。
虫の音が実に心地良く鳴り響く中、多種類の薬草を採取して籠もだいぶ重くなってきていた。
思いの外たくさんの材料が手に入ったことに気を良くしたクラコは、滅多に向かわない森の更に更に、また更に奥……恐らくクラコにしか行き着くことが出来ないであろう場所に向かうことにした。
この森の奥深くにはとても貴重な『イジェントンの清水』が採れる場所がある。
森を知り尽くしていなければ、瞬く間に迷ってしまう……そんな場所だ。
ロイロリックの森の深部に近付くにつれ、虫の音が消えて行く。
動物達の声も、草木のざわめきも、あんなに騒がしかったカラス達の鳴き声も……
翌朝、クラコはいつも通り太陽と共に起き出した。
昨日そのままにしてしまった部屋を片付け、窓を大きく開けると爽やかな朝の空気が部屋に流れ込んでくる。
「はぁ…………また、朝が来てしまったのね……」
ぐったりと息を吐きつつ、夕食の仕込みをしながら新聞に目を通すと、近隣の情勢が書かれていた。
『サブナリスの治安ますます悪く……』
「サブナリスは怖いわね……」
クラコはおぞましい色のシチューをかき混ぜながら何の感情も出さずに呟く。
……鍋から何かの骨が飛び出している。
「んん……良い香り」
シチューの仕上がりに満足し、大きなテーブルの上に真っ黒な布切れを敷く。
今日は一日自宅に籠り熱冷ましの薬を作る予定でいたクラコは、部屋の大棚に並んでいる壺を手に取りテーブルの上に置いた。
「あら、嫌だわ。キシプス草が全然無いじゃない。……これじゃあ薬が作れない」
もしかしてっと思い他の壺も確認をしてみると、キシプス草以外にも底をつきそうな材料がいくつかあることが分かった。
「これじゃあ駄目だわ。今日は森に行かないと」
クラコは黒いショールを肩に引っかけてから籠を手に森へと向かった。
ロイロリックの森はクラコの庭だ。
何処に何があるか、本当に危ないモノは何か、本気で行ってはならない場所はどこか、彼女は体に森のありがたさ、恐ろしさをたたき込んでいる。
「今の時間帯ならば、豊穣の朝露が採れるわね」
大きく枝を広げた巨木達により、朝陽は殆ど差すことがなくヒンヤリとしている。
木々の間を進み続けると、小さく開けた場所に出た。
青く光る花達が暗い森の中で自分を主張している姿を無視し、その葉から朝露を採る。
小瓶が半分くらい朝露で満たされたところで更に奥へと分け入る。
途中、群生しているキシプス草を大量に手に入れ、朽ちた大木に生えていたララッコ茸まで発見した。
「こんな時期にララッコ茸なんて。今晩は特製シチューにララッコ茸のバター炒めね」
ガァーガァー……ギギャーギギャー……カアーカアー
「カラス……か。ここ最近、やけに騒がしいのよね。……一体何なのかしら??」
首を傾げながらもクラコの足は、森の奥へ奥へと進んで行く。
虫の音が実に心地良く鳴り響く中、多種類の薬草を採取して籠もだいぶ重くなってきていた。
思いの外たくさんの材料が手に入ったことに気を良くしたクラコは、滅多に向かわない森の更に更に、また更に奥……恐らくクラコにしか行き着くことが出来ないであろう場所に向かうことにした。
この森の奥深くにはとても貴重な『イジェントンの清水』が採れる場所がある。
森を知り尽くしていなければ、瞬く間に迷ってしまう……そんな場所だ。
ロイロリックの森の深部に近付くにつれ、虫の音が消えて行く。
動物達の声も、草木のざわめきも、あんなに騒がしかったカラス達の鳴き声も……
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