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第一章

ミニバス

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「みいちゃん、ちょっと頼みがあるんだけど」

 それはとある日。相方が少し焦ったような口調で話しかけてきた。

「うん?」

「実はね、会社で必要な書類を提出しなくちゃならないんだ。役所でもらえるやつなんだけど……」

「ふーん」

「でね、その提出日が明後日あさってなんだよ。でも、僕はちょっと休んで取りに行けないし、役所は土日やってないし。申し訳ないんだけど、みいちゃんバスで役所に行って取りに行ってきてもらえないかなぁ」

「えっ、バスで?」

「うん、もちろん地図や時刻や降りる場所はちゃんとメモしとくよ」

 バスか……

 確か最後に乗ったのは高校生時代の帰りだったような……

「みいちゃん?大丈夫?」

「え?あ、うん。だ、大丈夫……だと思う。……多分」

 目が泳ぎまくる。それを見た相方は、さすがに不安を感じずにはいられなかった。





*****





「じゃあ頼んだよ、みいちゃん」

 翌日、相方は不安そうな顔で玄関先にいた。

「うん、任せてっ」

「う、うん。もし何かあったら連絡してね」

「わかったよ。行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

 心配そうな相方を送り出し、みいも家事をこなし、出掛ける支度をしだす。

 相方に書いてもらった乗り方メモをよく見て、アパートを出る。

 いつものスーパーに行く道にあるバス停に乗れば、役所に着くそうなのだ。

 しかし、改めてよく見るとあちこちに色んなバス停があるぞ。

「むーん……」

 一瞬焦ったが、相方のメモに役所行きの停留所の場所がバッチリ書いてある。

 これがあれば間違いないのだ。

 みいはしばらく歩くと、メモに書かれていたバス停を見つけた。

 役所へと行く事が出来る、ミニバス乗り場だ。

「よしよし。ここまで来ればこっちのもんだ」

 念には念をいれてかなり早く出て来たので、バスが来るまでまだ二十分近くある。

 みいはスマホで相方にバス停まで着いたことを報告。

 みいが方向音痴なのを、相方はすごく心配していたので、これで少しはホッとする事だろう。

 そうこうするうちに、役所行きのミニバスがやって来た。

 ミニバスと言うだけあってキュッとしたコンパクトサイズで実に可愛らしい。

 車体には、可愛いフォントでミニバス百円と書いてある。

 どこまで行っても一利用料金が百円なのはお得な感じだが、儲けははたしてあるのだろうか。

 そんな事を考えながら、みいは初めてのミニバスへと乗り込んだのだった。





*****






 初めてのミニバス。少しワクワクしながら乗り込んだのだが、正直言って乗り心地はあまり良いものではなかった。

 とにかくまぁ揺れる揺れる。

 あまりの横揺れに、柱がわりの鉄パイプにつかまっていないと体がずれていってしまうほどだ。

「うっぷ」

 これでは酔いやすい相方はとてもじゃないけど乗れないだろう。

 運転手さんも、到着場所のアナウンスをゴニョゴニョとしか言わないから、正直ここがどこかも分からなかった。

 前に手続きで役所に来ていたから建物が分かって降りられたが、そうでなかったら怪しかったかもしれない。

 みいは何とか役所前に降り立つと、揺れた胃袋をさすりながら建物の中へと入って行った。





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