クレハンの涙

藤枝ゆみ太

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【クレハンの涙】第三章

142話

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 ラビは自分の腹が引きつる感覚で目が覚めた。

「……っん~」

 寝ぼけながらも引きつる腹をさすろうとすると、フェグが使っていた毛布が体から滑り落ちた。

「?」

 不思議に思い、ベッドを見るがそこには誰もいない。

「……フェグ?」

 痛い程の沈黙に、寝ぼろけだったラビの頭は覚醒する。

 部屋のどこを探しても彼は居らず、それでも声を出してフェグを呼んだ。

「フェグーッ!どこにいるのよあのバカッ」

 部屋を飛び出しホテルの外を探そうとすると、腹の引きつりがより激しくなる。

「いたたっ!もうっ、こんな時にっ!」

 イライラしつつもラビは暗闇の中を走る。

 広がる不安を蹴散らしたいから。

「もしかしたら博物館に行ったのかも」

 そう思い立ち博物館の方向に行こうとするが、そっちでは無いと言わんばかりに引きつりが強まる。

 痛くてとても前に進めない。

「いたたたたっ」

 彼が生まれ出た部分の腹をおさえて、ラビは必死にフェグの行きそうな場所を考え続けた。

「……まさか……遺跡?」

 途端にピタリと止んだ引きつりに驚いている暇なんてない。

 駆け出した足はもうそこしか無いと言わんばかりに突き進む。

「こんな暗い中何考えてるのよっ、あいつ!」

 怒りながらも何か恐ろしい予感がラビの胸を締め付けていた。

 ここの所のフェグの状態を見続けていたので、何より不安だったのだ。

 フェグがどこか、自分の想像を絶するような所に行ってしまうのではないかと……

「フェグ」

 ラビは自分が迷うのではと言う考えを打ち捨てて城塞遺跡に向かった。

 昼間とは打って変わって、広野は闇に包まれている。

 唯一の光源と言えば、青白く浮かぶ巨大な月だけだ。

「おかしいな。何だか今日の月は、薄気味悪い気がする」

 首を傾げつつも、一時間ほどその月明かりで進み続けることが出来た。

 しかし……

「どうしよう。どっちがどっちか分かんない」

 暗く広い荒野に月明かりだけが頼りではここまでが限界で、ノンストップて走り続けて来たラビの足が止まる。

「ああ、どうしよう。どうすれば……」

 大いに混乱しつつも、何か目印は無いかと遠くにまで目を凝らす。

 すると、何かが遠くで一瞬光った。

「?」

 光った方向を更によく見つめると、むたキラッと何かが光る。

「何かしら?」

 ラビは不安だったが他に目印も無いので、あの光の元へと走り出す。

「はぁっ、はぁっ……はぁっ……」

 体力も限界に近づいていたが、走る速度を緩めようとは考えていなかった。

 時折キラッとするその光に導かれ、ラビはようやく見つけた。

「……あれ、フェグだわっ!……そうか、月に反射してブレスレットが光っていたのね」

 ラビの少し先を、何の目印も無くよろよろ進んで行くのは、紛れもなく追いかけていたフェグ本人だった。

「……」

 ラビは声を掛けようとしたが、やめておいた。

 何となく現状を見守らないといけないような気がしたのだ。

 今はただ、遺跡に着くまで彼を見失わないように見守るだけだった。




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