クレハンの涙

藤枝ゆみ太

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【クレハンの涙】第一章

31話

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「だからこそよ。お母さん、遺跡調査隊いせきちょうさたいで何年も帰って来ないのも心配だし、それに……」

「……」

「それに、お母さん、お父さんが死んだ事も知らないんだよっ?」

「ラビ……」

「私、何と言われようと行くわ」

「そっか……はぁー」

 真っ赤になって力説するラビの顔を見て、ミルキーは深く深く息をつく。

 そして、決然とした声で宣言した。

「分かった。じゃあアタシも一緒に行くわ」

「……え、えぇぇぇっ!?」

「ずっと考えてたんだ。やっぱりアンタ一人じゃ心配でしょうがない。姉さんと義兄さんからあずかった大事な子なんだよ。アタシはね、二人の宝を預かってるんだ」

「ミ、ミルキー」

「それに、アタシにとっても大事な姪っ子だしね」

 ミルキーはそう言うと、色気たっぷりのウインクをおみまいした。




*****





 その日の夜。



 酒場は今日も賑やかで、ミルキーの笑い声が二階の部屋まで聞こえてくる。

 楽しそうな彼女の声を聞いていると、昼間の話が夢のように思えてならない。

「店を閉めるって言ったの、本当なのかな……」

 父と母の写真を見つめながら、ラビは途方に暮れていた。

 まさか、ついて来ると言い出すなんて思ってもいなかった。

 ミルキーはこの町の、この酒場で今みたいにずっと笑って暮らしているものだと、そう思っていたから。

「あーもーっ!一体どうすりゃ良いって言うのよーっ!」

 どうしていいか分からず、髪の毛をモシャモシャかき混ぜながらベッドの上に転がる。

 ラビが幼い頃、ミルキーは言っていたのだ。

 将来、酒場を営むのが自分の夢なのだと。

「私が、ミルキーの生活を壊そうとしてるって事だよね……」

 ズキリ、胸が痛い。

 何故だかお腹もズキリと痛む。

「はぁぁ……今日はもう寝よ」

 重たい体に毛布を掛けて、ラビはすぐにうとうとしだした。




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