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三章
召喚魔法
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翡翠壁が外側から殴打される。
暴風雨が窓を叩き続けるが如く、ひたすら狂ったように打ち続けていた。知能も戦略もクソもない格下の魔物も、ここまで寄って集れば大きな脅威になる。
ミリカは呪文の詠唱を始めたが、腕を掴まれて制止された。
「シェーネル?」
「さっき隕焔を撃ったでしょう。これ以上は止めておきなさいな」
「でも、アルト先輩が通る道を作らなきゃ」
「私一人で充分よ。ただでさえマナが少ないんだから、あんたは防御に徹して」
「わ、分かった!」
彼女がやや長めの詠唱を完了させるまでの間、ミリカはヒビの入った翡翠壁を修復して陣営を守ることに徹した。セラカは既に単独行動で八方からの敵を相手に奮闘しており、ユリナは大剣のリーチを活かして目の前の魔物を次々と薙ぎ倒していく。彼女が傷付けば即座にマリが回復魔法を入れ、阿吽の呼吸で防衛が保たれていた。
「《鎖束捕縛》!」
いつかのゲーリーを拘束する為にマリヤが使っていた魔法で、ユーファスがエスカルクイーンの動きを封じる。カレンの攻撃は肉眼では捉えきれない光の速さで、双剣を両手に携え、明滅しては斬りつけるの繰り返し。全てを速さに全振りした、ブレない攻めの姿勢を感じられる四年生の風格は見ているだけで勉強になりそうだった。そしてシェーネルの詠唱が完了した。
「《碧落夢》!!」
ほんの一瞬、シンと静まり返り、目に見える範囲いっぱいに破片がキラキラと浮遊していた。
氷か、ガラスか、鏡か。とにかくシェーネルの魔法によって生み出されたその破片たちは、彼女が示す方向……エスカルクイーンがいる方向へ一直線に飛来していった。ミリカの目には、煌めく宝石たちが指先で操られ、そこにいた魔物達を残さず切り刻みながら舞い踊っているように見えた。
シェーネルらしい魔法だ。魔法をぶっ放している彼女はいつだって生き生きしている。
「先輩が合流したよ!」
その様子を確認したミリカが振り返ると、ほぼ同じタイミングで翡翠壁を突き破ったゴブリンが、ユーファスに背後から殴り掛かる寸前だった。
「せ、先輩!!」
エスカルクイーンを捕捉することに全集中力を注いでいるユーファスは、気付いていても反応が出来ない。半ば無意識に飛び出していた。
「あぶなーーーーーいっ!」
ポコンッ
妙に拍子抜けのする音が響き、脳天を殴られたミリカはさながら大根のように足から地面に突き刺さった。
「エーゼン!? ……ッ《旋風撃》!!》
風を巻き起こして魔物達を吹き飛ばした後、ユーファスは駆け寄って彼女の両脇に手を入れて引っこ抜く。
「大丈夫かエーゼン」
「うぅ~、ダメかもしれましぇん……」
おでこをおさえて目を潤ませるミリカを見て、ユーファスはホッと胸を撫で下ろした。ついでにリオとシェーネルから突っ込まれた。
「たんこぶで済むとか、石頭かよ!」
「地面に刺さる人間なんてはじめて見たわ」
「あはは……ユーファス先輩は大丈夫ですか?」
「あ、ああ。でも鎖束捕縛をもう一度詠唱しないと。すまないが翡翠壁を頼む」
「はい!」
しかし、次に前を向いた時、巨大な魔力の砲弾がミリカ達を轢いていた。
雷を含んで膨張しきったそれを、翡翠壁も紺碧盾も防ぎきれなかった。
強い衝撃の後、気付けば大空洞の端で転がっていた。ほんの一瞬、気を失っていたらしい。岩壁に全身を強く打っており、ひとりでに呻き声が口から漏れた。
ユリナ、リオ、マリ、シェーネル、ユーファス。皆、散り散りになって倒れている。自由が利くようになったエスカルクイーンを相手に、前方のカレン達の戦況も厳しい。もっと気を付けていれば、こんな事にはならなかったのではないか、という自責と絶望で胸中を支配された。
「ミリカ! すぐに翡翠壁を張って!」
傷だらけのユリナがなおも立ち上がって魔物の軍勢を相手にする。またやられてしまう、これ以上、仲間が傷付くのを見たくないと思った時、ミリカは立ち上がって詠唱していた。
ふらふらと立ち上がりながら、それが翡翠壁の呪文ではないことにシェーネルは気付いた。
「ゲーリーに撃とうとしていた魔法と同じだわ。ミリカ……」
「リオとシェーネル、翡翠壁張れ! 次の攻撃来るぞ! マリは回復を頼む!」
「はい先輩!」
カレンやアルトが注意を引きつけようとしたが、エスカルクイーンは再びこちらへ殺意を向けた。今しがた食らったものと同じ砲弾が視界いっぱいに膨らみ、雷を帯びて空気がビリビリと張り詰めた。
来る……!と身構えた時、詠唱を完了させたミリカの足元に、赤い魔法陣が展開された。
「《不死鳥召喚》!!」
空中に熱源が発生し、術者の魔力を吸って生まれた巨大な生命体がそこに出現する。燃えたぎる炎を身に纏った鳥型の召喚獣は、恐ろしくも気高く、獰猛な甲高い鳴き声を洞窟中に轟かせた。
魔物達は鳴き声を聞いただけで燃え尽き、雷の砲弾はフェニックスの口から発せられた光線によって相殺された。
炎に呑まれる大空洞。残る大型魔物と召喚獣が一体。仲間達が呆気に取られて立ち尽くす中、全てのマナを使い果たしたミリカは意識を手放した。
暴風雨が窓を叩き続けるが如く、ひたすら狂ったように打ち続けていた。知能も戦略もクソもない格下の魔物も、ここまで寄って集れば大きな脅威になる。
ミリカは呪文の詠唱を始めたが、腕を掴まれて制止された。
「シェーネル?」
「さっき隕焔を撃ったでしょう。これ以上は止めておきなさいな」
「でも、アルト先輩が通る道を作らなきゃ」
「私一人で充分よ。ただでさえマナが少ないんだから、あんたは防御に徹して」
「わ、分かった!」
彼女がやや長めの詠唱を完了させるまでの間、ミリカはヒビの入った翡翠壁を修復して陣営を守ることに徹した。セラカは既に単独行動で八方からの敵を相手に奮闘しており、ユリナは大剣のリーチを活かして目の前の魔物を次々と薙ぎ倒していく。彼女が傷付けば即座にマリが回復魔法を入れ、阿吽の呼吸で防衛が保たれていた。
「《鎖束捕縛》!」
いつかのゲーリーを拘束する為にマリヤが使っていた魔法で、ユーファスがエスカルクイーンの動きを封じる。カレンの攻撃は肉眼では捉えきれない光の速さで、双剣を両手に携え、明滅しては斬りつけるの繰り返し。全てを速さに全振りした、ブレない攻めの姿勢を感じられる四年生の風格は見ているだけで勉強になりそうだった。そしてシェーネルの詠唱が完了した。
「《碧落夢》!!」
ほんの一瞬、シンと静まり返り、目に見える範囲いっぱいに破片がキラキラと浮遊していた。
氷か、ガラスか、鏡か。とにかくシェーネルの魔法によって生み出されたその破片たちは、彼女が示す方向……エスカルクイーンがいる方向へ一直線に飛来していった。ミリカの目には、煌めく宝石たちが指先で操られ、そこにいた魔物達を残さず切り刻みながら舞い踊っているように見えた。
シェーネルらしい魔法だ。魔法をぶっ放している彼女はいつだって生き生きしている。
「先輩が合流したよ!」
その様子を確認したミリカが振り返ると、ほぼ同じタイミングで翡翠壁を突き破ったゴブリンが、ユーファスに背後から殴り掛かる寸前だった。
「せ、先輩!!」
エスカルクイーンを捕捉することに全集中力を注いでいるユーファスは、気付いていても反応が出来ない。半ば無意識に飛び出していた。
「あぶなーーーーーいっ!」
ポコンッ
妙に拍子抜けのする音が響き、脳天を殴られたミリカはさながら大根のように足から地面に突き刺さった。
「エーゼン!? ……ッ《旋風撃》!!》
風を巻き起こして魔物達を吹き飛ばした後、ユーファスは駆け寄って彼女の両脇に手を入れて引っこ抜く。
「大丈夫かエーゼン」
「うぅ~、ダメかもしれましぇん……」
おでこをおさえて目を潤ませるミリカを見て、ユーファスはホッと胸を撫で下ろした。ついでにリオとシェーネルから突っ込まれた。
「たんこぶで済むとか、石頭かよ!」
「地面に刺さる人間なんてはじめて見たわ」
「あはは……ユーファス先輩は大丈夫ですか?」
「あ、ああ。でも鎖束捕縛をもう一度詠唱しないと。すまないが翡翠壁を頼む」
「はい!」
しかし、次に前を向いた時、巨大な魔力の砲弾がミリカ達を轢いていた。
雷を含んで膨張しきったそれを、翡翠壁も紺碧盾も防ぎきれなかった。
強い衝撃の後、気付けば大空洞の端で転がっていた。ほんの一瞬、気を失っていたらしい。岩壁に全身を強く打っており、ひとりでに呻き声が口から漏れた。
ユリナ、リオ、マリ、シェーネル、ユーファス。皆、散り散りになって倒れている。自由が利くようになったエスカルクイーンを相手に、前方のカレン達の戦況も厳しい。もっと気を付けていれば、こんな事にはならなかったのではないか、という自責と絶望で胸中を支配された。
「ミリカ! すぐに翡翠壁を張って!」
傷だらけのユリナがなおも立ち上がって魔物の軍勢を相手にする。またやられてしまう、これ以上、仲間が傷付くのを見たくないと思った時、ミリカは立ち上がって詠唱していた。
ふらふらと立ち上がりながら、それが翡翠壁の呪文ではないことにシェーネルは気付いた。
「ゲーリーに撃とうとしていた魔法と同じだわ。ミリカ……」
「リオとシェーネル、翡翠壁張れ! 次の攻撃来るぞ! マリは回復を頼む!」
「はい先輩!」
カレンやアルトが注意を引きつけようとしたが、エスカルクイーンは再びこちらへ殺意を向けた。今しがた食らったものと同じ砲弾が視界いっぱいに膨らみ、雷を帯びて空気がビリビリと張り詰めた。
来る……!と身構えた時、詠唱を完了させたミリカの足元に、赤い魔法陣が展開された。
「《不死鳥召喚》!!」
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魔物達は鳴き声を聞いただけで燃え尽き、雷の砲弾はフェニックスの口から発せられた光線によって相殺された。
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