8 / 36
二章
ギルド学園の放課後
しおりを挟む
学園の正面玄関に足を踏み入れたところで、少し前を歩いている人物に気が付いた。
長い十字架の杖は、その低身長で持って歩くには大変そうだなといつも見ていて思う。
頭の上でもふもふしている耳に触りたいのをグッと我慢して声を掛けた。
「マリちゃん」
振り返ったマリの顔にパッと花が咲いた。耳もピンと立つ。
「ミリカちゃん、ユリナちゃん。おつかれ様!」
「お疲れ様」と、デカい剣を背負ったユリナも挨拶に応える。
「お疲れー!今帰ってきたとこ?」
「うん。迷子の子犬を探しに行ってきたの」
「迷子……そ、そっか」
「ミリカちゃん達は魔物退治?」
「そうなんだけど、魔物って、こんなに多いものなの?」
「ん~、最近になって増えてきた気がするかも。もう魔物退治が出来るなんて、ミリカちゃん強いんだね!」
「そ、そう?」
えへへ。とミリカは照れ笑いをした。
本日の生徒会は、先のように依頼が舞い込んでくる事も無く、事務仕事や雑用をこなすだけのものだった。
一年生メンバーの間には微妙な空気が流れていて、ミリカとマリでなんとか場を明るくしようと話題を振ったりしたのだが、ぎこちなさが解消される事は無く、しかしセラカだけは窓際で気持ちよさそうに寝ていた。
マリと結んだ『一年生メンバーを盛り上げよう同盟』は継続中である!
「さっきはじめて敵の攻撃を食らっちゃって、痛すぎてもうこんな学園辞めようと思ったよ」
ミリカの冗談に、マリは小さな口に手をあてて上品に笑った。
生徒会のメンバーとは廊下ですれ違えば軽い挨拶を交わす程度だが、マリだけは、会えばこうして足を止めて雑談に興じてくれる。おっとりした喋り方と、太陽のような笑顔にミリカは癒されている。
「分かるなぁ、私も何度経験してもツラいもん。怪我自体は回復魔法があれば一瞬で治っちゃうんだけどね」
「そう!そうなの、回復!だからマリちゃんが一緒に来てくれたら、きっと任務も楽になると思うんだよね~?」
話の流れでナンパしてみる。
「ありがとう。でもやっぱり私は弱いから、きっとみんなの足を引っ張っちゃう」
また断られてしまった。何度かこうして誘ってはみるものの、マリは一緒に仕事をしてくれない。昨日の失敗のことで自分を責めているようなのだ。
「いつもそうなの、みんなを助けなきゃって気持ちが空回りしちゃって。あの時も、魔物がこっちを見ていない隙に走ってユリナちゃんのところへ行けば回復してあげられるって思ったんだけど……やっぱり駄目ね」
「そんな事ないよ!」
ユリナが何かを言いかけた気がするが、自分を否定するような口ぶりのマリに、思わず反論せずにはいられなかった。思ったより大きい声が出てしまい、マリが驚く。
「あの時はみんなの息が合わなかっただけで、マリちゃんが悪いわけじゃない。カレン先輩もそう言ってくれてたでしょ?だから、またみんなで……」
「マリ~?」
今、大事なとこなのに!
Cクラスの生徒達がマリを呼んでいる。まぁ、マリはCクラスの生徒なのだからCクラスの生徒が一緒にいるのは当然だ。
「あ、呼ばれちゃった……ええと」
「気にしないで。引き留めちゃってごめんね、早く行ってあげて」
「うん……また明日ね!」
一旦は踵を返したマリだったが、体半分だけミリカに向き直る。
「ありがとうミリカちゃん。気持ちは嬉しい……けど、少し考えさせて欲しいの」
そして、半ば独り言のように。
「私にはまだ、大事な人達を守れる自信がない」
ちなみに、生徒会ではやはりマリヤに小言を言われてしまったが、既にロークスから叱責を受けたのを知っていただろうし、過ぎたことをいつまでもチクチク言っても仕方ないと本人も分かっているのか、あまり厳しくは咎められなかった。
「先輩達も怒ったりせずに励ましてくれて優しかったのに、なんか、あの4人とは距離を感じる……私嫌われてるのかな?」
ギルドの受付窓口で報酬を受け取る。
「おつかれ様でした」と受付職員。学生なのに立派に依頼をこなしている……不思議な気分だ。
「ミリカじゃないわ。どちらかといえば、嫌われてるのは私のほうね」
「ユリナが?何で?」
時間的に頃合いだった為、2人で寮へ繋がる通路を目指した。
「人魚と獣人族が、人間に迫害されてきた歴史があるのは知ってるでしょう?」
「それって、ずっと昔の話じゃないの?」
「差別というのは、すぐに無くなるものじゃないの」
「それは分かってるけど……それとユリナが嫌われてる事に、何の関係があるの?」
「私が人間だから近寄りたくないのよ」
「まさか!」
そんな事あるわけないと笑い飛ばしたかったが、かといって、ユリナと彼らが仲良しに見えたかと聞かれると、お世辞にもそうとは思えなかった。マリとは比較的喋っているようだが、リオとは全然話さないし、シェーネルに至っては目を合わせているところを見たことがない。
本当にそうなのだろうか?ユリナは嫌われているのだろうか。
「やっぱり違うよ。もしそうだとしたら、私も嫌われてるはずだよ。私も人間だもん」
「……そうね」
寮への通路に差し掛かった時、前方の交差部分を見知った顔が横切るのが見えた
「あ、リオ君だ。ねぇユリナ、あれってリオ君だよね?おーい!」
鮮やかなコバルトブルーの髪が目に飛び込む。おまけに背が低いときたら、それはもうリオで間違いない。この特定の仕方は本人にはあまり言えたものじゃないが。
2人のクラスメイトと共に歩いていたリオは、こちらの存在に気付いたはずなのに、ちらと一瞥しただけで進行方向に視線を戻し、姿を消してしまった。
「無視……」
ミリカの心に、木枯らしが吹く音が聞こえたような気がした。
長い十字架の杖は、その低身長で持って歩くには大変そうだなといつも見ていて思う。
頭の上でもふもふしている耳に触りたいのをグッと我慢して声を掛けた。
「マリちゃん」
振り返ったマリの顔にパッと花が咲いた。耳もピンと立つ。
「ミリカちゃん、ユリナちゃん。おつかれ様!」
「お疲れ様」と、デカい剣を背負ったユリナも挨拶に応える。
「お疲れー!今帰ってきたとこ?」
「うん。迷子の子犬を探しに行ってきたの」
「迷子……そ、そっか」
「ミリカちゃん達は魔物退治?」
「そうなんだけど、魔物って、こんなに多いものなの?」
「ん~、最近になって増えてきた気がするかも。もう魔物退治が出来るなんて、ミリカちゃん強いんだね!」
「そ、そう?」
えへへ。とミリカは照れ笑いをした。
本日の生徒会は、先のように依頼が舞い込んでくる事も無く、事務仕事や雑用をこなすだけのものだった。
一年生メンバーの間には微妙な空気が流れていて、ミリカとマリでなんとか場を明るくしようと話題を振ったりしたのだが、ぎこちなさが解消される事は無く、しかしセラカだけは窓際で気持ちよさそうに寝ていた。
マリと結んだ『一年生メンバーを盛り上げよう同盟』は継続中である!
「さっきはじめて敵の攻撃を食らっちゃって、痛すぎてもうこんな学園辞めようと思ったよ」
ミリカの冗談に、マリは小さな口に手をあてて上品に笑った。
生徒会のメンバーとは廊下ですれ違えば軽い挨拶を交わす程度だが、マリだけは、会えばこうして足を止めて雑談に興じてくれる。おっとりした喋り方と、太陽のような笑顔にミリカは癒されている。
「分かるなぁ、私も何度経験してもツラいもん。怪我自体は回復魔法があれば一瞬で治っちゃうんだけどね」
「そう!そうなの、回復!だからマリちゃんが一緒に来てくれたら、きっと任務も楽になると思うんだよね~?」
話の流れでナンパしてみる。
「ありがとう。でもやっぱり私は弱いから、きっとみんなの足を引っ張っちゃう」
また断られてしまった。何度かこうして誘ってはみるものの、マリは一緒に仕事をしてくれない。昨日の失敗のことで自分を責めているようなのだ。
「いつもそうなの、みんなを助けなきゃって気持ちが空回りしちゃって。あの時も、魔物がこっちを見ていない隙に走ってユリナちゃんのところへ行けば回復してあげられるって思ったんだけど……やっぱり駄目ね」
「そんな事ないよ!」
ユリナが何かを言いかけた気がするが、自分を否定するような口ぶりのマリに、思わず反論せずにはいられなかった。思ったより大きい声が出てしまい、マリが驚く。
「あの時はみんなの息が合わなかっただけで、マリちゃんが悪いわけじゃない。カレン先輩もそう言ってくれてたでしょ?だから、またみんなで……」
「マリ~?」
今、大事なとこなのに!
Cクラスの生徒達がマリを呼んでいる。まぁ、マリはCクラスの生徒なのだからCクラスの生徒が一緒にいるのは当然だ。
「あ、呼ばれちゃった……ええと」
「気にしないで。引き留めちゃってごめんね、早く行ってあげて」
「うん……また明日ね!」
一旦は踵を返したマリだったが、体半分だけミリカに向き直る。
「ありがとうミリカちゃん。気持ちは嬉しい……けど、少し考えさせて欲しいの」
そして、半ば独り言のように。
「私にはまだ、大事な人達を守れる自信がない」
ちなみに、生徒会ではやはりマリヤに小言を言われてしまったが、既にロークスから叱責を受けたのを知っていただろうし、過ぎたことをいつまでもチクチク言っても仕方ないと本人も分かっているのか、あまり厳しくは咎められなかった。
「先輩達も怒ったりせずに励ましてくれて優しかったのに、なんか、あの4人とは距離を感じる……私嫌われてるのかな?」
ギルドの受付窓口で報酬を受け取る。
「おつかれ様でした」と受付職員。学生なのに立派に依頼をこなしている……不思議な気分だ。
「ミリカじゃないわ。どちらかといえば、嫌われてるのは私のほうね」
「ユリナが?何で?」
時間的に頃合いだった為、2人で寮へ繋がる通路を目指した。
「人魚と獣人族が、人間に迫害されてきた歴史があるのは知ってるでしょう?」
「それって、ずっと昔の話じゃないの?」
「差別というのは、すぐに無くなるものじゃないの」
「それは分かってるけど……それとユリナが嫌われてる事に、何の関係があるの?」
「私が人間だから近寄りたくないのよ」
「まさか!」
そんな事あるわけないと笑い飛ばしたかったが、かといって、ユリナと彼らが仲良しに見えたかと聞かれると、お世辞にもそうとは思えなかった。マリとは比較的喋っているようだが、リオとは全然話さないし、シェーネルに至っては目を合わせているところを見たことがない。
本当にそうなのだろうか?ユリナは嫌われているのだろうか。
「やっぱり違うよ。もしそうだとしたら、私も嫌われてるはずだよ。私も人間だもん」
「……そうね」
寮への通路に差し掛かった時、前方の交差部分を見知った顔が横切るのが見えた
「あ、リオ君だ。ねぇユリナ、あれってリオ君だよね?おーい!」
鮮やかなコバルトブルーの髪が目に飛び込む。おまけに背が低いときたら、それはもうリオで間違いない。この特定の仕方は本人にはあまり言えたものじゃないが。
2人のクラスメイトと共に歩いていたリオは、こちらの存在に気付いたはずなのに、ちらと一瞥しただけで進行方向に視線を戻し、姿を消してしまった。
「無視……」
ミリカの心に、木枯らしが吹く音が聞こえたような気がした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる