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第三話 森
しおりを挟む夏休み初日の昼頃。
夏の太陽はその偉大さを誇るように人々の頭上で輝き、強い日差しを惜しげもなく地上にそそいでいる。遠くには立派な入道雲がその存在を主張し、その背景には青く澄んだ空が広がり心が締め付けられるほどに素晴らしい景色を作り出していた。
その光景は写真で写すことができるだろう、だが今この瞬間に感じるずっと見ていたくなるような心象までは写し取ることはできまい。
そんな夏を象徴するようなこの日、街外れにある森の端に小学生六人の影があった。
正規に森の中へ入るための入口とは真反対、ボロく今にも朽ち果てようとしている小屋の影に夏樹たちは自転車を隠している最中だ。
全員動きやすい恰好で頭には帽子をかぶり、その背中には思い思いに考えた道具を入れているリュック背負っている。
「よし、全員揃ったな!」
自転車を隠し終わり、夏樹は五人の前に立ち腕を組んで嬉しそうに声をかける。
もしかしたら誰かが来ない可能性も考えていたために、誰も欠けることなくそろったことに内心ではほっとしていた。
「夏樹、言っておくけど危険なことはなしよ。廃工場に入るための入口がなかったらそこでお終い。いいわね」
「ああ、分かってるって。みんなもそれでいいよな?」
夏樹は全員の顔を見回すと全員がこくんと首を縦に振り、その中でたんぽぽは大きく上下に振っている。
「アタシとしては少し物足りないが、リーダーの決定には従うさ」
などと叢咲は口にしてはいたが、そこに一切の文句があるようには見えない。
「んじゃ、行くか!」
「お待ちになってもらえますでしょうか」
今まさに森の中にある廃工場へ向かって足を出そうとした瞬間、後ろからそれを止める声がかけられた。
夏樹たちは反射的に振り返れば、そこには豪勢に着飾っている瑠璃と彼女の後ろには従うように三人の少年たちが立っていた。後ろの三人、すごく疲れたような表情を浮かべる日暮とその体躯故か汗があふれ出している大門、そして執事服に身を包みながらも一切汗を見せない戸影である。
どうやら夏樹たちに声をかけたのは戸影であった。
そんな四人の登場に夏樹たちはなぜここにいるのか疑問を感じ困惑した顔になったが、すぐに警戒するような表情に変わる。そんな中、夏樹はアゲハの前に立ち、背中に隠す。
その動きに連動するかのように永蜜と叢咲もすぐに動き出し、たんぽぽの前へ躍り出る。
「ご機嫌麗しゅう、夏樹様」
「お、おう」
一歩前に出てきた瑠璃が慣れた風にスカートの端をもって恭しく一礼をすると夏樹に向かって笑顔を投げかける。
いつもであれば子供らしく挨拶を返す夏樹ではあったが、瑠璃の心情に気が付いてしまったため短く言葉を返すしかできなかった。
それでも、場所が場所だけに登場が登場だけに誰も不振には思わなかったが、幼馴染であるアゲハとたんぽぽだけは夏樹の方へ目線を投げかける。
「なんでお前たちがここにいる」
そのことを昨日そばで聞いていた永蜜が遅ればせながらに感づいたのか、フォローに入る。夏樹は自分の代わりに問いかけた永蜜にハッとし顔を向け、目線だけでお礼を言い永蜜も目線だけで返す。
「なぜって、わたしたちも探検ですのよ」
なに当たり前なことを聞くのかしら、と言いたげな表情を浮かべて答える。
「まぁいいじゃないですか。
見たところ、あなた方も廃工場へ行くようでいらっしゃることですし、我々とご一緒いたしませんか? ほら、人数が多い方が楽しいじゃありませんか。旅は道連れ世は情けとも言いますし」
横からその場を取り仕切るように戸影が口を出してきた。戸影はペラペラと笑顔を振りまきながらしゃべり続ける。
「いいこと言うわね、戸影。ということで、わたしたちもご一緒してかまいませんよね」
それは問いではなく、断定である。
この暑い中、長ったらしい言葉を聞き少々高圧的な態度をとられ投げやりになりそうな状況である、普通ならなし崩しに許可を出してしまいそうだ。
しかし夏樹はまず柳に目線を向け呼び出す。
「どうする? 俺としては戸影以外なら連れて行ってもいいんだが」
「奇遇ですね、僕もそう判断していました」
「だが、瑠璃は全員連れていくだろうな」
「はい、彼女は意外と仲間思いですからね」
小声で相談してはいるが、その相談は同じように近寄ってきた永蜜と叢咲にも共有されていた。その会話を聞きながら二人も首を縦に振って無言で同意している。
夏樹は目線を二人の後ろにいる日暮へと向け、それに気が付いた日暮は手を合わせ必死に頼む仕草をし始めた。そんな日暮れを横目で見ながら大門も汗を流しながら頭を下げる。
その様子にため息をつき、
「永蜜、叢咲、頼んだ。柳は戸影の動向に気を付けてみていてくれるか?」
「おう」
「ああ、任せてくれ」
「了解です」
三人は夏樹の言葉に素直にうなずく。
相談が終了した夏樹は瑠璃の方へ顔を向けると、
「分かったよ、一緒にいこうか」
そう、答えを返した。
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