夏休みの冒険譚

歪裂砥石

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第二話 帰宅

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「んじゃ、明日の昼に集合な!」
「ああ、分かっている」
「夏樹の方こそ遅れんなよ!」

 校門前、夏樹たちは帰宅の途についていた。
 今この場にいるのは柳を除いた五人で、柳は『明日の準備がありますので』と言い残し早々に帰ってしまった。
残った五人はいつものように夏樹とアゲハそれとたんぽぽの三人と、永蜜に叢咲という家の方向が同じ同士に分かれて帰るところである。
 夏樹は少し離れた二人に向かって手を大きく振って念を押し、永蜜は軽く手を挙げてニヒルに返し叢咲も楽し気な笑顔を満面に浮かべて返事を返す。それを確認した夏樹は自身を待っている二人と帰るために踵を返そうとするも、なにかを思い出したような表情を浮かべ、二人に声をかけてから永蜜たちに駆け寄っていった。

「どうした、夏樹」
「すまん、二人にはちょっと頼みがあったんだ」
「なんだなんだ、どんと頼ってくれ」
「実は、明日のことだがもしなんかあったらたんぽぽのフォローを頼みたいんだよ」

 その言葉に永蜜はふっと笑い、叢咲もニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべる。

「了解だ。たんぽぽは責任をもって俺たちがフォローしよう」
「んで、アゲハは夏樹が責任をもって助けるんだろ」
「……ああ、そうだよ」

 夏樹は子供特有の気恥ずかしさから顔を赤く染め目線を外すも、否定することなくしっかりと認めていた。

「お前にとってはどちらも大切な幼馴染だってことを俺たちはよく知っている。何かあれば遠慮なく頼ってくれ」
「ありがとうな」

 夏樹、アゲハ、たんぽぽの三人は夏樹の家を中心に家が隣同士の幼馴染である。
昔から何をするにも三人一緒で、なにかあれば夏樹は二人を子供ながらに守ってきた。その頃は今よりもまだ小さく無知が故の無敵感が万能感が、二人を何もかもから守れると信じて疑っていなかった。
 だが、小学生になり徐々に世界を知り社会を知り、そして自分の気持ちに気が付いた。甘酸っぱい初恋というものだ。
それに気が付いた時には、夏樹の中で大切な存在と特別な存在の二つに分かれた。

「夏樹、アタシはとやかく言う気はないけど、ちゃんと応えてやれよ」
「分かっている」
「あと、あのお嬢様もお前が何とかしなきゃいけないぜ」
「……あ~やっぱそうなのか。あれ、そういうことなのか。いやに突っかかってくるから気になってはいたんだが」

 真剣な表情を浮かべ肩を組んで話す叢咲の言葉に、夏樹も真剣に真摯をもってそれに返答する。それは幾度となく叢咲に相談し幾度となく言われてきたことだ、即答して当たり前の答えだ。そしていくら叢咲が男勝りだとしても、まごうことなく女の子であることは揺るぎのない定説である。

 即答した答えを聞いた叢咲は一人納得したのか首を上下にふり、ついでとばかりによく突っかかってくるお嬢様の話を持ち出してきた。
 むろん、この話の流れでそのことを聞いて察せないほどの鈍感力を夏樹は持っておらずすぐに気が付く。もし、そこまでの鈍感力を持っていれば叢咲に相談することはないのだ。
 ただ、気が付くことがいいことかと言われれば、片手で頭を抱え悩み始めた夏樹を見てもらえば言わずもがなであろう。

「ま、ゆっくり考えればいいって。それじゃ、また明日」
「ああ、また明日」

 ニカッと笑いかけると組んでいた腕を解除し、近くでほほえましそうに眺めていた永蜜のそばに移動する。
そのまま帰宅する二人を見送ると、自身も待たせていた二人の元へ駆け寄った。

「夏樹、叢咲と何話していたの?」
「うん、何を話していたの?」
「ん、ああ。明日のことだ。よく言ってくれた、すっげー楽しみにしている、んだってよ」

 駆け寄ってそうそう二人の問いに歩きながら答えていく。
 もう一度言おう、夏樹の鈍感力は低い。
 二人の幼馴染ほど長い時間を過ごしていれば、自分に向けられる好意に気が付く。でも、それ故に、どちらか片方にはそれに応えられずその覚悟を決めなければならないことなんて分かっている。
 だから分かっていながら、覚悟していても、この日々が続くことを望むのは仕方がないことだ。
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