上 下
34 / 37
壱章・New World

第三十三話 接続

しおりを挟む
 丘陵地からさらに北にある王都の中心部は、朝特有の賑わいを見せていた。
 仕事に向かう人々が街中を行きかい、市場や商店と言ったような場所には多くの人々が必要な物を求めて詰め掛けている。そうした店の軒先では客と店員の掛け合いや値引き交渉合戦があちこちで見え、こんなご時世とは思えないくらいになんとも活気が満ちた様子が拡がっていた。それもこれも、この国の政治が上手い影響だろう。

だが、繋が見ていたのはそんな街の様子ではなく、もっと別の部分だ。
 繋が注視しているのは、王都内で繋を探し回っていた連中の動きである。
 つまるところ、諜報部隊であり王国兵たちなど捜索隊の動きだ。
 前日、あれほど活発的に活動的に見回りをしていた王国兵だったのだが、今はあくびを噛みしめゆったりと馴染みある住人たちに挨拶する姿が見える。

必死に影から影へ裏から裏へと走り回っていた諜報部隊の姿も、今ではほとんど見当たらない。唯一と言っていいほどに街に残っている数少ない諜報員は、それが通常業務なのか一般人として住人たちに紛れて日常を過ごしていた。
 そう言った街の様子を一通り見て回ると、今度は城へと目を向ける。

城の中を上から下まで見ていくも、あの蜂の巣をつついたような大騒ぎは一晩経ってすでに沈静化されていた。いまでは捜索の「そ」の字の欠片も見当たらず、残り香さえ漂っておらず今現在の城内は多くの使用人がいつものように割り当てられた仕事に勤しんでいる光景が見える。

この現状から推測すると、王都内に王城内における繋の捜索は完全に打ち切られた。もしくは、限りなく頭の隅に置いておく程度に縮小されたと言っていい状態だろう。もう少し付け加えて言えば、あの老執事から繋が語った情報が流れていると言った理由もあるかもしれない。

ただどんな理由があるとしてもステータスが非常に高く優秀な勇者が四人も手元に残っており、城からいなくなったのが黒く塗りつぶされたステータスの持ち主でなんとも失礼な物言いをしていた人間だ。逆に、そんな人間のためによくもあそこまで大騒ぎできたと言えなくもない。
それほど、今の王族たちは慕われているのだろう。

「完全に大丈夫とは言い切れないが、この様子だと国としては俺の捜索は諦めたとみてよさそうだな」

 王都から目を離すことなく呟いた繋は、ニヤリと口を動かす。

「なら、そこそこ自由に動けるか」

 なんとも分かりやすく嘯き、目線をきってスキルをきって背筋を伸ばした。
 もしいまだに捜索が続けられていたとしても、繋は何不自由なく自由に動けると確信を持って言える。なぜならそれほどの実力を繋は持っており、そのことを繋自身が理解しているからだ。

 それでも身柄を捜索されている場合とされていない場合、面倒ごとが少ないのはどちらかと言えば、確実に後者だ。故に、繋としては最低限自身の目でも状況を確認する必要があった。

繋としても面倒ごとは少ない方に限る。
ただし、トラブルはその限りではないが。

大きく体を伸ばし終えた繋は肩幅くらいに脚を開き、持っていた杖を目の前に突き立て両手を投げ出し自然体で立つ。
完全に体の力を抜きリラックスした状態で目を閉じ、スキルを発動する。

「──【 世界接続 】ワールドコネクト

 だらりと垂れ下げられた両腕。
スキルが発動してすぐ、その両の手の平から幾本もの黒いコードが現れた。現れたと言うよりは、生えてきたと言った方が正確かもしれない。もしくは、手の平を突き破ってきたかだ。

姿を見せた幾本もの黒いコードの先には、一本一本それぞれに規格の違う端子が付いていた。端子の種類は多岐にわたり、スマホの充電でよく目にする端子等から普段の生活では一度も目にしないような端子まで様々な端子が揃っている。中には専門家でもまったく見たことのない、未知の端子も混じっていた。それらは世界が違うんじゃないかと、時代が違うんじゃないかと思わせる端子たちだ。

なんとも多彩な多様な黒いコードたちは姿を見せると、まるでタコの足のようにうねうねと動き出し競争するかのように我先にと地面へ向かって伸びて地面に──否、世界に突き刺さる。
 世界に突き刺さり、世界に接続する。

 すべての黒いコードが世界に接続すると、すぐさま変化が起こり始めた。
突き刺さっている側からコードの色が黒から白へと徐々に変わりだし、手元へ向かって色の変化が進んでいく。これを身近なもので例えるなら、データをダウンロードする時に表示されるプログレスバーのようだ。

事実、これはそう言った意味を持つ視覚的表現である。
 ただ、遅々として進まず時には信用できないプログレスバーとは違い、コードの変化は目に見えて分かるほどに速いものであった。

世界に接続して約一分。
すべてのコードが完全に黒から白へと変わり、異世界記録ワールドレコード(ワールドレコード)のダウンロードと同期がつつがなく終わる。
完全に白く染まったコードは役目を終えたと言わんばかりに地面から抜けていき、手の平の中へと戻っていく。シュルシュルと収納されていく。そうしてすべてのコードが手元に戻ると繋は目の前に突き立てている杖を回収し、

「世界接続完了。エラーも接続不良もなし。剣呑剣の……あ~いや、この使い方は違ったような気がするな」

 などと、苦笑しつつ自分が口にした言葉を自分で否定する。

「まぁ、いいか。次は──【異 世 界 地 図】ワールドマッピング

 だが、そんなことはどうでもいいの一言で片づけられることでしかなく、繋はあっさりと思考を切り替え次の行動に移った。
 手の平を上にして軽く左腕を前に突き出し、空中に一つのスクリーンを投影する。空中に現れたメインスクリーンは、約六十インチほどの大きさをした半透明でSFチックなスクリーンだった。

メインスクリーンには、繋を中心として周囲の様子が映っている。スクリーンに映っている映像は地図的な表示ではなく、高性能カメラを搭載したドローンで撮影しているかのような俯瞰的で非常に綺麗な映像だ。細かい部分まで鮮明に映っているその映像を目にしつつ、杖を肩に立てかけスクリーンに手を伸ばす。

「さて、ダウンロードした異世界記録ワールドレコードをマップに接続させて、と」

繋はスクリーンに触れると、タッチパネルのように操作を始めた。
一番初めにマップの端にあるメニューを操作すると、先ほどダウンロードした異世界記録──劣化版アカシックレコードのような情報群──をマップに接続する。
これまた一分少々で接続が終了するとマップの形式を俯瞰から地図へと変更し、縮尺をいじり地図をスライドさせ周囲の様子を探り始めた。

その結果、付近にあるいくらかの小さな町や村、そして繋が今いる林からさらに南に行ったところにある大き目の街がマップに表示される。
マップに表示されたその街に繋が触れるとメインスクリーンにでかでかと街の全体像が表示され、それと同時に大学ノートサイズくらいのサブスクリーンがいくつも周囲に展開する。

囲むようにいくつも展開したサブスクリーンには、この街の詳細な情報や区画割した地図が表示され、目を通すだけでも五日以上かかりそうなほどの量だ。
 ただそんな詳細の中でも、簡潔に書かれてあるものがあった。
〈フォルの街〉──今現在、スクリーンに表示されている街の名前である。

「一番近くて大き目の街はここだが──さて、どうするか」

 顎に手をやりながら、メインスクリーンと周囲のサブスクリーンをいくつか引き寄せ書かれている詳細をざっと眺め目を通していく。
そこに書かれてある詳細な情報と言うのが、街の住人の完全な戸籍情報とそれに付随する過去を含めた完璧な個人情報。さらには現在進行形で街の中に居る人々、今まさに街へ出入りする人々の個人情報も含め、すべての情報が事細かく表示されている。
しかしながら、ここまで細かく詳細なほど詳細に表示される情報に弊害が無いわけではない。

 高性能な通信機器も使いこなせなければ宝の持ち腐れなのと同様に、信用にあたいする正確な情報を得たとしても十全に把握できなければ活用できなければまったくもって意味がない。

つまり、情報が多すぎてなにから始めていいのか分からなくなる。
 情報過多で、情報氾濫である。溺死するほどの情報量。
 ただ、そんなことを使用者である繋が理解していないわけもなく、

「ああ、なるほど。これは面白いことになりそうな奴らがいるな。だがその代わり、放っておいたら後々面倒ごとを起こす確率が高そうだ」

事前に候補を上げていた目的地を地図の中から見つけた繋は、その目的地に付随する情報のみをサブスクリーンに表示させ情報を確認しつつ呟いた。さらに表示されている情報は要点だけが抜き出されており、さらなる詳細は気になった項目に触れると表示される方式になってある。

 必要な情報を、必要な時に必要な分だけ。
 一通りの情報に目を通した繋は何かを思いついたのかニヤリと楽しそうな笑みを浮かべると、メインスクリーンの操作に戻り周囲のサブスクリーンに文字情報ではなく特定条件で画像を表示する。

サブスクリーンに表示した画像は、どんな街にもどこの街にも存在する路地や路地裏であった。しかし、それはただの路地や路地裏ではなく、まったくもって人気のない人の出入りが少ない路地や路地裏である。

メインスクリーンに映している街の全体図と比べながら繋は立地等を一つずつ手作業で確認し、確認し終えたサブスクリーンは手元から弾き空中を滑らしていく。確認作業をしばらく続ける繋は、最終的にサブスクリーンを一つだけ残しメインスクリーン含めて他のすべてのスクリーンを閉じた。

「さて、異世界転移必須のワクワクドキドキの個人的イベントを消化しに行きますか」

 一つ残したサブスクリーンを脇に控えた繋は体をほぐしつつ、楽しそうにそんなことを口にする。

「──【ゲート】」

 最終確認でサブスクリーンに目を向けた繋は、そこに映っている人のいない路地裏の映像と周囲の簡易マップを確かめながらゲートを開いた。現れたゲートはその路地裏と足元を繋ぎ、ゲートの中へと繋は沈む。
そうして繋の姿が消えた後の林の中に残されたのは、世界の事情に我関せずと自由に吹き抜ける風と、その風によって揺れる木々が奏でる葉音のみであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

神業(マリオネット)

床間信生
ファンタジー
主人公、仕事は順調だが結婚の方には焦りを感じているアラフォー男性。 仕事の帰り道にふと見ると気になる占いの館を発見する。 そこで男は占い師に結婚運を鑑定してもらう。 結果は思いのほか具体的な内容を言われたのだ。 早速、男は占い結果の通りに行動してみると何故か見も知らない風景が広がる世界にいる。 そこは人間以外にもエルフやドワーフ、モンスターまでもが生きている異世界であった。 運命の結婚相手に巡り会えると思っていた男には、全くもって予想していなかった出来事が次々と降りかかってくる。 勿論、男は普通の会社員として生きてきただけに特別な能力など勿論持っていない。 一体これから男はどうしたら良いのか… ---- 初めての投稿につき暖かい目で見ていただければ幸いです。 ペースを崩さないように少しづつでも頑張り続けていこうと思います。 宜しくお願いします。 ※2021/2/23追記 この物語はいつも本気になれない、何をやっても中途半端で強がりばかりで臆病で弱虫な主人公が成長していく物語です。 一年以上更新しないでひたすら腐ってました。 ひょんなことから大好きな人が異世界小説好きだというのを聞いたので、もう一度挑戦します。 きっと大好きな人には届かないでしょう。 才能がないのもわかっています。 どこまで出来るのかなんて全くわかりません。 出来上がったとしてもきっと自分で誇れない出来にしかならないでしょう。 それでも良いんです。 私はもう覚悟を決めましたから。

処理中です...