熱い風の果てへ

朝陽ゆりね

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10、星の言葉

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 二人は互いを見合い、お互いの出した結論に愕然とした。

「王太后は――」
「知っていたんだ! アイがファラオを暗殺しようとしていることを!」

 しばしの沈黙。
 口を開いたのは、沙良のほうだった。

「アンケセナーメンが未亡人になることがわかっていたから、その時が来たら、すぐに行動に移せるよう、手を回したのね。アイを即位させないために」

「王太后はアメン神官団から多額の金品を献上させている。だから公然とは対立できない。アイがアンケセナーメンとの縁談を申し出たら、おそらく反対できないのだろう。だが申し出を受ける前に縁談を固めてしまえば別だ。だからファラオが生きている間に、俺のところに来たのか――なんてことだ!」

「お気に入りのあなたをファラオに据え、アイにはあきらめさせる。でも、アイは高齢。命ある限りは今の地位を保証すると言えば、王太后は献上品を受け続けられるわ。それに自分の力によってあなたを即位させたのだから、仮にアイと対立しても、力であなたをねじ伏せられると考えたんだわ」

「ツタンカーメンのように」

「アイもバカじゃないんだから、軍出身のあなたと対立したら、神官と軍の争いになることくらいわかってるはず。それを王太后は見越しているんじゃないかな」

 怒りに歪んでいるラムセスの顔を見て、沙良はふと疑問を抱いた。

「ねぇ、ラムセス。王太后ってあの有名なネフェルティティでしょ? お気に入りって私もつい言っちゃったけど、どんなふうに気に入られているの? 当のあなたは毛嫌いしてるのに」

 それを聞くか? と言いたげな目を向ける。ラムセスは困ったように苦笑し、それからバツが悪そうに視線を逸らせた。

「初めて会ったのは四年前、十四の時だ。俺は大きな手柄を立て、ファラオの御前で賞賛された。その後……呼ばれたんだ」

「呼ばれた?」
「……あぁ」

 ラムセスはますます困ったような顔を歪ませた。

「呼ばれたって……どこに? 王宮にいたのに?」
「王太后の私室」
「……それって、もしかして、夜?」
「あぁ」

 沙良は唖然としてラムセスの顔を見つめた。

「王太后って、何歳なの?」
「今、四十半ば、じゃないか? アンケセナーメンが二十歳だから……確か、王太后が二十五、六で産んだ最後の子どものはずだ」
「……イヤらしいのね」

 呆れた目をする沙良に、ラムセスは少し戸惑ったふうに声を荒げた。

「言っておくが、なにもなかったんだぞ。いくら血気盛んな十四の若造でも、四十を越えたバアさんと寝るほどバカじゃないからな!」

「誰もそんなこと聞いてないわよ」
「だって、お前の目が俺を怪しんでるから――」
「別にあなたと王太后がどんな関係だって、とやかく言いやしないわよ。そんな立場じゃないもん」
「うーー」
「でもさ、断ったんなら、嫌われたんじゃないの? なんで今もお気に入りなの?」

 ラムセスは沙良のしつこい突っ込みを受けて音を上げたように空を見上げた。

「ねぇ」

「あの野郎は自分の思い通りにならないことが許せないんだろうさ。何度も出頭しろって命令してきやがった。俺はそのつど断った。イタチごっこだ。今となっては俺と関係を持つことより、俺を跪かせて傅かせることに必死なんだろう。知らないよ、そんなこと。知りたけりゃ本人に聞けよ」

「じゃー、王太后は家柄とか、立場とか、そういう意味であなたに肩入れしているわけじゃないのね。感情が入ってるなら、なにかあってもかわせるだろうし、利用できなくもないか」
「…………」

「なによ」
「いや、お前って面白い女だよな」
「面白い?」
「あぁ。ますます気に入った」

 ラムセスが沙良の体を引き寄せてキスをした。

「ラムセス」
「母上が言っていた。お前は天から降ってきた黄金の星じゃないかって」
「黄金の星?」
「ああ。お前の身は俺が守る。だから安心していろ」

 優しい眼差しに沙良は言葉を失った。自分の世界に帰りたいの――その言葉は出てこなかった。


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