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第6章 別れの兆しと告白
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向かいあって座り、ライナスの言葉を待つ。だが、ライナスはなかなか話しだそうとしない。
考え込んだように視線をテーブルの端にやっている。
我慢しても待っていると、ようやくライナスが視線を合わせてきた。
「私はタキさんに、本当に感謝している。その気持ちの深さは言葉に言い表せない。今更なんだと思うだろうが、最後まで聞いてほしい。とにかく、本当に深く深く感謝をしている」
多希はなにか返そうかと思ったけれど、最後まで聞いてほしいと言われたので黙っていることにした。
「アイシスはすっかりタキさんになつき、慕っている。あの子にとってタキさんは自分を大事にしてくれる人というだけではなく、アイデンティティを認め、守ってくれるかけがえのない存在だ。きっと、傍を離れたくないと言うと思う。おじいさんに抱き着いて泣いたように」
「……ええ」
「それは私も同じだ。私はタキさんに感謝し、尊敬している人間ではあるが、それとは別にあなたを異性としても想っている」
いきなりの言葉に多希の目が丸くなった。と同時に、顔が見る見る赤く染まる。多希は急に鼓動が激しくなり、ドクドクと高鳴る音と熱に包まれた。
「あ、の」
「あなたを慕っている。できればこの先もずっとともに過ごしていたい」
「ライナスさん」
「だが、私はあなたに、私のことをどう想っているのか、聞くことができない」
「え?」
告白からの否定の言葉に戸惑う多希に、ライナスは服の中にあるペンダントを取りだし、首から取ってテーブルの上に置いた。
それは青や藍、紫が混ざりあうようなグラデーションの色彩の中に、金と銀のラメの輝きが煌めいている美しい双五角錐型の水晶だった。
「きれいですね」
「さっきタキさんが光っているんじゃないかと尋ねたが、原因はこれだ」
「この水晶、光るんですか」
「これは私の国に伝わる秘術の一部で、本体が稼働を始めると反応して光るんだ。本体はその輝きを辿り、呼応し、座標を定める。本体は一度稼働すると、次に稼働できるまで時間を要する。これが光を持ち始めたということは、本体のエネルギーが貯まってきて、座標を探し始めたことを意味する」
だんだんライナスがなにを言わんとしているのか、多希は理解した。
「迎えが来る、ということですね?」
ライナスが頷いた。一気に多希の心が冷える。
「まだ輝きは充分ではない。だが、そう遠くないうちに秘術の力が満ちて稼働に至るだろう」
「そうなんですか。私、もっと時間がかかるものだと思っていました」
その言葉にライナスはかぶりを振った。
「私もまだ、かなり先だと思っていた。部下たちも同じだと思う。そんなに簡単に力は溜まらないんだ。これは推測だが、レンジの爆発とシンクロし、引っ張られたことにとって秘術の力の消費が抑えられたのだと思う」
そう言われても、秘術そのものがよくわからない多希には、返す言葉もなかった。
「タキさん」
「はい」
「私と一緒に来てもらうことはできないだろうか」
「…………え」
「今すぐここで返事をしてほしいとは言わない。むしろ逆で、じっくり考えてほしいから、力が満ちていない、まだしばらく時間がかかる今の段階で告げることにした」
多希は、あの、と咄嗟に声を出していた。
「あの、そちらに行ってもまたここに戻ることはできるんですよね?」
「それが、できないんだ」
「でも、迎えが来るってことは」
ライナスが話し途中の多希を遮るようにかぶりを振った。
「秘術は座標を求めて定め、そこに向けて飛ばすことができるというものだ。だが、その逆、つまり座標が定められていない状態では、どこに飛ばされるかわからないんだ。その場合、発動した時に波長が合った場所に引っ張られる」
「ここに来たのは?」
「タキさん、レンジが爆発したと言っただろう? おそらくその爆発の衝撃が秘術の発動とタイミングが合い、シンクロして引っ張られたんだと思う」
「じゃあ、その水晶をおじいちゃんに預ければいいんじゃないでしょうか」
ライナスはまたしてもかぶりを振った。
「王家の秘術を他人に預けることはできない。そんなことをしたら、私は反逆者として死罪になるし、渡された者も国に仇する存在として滅殺される」
その言葉に多希は肩を落とした。
「このこと……もうすぐお迎えが来ること、アイシスは知っているんですか?」
「いや、言っていない。あの子はおそらくここに残りたいと言うだろう。それはできない。アイシスは現在、皇太子だし、生まれてくる子が男児だったとしても、今度は王女として国のために働かねばならない」
「…………」
考え込んだように視線をテーブルの端にやっている。
我慢しても待っていると、ようやくライナスが視線を合わせてきた。
「私はタキさんに、本当に感謝している。その気持ちの深さは言葉に言い表せない。今更なんだと思うだろうが、最後まで聞いてほしい。とにかく、本当に深く深く感謝をしている」
多希はなにか返そうかと思ったけれど、最後まで聞いてほしいと言われたので黙っていることにした。
「アイシスはすっかりタキさんになつき、慕っている。あの子にとってタキさんは自分を大事にしてくれる人というだけではなく、アイデンティティを認め、守ってくれるかけがえのない存在だ。きっと、傍を離れたくないと言うと思う。おじいさんに抱き着いて泣いたように」
「……ええ」
「それは私も同じだ。私はタキさんに感謝し、尊敬している人間ではあるが、それとは別にあなたを異性としても想っている」
いきなりの言葉に多希の目が丸くなった。と同時に、顔が見る見る赤く染まる。多希は急に鼓動が激しくなり、ドクドクと高鳴る音と熱に包まれた。
「あ、の」
「あなたを慕っている。できればこの先もずっとともに過ごしていたい」
「ライナスさん」
「だが、私はあなたに、私のことをどう想っているのか、聞くことができない」
「え?」
告白からの否定の言葉に戸惑う多希に、ライナスは服の中にあるペンダントを取りだし、首から取ってテーブルの上に置いた。
それは青や藍、紫が混ざりあうようなグラデーションの色彩の中に、金と銀のラメの輝きが煌めいている美しい双五角錐型の水晶だった。
「きれいですね」
「さっきタキさんが光っているんじゃないかと尋ねたが、原因はこれだ」
「この水晶、光るんですか」
「これは私の国に伝わる秘術の一部で、本体が稼働を始めると反応して光るんだ。本体はその輝きを辿り、呼応し、座標を定める。本体は一度稼働すると、次に稼働できるまで時間を要する。これが光を持ち始めたということは、本体のエネルギーが貯まってきて、座標を探し始めたことを意味する」
だんだんライナスがなにを言わんとしているのか、多希は理解した。
「迎えが来る、ということですね?」
ライナスが頷いた。一気に多希の心が冷える。
「まだ輝きは充分ではない。だが、そう遠くないうちに秘術の力が満ちて稼働に至るだろう」
「そうなんですか。私、もっと時間がかかるものだと思っていました」
その言葉にライナスはかぶりを振った。
「私もまだ、かなり先だと思っていた。部下たちも同じだと思う。そんなに簡単に力は溜まらないんだ。これは推測だが、レンジの爆発とシンクロし、引っ張られたことにとって秘術の力の消費が抑えられたのだと思う」
そう言われても、秘術そのものがよくわからない多希には、返す言葉もなかった。
「タキさん」
「はい」
「私と一緒に来てもらうことはできないだろうか」
「…………え」
「今すぐここで返事をしてほしいとは言わない。むしろ逆で、じっくり考えてほしいから、力が満ちていない、まだしばらく時間がかかる今の段階で告げることにした」
多希は、あの、と咄嗟に声を出していた。
「あの、そちらに行ってもまたここに戻ることはできるんですよね?」
「それが、できないんだ」
「でも、迎えが来るってことは」
ライナスが話し途中の多希を遮るようにかぶりを振った。
「秘術は座標を求めて定め、そこに向けて飛ばすことができるというものだ。だが、その逆、つまり座標が定められていない状態では、どこに飛ばされるかわからないんだ。その場合、発動した時に波長が合った場所に引っ張られる」
「ここに来たのは?」
「タキさん、レンジが爆発したと言っただろう? おそらくその爆発の衝撃が秘術の発動とタイミングが合い、シンクロして引っ張られたんだと思う」
「じゃあ、その水晶をおじいちゃんに預ければいいんじゃないでしょうか」
ライナスはまたしてもかぶりを振った。
「王家の秘術を他人に預けることはできない。そんなことをしたら、私は反逆者として死罪になるし、渡された者も国に仇する存在として滅殺される」
その言葉に多希は肩を落とした。
「このこと……もうすぐお迎えが来ること、アイシスは知っているんですか?」
「いや、言っていない。あの子はおそらくここに残りたいと言うだろう。それはできない。アイシスは現在、皇太子だし、生まれてくる子が男児だったとしても、今度は王女として国のために働かねばならない」
「…………」
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