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第2章 ショッピングセンターは驚きの連続
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さて、駐車場に車を止めて降りてから、店に入るまでがなんと長いこと。
多希は全身から火を噴きそうなほど恥ずかしかったけれど、当人たちはどこ吹く風だ。
まぁ、当然だ。二人にとって、今着ている衣装は普段着なのだから。
(早く服を買って着替えてほしい)
なんて思いながら、とりあえず急いで手ごろな店に入って服を選ばせようとしたのだが。
「アイシス、どうしたの?」
アイシスは試着用の服を手にしながらも、なぜか女の子用の服をじっと見つめている。
「これも試していい?」
レースのリボンがついた、淡いピンク色のワンピースだ。
「これ? これって女の子用だけど?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど。アイシスが着たいなら」
「ありがとう。あの」
「うん?」
「兄上には内緒にしててほしい」
「? いいけど」
二人は試着室に入った。そして――
「え……えええっ」
服を脱いだアイシスを見てびっくり仰天する。なんと、女の子だったのだ。
「王子様だって言ったよね?」
「うん」
「うんって……」
「ちょっと事情があって、王子として育てられているんだ。だから女の子の服は着ちゃいけなくて……」
「ライナスさんもダメって言うの?」
「母上は僕を王子として扱っているから、そうじゃないことをすると怒るんだ。兄上は立場上、口は挟めないし、僕が女の子っぽいことをやっているのを見て黙っていたら怒られるんだ。どうして注意しないのかって。兄上が母上に怒られるようなことはしたくないから」
ライナスの知らないところでなら、バレてもライナス自身は怒られることはない、ということなのだろう。
そこまで考え、多希は気づいた。
(王妃様の出産次第と言っていたのは、男の子が生まれたらアイシスが王子として暮らす必要がなくなるって意味だったんだ。でも、また女の子だったら、アイシスは引き続き王子様として暮らすことになる。それって……)
フツフツと怒りが湧いてくるのを感じる。
(子どもの人生をなんだと思っているのよ!)
とはいえ、この世界だって男女の性別関係なく王位を継げるところばかりではない。日本を含め、今なお男性にしか王位継承権がない国はいっぱいあるのだ。
ライナスたちが生きている世界、国は、もっと厳しいのだろう。多希がいくら腹を立てたところで、変えることなどできない。
(だったら、せめてこの世界にいる間だけでも、アイシスがのびのび生活できるようにしてあげなきゃ!)
そう思うなり、多希は試着室に持ち込んだ男の子用の服を回収した。
「どうしたの?」
「そのワンピースにしよう」
「え? でも」
「ここには王妃様も、家臣の人たちも、誰もいない。ライナスさんだけでしょ? そう簡単には来られないならバレることもない。この世界では、誰に気兼ねすることなく、アイシスがしたいことをすればいい。着たい服を着て、やりたいことをしよう」
「いいの?」
「いいの! 私が許す!」
その瞬間、アイシスの顔がぱぁ! っと輝いた。
「うん! タキ、ありがとう! 僕、この服が着たい!」
「うんうん。これにしようね」
アイシスはうれしそうに頷くと、両手をピンと横にのばした。そのままじっと立っていて動かない。
多希はなにをしているんだろう、着替えないのかな、と思ったが、はっとなった。
(そっか。王子様だからお付きの人が全部やってくれるんだ!)
自分のことは自分でやってもらわなければならない。特に喫茶店を再開したらアイシスの世話どころか、多希のほうが手伝ってほしいくらいになるだろう。
それをどう伝えるかだ。アイシスはけっして偉そうな態度や言葉遣いではないので、きちんと説明したらきいてくれると思うのだが、当たり前に思っていることを否定されたら気分を害する可能性がある。
「タキ?」
急に黙り込んでしまった多希に、アイシスが首をかしげて顔を覗きこんできた。
「あ、なんでもない」
とりあえず今回だけ、そう思い、ワンピースを着せてやる。背中のファスナーを上げると、アイシスは鏡の前でうれしそうにクルクルと回った。
「似合う? 似合う?」
「とっても似合ってる。かわいいよ」
「ホント?」
「ホントだって。すごくかわいい」
アイシスは頬を赤らめて頷き、それからまた鏡に映る自分の姿を見つめる。そしてまたクルクルと回った。
(そんなにうれしいのか。着たかったんだね。ずっと我慢してきたのね。こんなに小さいのに、言えなくて、つらかったね)
心の中でそう呟き、多希はアイシスに、ちょっと待ってて、と言葉をかけて試着室から出た。
売り場に戻って、かわいい服をいくつも手にする。そして急いで試着室に戻った。
「アイシス、ねぇ、これどう? 着てみない?」
「いいの?」
「いいのいいの、ドンドン試そうね」
「うん!」
アイシスはまるで太陽のように輝かしい笑顔になって、多希が持ってきた服を手に取った。
多希は全身から火を噴きそうなほど恥ずかしかったけれど、当人たちはどこ吹く風だ。
まぁ、当然だ。二人にとって、今着ている衣装は普段着なのだから。
(早く服を買って着替えてほしい)
なんて思いながら、とりあえず急いで手ごろな店に入って服を選ばせようとしたのだが。
「アイシス、どうしたの?」
アイシスは試着用の服を手にしながらも、なぜか女の子用の服をじっと見つめている。
「これも試していい?」
レースのリボンがついた、淡いピンク色のワンピースだ。
「これ? これって女の子用だけど?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど。アイシスが着たいなら」
「ありがとう。あの」
「うん?」
「兄上には内緒にしててほしい」
「? いいけど」
二人は試着室に入った。そして――
「え……えええっ」
服を脱いだアイシスを見てびっくり仰天する。なんと、女の子だったのだ。
「王子様だって言ったよね?」
「うん」
「うんって……」
「ちょっと事情があって、王子として育てられているんだ。だから女の子の服は着ちゃいけなくて……」
「ライナスさんもダメって言うの?」
「母上は僕を王子として扱っているから、そうじゃないことをすると怒るんだ。兄上は立場上、口は挟めないし、僕が女の子っぽいことをやっているのを見て黙っていたら怒られるんだ。どうして注意しないのかって。兄上が母上に怒られるようなことはしたくないから」
ライナスの知らないところでなら、バレてもライナス自身は怒られることはない、ということなのだろう。
そこまで考え、多希は気づいた。
(王妃様の出産次第と言っていたのは、男の子が生まれたらアイシスが王子として暮らす必要がなくなるって意味だったんだ。でも、また女の子だったら、アイシスは引き続き王子様として暮らすことになる。それって……)
フツフツと怒りが湧いてくるのを感じる。
(子どもの人生をなんだと思っているのよ!)
とはいえ、この世界だって男女の性別関係なく王位を継げるところばかりではない。日本を含め、今なお男性にしか王位継承権がない国はいっぱいあるのだ。
ライナスたちが生きている世界、国は、もっと厳しいのだろう。多希がいくら腹を立てたところで、変えることなどできない。
(だったら、せめてこの世界にいる間だけでも、アイシスがのびのび生活できるようにしてあげなきゃ!)
そう思うなり、多希は試着室に持ち込んだ男の子用の服を回収した。
「どうしたの?」
「そのワンピースにしよう」
「え? でも」
「ここには王妃様も、家臣の人たちも、誰もいない。ライナスさんだけでしょ? そう簡単には来られないならバレることもない。この世界では、誰に気兼ねすることなく、アイシスがしたいことをすればいい。着たい服を着て、やりたいことをしよう」
「いいの?」
「いいの! 私が許す!」
その瞬間、アイシスの顔がぱぁ! っと輝いた。
「うん! タキ、ありがとう! 僕、この服が着たい!」
「うんうん。これにしようね」
アイシスはうれしそうに頷くと、両手をピンと横にのばした。そのままじっと立っていて動かない。
多希はなにをしているんだろう、着替えないのかな、と思ったが、はっとなった。
(そっか。王子様だからお付きの人が全部やってくれるんだ!)
自分のことは自分でやってもらわなければならない。特に喫茶店を再開したらアイシスの世話どころか、多希のほうが手伝ってほしいくらいになるだろう。
それをどう伝えるかだ。アイシスはけっして偉そうな態度や言葉遣いではないので、きちんと説明したらきいてくれると思うのだが、当たり前に思っていることを否定されたら気分を害する可能性がある。
「タキ?」
急に黙り込んでしまった多希に、アイシスが首をかしげて顔を覗きこんできた。
「あ、なんでもない」
とりあえず今回だけ、そう思い、ワンピースを着せてやる。背中のファスナーを上げると、アイシスは鏡の前でうれしそうにクルクルと回った。
「似合う? 似合う?」
「とっても似合ってる。かわいいよ」
「ホント?」
「ホントだって。すごくかわいい」
アイシスは頬を赤らめて頷き、それからまた鏡に映る自分の姿を見つめる。そしてまたクルクルと回った。
(そんなにうれしいのか。着たかったんだね。ずっと我慢してきたのね。こんなに小さいのに、言えなくて、つらかったね)
心の中でそう呟き、多希はアイシスに、ちょっと待ってて、と言葉をかけて試着室から出た。
売り場に戻って、かわいい服をいくつも手にする。そして急いで試着室に戻った。
「アイシス、ねぇ、これどう? 着てみない?」
「いいの?」
「いいのいいの、ドンドン試そうね」
「うん!」
アイシスはまるで太陽のように輝かしい笑顔になって、多希が持ってきた服を手に取った。
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