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第三十六話「戦線離脱」
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あたしとリリスさんは与えられた任務の一つ――特定場所に保管されている文書の奪取を遂行中だ。
指定されている場所はすでに生徒が警備している。
「イリスさん、どうする?」
警備している生徒も別の任務が与えられているはず。
なら一旦この任務は保留して、相手が別の任務を遂行中に奪う選択もある。
ただあたし達が別の任務をしに行ってすぐに相手も離れた場合、結局この場でかち合うことになる。
それにほかの任務の内一つ、保護すべき怪我人を模した人形は損壊エリアあるらしい。
そっちを先にやるならここからかなり離れることになる。
「とりあえず様子見だな。向こうがしばらくここから離れる様子が無かったら別の任務に切り替えよう」
「うん、分かった」
イリスさんに従い警備している生徒を観察する。
周囲を警戒はしているものの、たまに雑談をしたりと意外と隙は多い。
「やっぱりシングル生だな。あの調子なら夜には完全に気が抜けて――――サラ、危ない!!」
何かを察知したイリスさんがあたしに飛び込んで来た。
突然のことにあたしは困惑する。
あたしに覆いかぶさるイリスさんの鋭い視線はあたしではなく別の場所に向けられている。
あたしが身を隠していた場所に頭一つ分の大きさがある石がめり込んでいた。
「そんなところでこそこそと、どうしたのかしら?」
「ライア……」
イリスさんが睨む先、そこには三組、計六人の生徒。
内何人かはイリスさんのクラスで見た顔だ。
イリスさんがライアと睨むのは中心の生徒。
毛先にかけて少しカールのかかったタンポポの花のような鮮やかな黄色の髪、あたしやイリスさんより少し長身で、眉を寄せるその表情からこちらに良い印象を抱いていないのは確か。
そしてさっきまで様子見していた生徒も騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた。
合計八人、これはマズい。
「でもなんでこんな大勢。みんな指令書目当て?」
「いや協力して行うものはないと考えていい。オレ達の任務も誰かと協力するものはない。いくら別々の任務が与えられてるとはいえ、協力出来る任務があったりなかったりじゃ試験の難易度も変わる。そこは全員が同じ難易度になるよう調整されてるはずだ」
「でも、じゃあなんで……」
「それは……」
イリスさんは心当たりがあるみたいだけど、なんか言いたくなさそうだ。
「あら、一人だけ何も知らないのは可哀そうよ? サラさんでしたっけ? あなたも災難ね。その女とパートナーじゃなければ酷い思いをしなくて済んだのに」
散々な言われようだけどイリスさんは何も言い返さない。
「アンタ達もイリスさんの悪い噂を気にしてる口? 魔力の暴走なんてパートナーじゃないんだから関係ないでしょ! あんまり関わらないでよ!!」
「そうもいかないのよ。噂だけ知ってる人は魔力暴走しか知らないだろうけど、私達はその魔力暴走の原因、つまりイリスが何故魔力制御が苦手か知ってる。神聖な学び舎であるホワイトリリーに彼女の存在は忌むべきものなの。だからこのペタル試験で彼女を排除する。これは大儀よ」
合計四組、授吻を開始した。
つまり戦闘の合図だ。
「イリスさん! あたし達も――」
「あ、あぁ……」
あたしはイリスさんと授吻しようと顔を近づける。
ここまで丁寧に魔力を練ったから魔力暴走の心配はない。
あたしの視界がイリスさんの奇麗な顔で一杯になる。
そして唇が触れようとしたその時、イリスさんはあたしの両肩を掴んであたしから離れようと押し出す。
あたしから授吻しようとした自分の変化も驚いたけど、まさか拒まれるとは。
ちょっぴり傷つく。
「ゴメン、やっぱりオレは――――」
イリスさんの苦痛に歪んだ表情は何かトラウマを植え付けられたようで。
それでも相手はあたし達を待ってはくれない。
「種器――獣賽」
ライアさんが持っていたのはサイコロだった。
彼女はそれを地面に投げる。
サイコロが地面にステップを踏むように転がり、「四」の出目が上を向いていた。
「四か、まぁまぁね」
可もなく不可もなくの表情を浮かべるライアさん。
アリシアやクレアみたいな明確な武器や防具以外の種器にあたしは何が起こるのか分からず目を離せずいた。
サイコロは光り輝いて割れるとそこから馬よりも一回り大きい、薄い灰色と濃い灰色が入り混じった毛色の狼が合わられた。
獲物を捕らえて鋭く睨み、鋭利な牙から唾液が滴る。
「出目によって召喚される獣が変わる創造型魔法がライアの固有魔法だ。ただの獣だけど魔力によって強化されてるから十分脅威になる。種器――氷鉞」
イリスさんも種器を取り出す。
イリスさんの種器はピッケルのような形をしていた。
氷のように透き通った水色の柄、下端は槍のように鋭く先端が尖り、もう片側には鍬のような刃と鎌のような刃がT字に広がっている。
授吻前でもブレイドは少しだけ魔力を持っている。
と言っても種器を取り出し、一、二回魔法が使える程度で実践で足りる量じゃない。
まだ授吻していないあたし達がこの場を制するのは素人のあたしでも無理だと分かる。
「授吻もしてないのにどうするんですか?」
「この場は一旦離脱する。はぁっ!!」
ライアさんの召喚した狼があたし達に襲い掛かる。
イリスさんは氷鉞を振り下ろす。
狼の鋭い牙が深く刺さったのは氷の塊だった。
「いゃああああ!?」
すぐ下からイリスさんとあたしを持ち上げるように氷の柱が天に伸びる。
突然のことにあたしはイリスさんに抱き着き柱から落ちないように必死だ。
イリスさんはそんなあたしを面倒そうに見ながらも、あたしを抱えて戦線を離脱した――――。
指定されている場所はすでに生徒が警備している。
「イリスさん、どうする?」
警備している生徒も別の任務が与えられているはず。
なら一旦この任務は保留して、相手が別の任務を遂行中に奪う選択もある。
ただあたし達が別の任務をしに行ってすぐに相手も離れた場合、結局この場でかち合うことになる。
それにほかの任務の内一つ、保護すべき怪我人を模した人形は損壊エリアあるらしい。
そっちを先にやるならここからかなり離れることになる。
「とりあえず様子見だな。向こうがしばらくここから離れる様子が無かったら別の任務に切り替えよう」
「うん、分かった」
イリスさんに従い警備している生徒を観察する。
周囲を警戒はしているものの、たまに雑談をしたりと意外と隙は多い。
「やっぱりシングル生だな。あの調子なら夜には完全に気が抜けて――――サラ、危ない!!」
何かを察知したイリスさんがあたしに飛び込んで来た。
突然のことにあたしは困惑する。
あたしに覆いかぶさるイリスさんの鋭い視線はあたしではなく別の場所に向けられている。
あたしが身を隠していた場所に頭一つ分の大きさがある石がめり込んでいた。
「そんなところでこそこそと、どうしたのかしら?」
「ライア……」
イリスさんが睨む先、そこには三組、計六人の生徒。
内何人かはイリスさんのクラスで見た顔だ。
イリスさんがライアと睨むのは中心の生徒。
毛先にかけて少しカールのかかったタンポポの花のような鮮やかな黄色の髪、あたしやイリスさんより少し長身で、眉を寄せるその表情からこちらに良い印象を抱いていないのは確か。
そしてさっきまで様子見していた生徒も騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた。
合計八人、これはマズい。
「でもなんでこんな大勢。みんな指令書目当て?」
「いや協力して行うものはないと考えていい。オレ達の任務も誰かと協力するものはない。いくら別々の任務が与えられてるとはいえ、協力出来る任務があったりなかったりじゃ試験の難易度も変わる。そこは全員が同じ難易度になるよう調整されてるはずだ」
「でも、じゃあなんで……」
「それは……」
イリスさんは心当たりがあるみたいだけど、なんか言いたくなさそうだ。
「あら、一人だけ何も知らないのは可哀そうよ? サラさんでしたっけ? あなたも災難ね。その女とパートナーじゃなければ酷い思いをしなくて済んだのに」
散々な言われようだけどイリスさんは何も言い返さない。
「アンタ達もイリスさんの悪い噂を気にしてる口? 魔力の暴走なんてパートナーじゃないんだから関係ないでしょ! あんまり関わらないでよ!!」
「そうもいかないのよ。噂だけ知ってる人は魔力暴走しか知らないだろうけど、私達はその魔力暴走の原因、つまりイリスが何故魔力制御が苦手か知ってる。神聖な学び舎であるホワイトリリーに彼女の存在は忌むべきものなの。だからこのペタル試験で彼女を排除する。これは大儀よ」
合計四組、授吻を開始した。
つまり戦闘の合図だ。
「イリスさん! あたし達も――」
「あ、あぁ……」
あたしはイリスさんと授吻しようと顔を近づける。
ここまで丁寧に魔力を練ったから魔力暴走の心配はない。
あたしの視界がイリスさんの奇麗な顔で一杯になる。
そして唇が触れようとしたその時、イリスさんはあたしの両肩を掴んであたしから離れようと押し出す。
あたしから授吻しようとした自分の変化も驚いたけど、まさか拒まれるとは。
ちょっぴり傷つく。
「ゴメン、やっぱりオレは――――」
イリスさんの苦痛に歪んだ表情は何かトラウマを植え付けられたようで。
それでも相手はあたし達を待ってはくれない。
「種器――獣賽」
ライアさんが持っていたのはサイコロだった。
彼女はそれを地面に投げる。
サイコロが地面にステップを踏むように転がり、「四」の出目が上を向いていた。
「四か、まぁまぁね」
可もなく不可もなくの表情を浮かべるライアさん。
アリシアやクレアみたいな明確な武器や防具以外の種器にあたしは何が起こるのか分からず目を離せずいた。
サイコロは光り輝いて割れるとそこから馬よりも一回り大きい、薄い灰色と濃い灰色が入り混じった毛色の狼が合わられた。
獲物を捕らえて鋭く睨み、鋭利な牙から唾液が滴る。
「出目によって召喚される獣が変わる創造型魔法がライアの固有魔法だ。ただの獣だけど魔力によって強化されてるから十分脅威になる。種器――氷鉞」
イリスさんも種器を取り出す。
イリスさんの種器はピッケルのような形をしていた。
氷のように透き通った水色の柄、下端は槍のように鋭く先端が尖り、もう片側には鍬のような刃と鎌のような刃がT字に広がっている。
授吻前でもブレイドは少しだけ魔力を持っている。
と言っても種器を取り出し、一、二回魔法が使える程度で実践で足りる量じゃない。
まだ授吻していないあたし達がこの場を制するのは素人のあたしでも無理だと分かる。
「授吻もしてないのにどうするんですか?」
「この場は一旦離脱する。はぁっ!!」
ライアさんの召喚した狼があたし達に襲い掛かる。
イリスさんは氷鉞を振り下ろす。
狼の鋭い牙が深く刺さったのは氷の塊だった。
「いゃああああ!?」
すぐ下からイリスさんとあたしを持ち上げるように氷の柱が天に伸びる。
突然のことにあたしはイリスさんに抱き着き柱から落ちないように必死だ。
イリスさんはそんなあたしを面倒そうに見ながらも、あたしを抱えて戦線を離脱した――――。
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