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第三十四話「悪い噂」
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「イリス? まぁあんまりいい話は聞かないわね」
「ん~わたしもあまり詳しくは知らないかな。ただ悪い噂も勝手に尾ひれついて独り歩きしているような感じだけど……」
養成施設時代に何があったのか、メイリーとリーナに聞いてみた。
一応二人とも面識があるみたいだけど、あまり親しくはないみたい。
「まぁ目つきも恐いし、本人も積極的に誰かと関わろうとする感じじゃないから余計に勘違いされるんじゃない?」
「そうだね~。ちょっとかわいそうな感じではあるけど、クラスが違うのもあって関わる機会もないし……」
「ちなみに悪い噂になってる魔力暴走って何?」
「そのままの意味だよ。安定していない魔力をブレイドが受け取ってコントロールできないと魔力が暴走して周辺に魔力を撒き散らせることがあるの。どんなに安定していない魔力でも大概はブレイドが無意識に補正して最低限使えるようにするんだけど、イリスさんはその能力に乏しいみたい」
「でもそれって普通に魔力を練れば問題ないんでしょ? シースの能力不足も原因じゃないの?」
「確かにそうよ。シースはいついかなる時にも安定した魔力をブレイドに流せるように精神的な強さを求められる。いくら相方の魔力制御能力が低いからって一概には責められない。けど、それはあくまで客観的な話。当事者からすればイリスはいつ爆発してもおかしくない危険人物には変わりないわ」
「…………決めた。イリスさんを説得してパートナーになってもらう」
あたしの宣言にリーナは呆れた表情を浮かべた。
「はぁ? 今の話を聞いてどうしてそうなるのよ。それにアンタの方も魔力の扱いについてはまだ未熟じゃない。ケガするかもしれないわよ?」
「そうかもしれないけど、このままイリスさんがずっと孤立したままだと思うとどうもほっとけないというか。それに未熟者同士通じるものもあるだろうし」
覚悟を決めたあたしに、メイリーは嬉しそうに微笑む。
「まーサラちゃんらしいね」
「よし、そうと決まれば積極的にいかないとね!」
そしてあたしはイリスさんに積極的に声をかけた。
休み時間になれば押しかけ、昼休憩になればランチに誘い、帰宅時には一緒に帰ろうと誘う。
コミュニケーションは回数で、最初は無視だったイリスさんも次第にあたしに心を開いてくれたようで、
「……ウザい!」
本音をぶつけてくれた。
うん、アピール失敗!!
「なんでそこまでオレにこだわるんだよ。オレが周りからどう思われているか知ってるだろ」
ぶっきらぼうにイリスさんは言った。
そう言ってくれただけでもこの数日の成果はあったとしよう。
「イリスさんと仲良くなりたいってのが本音だけど、多分それじゃ納得しないだろうから打算的な理由を言うね。あたしはパートナーが決まってない。それはイリスさんも同じ。パートナーを探しても遠慮される。これもイリスさんと同じ。先生から問題児扱いされてる。これまたイリスさんと同じ。てことはあたしとイリスさんが組めば万事解決万々歳ってことで」
「いや意味わかんねぇから」
「それにイリスさんも早めにパートナーを組まないと退学になっちゃうよ?」
「オレは別にこのまま退学になっても構わないと思ってる。ここに来たのだって行く当てがないって理由だったし。こんな覚悟も目的もない奴がいたって迷惑なだけだろ」
否定したかった。
否定してあげたかった。
あたしも同じで、行く当てがなかったからホワイトリリーに来た。
意思や志、目的なんて一切ない。
イリスさんの言う通り、ほかの人からしたら迷惑な存在なのかもしれない。
あたしとイリスさんの違いは周りに恵まれたかどうか。
あたしにはアリシアをきっかけにメイリー、クレア、リーナ、環境委員会の人達と関わることができた。
でもそれはあたしに関係を拒絶される出来事がなかったから出来たこと。
イリスさんの悪い噂は関係を築くには障壁でしかない。
「じゃあな。パートナーは別を探してくれ」
去っていくイリスさんをあたしは止めることが出来なかった。
止める言葉も、彼女を説得することも出来ない。
そして余計にほっとけなくなった――――。
「ん~わたしもあまり詳しくは知らないかな。ただ悪い噂も勝手に尾ひれついて独り歩きしているような感じだけど……」
養成施設時代に何があったのか、メイリーとリーナに聞いてみた。
一応二人とも面識があるみたいだけど、あまり親しくはないみたい。
「まぁ目つきも恐いし、本人も積極的に誰かと関わろうとする感じじゃないから余計に勘違いされるんじゃない?」
「そうだね~。ちょっとかわいそうな感じではあるけど、クラスが違うのもあって関わる機会もないし……」
「ちなみに悪い噂になってる魔力暴走って何?」
「そのままの意味だよ。安定していない魔力をブレイドが受け取ってコントロールできないと魔力が暴走して周辺に魔力を撒き散らせることがあるの。どんなに安定していない魔力でも大概はブレイドが無意識に補正して最低限使えるようにするんだけど、イリスさんはその能力に乏しいみたい」
「でもそれって普通に魔力を練れば問題ないんでしょ? シースの能力不足も原因じゃないの?」
「確かにそうよ。シースはいついかなる時にも安定した魔力をブレイドに流せるように精神的な強さを求められる。いくら相方の魔力制御能力が低いからって一概には責められない。けど、それはあくまで客観的な話。当事者からすればイリスはいつ爆発してもおかしくない危険人物には変わりないわ」
「…………決めた。イリスさんを説得してパートナーになってもらう」
あたしの宣言にリーナは呆れた表情を浮かべた。
「はぁ? 今の話を聞いてどうしてそうなるのよ。それにアンタの方も魔力の扱いについてはまだ未熟じゃない。ケガするかもしれないわよ?」
「そうかもしれないけど、このままイリスさんがずっと孤立したままだと思うとどうもほっとけないというか。それに未熟者同士通じるものもあるだろうし」
覚悟を決めたあたしに、メイリーは嬉しそうに微笑む。
「まーサラちゃんらしいね」
「よし、そうと決まれば積極的にいかないとね!」
そしてあたしはイリスさんに積極的に声をかけた。
休み時間になれば押しかけ、昼休憩になればランチに誘い、帰宅時には一緒に帰ろうと誘う。
コミュニケーションは回数で、最初は無視だったイリスさんも次第にあたしに心を開いてくれたようで、
「……ウザい!」
本音をぶつけてくれた。
うん、アピール失敗!!
「なんでそこまでオレにこだわるんだよ。オレが周りからどう思われているか知ってるだろ」
ぶっきらぼうにイリスさんは言った。
そう言ってくれただけでもこの数日の成果はあったとしよう。
「イリスさんと仲良くなりたいってのが本音だけど、多分それじゃ納得しないだろうから打算的な理由を言うね。あたしはパートナーが決まってない。それはイリスさんも同じ。パートナーを探しても遠慮される。これもイリスさんと同じ。先生から問題児扱いされてる。これまたイリスさんと同じ。てことはあたしとイリスさんが組めば万事解決万々歳ってことで」
「いや意味わかんねぇから」
「それにイリスさんも早めにパートナーを組まないと退学になっちゃうよ?」
「オレは別にこのまま退学になっても構わないと思ってる。ここに来たのだって行く当てがないって理由だったし。こんな覚悟も目的もない奴がいたって迷惑なだけだろ」
否定したかった。
否定してあげたかった。
あたしも同じで、行く当てがなかったからホワイトリリーに来た。
意思や志、目的なんて一切ない。
イリスさんの言う通り、ほかの人からしたら迷惑な存在なのかもしれない。
あたしとイリスさんの違いは周りに恵まれたかどうか。
あたしにはアリシアをきっかけにメイリー、クレア、リーナ、環境委員会の人達と関わることができた。
でもそれはあたしに関係を拒絶される出来事がなかったから出来たこと。
イリスさんの悪い噂は関係を築くには障壁でしかない。
「じゃあな。パートナーは別を探してくれ」
去っていくイリスさんをあたしは止めることが出来なかった。
止める言葉も、彼女を説得することも出来ない。
そして余計にほっとけなくなった――――。
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