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第十九話「敵襲」
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一通りアリシアとの過去を話し終えて一息つくクレアさん。
「アタシはアリシアのあの澄ました顔の鼻っ柱を折りたくて何度も勝負したわ。ただアリシアと勝負してるときは自然と孤独感を忘れてた。でもアタシにはアイツと仲良しこよしなんて出来なかった。アリシアとの勝負はそんなアタシとアリシアを繋ぐ唯一のものなのよ。アンタをパートナーにしたのだって、アリシアから奪って少しでも悔しい顔を拝めたらってただそれだけ。巻き込んで悪かったわね」
「クレアさんは、アリシアと仲良くなりたいんですか?」
「仲良く……なりたかったかどうか分からない。ま、今更どうこう出来る関係性でもないのよ」
「いいんじゃないですか、そのままで。 ……あたしはクレアさんとアリシアの今の関係は羨ましいですよ」
「羨ましい? 今の話を聞いてその感想はバカにしてるの? それともバカなの?」
あたしの言葉を誤解したクレアさんの機嫌が少し悪くなった気がして、あたしはすぐさま訂正に入る。
「いや、そんなんじゃなくてですね……今のクレアさんとアリシアの関係って本来普通の友達を作るより難しいと思うんです。お互い嫌いあってるわけじゃないけど、仲が良いわけでもない。そこにあるのは相手をリスペクトしてるからこそ負けたくないっていう対抗心。一歩間違えれば羨望や嫉妬で終わっていたかもしれない関係だと思うんです。そんな関係……“ライバル”っていうのはそう簡単に出会えるものじゃないと、あたしは思います」
「ライバル、ねぇ……。アリシアはアタシをどう思ってるか分からないけどね」
「要は“友達”と一概に言っても関係はいろいろあるってことですよ。親しい仲、趣味が同じ、感性が合う、悩みを相談出来る、一緒に遊ぶことが出来る、共通の知り合いがいる、打算的……クレアさんとアリシアのライバルだって立派な“友達”の一つだと思います。あたしも、クレアさんと“友達”になりたいと心から思ってます」
勢い任せに捲し立てたあたしは、流れで言った内容に若干後悔した。
「あ、いや、いきなり友達になりたいって言うのは失礼でした。あたしが言いたいのはえっと、その……クレアさんともっと深い関係になりたいって言うか……いやこれも誤解を招く言い方ですけど――――」
喋れば喋る程ボロが出るあたしを、クレアさんは険しかった表情を緩めてクスリと笑った。
「テンパりすぎよ。そっか……そうね。ちなみに、サラとアタシの“友達”はどういうもの?」
「えっと、ですね……」
クレアさんと“友達”になりたいというのは勢い任せで言ったけど本心だ。
ただその意味合いを解説出来るほど頭で整理してある本音じゃない。
もっとよく知りたい、仲良くなりたいというのもあるけどその表現も腑に落ちない。
趣味や感性が合うと語れるほど親しくもない。
あたしとクレアさんの関係。
今あたし達がパートナーになってる理由は、クレアさんはアリシアに勝ちたい。
あたしはアリシアに目にもの見せたい。
最初はそんな打算的な利害関係で、そこは今も変わらない。
だったら、あたしとクレアさんの“友達”は――――
「“共犯”……なんてのはどうでしょうか?」
あたしが答えるとクレアさんは予想外の答えだったのか目を丸くしていた。
ピンときてない可能性もあるのであたしはすぐさまプレゼンに入る。
「打倒アリシアを目指す協力関係。やっぱり共通の目的があるって言うのは十分な繋がりだと思うんですよ」
あたしのプレゼンで納得したのか、クレアさんは盛大に笑った。
笑って、笑い疲れて、一息つく。
「“友達”……良いわねそれ。はぁ……なんだかスッキリしたわ。さて、ちょっと長く休憩しすぎたかしら。そろそろ動くわ。目標はアリシアよ! ついてきなさい!」
「イェッサー!」
クレアさんとの壁が少し剥がれたような気がして、あたしも精一杯返事した。
気合を入れ直して、場所を移動しようとしたその瞬間、クレアさんはあたしを制止する。
「止まって」
せっかくやる気を出したって言うのに出鼻をくじかれたような気持になったけど、クレアさんの異様な緊張感にあたしもそんなことを考えられなくなった。
一気に空気が張り詰める。
クレアさんが睨みつけるその先。
一人の女性がこっちに歩いてきていた。
「勘の鋭い奴じゃねえか。ちょっとは骨のある学生もいたもんだ」
右の頬に傷がある長身で筋肉質の女性。
鋭い目尻、虚ろな目、狂気に満ちた笑み。
異様で不気味な雰囲気の女性は、生徒でもなければ先生でもなさそう。
「下がって。アンタは何者? 学園関係者ってわけじゃなさそうね。十秒以内に答えなければアンタを侵入者――敵と認識するわよ」
「…………」
クレアさんの尋問に長身の女性は不敵な笑みを浮かべるだけだ。
クレアさんは目の前の敵に注意しつつも周りを確認する。
戦うことになるから周囲を確認してるんだろうか。
「はーん……状況を把握してすぐに退路を確認。お前結構優秀だな」
クレアさんの行動の意図を読み取った侵入者は関心の眼差しを向けた。
残念ながらあたしはクレアさんの行動の意味を汲めるほど戦いのノウハウが無い。
「クレアさん……どうします?」
緊急時はすぐに上司、先輩の指示を仰ぐ。
たとえ敵に作戦がバレるとしても報連相は大事。あたしはやれば出来る子……とまあ冗談を言ってるほど悠長な状況じゃない。
「逃げるわよ。今のアタシ達じゃ十中八九アイツに勝てない。とりあえず退避、そして先生にこの事を伝えないと」
「了解。でもクレアさんがそれほど警戒する相手から逃げれるんですかね?」
「難しいわ。だからこうする――――ッ!!」
クレアさんは片足を大きく上げる。
そしてソルレット型の種器“炎脚”で、強く地面に踵を落とした。
「ハァッ!? こりゃスゲェ!!」
噴火したように爆炎と爆風が巻き起こる。
敵の感嘆の声が微かに聞こえる中、クレアさんはあたしを抱えてすぐさま離脱する。
あたしの足じゃ追い付かれると判断したんだろう。
自分で走っては到底出せない速度で駆けるクレアさん。
風を受けながら、あたしは今のうちにクレアさんと打ち合わせる。
「クレアさん、今の内にいろいろ確認していいですか?」
「かなり状況は差し迫ってる! 答えてあげるから一回で理解しなさい!」
あたしは即座に質問を組み立てる。
全力疾走しているクレアさんに無駄な質問は出来ない。
「現状の確認とこれからするべきことについてです!」
「訓練中、生徒との遭遇率が低かった違和感もアイツの可能性がある。何者か、どうやって侵入したかは分からないから省く。けど何かしらの目的があるはず。そして侵入したってことは学園から逃げる手段も用意してるはず。つまり目的を果たす、もしくは撤退の必要があれば逃げることが出来る。そうなれば魔力の温存に気を使わなくていい」
「つまり充分な“授吻”をしてるってことですか?」
「そういうこと。おそらく奴の種器は“解花”に至ってる。相当な使い手に加えてそれなら今のアタシ達に勝ち目はない」
確か“解花”って言ったら種器の進化系だったっけ。
元々の実力が上かもしれない相手に魔法の差も出たら確かに勝ち目はない。
「ていうか侵入者って、学園の警備はどうなってるんですか!」
「固有魔法は多種多様。国に未登録の魔法だってたくさんある。それを考えたらこういう事態があっても不思議じゃないわ。相手の魔法は未知。だから今はとにかく逃げる。アンタがすべきことは一刻も早く魔力を練る事。万が一戦闘になったら最低でも“解花”にならないと」
あたしが今しなくちゃいけない事を指示されて実行に移す。
「誰でも良いから合流しないと――――」
クレアさんはもちろん気付き、あたしもその存在に目が留まる。
後方から投げられたであろう鋭利なナイフが、咄嗟に気配を悟って顔を傾けたクレアさんの横を掠める。
投げられたナイフはあたし達を通り過ぎて前に出る。
そして――――
「よう、随分ちんたらしてんなァ~」
そこにはクレアさんの炎で足止めをくらっていたはずの敵が、後方から投げられたナイフを掴み、あたし達の前に突如現れた――――。
「アタシはアリシアのあの澄ました顔の鼻っ柱を折りたくて何度も勝負したわ。ただアリシアと勝負してるときは自然と孤独感を忘れてた。でもアタシにはアイツと仲良しこよしなんて出来なかった。アリシアとの勝負はそんなアタシとアリシアを繋ぐ唯一のものなのよ。アンタをパートナーにしたのだって、アリシアから奪って少しでも悔しい顔を拝めたらってただそれだけ。巻き込んで悪かったわね」
「クレアさんは、アリシアと仲良くなりたいんですか?」
「仲良く……なりたかったかどうか分からない。ま、今更どうこう出来る関係性でもないのよ」
「いいんじゃないですか、そのままで。 ……あたしはクレアさんとアリシアの今の関係は羨ましいですよ」
「羨ましい? 今の話を聞いてその感想はバカにしてるの? それともバカなの?」
あたしの言葉を誤解したクレアさんの機嫌が少し悪くなった気がして、あたしはすぐさま訂正に入る。
「いや、そんなんじゃなくてですね……今のクレアさんとアリシアの関係って本来普通の友達を作るより難しいと思うんです。お互い嫌いあってるわけじゃないけど、仲が良いわけでもない。そこにあるのは相手をリスペクトしてるからこそ負けたくないっていう対抗心。一歩間違えれば羨望や嫉妬で終わっていたかもしれない関係だと思うんです。そんな関係……“ライバル”っていうのはそう簡単に出会えるものじゃないと、あたしは思います」
「ライバル、ねぇ……。アリシアはアタシをどう思ってるか分からないけどね」
「要は“友達”と一概に言っても関係はいろいろあるってことですよ。親しい仲、趣味が同じ、感性が合う、悩みを相談出来る、一緒に遊ぶことが出来る、共通の知り合いがいる、打算的……クレアさんとアリシアのライバルだって立派な“友達”の一つだと思います。あたしも、クレアさんと“友達”になりたいと心から思ってます」
勢い任せに捲し立てたあたしは、流れで言った内容に若干後悔した。
「あ、いや、いきなり友達になりたいって言うのは失礼でした。あたしが言いたいのはえっと、その……クレアさんともっと深い関係になりたいって言うか……いやこれも誤解を招く言い方ですけど――――」
喋れば喋る程ボロが出るあたしを、クレアさんは険しかった表情を緩めてクスリと笑った。
「テンパりすぎよ。そっか……そうね。ちなみに、サラとアタシの“友達”はどういうもの?」
「えっと、ですね……」
クレアさんと“友達”になりたいというのは勢い任せで言ったけど本心だ。
ただその意味合いを解説出来るほど頭で整理してある本音じゃない。
もっとよく知りたい、仲良くなりたいというのもあるけどその表現も腑に落ちない。
趣味や感性が合うと語れるほど親しくもない。
あたしとクレアさんの関係。
今あたし達がパートナーになってる理由は、クレアさんはアリシアに勝ちたい。
あたしはアリシアに目にもの見せたい。
最初はそんな打算的な利害関係で、そこは今も変わらない。
だったら、あたしとクレアさんの“友達”は――――
「“共犯”……なんてのはどうでしょうか?」
あたしが答えるとクレアさんは予想外の答えだったのか目を丸くしていた。
ピンときてない可能性もあるのであたしはすぐさまプレゼンに入る。
「打倒アリシアを目指す協力関係。やっぱり共通の目的があるって言うのは十分な繋がりだと思うんですよ」
あたしのプレゼンで納得したのか、クレアさんは盛大に笑った。
笑って、笑い疲れて、一息つく。
「“友達”……良いわねそれ。はぁ……なんだかスッキリしたわ。さて、ちょっと長く休憩しすぎたかしら。そろそろ動くわ。目標はアリシアよ! ついてきなさい!」
「イェッサー!」
クレアさんとの壁が少し剥がれたような気がして、あたしも精一杯返事した。
気合を入れ直して、場所を移動しようとしたその瞬間、クレアさんはあたしを制止する。
「止まって」
せっかくやる気を出したって言うのに出鼻をくじかれたような気持になったけど、クレアさんの異様な緊張感にあたしもそんなことを考えられなくなった。
一気に空気が張り詰める。
クレアさんが睨みつけるその先。
一人の女性がこっちに歩いてきていた。
「勘の鋭い奴じゃねえか。ちょっとは骨のある学生もいたもんだ」
右の頬に傷がある長身で筋肉質の女性。
鋭い目尻、虚ろな目、狂気に満ちた笑み。
異様で不気味な雰囲気の女性は、生徒でもなければ先生でもなさそう。
「下がって。アンタは何者? 学園関係者ってわけじゃなさそうね。十秒以内に答えなければアンタを侵入者――敵と認識するわよ」
「…………」
クレアさんの尋問に長身の女性は不敵な笑みを浮かべるだけだ。
クレアさんは目の前の敵に注意しつつも周りを確認する。
戦うことになるから周囲を確認してるんだろうか。
「はーん……状況を把握してすぐに退路を確認。お前結構優秀だな」
クレアさんの行動の意図を読み取った侵入者は関心の眼差しを向けた。
残念ながらあたしはクレアさんの行動の意味を汲めるほど戦いのノウハウが無い。
「クレアさん……どうします?」
緊急時はすぐに上司、先輩の指示を仰ぐ。
たとえ敵に作戦がバレるとしても報連相は大事。あたしはやれば出来る子……とまあ冗談を言ってるほど悠長な状況じゃない。
「逃げるわよ。今のアタシ達じゃ十中八九アイツに勝てない。とりあえず退避、そして先生にこの事を伝えないと」
「了解。でもクレアさんがそれほど警戒する相手から逃げれるんですかね?」
「難しいわ。だからこうする――――ッ!!」
クレアさんは片足を大きく上げる。
そしてソルレット型の種器“炎脚”で、強く地面に踵を落とした。
「ハァッ!? こりゃスゲェ!!」
噴火したように爆炎と爆風が巻き起こる。
敵の感嘆の声が微かに聞こえる中、クレアさんはあたしを抱えてすぐさま離脱する。
あたしの足じゃ追い付かれると判断したんだろう。
自分で走っては到底出せない速度で駆けるクレアさん。
風を受けながら、あたしは今のうちにクレアさんと打ち合わせる。
「クレアさん、今の内にいろいろ確認していいですか?」
「かなり状況は差し迫ってる! 答えてあげるから一回で理解しなさい!」
あたしは即座に質問を組み立てる。
全力疾走しているクレアさんに無駄な質問は出来ない。
「現状の確認とこれからするべきことについてです!」
「訓練中、生徒との遭遇率が低かった違和感もアイツの可能性がある。何者か、どうやって侵入したかは分からないから省く。けど何かしらの目的があるはず。そして侵入したってことは学園から逃げる手段も用意してるはず。つまり目的を果たす、もしくは撤退の必要があれば逃げることが出来る。そうなれば魔力の温存に気を使わなくていい」
「つまり充分な“授吻”をしてるってことですか?」
「そういうこと。おそらく奴の種器は“解花”に至ってる。相当な使い手に加えてそれなら今のアタシ達に勝ち目はない」
確か“解花”って言ったら種器の進化系だったっけ。
元々の実力が上かもしれない相手に魔法の差も出たら確かに勝ち目はない。
「ていうか侵入者って、学園の警備はどうなってるんですか!」
「固有魔法は多種多様。国に未登録の魔法だってたくさんある。それを考えたらこういう事態があっても不思議じゃないわ。相手の魔法は未知。だから今はとにかく逃げる。アンタがすべきことは一刻も早く魔力を練る事。万が一戦闘になったら最低でも“解花”にならないと」
あたしが今しなくちゃいけない事を指示されて実行に移す。
「誰でも良いから合流しないと――――」
クレアさんはもちろん気付き、あたしもその存在に目が留まる。
後方から投げられたであろう鋭利なナイフが、咄嗟に気配を悟って顔を傾けたクレアさんの横を掠める。
投げられたナイフはあたし達を通り過ぎて前に出る。
そして――――
「よう、随分ちんたらしてんなァ~」
そこにはクレアさんの炎で足止めをくらっていたはずの敵が、後方から投げられたナイフを掴み、あたし達の前に突如現れた――――。
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