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第十一話「シースの特性」

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 試験を終えて、気を失ったサラを医務室に連れて行き、アリシアは試験官のところで判定を受けに行く。
 合格と書かれた通知書と三つ目のペタルをもらい部屋を出ると、廊下で一人の生徒が出口のところで立っていた。

「合格おめでとうアリシア」

「ありがとう。最初に祝辞をもらうのが君だとは思わなかったよ、クレア」

 背中まで伸びた赤髪のサイドテール、鋭い目つきと力強い眼光を持った少女。
 メリハリのある鍛えられた身体と頼れる雰囲気が滲み出る佇まいの少女は、友人というには挑発的で、嫌悪しているというには嫌味のない笑みを浮かべる。

「いいパートナーを見つけたわね。最初の“授吻”で魔力を全部渡した時は正気かと思ったけど……なるほど。あれが彼女の“特性”ってわけね」

「先生にも言われたけど、今回の勝利は完全に運が良かったと言わざるを得ない。まさかサラの“特性”が功を奏すとは思いもしなかったからね。まぁそれをすぐに理解して対応した点は評価されたわけだが」

「彼女、サラって言ったっけ? 一体どこで捕まえてきたの?」

「捕まえたとは誤解のある言い方だね。偶然助けたユリリア人が“シース”で、偶然良い性格をしていて、偶然ホワイトリリーに入学するに問題ない年齢で、偶然良い“特性”を持っていただけのこと。私の成果を問うならその偶然を自分のものにできるよう最適の選択をしてきたことだけだね」

「ところで、あの子にはこれからもアンタのパートナーになってもらうつもり?」

「私はそれでも構わないが、サラと約束しているのは今回だけだ。私かサラか、どちらかがより相性の良いパートナーを見つければ組まないなんてことも十分にあり得る。まだホワイトリリーでの生活も長いんだ。お互い気長に探すだろうさ。さて、私はサラの様子を見に行かないといけないからこの辺で失礼するよ」

 アリシアが立ち去ろうとしたその時、

「ねぇアリシア」

 クレアの呼びかけにアリシアの足はピタリと止まる。

「もし仮に、アタシがサラを欲しいと言ったらどうする?」

 挑発的に言うクレアに対して、アリシアは毅然とした顔で答えた。

「さっきも言ったが、サラと組む約束をしたのは今回だけだ。サラが君を選ぶというのなら構いはしない」

「ふーん……」

 去っていくアリシアの背中を見送りながら、クレアは苛立ちを露わにする。

「気に入らないわね」



 □◆□◆□◆□◆□◆□



 医務室のふかふかベッドであたしは目覚めた。
 時計を見るに小一時間ほど気を失っていたらしい。

「あ、サラちゃん起きたんだ」

 メイリーが様子を見に来てくれた。
 なるほど。

「寝起きにメイリー……これなら毎日倒れてもいいかも」

 おっと心の声が。

「それはわたしもちょっと困るかな」

 苦笑いを浮かべるメイリー。

「でもお疲れ様だったね。最初はどうなることかと心配したよ」

「全部行き当たりばったりだけどね。まぁ魔力を練る感覚も掴めたし、収穫はあったかな。そうだ、アリシアはどうなったんだろ?」

「無事、合格したよ」

 コンコンと、開いているドアをノックしてアリシアが入ってきた。
 アリシアの合格を聞いて、あたしはほっとした。

「良かった。でも、アリシアが合格したってことはアウラさんは……」

 アリシアのために試験日をずらしたのに不合格になるなんて。
 かわいそうに……。

「いや、アウラも合格したよ」

「えっ、そうなの?」

「試験内容は対人戦だけど勝敗はあくまで査定の一つ。判定は勝敗を含めて立ち回りや戦術などを含めた総合評価で行われるからね。まぁ私もアウラも指摘ばかりのギリギリ合格だったわけだが、結果良ければ全て良しとしよう」

 それを聞いてあたしは少し安心した。
 
「良かったね、サラちゃん」

「うん」

「さて、サラに教えておくことがあって来たんだ。君の“特性”についてね」

「“特性”?」

「あ、それわたしも気になってました。やっぱりあれがサラちゃんの“特性”なんですかね?」

「まだ確定ではないだろうけど、あまりに顕著だから十中八九そうだろうね」

 アリシアとメイリーの間で話が進んでいくのをあたしは無理やり割って入った。

「ちょっと待って。なんか話が進んでるけど、そもそも“特性”って何?」

 あたしの発言に対してのメイリーの驚き具合からして常識ではあるんだろう。
 あたしの常識力のなさについて、アリシアがあたしの境遇を説明したので納得してくれた。
 そして“特性”についてメイリーが説明してくれた。

「あのね、“シース”にはそれぞれ魔力について“特性”を持っているの。“授吻”した相手に影響させる“影響型特性”と、“シース”の能力の一部が優れている“特化型特性”。あたしの“特性”は“授吻”した相手の魔法を安定させることができる“影響型特性”なの」

「そして、サラの“特性”はおそらく、魔力の回復速度が早い“特化型特性”だろう」

「回復速度?」

「そう。今まで“授吻”後は気を失ってかなり時間をおいて次の“授吻”をしていたから気が付かなかったが、今回の試験で君の魔力の回復速度は尋常ではないことが分かった」

「“シース”が魔力を全部渡すと大体動けるくらい回復するのに早い人でも三十分はかかるの。でもサラちゃんは三分もかからなかった」

「あーそれでアウラさんが驚いてたのか」

「そうだね。アウラにとっては魔力の尽きた“シース”は眼中にない。私が同じ立場でもそうだろうね」
 
「なるほどね。でもあたしの“特性”は今回ので公衆の面前に触れちゃったわけだし、次からは容赦なく狙われるってわけか。それにただ回復が早いだけって……」

「落ち込んでいるみたいだけど、サラちゃんの“特性”は当たりだとわたしは思うよ」

「彼女の言うとおりだ。魔力の回復が早いということは、付随して魔力が練り上がるのも早い。“ブレイド”に付加効果を与えるものではないが、“変換型”の魔法――つまり私のような魔力を何かに変換する魔法には相性が良いんだ。魔力消費が激しいからね」

 “ブレイド”が扱う魔法は“変換型”、“干渉型”、“創造型”の三種類あるらしい。
 アリシアは魔力を光に変える“変換型”の魔法。
 威力はあるけど、魔力消費が激しいのが弱点だとか。

 確かに光の剣を出しているだけでも魔力が失われているらしいし、そういうタイプにあたしの“特性”はちょうど良さそうだ。

「それに魔力が練り上がるのが早いということは、それほど“解花ブルーム”に至るのも早い」

「そういえば試験の時にも言ってたけど、その“解花ブルーム”って何?」

「“ブレイド”の扱う“種器シード”には二段階の進化がある。“解花ブルーム”、そして“満解ブロッサム”だ。“ブレイド”に一定の魔力を与えると“種器シード”は進化して、より強い魔法を扱える。“満解ブロッサム”に至ればほぼ勝ちが確定すると言っても過言じゃない」

「だからわたし達“ブレイド”は、魔力の補填だけじゃなくて、“種器シード”を進化させるためにも早く魔力を練らないといけないの。もちろん早ければ良いってことじゃないけど」

 魔力を練ることについて聞いてた時に知ったけど、魔力を練るという行為は“シース”の力量が問われるらしい。
 より濃度の高い魔力を緻密に丁寧に練り上げることで、“ブレイド”が魔力を使う時に安定したり、“ブレイド”の中に長く魔力が残る。

 いわば編み物。
 それも早く編み込まないといけないが、糸の量が少なかったり糸が細かったり編み込みが乱雑だったり隙間だらけだったりすると質の良いものは出来上がらない。つまりは魔力の安定性や持続力が大きく劣る。
 
「遠慮、忖度なしで言わせてもらうと、サラが急いで練り上げた魔力はそれはもう酷かった。アウラが動揺している隙にゴリ押し戦法でなんとかなったが、光剣を維持させるのも難しかったし、あの魔力の減り方からして持続力もない。おそらく三十秒くらい棒立ちだったら私の中から魔力は消えていただろうね」

「うぅ……精進致します……」

「すまない。サラの今後を思って忌憚のない意見を述べただけで気落ちさせるつもりはなかった。まぁとりあえず、お疲れ、サラ」

「うん、合格おめでとアリシア」

 何はともあれ、とりあえずあたしは最初の山を乗り越えた――――。
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