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第九話「試験開始」

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 そして時間の許す限りあたしは魔力を練ることを頑張った。
 メイリー含め、クラスメイトにコツを聞いて、空いている時間を使って何度も何度も教えてもらったことを試した。
 何度かもういいかなと諦めかけたけど、絶対にアリシアを合格させる意思が、あたしを奮い立たせた。
 
 そして試験当日、あたしはついに魔力を練ることが――――

「出来ませんでしたぁぁッ!!」

 試験前の待合室。
 あたしは渾身の土下座を決める。

「これほどまでに美しい土下座は初めてだな。さては初めてじゃないのかな?」

 アリシアは怒るわけでも焦るわけでもなく紅茶を啜る。
 
 クラスメイトにコツを聞いても具体的なことは分からなかった。 
 以下、クラスメイトから聞いたコツ集。

 メイリーの場合。
『鳩尾あたりにグッと力を入れてグワァって感じで』
 クリスタ先生の場合。
『ふん、フワァ~ドバァって感じです~』
 クラスメイト他の場合。
『腹直筋と腹斜筋に二割の力を入れながら横隔膜を上に上げる勢いで魔力葯アンサーにすでにある魔力を回転させながら――――』

 今思えばみんなは昔からして当たり前のことだから、いざ教えてと言われると言語化は難しいよね。
 唯一具体的に教えてくれた子は後半逆に何言ってるか分からなかったし。 

「怒らないの?」

「怒って君が魔力を練られるならそうするけどね。現状に甘えることはいけないが、現状を受け入れることは大事だ。魔力が練られない以上、そういう条件で挑むしかない。つまりプランBだな」

「プランB?」

「当初の予定通り最初の“授吻”で決着させる」

「……ほんとすいません」

 結局あたしはアリシアの力にはあまりなれそうにない。
 この体が動く限り出来ることをしたいけど、最初の“授吻”で魔力を全部持っていかれるだろうから、今はもう気絶はしないけど体は全く動かないだろうし。

「あ、あの、最悪あたしを盾にするなりしてもらって……」

「私は悪魔か。大丈夫だよサラ、君は私が守るから。さてそろそろ時間だ」

 飲み終えたカップを置き、アリシアは待合室を出る。
 あたしはその後ろにただ着いて行くだけ。
 
「緊張するかい?」

 アリシアはあたしに笑いかけて尋ねた。

「まぁそれなりには」

 少なくとも返答が淡白になるくらいには緊張している。

「こればかりは慣れが大きいからね。今すぐ緊張をほぐす手段は持ち合わせてないが、君は性格上、土壇場で力を発揮するタイプだと思っている。さぁ、楽しんで行こうか」

 もうあたしには本番で魔力を練れるようになるしかない。
 アリシアのために、あたしが出来ることをする。

「よし! やってやんよ!」

 ついにアリシアのペタル取得試験が始まる――――。



 □◆□◆□◆□◆□◆□



 会場に入ると湧き上がる歓声。
 試験というよりもはやショーだ。

「ペタル取得試験ってこんなにギャラリーがいるの?」

「普段は違うさ。ただ今回は振替試験。試験を終えた暇人たちが多いのだろうね。それに今回は興味を惹かれるマッチングなのだろう」

 “煌輝姫シャイニングリリー”と“暴風姫ストームリリー”の試合。
 なるほど確かに、興味は惹かれる。

 あたし達が入場したところと反対側で、おそらく対戦相手であろう“暴風姫ストームリリー”とそのパートナーが待機していた。
 “暴風姫ストームリリー”ことアウラさんは、得意げな顔であたし達を見据えている。

 アウラさんのパートナーは髪の短いクールな雰囲気を持った少女だ。
 もちろん例によって綺麗な人。
 そして肝心のアウラさんはそんなパートナーと対極的に、一言で言えば派手だ。
 
 赤みがかった濃い黄色の髪は、毎朝セットが大変だろうボリュームのある髪型にしてあり、制服の上からわかる抜群のプロポーション。
 活発な雰囲気を匂わせながらも、貴婦人の風格も持ち合わせている。

「ごきげんようアリシアさん。無事パートナーが決まったようでわたくし、ほっとしましたわ」

「今回ばかりは私も焦ったさ。せっかく君が私のために試験日をずらしてくれたのに肝心に私が棄権ともなれば合わせる顔がない」

「べ、別に貴女の為に日程をずらしたわけではなくてよ。たまたま試験日に調子が優れなかっただけですわ」

「……ほんとに優しいな君は」

「そんなこと言っていられるのも今だけですわ」

 二人がそんな会話をしているうちはあたし達“シース”は暇だ。
 あたしはアウラさんのパートナーに挨拶することにした。

「アリシアのパートナーのサラです。よ、よろしくお願いします。なにぶんこういう試合? みたいなのは初めてなのでお手柔らかにお願いします」

「アウラ様のパートナー兼侍女のフィリラです。お手柔らかと言われましても、これは“ブレイド”のお二方の試験ですので難しいかと」

「あ、そう……ですね。ちなみに試験日をずらしたっていうのは?」

「アリシア様が棄権された場合、アウラ様は別の相手で試験を受けることも可能でした。ですがそれをしなかった。振替試験といえど試験内容的に相手がいなければ試験が成立しないので。振替試験は後がない上に試験官の評価もより厳しくなる傾向があるのでリスクも多いので普通はしませんけどね」

「優しい人なんですね」

「ええ、もちろん」

 基本表情が変わらないフィリラさんが、少し誇らしげに笑みを浮かべた。
 そうこうしているうちに試験官の先生が登場した。

「それでは所定の位置について」

 先生に従い、あたし達は一旦離れる。
 
「試験内容は対人戦。“ブレイド”はもちろん、“シース”も評価するから気を抜かないように」

 先生が手を挙げる。
 その手が振り下ろされた時が試験開始の合図だ。

 アリシアがあたしの腰に手をまわす。
 いまだにこの行為自体は心臓に悪い。

「さぁ始めるよ」

「……どんとこい」

 アリシアの顔が近づく。
 視線を逸らしてみると、アウラさん達も同じように“授吻”の準備をしていた。


「それでは……始め!」


 試験開始の手が振り下ろされる――――。

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