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第七話「学園生活」

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「え~と、じゃあサラちゃんはあそこの席ね~」

「……はい」

 自己紹介後にあるまじき静寂の中、何事もなかったかのようにするクリスタ先生。
 先生、それは逆に傷つきます。

 あたしは地獄の空気の中、奥の空いている席に向かう。
 うぅ……視線が痛い。
 一番奥の席なのが唯一の救いだ。
 前の方だったらこの視線をずっと背中で受ける羽目になる。

「ねえ、前は牛さんのお世話してたの?」

「え……あ、はい。いろいろとやってました。今もやらかしたところです」

 席に座るあたしに声をかけてくれたのは隣の席の女の子。
 その柔らかな声から想像できる柔和な雰囲気の少女。
 あんずのような明るいオレンジ色の長髪、人形のような顔立ち、溢れ出るお姫様の品性。
 見ているだけで癒しを得られる、その笑顔を守りたくなる、そんな感じの女の子。

「わたしはメイリー、お隣よろしくね」

「あ、サラです。よろしくお願いします」

「同級生なんだからそんな畏まらなくても良いよ。分からない事があったらなんでも聞いてね」

「……天使がいる」

 もう学園生活は終わったと思ったけど、こんな天使が隣なら大丈夫かもしれない。
 このまま談笑と行きたいけど、さすがに授業中だからそう言うわけのもいかない。

 学園は一日六限まで授業があり、最初の四限は一般教養、残りの二限は魔法学になる。
 孤児院で勉強はしてたけど、この学園のレベルは結構高く、内容のほとんどは理解が追いつかなかった。

「うぅ……」

「大丈夫?」

 四限の授業が終わり項垂れるあたしにメイリーは心配そうに声をかけてくれる。
 歴史や国語は諦めてたけど、まさか理学系も全くついていけないとは思わなかった。
 孤児院で習ったのは基礎の基礎だということを実感した。

「大丈夫。ちょっと自分の学の浅さを目の当たりにしただけだから」

「国立なだけあって難しいよね。わたしもついていくのに必死だよ。そういえばサラちゃんはお昼どうするの?」

「食堂ならご飯を無料提供してくれるらしいからそこに行こうかと。あたし、お金がないので」

「わたしも食堂なんだけど一緒にどうかな?」

「え、いいの? 案内もしてほしいし、せっかくの学園でぼっち飯は嫌だったから願ったり叶ったりだよ」

「それじゃ行こっか」

 メイリーは別にぼっちというわけじゃなさそうだ。
 食堂に行く前に別の子からランチのお誘いが何回かあったけど、今日はあたしを優先してくれた。

「すっごい……」

 食堂はかなり広いけど、それを埋め尽くすほど大勢の生徒がいた。
 食堂のご飯を食べてる生徒、自分でお弁当を持ってきている生徒、専属の料理人に作ってもらってる生徒。
 単に食堂のご飯を食べにきてる生徒だけじゃないから、食堂はお祭りのようになっていた。

 あたしは無料提供されてるランチを受け取ると、メイリーと空いている席を探して座る。
 散々頭を使ったからかお腹が空いて仕方がない。

「いただきます……意外に美味しい」

 無料提供なんて言うからそんなに期待してなかったけど普通に美味しい。
 かなりある食堂メニューの中で無料提供なのはご飯かパンか麺類のどれかを主食にした三種類のランチ。
 無料提供だけあっておかずの種類は少ないし、味付けも薄い気がしなくもないけど、タダと考えれば全然美味しいレベル。

「にしても空いてる席あって良かった。危うく立ち食いするとこだったよ」

「結構な生徒が利用するからね。騒がしいのが苦手な人は普通に違うところで食べてるけど。屋上か中庭とか」

「まぁ静かなところで食べるのも良いよね。さすがに毎日この中でご飯は疲れそう。まぁでも食堂無料メニューが生命線のあたしに選択肢はないんだけど」

「うーん、それなら委員会に入るのはどうかな?」

「委員会?」

「主に学園で業務活動するところだよ。美化委員なら校内清掃したり、風紀委員なら治安維持したりで、ちゃんとお給料もらえるから、地方から入ってきた子がお小遣いを稼ぐにはちょうど良いんだよ。ただ大変だけどね」

「大丈夫。あたし、雑用と体力には自信あるから!」

 こちとら使用人として雑用から何やらこなして来たんだ。
 治安維持みたいな物騒なのは無理だけど、それ以外ならどんとこい。

「ありがとうメイリー。ちょっと調べてみる」

「サラちゃんの力になれてわたしも嬉しい」

 笑顔でそう言うメイリー。
 なるほど、あなたが女神か。

「何やら楽しそうな話をしているね」

 賑やかな周囲がざわつく。
 何事かと思えば、アリシアがあたしのところにやってきた。

「アリシアもお昼?」

「いや、私はさっき済ませた。サラのことが気になって様子を見に来たけど、どうやら杞憂だったようだ」

「心配しすぎだよ」

 まぁでも天使様メイリーがいなかったら今頃ぼっち飯だったけど。

「ちょっとサラちゃん……“煌輝姫シャイニングリリー”とお知り合い?」

「しゃい……はよく分かんないけど、アリシアは知り合いだよ。命の恩人。学園に来る前はアリシアのところでお世話になってたから。アリシア、この子はメイリー、あたしのクラスメイト」

「よろしくメイリー。これからもサラをよろしく頼むよ」

「えっ、あっはい! こちらこそ……」

 そういえばアリシアは学園で有名人って言ってたけど、メイリーや周りの反応を見るに本当みたいだ。

「さて、問題はなさそうだし私は行くよ。二人の邪魔をしてはいけないからね」

「もうちょっと一緒に……って感じじゃなさそうだね」

 あたしにとっては友人みたいなものだけど、メイリーは居た堪れないだろうし。
 アリシアは踵を返して去ろうとする。
 が、何かを思い出したように立ち止まる。

「そうだ。サラ、試験日が明後日に決まった。今日は何かと疲れてるだろうから詳細は明日伝えよう」

「うん、分かった」

 颯爽と現れては全員の注目を浴びながら去るアリシア。
 アリシアの場慣れした様子を見るに日常茶飯事のようだ。
 そして、アリシアが食堂から出て行くと同時、みんなの視線はあたしに向けられた。
 当然メイリーもその一人だ。

「サラちゃん……試験って、“煌輝姫シャイニングリリー”のペタル習得試験にパートナーとして参加するってこと?」

「んっ? よく分かんないけど多分そう。まぁでも一回だけだけどね」

「それでも……」

 メイリーはなんで驚いてるんだろう。
 確かにアリシアは有名人そうだからパートナーになること自体は稀な存在かもしれないけど、あたしがやることなんて最初の“授吻”で魔力を渡すことくらいだし。

「その……凄いねサラちゃんは。アリシアさんがパートナーを探してるとは噂になってたけど、誰も“シングル”から選ばれるなんて思わないから」

「しんぐる?」

「ほらこれだよ」

 メイリーは胸元につけてある校章を指さす。
 一枚の花弁のような校章はもちろんあたしの制服にもついていて、それは他の生徒も一緒だ。
 ただ個人差があるとすれば、校章の数が人それぞれ違うということ。

「入学した時にこの校章、“ペタル”をもらうの。年に二回行われる試験で“ペタル”を集めるのがここを卒業する方法。ペタルが一枚の生徒は“シングル”。そこからひとつ増えるごとに“ダブル”、“トリプル”、“クワッド”、“クイン”と上がって、最後の試験を合格して“セクスタ”になると無事卒業になるの」

「ってことはペタル取得試験て……結構大事なやつ?」

「大事も大事だよ。それにアリシアさんがするのは振替試験。肝心の試験日にパートナーがいなくて棄権したからね。今回試験が受けられなかったり落ちたものならペタルを一つ失っちゃうの」

「何それ聞いてないんだけど!?」

 澄ました顔で言ってたから小テストくらいの規模だと思ってたら、しっかりアリシアの人生降りかかるレベルの試験じゃん!
 つまりアリシアが試験に落ちたらあたしの責任。

「ああもう! やってやんよ! 命の恩人の乗りかかった船。絶対アリシアを合格させる!」

「頑張ってサラちゃん!」

 とはいえ、まずはアリシアに試験についてしっかり教えてもらわないと。
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