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第18話 最終処分
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アリムに案内され、新しい部屋に入る。微かに血生臭い。不快だ。だが、あたりにいる職員たちは何も気にしていないように見える。
少し遠くに大きな機械がある。そこまで進み、立ったままでよく観察する。
横倒しになった円筒形の物体だ。中空である。私は昨日、街の料理屋でパスタというヒューマンの伝統的な料理を食べたのだが、それに出てきたニョッキというものによく似ている。
中空部分にはベルト・コンベアがある。円筒形の先の部分、そこの上部には大きな刃がついている。そして、下部にはゴミ箱のようなものが設置されている。
ジャンペンが何かの映像を空中に出す。変な機械が映っている。アリムが喋り始める。
「かつて地球にはギロチンがありました。この機械のことですが、処刑に使ったんですよ。死刑にすべきヒューマンをこうやって寝かせてですね……」
白い肌と長い金髪を持つメスのヒューマンがギロチンの台に体を横たえる。彼女の首に拘束用と思われる木の板がはめこまれる。
「準備完了ですね。もうすぐ始まります」
首の少し上にある大きな刃が素早く落ち、首を切断する。木の葉が枝から離れていくときのように頭部が胴体から離れ、その下の籠の中に納まる。
「なにやら面倒くさそうな処刑道具ですね」
「いやぁ、むしろ効率的じゃないですか? 少なくとも電気椅子よりかはマシです」
「はぁ」
「率直にお話しましょう。ここは要らなくなったヒューマンを殺していく部屋です」
「虐殺場ということですか」
「有り体にいえばそうです。処分になったヒューマンはですね、さっきのような色々な実験に使われていくと、いずれ完全に利用価値を失うわけです。放っておけば三日と持たずに死ぬような、そんな大怪我をした個体は何の実験にも使えませんよ」
「はい」
「最終処分と我々はよんでいますが、そういうどうにもならない奴はここに運び込まれます。で、この機械で殺して終わりです」
「理解しました。ところで、完全な役立たずはたくさん出るわけですよね。それをいちいちこうやって殺すのはコスト・パフォーマンスが悪いのではないでしょうか。なぜガスなどで大量屠殺しないのですか」
「事情があるんですよ、事情が。(腕時計を見る)。スタッフのリーダーさん、いらっしゃいますか。そろそろ仕事開始と思うのですが」
眼鏡をかけたメスのフェーレがアリムに近づく。
「そうですけど、こちらは見学の?」
「はい。屠殺の様子を見せていただけませんか?」
「分かりました。危ないですから、機械から離れていてください」
ベルト・コンベアが動き出す。部屋の奥のほうから、仰向け状態のオスのヒューマン一匹が運びこまれてくる。彼は全裸で、体の各部をいくつかの道具で拘束されている。身動きはとれないだろう。
そのヒューマンを虐殺機械の元まで運んだ後、コンベアが停止する。私はじっと彼を見る、口に簡易な轡がはめられているようだ。かろうじて息ができる、まぁその程度か。
これから何が行われるのか、彼は察したらしい。
「もごっ、もごぉ!」
「何と言っているのですか」
「いやぁ、私に聞かれましても。死にたくないとか、そんなところじゃないですか?」
「はぁ」
彼の両目には涙が浮かんでいる。私はヒューマンの表情に詳しくないが、おそらく恐怖だろう、顔の筋肉が強く引きつったようになっている。
私は彼のことを思い出す。
「若しかして彼は、昨日のエリート・クラスの見学の時、右手を切り落とされたヒューマンではないですか」
「まぁそうでしょうね」
「なぜここにいるのですか」
「足切りでしょう。エリート・クラスのヒューマンは、一定の成績を出せないと処分されるんですよ。優秀な個体だけがグラディエーターになることを許可される」
「成る程」
「彼は成績不良でここに回されたってことです」
「実験材料にはならなかったのですか」
「落ちこぼれといったって、元々はエリートですしね。処分するにしてもそれ相応の扱いがあるんです」
私は彼を見る。
「もごーっ! もごぉーー!」
「貴方が殺されるのは努力不足のせいなのですか。それとも才能がなかったからですか」
スタッフのリーダーが答える。
「運が悪かっただけですよ。もう殺していいですか?」
「私は問題ありません」
最後にもう一度だけ彼を見る。
「もごぉーーー! もごぉおおぉぉぉ!!!」
刃が落ちる。鋏で紙を切るように切断する。頭部がゴミ箱の中に落ちる。
ゴミ箱の中に入っているらしい機械が動き出す。ゴトゴトと音を立てて頭部を何処かに運び去る。それと同時にコンベアが動き、機械の左にある穴へとそのヒューマンの体を運び去る。
「彼はこの後どうなるのですか」
「毛や血を抜いた後、消毒や殺菌をして、最後は粉砕されて食肉になります」
「えっ、食べ物ですか」
「ヒューマンどもに食わす肉ですよ。わざわざ家畜用の肉を買わず、いらんヒューマンどもを肉にしちまえば安上がりってものです。食堂見学の時、モサーベさん、ヒューマン用の食事を希望されましたよね。そして私は食べさせなかった」
「えぇ、そうです」
「一番の理由はこれですよ。まさかヒューマンの肉で作った料理なんて食べたくないでしょう?」
「興味はあります」
「そうなんですか? まぁ、宇宙人の中にはヒューマンを食べたいって種族もいますしね。なんでエリートは実験材料にしないで殺すか、それと関係あるんですけど、やっぱエリートの方が上等な肉になるんですよ。運動していて程よく筋肉がついている、それに、普段からいいエサを食べてますからね。自然と味も良くなる」
「成る程」
「動物園の収入の一つに、ヒューマンの肉の出荷ってのがあります。高級なヒューマン肉はかなりの値段になりますからねぇ、儲かるんですよ。手間暇かけてヒューマンを交配し、優秀な個体を生み出し、わざわざエリート・クラスで育てる。その理由の一つはこれですね、上等な肉を作るためです」
「そういうことだったんですね。理解できました」
無駄のない合理的な経営といえる。フェーレのこういう部分は私の仕事に活かせるかもしれない。
もし可能ならば、見学が終わった後に動物園の経営や財務状況についても調べてみよう。
少し遠くに大きな機械がある。そこまで進み、立ったままでよく観察する。
横倒しになった円筒形の物体だ。中空である。私は昨日、街の料理屋でパスタというヒューマンの伝統的な料理を食べたのだが、それに出てきたニョッキというものによく似ている。
中空部分にはベルト・コンベアがある。円筒形の先の部分、そこの上部には大きな刃がついている。そして、下部にはゴミ箱のようなものが設置されている。
ジャンペンが何かの映像を空中に出す。変な機械が映っている。アリムが喋り始める。
「かつて地球にはギロチンがありました。この機械のことですが、処刑に使ったんですよ。死刑にすべきヒューマンをこうやって寝かせてですね……」
白い肌と長い金髪を持つメスのヒューマンがギロチンの台に体を横たえる。彼女の首に拘束用と思われる木の板がはめこまれる。
「準備完了ですね。もうすぐ始まります」
首の少し上にある大きな刃が素早く落ち、首を切断する。木の葉が枝から離れていくときのように頭部が胴体から離れ、その下の籠の中に納まる。
「なにやら面倒くさそうな処刑道具ですね」
「いやぁ、むしろ効率的じゃないですか? 少なくとも電気椅子よりかはマシです」
「はぁ」
「率直にお話しましょう。ここは要らなくなったヒューマンを殺していく部屋です」
「虐殺場ということですか」
「有り体にいえばそうです。処分になったヒューマンはですね、さっきのような色々な実験に使われていくと、いずれ完全に利用価値を失うわけです。放っておけば三日と持たずに死ぬような、そんな大怪我をした個体は何の実験にも使えませんよ」
「はい」
「最終処分と我々はよんでいますが、そういうどうにもならない奴はここに運び込まれます。で、この機械で殺して終わりです」
「理解しました。ところで、完全な役立たずはたくさん出るわけですよね。それをいちいちこうやって殺すのはコスト・パフォーマンスが悪いのではないでしょうか。なぜガスなどで大量屠殺しないのですか」
「事情があるんですよ、事情が。(腕時計を見る)。スタッフのリーダーさん、いらっしゃいますか。そろそろ仕事開始と思うのですが」
眼鏡をかけたメスのフェーレがアリムに近づく。
「そうですけど、こちらは見学の?」
「はい。屠殺の様子を見せていただけませんか?」
「分かりました。危ないですから、機械から離れていてください」
ベルト・コンベアが動き出す。部屋の奥のほうから、仰向け状態のオスのヒューマン一匹が運びこまれてくる。彼は全裸で、体の各部をいくつかの道具で拘束されている。身動きはとれないだろう。
そのヒューマンを虐殺機械の元まで運んだ後、コンベアが停止する。私はじっと彼を見る、口に簡易な轡がはめられているようだ。かろうじて息ができる、まぁその程度か。
これから何が行われるのか、彼は察したらしい。
「もごっ、もごぉ!」
「何と言っているのですか」
「いやぁ、私に聞かれましても。死にたくないとか、そんなところじゃないですか?」
「はぁ」
彼の両目には涙が浮かんでいる。私はヒューマンの表情に詳しくないが、おそらく恐怖だろう、顔の筋肉が強く引きつったようになっている。
私は彼のことを思い出す。
「若しかして彼は、昨日のエリート・クラスの見学の時、右手を切り落とされたヒューマンではないですか」
「まぁそうでしょうね」
「なぜここにいるのですか」
「足切りでしょう。エリート・クラスのヒューマンは、一定の成績を出せないと処分されるんですよ。優秀な個体だけがグラディエーターになることを許可される」
「成る程」
「彼は成績不良でここに回されたってことです」
「実験材料にはならなかったのですか」
「落ちこぼれといったって、元々はエリートですしね。処分するにしてもそれ相応の扱いがあるんです」
私は彼を見る。
「もごーっ! もごぉーー!」
「貴方が殺されるのは努力不足のせいなのですか。それとも才能がなかったからですか」
スタッフのリーダーが答える。
「運が悪かっただけですよ。もう殺していいですか?」
「私は問題ありません」
最後にもう一度だけ彼を見る。
「もごぉーーー! もごぉおおぉぉぉ!!!」
刃が落ちる。鋏で紙を切るように切断する。頭部がゴミ箱の中に落ちる。
ゴミ箱の中に入っているらしい機械が動き出す。ゴトゴトと音を立てて頭部を何処かに運び去る。それと同時にコンベアが動き、機械の左にある穴へとそのヒューマンの体を運び去る。
「彼はこの後どうなるのですか」
「毛や血を抜いた後、消毒や殺菌をして、最後は粉砕されて食肉になります」
「えっ、食べ物ですか」
「ヒューマンどもに食わす肉ですよ。わざわざ家畜用の肉を買わず、いらんヒューマンどもを肉にしちまえば安上がりってものです。食堂見学の時、モサーベさん、ヒューマン用の食事を希望されましたよね。そして私は食べさせなかった」
「えぇ、そうです」
「一番の理由はこれですよ。まさかヒューマンの肉で作った料理なんて食べたくないでしょう?」
「興味はあります」
「そうなんですか? まぁ、宇宙人の中にはヒューマンを食べたいって種族もいますしね。なんでエリートは実験材料にしないで殺すか、それと関係あるんですけど、やっぱエリートの方が上等な肉になるんですよ。運動していて程よく筋肉がついている、それに、普段からいいエサを食べてますからね。自然と味も良くなる」
「成る程」
「動物園の収入の一つに、ヒューマンの肉の出荷ってのがあります。高級なヒューマン肉はかなりの値段になりますからねぇ、儲かるんですよ。手間暇かけてヒューマンを交配し、優秀な個体を生み出し、わざわざエリート・クラスで育てる。その理由の一つはこれですね、上等な肉を作るためです」
「そういうことだったんですね。理解できました」
無駄のない合理的な経営といえる。フェーレのこういう部分は私の仕事に活かせるかもしれない。
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