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第17話 必要とされるもの、犠牲、ドレイズ試験
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部屋の中には机や椅子、コンピューターや四角い機械などがあり、フェーレたちが忙しく働いている。
奥を見ると、ガラスの仕切りを隔てた向こうに一脚の椅子がある。下着姿のオスのヒューマンが一匹、そこに座っている。若い。いったい何をしているのだろうか、よく観察してみる。
彼の口には猿轡のようなものがあって、体の各所には拘束具がついている。それだけでなく、何本ものチューブが繋がれている。
どういうことなのか。アリムの顔を見る。
「あのヒューマンは生まれつきの知的障害なんですよ。底辺クラスで教育していたんですが、どうにも反抗的でして。迷惑ばっかりかけるもんですから、処分になりました」
コンピュータの前に座っているフェーレが言う。
「そろそろ実験を始めるのですが、静かにしていただいてもよろしいでしょうか?」
我々は頷く。
実験が始まる。四角い機械の前にいるフェーレが何かのボタンを押す。瞬間、ヒューマンの体がびくっと痙攣する。呻き声。
「うーっ!」
若しかすると、これは電流を流しているのではないだろうか。どうもそうらしく思える。
研究員たちのリーダー格のフェーレが言う。
「レベル二へ行ってくれ」
機械の前のフェーレ、「はい」、ボタンを押す。
「うーっ! うぅーっ!」
ヒューマンはかなり苦しそうだ。しかし誰も実験を止めない。
「よし、レベル三」
「はい」
「うぅぅーーーーーっ!」
痙攣はかなりの激しさだ。大丈夫なのだろうか、そう思った矢先にヒューマンが気絶する。
機械前のフェーレがリーダーにたずねる。
「どうしますか?」
「いったん休憩だ。あいつの回復を待とう」
室内に少し緩んだ空気が満ちる。
私はリーダーに質問する。
「これはどういう実験なのですか」
「耐久実験ですよ。どの程度の電流にどれくらい耐えられるか、それを調べています」
「はぁ」
「我々フェーレはこういった人体実験で様々なデータを手に入れています。これをもとに薬が開発され、怪我の治療法が改良され、有能なヒューマンたちの生活レベルが向上していくわけです」
「成る程」
「ヒューマンたちの世界には、馬鹿とハサミは使いようという言葉がありまして」
「どういう意味ですか」
「どんなものにも使い道があるってことです。無能で生産性ゼロの障害持ちなヒューマンだって、実験材料としてはなかなか便利ですよ」
「こんなことをして大丈夫なのですか」
「別に問題ありゃしませんよ。家畜を飼って殺して、食べる。それと大差ないでしょう」
「はぁ」
「だいたいですね、ヒューマンだって似たようなことを過去にやってきたわけですよ。動物実験です、動物実験」
アリムが話に割り込む。
「ちょうどいい資料を用意しておいたんです。ジャンペン、よろしく」
映像が空中に浮かび上がる。
白くて小さい生き物が一匹いて、それは木製の道具で体を固定されている。
「これはなんですか」
「生き物の名前はウサギです。で、これはヒューマンの言葉でドレイズ試験というんですが、まぁ見ていてください。始まりますよ……」
白い服を着たメスのヒューマン一匹が画面に現れる。彼女はウサギに近づくと、それの片目に向けて、右手に持っている小さな器具から薬液を投下する。
「あの液体はなんですか」
「化粧品の一種ですよ」
「理解しました。それで、この実験はどういうものなのですか」
「新しく作った化粧品に毒があるかどうか、それをウサギで調べているんです」
「もし毒があるとどうなるのですか」
「えらいことになりますね。ジャンペン、早送りしてくれ」
映像がどんどん進んでいく。薬液を受けた片目が変化していく。今やそれは真っ赤に腫れあがっている。
「とても痛そうですが、ウサギは痛みを感じないのですか」
「感じますよ。とっても」
「この実験、えぇと、ドレイズ試験でしたっけ。拷問と何が違うのですか」
「あまり違わないと思いますよ」
「ヒューマンはいつもこんなことをしていたのですか」
「しょっちゅうやってたみたいですねぇ」
「化粧品を作るために、ですか」
「はい。まぁ薬を作るためにもやってそうですが」
私はこのようなことについてどのような意見を述べるべきなのだろうか。
「どうしました、モサーベさん」
「はぁ」
「いいじゃないですか、ちょっとの犠牲くらい。誰かが酷い目にあったところで、他の連中はノー・ダメージ。それどころか、犠牲のおかげでみんなが得する。しかも我々の場合、役立たずを処分して口減らしする、つまり無駄な経費を減らして、おまけに貴重なデータまで取っている。これもヒューマンのためですよ」
「成る程」
「ヒューマンの世界じゃ、いくら動物実験が行われたって殆どの奴らが知らなかった。一部が反対の声をあげただけです。そういうのは動物園でも一緒で、のほほんと生活してるヒューマンたちはこんなの知りませんよ。もちろん、こういった犠牲のおかげで自分たちが楽してるってことも知らない」
「彼らにこういうことを教えたりはしないのですか」
「まさか(笑)。するわけないでしょう」
「そうですよね」
「まぁ兎に角、処分されるとこうなるわけです。でも他にも処分方法があるんですよ、次はそれをお見せしましょう」
アリムがにやっと笑う。
ならば見せてもらおうではないか。
奥を見ると、ガラスの仕切りを隔てた向こうに一脚の椅子がある。下着姿のオスのヒューマンが一匹、そこに座っている。若い。いったい何をしているのだろうか、よく観察してみる。
彼の口には猿轡のようなものがあって、体の各所には拘束具がついている。それだけでなく、何本ものチューブが繋がれている。
どういうことなのか。アリムの顔を見る。
「あのヒューマンは生まれつきの知的障害なんですよ。底辺クラスで教育していたんですが、どうにも反抗的でして。迷惑ばっかりかけるもんですから、処分になりました」
コンピュータの前に座っているフェーレが言う。
「そろそろ実験を始めるのですが、静かにしていただいてもよろしいでしょうか?」
我々は頷く。
実験が始まる。四角い機械の前にいるフェーレが何かのボタンを押す。瞬間、ヒューマンの体がびくっと痙攣する。呻き声。
「うーっ!」
若しかすると、これは電流を流しているのではないだろうか。どうもそうらしく思える。
研究員たちのリーダー格のフェーレが言う。
「レベル二へ行ってくれ」
機械の前のフェーレ、「はい」、ボタンを押す。
「うーっ! うぅーっ!」
ヒューマンはかなり苦しそうだ。しかし誰も実験を止めない。
「よし、レベル三」
「はい」
「うぅぅーーーーーっ!」
痙攣はかなりの激しさだ。大丈夫なのだろうか、そう思った矢先にヒューマンが気絶する。
機械前のフェーレがリーダーにたずねる。
「どうしますか?」
「いったん休憩だ。あいつの回復を待とう」
室内に少し緩んだ空気が満ちる。
私はリーダーに質問する。
「これはどういう実験なのですか」
「耐久実験ですよ。どの程度の電流にどれくらい耐えられるか、それを調べています」
「はぁ」
「我々フェーレはこういった人体実験で様々なデータを手に入れています。これをもとに薬が開発され、怪我の治療法が改良され、有能なヒューマンたちの生活レベルが向上していくわけです」
「成る程」
「ヒューマンたちの世界には、馬鹿とハサミは使いようという言葉がありまして」
「どういう意味ですか」
「どんなものにも使い道があるってことです。無能で生産性ゼロの障害持ちなヒューマンだって、実験材料としてはなかなか便利ですよ」
「こんなことをして大丈夫なのですか」
「別に問題ありゃしませんよ。家畜を飼って殺して、食べる。それと大差ないでしょう」
「はぁ」
「だいたいですね、ヒューマンだって似たようなことを過去にやってきたわけですよ。動物実験です、動物実験」
アリムが話に割り込む。
「ちょうどいい資料を用意しておいたんです。ジャンペン、よろしく」
映像が空中に浮かび上がる。
白くて小さい生き物が一匹いて、それは木製の道具で体を固定されている。
「これはなんですか」
「生き物の名前はウサギです。で、これはヒューマンの言葉でドレイズ試験というんですが、まぁ見ていてください。始まりますよ……」
白い服を着たメスのヒューマン一匹が画面に現れる。彼女はウサギに近づくと、それの片目に向けて、右手に持っている小さな器具から薬液を投下する。
「あの液体はなんですか」
「化粧品の一種ですよ」
「理解しました。それで、この実験はどういうものなのですか」
「新しく作った化粧品に毒があるかどうか、それをウサギで調べているんです」
「もし毒があるとどうなるのですか」
「えらいことになりますね。ジャンペン、早送りしてくれ」
映像がどんどん進んでいく。薬液を受けた片目が変化していく。今やそれは真っ赤に腫れあがっている。
「とても痛そうですが、ウサギは痛みを感じないのですか」
「感じますよ。とっても」
「この実験、えぇと、ドレイズ試験でしたっけ。拷問と何が違うのですか」
「あまり違わないと思いますよ」
「ヒューマンはいつもこんなことをしていたのですか」
「しょっちゅうやってたみたいですねぇ」
「化粧品を作るために、ですか」
「はい。まぁ薬を作るためにもやってそうですが」
私はこのようなことについてどのような意見を述べるべきなのだろうか。
「どうしました、モサーベさん」
「はぁ」
「いいじゃないですか、ちょっとの犠牲くらい。誰かが酷い目にあったところで、他の連中はノー・ダメージ。それどころか、犠牲のおかげでみんなが得する。しかも我々の場合、役立たずを処分して口減らしする、つまり無駄な経費を減らして、おまけに貴重なデータまで取っている。これもヒューマンのためですよ」
「成る程」
「ヒューマンの世界じゃ、いくら動物実験が行われたって殆どの奴らが知らなかった。一部が反対の声をあげただけです。そういうのは動物園でも一緒で、のほほんと生活してるヒューマンたちはこんなの知りませんよ。もちろん、こういった犠牲のおかげで自分たちが楽してるってことも知らない」
「彼らにこういうことを教えたりはしないのですか」
「まさか(笑)。するわけないでしょう」
「そうですよね」
「まぁ兎に角、処分されるとこうなるわけです。でも他にも処分方法があるんですよ、次はそれをお見せしましょう」
アリムがにやっと笑う。
ならば見せてもらおうではないか。
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