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第3話 ヒューマンについての概説
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案内された視聴覚室は、大学の講義室のように広い部屋だった。
私以外の見学者たちが大勢いて、みなが席に座り、部屋前方にある空中投影型のスクリーンに動画が流れ出すのを待っている。もちろん私も同じように席にして待つ。
やがて動画が始まった。ナレーターが語り出す……。
「今、みなさんがご覧になっている映像。それに登場しているのがヒューマンです。二足歩行の知的生命体である彼らは、いくつかの興味深い特徴を持っています。
まず述べるべきは生殖に関する事柄でしょう。驚くべきことに、彼らには発情期がないのです。一年を通じて常に発情していて、異性を求め、真冬であろうと交尾を行います。
普通、宇宙進出をするようなレベルの知的生命体は、何らかの方法で性欲をコントロールするようになるものです。もしそうしなければ、見境のない交尾、妊娠、出産の果てに人口爆発を招くからです。
ヒューマンの歴史における大きな過誤の一つは、この問題を軽視したことでしょう。結果、彼らは増え過ぎた人口に悩まされるようになりました。
社会全体、世界全体のことを考え、適切な人口を維持するよう管理を行う。環境への負荷を過大にしないためには絶対にそれが必要なのです。でなければ、持続可能な発展などあり得ない。
勿論彼らもこのことに気づいていました。ゆえに、一人っ子政策や避妊用具の開発など、様々な処置をとったことが研究により判明しています。しかし、残念ながら、十分な効果をあげなかった。
彼らの言葉でいう二十二世紀の初頭。人口増大は限界レベルを突破し、食料や資源などが不足し、各国が争いを始めました。争い? 戦争です。相手を征服し、様々なものを奪おうとしたのです。
これをお聞きのみなさんの中には、このような疑問を持つ方がいらっしゃるのではないでしょうか。
『戦いではなく別の方法で問題を解決することは出来なかったのか?』
それに対する答えは、ノー、です。では、続いてはこれについて語りましょう」
スクリーンに新しい映像が映し出される。
「研究者たちは言います。ヒューマンの最大の特徴は、好戦的であることだ、と。確かにその通りでしょう、彼らの歴史は戦争の歴史といっても過言ではないのですから。
問題が起きた時は話し合いで解決するという考えはヒューマンの中にも存在していました。しかし、彼らは往々にしてそれに失敗し、その場合は武力によって決着を図ってきました。
死人に口なしと彼らは言います。あるいは、勝てば官軍とも言うのです。すなわち、邪魔な相手は殺して黙らせ、自分の言い分を通す。何とも原始的で野蛮な方法という他はありません。
みなさんがご存知の通り、知的生命体はどこかでそういうやり方を捨て、別の手段で問題解決を行うようになります。争いをやめるにはそれが一番なのですから。
悲しいことに、彼らは成長できなかった。原始人という名の幼虫時代から脱皮して、成熟した知的生命体、成虫の段階へ到達することができなかった。
世界を破滅させるほどの大戦争を起こしてもなお反省せず、その大戦争すら新たな戦争で解決しようとした。これ以上繰り返して言う必要があるのでしょうか、つまり、彼らは……骨の髄まで好戦的な生き物なのです。真の平和を知らず、仮初めだけを愛する」
あれらはヒューマンが使っていた兵器たちなのだろうか。子どもの玩具のような物体がスクリーンに大量出現する。
「核兵器、毒ガス、生物兵器。凶悪なものばかりです。高度な知性を持つ生き物が使うようなものではない。まぁそれでも、異種族との戦いに使うことはあり得るかもしれません。ヒューマンの恐ろしいところは、異種族ではなく同胞に対して大量に使用する点です。
というのも、彼らは同じ種族でありながら互いに憎み合い、平時からいがみ合うのです。代表的なものは人種差別でしょう、こちらの映像をご覧ください」
黄色い肌のヒューマン、白い肌、黒い肌、合計三匹がスクリーンに登場する。
「いまご覧いただいているこれら三匹は、知能や運動能力などに根本的な違いがあるわけではありません。生き物としてみた場合はどれも大差がありません……肌の色を除いては。
我々からすれば、肌の色の違いなど全く些細なことです。しかしヒューマンにとっては非常に重みのあることなのです。
にわかには信じがたい話ですが、彼らはこれを理由に殺人すら行うことが調査によって明らかになっています。
むやみに同胞を殺して何の得があるのでしょうか。それはヒューマンにしか分からないことですが、何にせよ彼らがこういう厄介な性質を備えていることだけは明確に分かっているのです」
ここまでの話から判断するに、どうやらヒューマンは想像以上に下劣らしい。
フェーレたちには申し訳ないが、なぜこのような連中を保護し、飼育しようと考えたのか、私には全く理解できない。
戦争によって絶滅する運命だったというのなら、そのままそうなることが最善だったのではないか。
言い過ぎを承知で述べるなら、フェーレは凶悪なウイルスのような連中をわざわざ守っているのではないか?
そう思っていると、ナレーターが何かを言った。
「我々フェーレは考えました。ヒューマンは愚かであると。同時にこうも考えました、極めて珍しいほどの愚かさであるがゆえに、研究対象としての価値が高く、絶滅させるには惜しいと。
だから我々は彼らを守り、育てているのです。まるで親が子をそうするかのように。
それにしても、このような愚昧な生物をいかにして扱っていくべきか、そこに巨大な問題があります。我々も最初は苦しんだ、しかし今は違う。
多くの犠牲を払いましたが、引き換えにほぼ完璧な飼育方法を開発したのです。
では、ここからは言葉ではなくみなさま自身の観察でその方法を理解していただきたいと思います。
ただいまよりガイドが案内します、ようこそヒューマン動物園へ。楽しいひと時をどうかお過ごしください」
スクリーンが消失する。どうやらいよいよ園内巡りらしい。
私以外の見学者たちが大勢いて、みなが席に座り、部屋前方にある空中投影型のスクリーンに動画が流れ出すのを待っている。もちろん私も同じように席にして待つ。
やがて動画が始まった。ナレーターが語り出す……。
「今、みなさんがご覧になっている映像。それに登場しているのがヒューマンです。二足歩行の知的生命体である彼らは、いくつかの興味深い特徴を持っています。
まず述べるべきは生殖に関する事柄でしょう。驚くべきことに、彼らには発情期がないのです。一年を通じて常に発情していて、異性を求め、真冬であろうと交尾を行います。
普通、宇宙進出をするようなレベルの知的生命体は、何らかの方法で性欲をコントロールするようになるものです。もしそうしなければ、見境のない交尾、妊娠、出産の果てに人口爆発を招くからです。
ヒューマンの歴史における大きな過誤の一つは、この問題を軽視したことでしょう。結果、彼らは増え過ぎた人口に悩まされるようになりました。
社会全体、世界全体のことを考え、適切な人口を維持するよう管理を行う。環境への負荷を過大にしないためには絶対にそれが必要なのです。でなければ、持続可能な発展などあり得ない。
勿論彼らもこのことに気づいていました。ゆえに、一人っ子政策や避妊用具の開発など、様々な処置をとったことが研究により判明しています。しかし、残念ながら、十分な効果をあげなかった。
彼らの言葉でいう二十二世紀の初頭。人口増大は限界レベルを突破し、食料や資源などが不足し、各国が争いを始めました。争い? 戦争です。相手を征服し、様々なものを奪おうとしたのです。
これをお聞きのみなさんの中には、このような疑問を持つ方がいらっしゃるのではないでしょうか。
『戦いではなく別の方法で問題を解決することは出来なかったのか?』
それに対する答えは、ノー、です。では、続いてはこれについて語りましょう」
スクリーンに新しい映像が映し出される。
「研究者たちは言います。ヒューマンの最大の特徴は、好戦的であることだ、と。確かにその通りでしょう、彼らの歴史は戦争の歴史といっても過言ではないのですから。
問題が起きた時は話し合いで解決するという考えはヒューマンの中にも存在していました。しかし、彼らは往々にしてそれに失敗し、その場合は武力によって決着を図ってきました。
死人に口なしと彼らは言います。あるいは、勝てば官軍とも言うのです。すなわち、邪魔な相手は殺して黙らせ、自分の言い分を通す。何とも原始的で野蛮な方法という他はありません。
みなさんがご存知の通り、知的生命体はどこかでそういうやり方を捨て、別の手段で問題解決を行うようになります。争いをやめるにはそれが一番なのですから。
悲しいことに、彼らは成長できなかった。原始人という名の幼虫時代から脱皮して、成熟した知的生命体、成虫の段階へ到達することができなかった。
世界を破滅させるほどの大戦争を起こしてもなお反省せず、その大戦争すら新たな戦争で解決しようとした。これ以上繰り返して言う必要があるのでしょうか、つまり、彼らは……骨の髄まで好戦的な生き物なのです。真の平和を知らず、仮初めだけを愛する」
あれらはヒューマンが使っていた兵器たちなのだろうか。子どもの玩具のような物体がスクリーンに大量出現する。
「核兵器、毒ガス、生物兵器。凶悪なものばかりです。高度な知性を持つ生き物が使うようなものではない。まぁそれでも、異種族との戦いに使うことはあり得るかもしれません。ヒューマンの恐ろしいところは、異種族ではなく同胞に対して大量に使用する点です。
というのも、彼らは同じ種族でありながら互いに憎み合い、平時からいがみ合うのです。代表的なものは人種差別でしょう、こちらの映像をご覧ください」
黄色い肌のヒューマン、白い肌、黒い肌、合計三匹がスクリーンに登場する。
「いまご覧いただいているこれら三匹は、知能や運動能力などに根本的な違いがあるわけではありません。生き物としてみた場合はどれも大差がありません……肌の色を除いては。
我々からすれば、肌の色の違いなど全く些細なことです。しかしヒューマンにとっては非常に重みのあることなのです。
にわかには信じがたい話ですが、彼らはこれを理由に殺人すら行うことが調査によって明らかになっています。
むやみに同胞を殺して何の得があるのでしょうか。それはヒューマンにしか分からないことですが、何にせよ彼らがこういう厄介な性質を備えていることだけは明確に分かっているのです」
ここまでの話から判断するに、どうやらヒューマンは想像以上に下劣らしい。
フェーレたちには申し訳ないが、なぜこのような連中を保護し、飼育しようと考えたのか、私には全く理解できない。
戦争によって絶滅する運命だったというのなら、そのままそうなることが最善だったのではないか。
言い過ぎを承知で述べるなら、フェーレは凶悪なウイルスのような連中をわざわざ守っているのではないか?
そう思っていると、ナレーターが何かを言った。
「我々フェーレは考えました。ヒューマンは愚かであると。同時にこうも考えました、極めて珍しいほどの愚かさであるがゆえに、研究対象としての価値が高く、絶滅させるには惜しいと。
だから我々は彼らを守り、育てているのです。まるで親が子をそうするかのように。
それにしても、このような愚昧な生物をいかにして扱っていくべきか、そこに巨大な問題があります。我々も最初は苦しんだ、しかし今は違う。
多くの犠牲を払いましたが、引き換えにほぼ完璧な飼育方法を開発したのです。
では、ここからは言葉ではなくみなさま自身の観察でその方法を理解していただきたいと思います。
ただいまよりガイドが案内します、ようこそヒューマン動物園へ。楽しいひと時をどうかお過ごしください」
スクリーンが消失する。どうやらいよいよ園内巡りらしい。
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