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第12章 すべてを変える時
第211話 総崩れ Almost over
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《スレイヤーZの視点》
ふん……。ムカつく女だ。でも言いたいことはわかる、俺だってレヴェリー・プラネットにはうんざりだ。
終わりのない戦い、終わりのない報復、終わりのない憎悪。そして、それらのために行う終わりのない課金。
この無限の連鎖の中でいちばん得をしてるのは誰だ? 言うまでもねぇ、運営に決まってる。
プラネットを遊び続ける限り、どのプレイヤーも運営に踊らされ、金と時間を巻き上げられちまうんだ。
俺は俺に問いかける。お前はいつまでこんなことを続けるつもりだ? どこまで憎しみに身を任せれば満足する?
……。あぁ、分かってるぜ、ちくしょう。潮時だ。バカ踊りをやめ、そろそろ正気に返らなくちゃいけない。俺はゲーム画面を見ながらクラン内チャットで話す。
(こちらスレイヤーZ。レーヴェ、残念だが3階は負け戦だ)
(えぇい……!)
(急な話で悪いがな。俺はここでゲームをやめる)
(なに……?)
(今まで世話になった、ありがとう。じゃあな、お元気で)
チャットを一方的に打ち切り、ログ・アウトの手続きをする。じきに現実世界に帰るだろう。
ゲーム世界の俺と比べれば、現実世界の俺は実に弱くてちっぽけ。誰かをぶちのめして嘲笑うどころか、逆に職場の上司にイビられて嘲笑われてる。
そんな現実を直視するのが嫌でゲームに逃げてたけど、そんなの終わりだ。これからどうなるかは分からんが、少なくともプラネットにはもう戻らない。
どうせまた、現実逃避やストレス発散のために何かをするだろう。でも今度はゲームでのいじめなんてダサいことじゃなく、もうちょいマシなことをしたい。そう思う。
《レーヴェの視点》
スレイヤーZのさめた声がクラン内チャットに響く。
(今まで世話になった、ありがとう。じゃあな、お元気で)
ゲームからのメッセージが示される。
(スレイヤーZがログ・アウトしました)
……これは夢か? もしくは幻か? メセドナとグラッパーだけでなく、あのZまでもがいなくなるとは!
しかも悪いことはまだある、☆が3つも破壊されてしまった。そう思った瞬間に新たなメッセージが現れる。
(3階の☆が破壊されました)
前言訂正。☆は3つではなく4つが破壊された。あるいはこう言い換える方が適切かもしれない、私の部隊が守るこの6階の☆以外、すべてが破壊された。
吐き気のような不快感がこみあげてくる。仲間の女性がつぶやく。
「無理だよ、こんなの……。負けたも同然じゃん」
場が静まり返る。それは私に、雪の降り積もった真冬の公園を思い出させる。骨まで凍るような寒さ、吐く息は白く、冷気が皮膚を切り刻む。
こんな時はホワイト・ウィッチが頼りだ。彼女がいつもの元気さで喋ってくれれば、きっとそれだけで士気が蘇る。私は神にすがるような気持ちで彼女を呼ぶ。
(ホワイト・ウィッチ! 聞こえるか!)
(……んん~?)
なぜ不満そうな声で返す! 思わず怒鳴りそうになるが、必死にこらえて平静に喋る。
(そちらの状況は?)
(予定通りに5階を守ってる)
(何か思うことはあるか)
(とにかく人が少ないねぇ~。みんないなくなったから、まぁ当然だけど)
(なんとか戦力を補充できないのか?)
(そんなん無理。だって、開始されたイベントに後から参加するなんて不可能だもん。そうでしょ?)
(分かっているさ、それでもこの人手不足を解決しないといけない)
(だぁから、無理だって! いま抱えてる戦力だけで頑張るしかないよ)
(どうしたらいい?)
(んなん、あたしに聞かれてもねぇ~。レーヴェは大将でしょ、だったら大将らしく、新しい作戦を考えなよ)
(私は君のアドヴァイスを聞きたいんだ)
(いちいちあたしに頼んないとなんも決めらんないの?)
(なぜそういうトゲのある言い方を……!)
こうして口論している間に、私の近くにいる男性が姿を消す。
(パイトンがログ・アウトしました)
嫌な予感が脳裏に走る。直後、その予感が現実となっていく。
(バーバラがログ・アウトしました)
(芝がログ・アウトしました)
(ドミトリーがログ・アウトしました)
(ポンギンがログ・アウトしました)
(メインホッフがログ・アウトしました)
(木島がログ・アウトしました)
(ドーロレスがログ・アウトしました)
誰もがいなくなる。名状しがたい気持ちが私を突き動かし、叫ばせる。
「いくな! 戦え、踏みとどまれ! 逃げるなッ!」
我が言葉に対する仲間の返答は、言葉ではなく行動によって示される。
(ウェイユンがログ・アウトしました)
(メタル侍がログ・アウトしました)
(バイノドーラフがログ・アウトしました)
(フローレンスがログ・アウトしました)
(えみりんがログ・アウトしました)
(サルチコバがログ・アウトしました)
なぜだ。なぜいなくなる。なぜ、なぜ、なぜ……。
ふん……。ムカつく女だ。でも言いたいことはわかる、俺だってレヴェリー・プラネットにはうんざりだ。
終わりのない戦い、終わりのない報復、終わりのない憎悪。そして、それらのために行う終わりのない課金。
この無限の連鎖の中でいちばん得をしてるのは誰だ? 言うまでもねぇ、運営に決まってる。
プラネットを遊び続ける限り、どのプレイヤーも運営に踊らされ、金と時間を巻き上げられちまうんだ。
俺は俺に問いかける。お前はいつまでこんなことを続けるつもりだ? どこまで憎しみに身を任せれば満足する?
……。あぁ、分かってるぜ、ちくしょう。潮時だ。バカ踊りをやめ、そろそろ正気に返らなくちゃいけない。俺はゲーム画面を見ながらクラン内チャットで話す。
(こちらスレイヤーZ。レーヴェ、残念だが3階は負け戦だ)
(えぇい……!)
(急な話で悪いがな。俺はここでゲームをやめる)
(なに……?)
(今まで世話になった、ありがとう。じゃあな、お元気で)
チャットを一方的に打ち切り、ログ・アウトの手続きをする。じきに現実世界に帰るだろう。
ゲーム世界の俺と比べれば、現実世界の俺は実に弱くてちっぽけ。誰かをぶちのめして嘲笑うどころか、逆に職場の上司にイビられて嘲笑われてる。
そんな現実を直視するのが嫌でゲームに逃げてたけど、そんなの終わりだ。これからどうなるかは分からんが、少なくともプラネットにはもう戻らない。
どうせまた、現実逃避やストレス発散のために何かをするだろう。でも今度はゲームでのいじめなんてダサいことじゃなく、もうちょいマシなことをしたい。そう思う。
《レーヴェの視点》
スレイヤーZのさめた声がクラン内チャットに響く。
(今まで世話になった、ありがとう。じゃあな、お元気で)
ゲームからのメッセージが示される。
(スレイヤーZがログ・アウトしました)
……これは夢か? もしくは幻か? メセドナとグラッパーだけでなく、あのZまでもがいなくなるとは!
しかも悪いことはまだある、☆が3つも破壊されてしまった。そう思った瞬間に新たなメッセージが現れる。
(3階の☆が破壊されました)
前言訂正。☆は3つではなく4つが破壊された。あるいはこう言い換える方が適切かもしれない、私の部隊が守るこの6階の☆以外、すべてが破壊された。
吐き気のような不快感がこみあげてくる。仲間の女性がつぶやく。
「無理だよ、こんなの……。負けたも同然じゃん」
場が静まり返る。それは私に、雪の降り積もった真冬の公園を思い出させる。骨まで凍るような寒さ、吐く息は白く、冷気が皮膚を切り刻む。
こんな時はホワイト・ウィッチが頼りだ。彼女がいつもの元気さで喋ってくれれば、きっとそれだけで士気が蘇る。私は神にすがるような気持ちで彼女を呼ぶ。
(ホワイト・ウィッチ! 聞こえるか!)
(……んん~?)
なぜ不満そうな声で返す! 思わず怒鳴りそうになるが、必死にこらえて平静に喋る。
(そちらの状況は?)
(予定通りに5階を守ってる)
(何か思うことはあるか)
(とにかく人が少ないねぇ~。みんないなくなったから、まぁ当然だけど)
(なんとか戦力を補充できないのか?)
(そんなん無理。だって、開始されたイベントに後から参加するなんて不可能だもん。そうでしょ?)
(分かっているさ、それでもこの人手不足を解決しないといけない)
(だぁから、無理だって! いま抱えてる戦力だけで頑張るしかないよ)
(どうしたらいい?)
(んなん、あたしに聞かれてもねぇ~。レーヴェは大将でしょ、だったら大将らしく、新しい作戦を考えなよ)
(私は君のアドヴァイスを聞きたいんだ)
(いちいちあたしに頼んないとなんも決めらんないの?)
(なぜそういうトゲのある言い方を……!)
こうして口論している間に、私の近くにいる男性が姿を消す。
(パイトンがログ・アウトしました)
嫌な予感が脳裏に走る。直後、その予感が現実となっていく。
(バーバラがログ・アウトしました)
(芝がログ・アウトしました)
(ドミトリーがログ・アウトしました)
(ポンギンがログ・アウトしました)
(メインホッフがログ・アウトしました)
(木島がログ・アウトしました)
(ドーロレスがログ・アウトしました)
誰もがいなくなる。名状しがたい気持ちが私を突き動かし、叫ばせる。
「いくな! 戦え、踏みとどまれ! 逃げるなッ!」
我が言葉に対する仲間の返答は、言葉ではなく行動によって示される。
(ウェイユンがログ・アウトしました)
(メタル侍がログ・アウトしました)
(バイノドーラフがログ・アウトしました)
(フローレンスがログ・アウトしました)
(えみりんがログ・アウトしました)
(サルチコバがログ・アウトしました)
なぜだ。なぜいなくなる。なぜ、なぜ、なぜ……。
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