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第12章 すべてを変える時
第210話 誰かを破滅させる暗い喜び Evil pleasure
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《パトリシアの視点》
今、私と仲間たちは倉庫のような広い部屋にいて、積まれた土管やコンクリート・ブロックといった障害物を利用しながら敵と戦っている。
これらの障害物はどれも数メートルの高さしかなく、ジャンプすれば乗り越えられそうだ。ならばこうするまでのこと、私は命令を出す。
「全員、抜刀! 敵の懐に飛びこめ、斬れ!」
言いつつ私もソードを手にし、バリアを張り、近くの土管の後ろにいる敵集団へとジャンプする。
相手は私を撃ち落とそうと弾丸を浴びせてくるが、バリアの固さに物を言わせて無理やり突破、狙い通りに敵の真ん中に飛び降りる。後は斬るだけ!
「ヤーーーーーッ!」
時代劇のようにソードを振るい、瞬時に三人を殺す。仲間も同じように大暴れしていることだろう、このまま一気に場を制圧してしまえ。私は再度の突撃を始める。
全力で走り、バリアで弾丸の嵐を突っ切る。地面を強く蹴って跳び、敵2人の前に降り立って斬り捨てる。瞬間、遠くから弾丸が殺到して私のバリアを叩く。
弾が飛んできた方を見ると、遠くに山積みされた土管数本の上に、Vz61 スコーピオンを持った若い男が立っている。彼は叫ぶ。
「てめぇ、パトリシアだな?」
「そういうあなたは?」
「スレイヤーZ! ここの☆を守ってるチームの隊長だ!」
「ふぅん……」
「お前の部隊のせいでよぉ、こっちは負ける寸前だ。ザコの集まりのくせにふざけるな、クソが!」
Zは怒りに声を震わせてそう言い捨て、スコーピオンを連射してくる。私はバリアを張って防御し、彼へ向かって駆けだす。
だが途中でついにエナジーが尽き、バリアが消える。弾丸が容赦なく私の体を傷つけていく。それでも私は進み続け、二段ジャンプで土管の端に降り立つ。
すこし遠くにZの姿が見える。彼は、これから接近戦になると予想したのだろう、スコーピオンを投げ捨てて代わりにソードを出して構える。
私も自分のソードを構える。なるほど、大将同士の一騎討ちか。クライマックスにふさわしい。いざ尋常に勝負だ。
鬼の形相となったZが向かってくる。彼は上段から一撃を繰り出す、私はそれをしっかり受け止めて平然と言う。
「これで終わり?」
「ぐっ……!」
「力で押しても無駄、無駄。ヤッ!」
敵の圧力に逆らってこちらから圧をかけ、強引につばぜり合いを解除する。Zがよろけた隙に胴を斬って体力を奪い、今度は私から攻めこむ。
「ヤァァッ!」
まずは顔面を狙っての突き、さすがにこれは刺さらない。だが相手を恐怖させるには充分だ。
「っ!? てめっ……」
Zの動きがわずかに鈍る。甘いな。
「遅い!」
素早く小手を叩いて痛打し、さらに斬りこむ。Zはどうにかこれを止めて再びつばぜり合いの状態にするが、反撃できる余力はもう無いらしい。震え声で罵ってくる。
「ナメんな! ちッくしょッ……!」
「力で押しても無駄だってさっき言ったでしょ? もう忘れたの?」
「これだけ押されてなぜ踏ん張れる!? チートしてるのか!?」
「答えは単純。レイザーズを血祭りにあげるため、私はたっぷり課金して強くなった。それだけ」
「なにぃ……!」
「じゃ、終わりにしましょ」
私は口を小さく開き、舌の中に仕込んだ含み針を撃ち出す。全身機械のサイボーグだからこそ可能な技だ。含み針は狙い通りにZの両目を射抜く。
「わあっ!?」
悲鳴をあげてZがフラつく。私は即座に斬りつけて彼を地面に叩き伏せ、その無防備な腹へソードを突き刺す。文句なしの致命傷だ。Zは死亡する。
「チクショオォオオォォォオオォオォオオオォォォォ!」
すさまじい大声がとどろく。だがまったく無意味だ。私は冷たい声で喋る。
「で、これからどうするの、あなた? 私への復讐を企むの?」
「当ッたり前だろ!」
「忠告するけどね、もうやめときなさい。だって私たちはいい加減に気づかなくちゃいけないから」
「気づくゥ? 何をだ」
「私たちは運営に感情をコントロールされ、いつもプレイヤー同士で憎み合っている。そして、誰かを破滅させる暗い喜びに依存し、そのために課金してしまう。
あなたも無意識のうちに気づいてるはずでしょ。だったらこのへんで見切りをつけて、もう卒業しなくちゃ」
キョトンとした顔でZが言う。
「はぁ?」
「私は、誰かを打ち負かす喜びが悪いものだとは思わない。けど、それがスポーツのような健全なものであるためには、いくつかの条件を満たさなくちゃいけない」
「条件ってなんだよ」
「まずいちばん大切なのは、相手を敬って尊重すること。相手の人格を傷つけないように気をつけること。
憎しみに振り回されて戦うと相手を侮辱する結果になる。私たちはむしろ、その逆、相手への尊敬の気持をもって戦うべきと思う」
「ふん……学校の先生かお前は。偉そうにのたまいやがって」
「どう思うかはあなたの自由。ま、少なくとも私は、このイベントが終わったら引退するつもり」
「勝ち逃げする気か!」
「違う、そうじゃない。そうじゃなく、運営の手のひらの上で踊るのはもうたくさん、うんざり。そう思ってるだけ」
「ワケわかんねぇ御託ほざいてんじぇねぇよ、クソッ……」
Zの罵声の勢いは弱い。私はそれを、彼が私の意見に同意した証だと考える。……まぁ実際は違うかもしれないが。
ゲームからのメッセージが画面に映し出される。
(4階の☆が破壊されました)
直後にクラン内チャットに通信が入る。
(こちらスエナ! パティさん、ボクの部隊が☆を壊しました!)
(こちらパティ。おめでとう、スエナさん)
(はい!)
(私の部隊もそろそろ☆を見つけて壊すでしょう。じきに同じようなメッセージが表示されるはず)
(じゃあ残る☆は……)
(あと1つ。そしてその場所は5階か6階のどちらか)
(だったらボクの部隊が先に5階を探しますよ)
(よろしくお願い。こっちもここの☆を壊したら手伝いにいきます)
(はい!)
通信が切れる。私は軽くため息をついてZに視線をやる。
「じゃあね。アディオス」
「……」
「あら? 何も言わないの?」
「うるせぇ、バカ。俺は疲れた、帰る」
Zの死体が消え、その体に刺さっていたソードが地面に転がる。さて、彼はリスポーン地点に戻ったのか、それともログ・アウトして戦線離脱したのか。
できれば後者であって欲しい。私はそう思いながらソードを拾い、この部屋のどこかにあるはずの☆を目指して歩きだす。
今、私と仲間たちは倉庫のような広い部屋にいて、積まれた土管やコンクリート・ブロックといった障害物を利用しながら敵と戦っている。
これらの障害物はどれも数メートルの高さしかなく、ジャンプすれば乗り越えられそうだ。ならばこうするまでのこと、私は命令を出す。
「全員、抜刀! 敵の懐に飛びこめ、斬れ!」
言いつつ私もソードを手にし、バリアを張り、近くの土管の後ろにいる敵集団へとジャンプする。
相手は私を撃ち落とそうと弾丸を浴びせてくるが、バリアの固さに物を言わせて無理やり突破、狙い通りに敵の真ん中に飛び降りる。後は斬るだけ!
「ヤーーーーーッ!」
時代劇のようにソードを振るい、瞬時に三人を殺す。仲間も同じように大暴れしていることだろう、このまま一気に場を制圧してしまえ。私は再度の突撃を始める。
全力で走り、バリアで弾丸の嵐を突っ切る。地面を強く蹴って跳び、敵2人の前に降り立って斬り捨てる。瞬間、遠くから弾丸が殺到して私のバリアを叩く。
弾が飛んできた方を見ると、遠くに山積みされた土管数本の上に、Vz61 スコーピオンを持った若い男が立っている。彼は叫ぶ。
「てめぇ、パトリシアだな?」
「そういうあなたは?」
「スレイヤーZ! ここの☆を守ってるチームの隊長だ!」
「ふぅん……」
「お前の部隊のせいでよぉ、こっちは負ける寸前だ。ザコの集まりのくせにふざけるな、クソが!」
Zは怒りに声を震わせてそう言い捨て、スコーピオンを連射してくる。私はバリアを張って防御し、彼へ向かって駆けだす。
だが途中でついにエナジーが尽き、バリアが消える。弾丸が容赦なく私の体を傷つけていく。それでも私は進み続け、二段ジャンプで土管の端に降り立つ。
すこし遠くにZの姿が見える。彼は、これから接近戦になると予想したのだろう、スコーピオンを投げ捨てて代わりにソードを出して構える。
私も自分のソードを構える。なるほど、大将同士の一騎討ちか。クライマックスにふさわしい。いざ尋常に勝負だ。
鬼の形相となったZが向かってくる。彼は上段から一撃を繰り出す、私はそれをしっかり受け止めて平然と言う。
「これで終わり?」
「ぐっ……!」
「力で押しても無駄、無駄。ヤッ!」
敵の圧力に逆らってこちらから圧をかけ、強引につばぜり合いを解除する。Zがよろけた隙に胴を斬って体力を奪い、今度は私から攻めこむ。
「ヤァァッ!」
まずは顔面を狙っての突き、さすがにこれは刺さらない。だが相手を恐怖させるには充分だ。
「っ!? てめっ……」
Zの動きがわずかに鈍る。甘いな。
「遅い!」
素早く小手を叩いて痛打し、さらに斬りこむ。Zはどうにかこれを止めて再びつばぜり合いの状態にするが、反撃できる余力はもう無いらしい。震え声で罵ってくる。
「ナメんな! ちッくしょッ……!」
「力で押しても無駄だってさっき言ったでしょ? もう忘れたの?」
「これだけ押されてなぜ踏ん張れる!? チートしてるのか!?」
「答えは単純。レイザーズを血祭りにあげるため、私はたっぷり課金して強くなった。それだけ」
「なにぃ……!」
「じゃ、終わりにしましょ」
私は口を小さく開き、舌の中に仕込んだ含み針を撃ち出す。全身機械のサイボーグだからこそ可能な技だ。含み針は狙い通りにZの両目を射抜く。
「わあっ!?」
悲鳴をあげてZがフラつく。私は即座に斬りつけて彼を地面に叩き伏せ、その無防備な腹へソードを突き刺す。文句なしの致命傷だ。Zは死亡する。
「チクショオォオオォォォオオォオォオオオォォォォ!」
すさまじい大声がとどろく。だがまったく無意味だ。私は冷たい声で喋る。
「で、これからどうするの、あなた? 私への復讐を企むの?」
「当ッたり前だろ!」
「忠告するけどね、もうやめときなさい。だって私たちはいい加減に気づかなくちゃいけないから」
「気づくゥ? 何をだ」
「私たちは運営に感情をコントロールされ、いつもプレイヤー同士で憎み合っている。そして、誰かを破滅させる暗い喜びに依存し、そのために課金してしまう。
あなたも無意識のうちに気づいてるはずでしょ。だったらこのへんで見切りをつけて、もう卒業しなくちゃ」
キョトンとした顔でZが言う。
「はぁ?」
「私は、誰かを打ち負かす喜びが悪いものだとは思わない。けど、それがスポーツのような健全なものであるためには、いくつかの条件を満たさなくちゃいけない」
「条件ってなんだよ」
「まずいちばん大切なのは、相手を敬って尊重すること。相手の人格を傷つけないように気をつけること。
憎しみに振り回されて戦うと相手を侮辱する結果になる。私たちはむしろ、その逆、相手への尊敬の気持をもって戦うべきと思う」
「ふん……学校の先生かお前は。偉そうにのたまいやがって」
「どう思うかはあなたの自由。ま、少なくとも私は、このイベントが終わったら引退するつもり」
「勝ち逃げする気か!」
「違う、そうじゃない。そうじゃなく、運営の手のひらの上で踊るのはもうたくさん、うんざり。そう思ってるだけ」
「ワケわかんねぇ御託ほざいてんじぇねぇよ、クソッ……」
Zの罵声の勢いは弱い。私はそれを、彼が私の意見に同意した証だと考える。……まぁ実際は違うかもしれないが。
ゲームからのメッセージが画面に映し出される。
(4階の☆が破壊されました)
直後にクラン内チャットに通信が入る。
(こちらスエナ! パティさん、ボクの部隊が☆を壊しました!)
(こちらパティ。おめでとう、スエナさん)
(はい!)
(私の部隊もそろそろ☆を見つけて壊すでしょう。じきに同じようなメッセージが表示されるはず)
(じゃあ残る☆は……)
(あと1つ。そしてその場所は5階か6階のどちらか)
(だったらボクの部隊が先に5階を探しますよ)
(よろしくお願い。こっちもここの☆を壊したら手伝いにいきます)
(はい!)
通信が切れる。私は軽くため息をついてZに視線をやる。
「じゃあね。アディオス」
「……」
「あら? 何も言わないの?」
「うるせぇ、バカ。俺は疲れた、帰る」
Zの死体が消え、その体に刺さっていたソードが地面に転がる。さて、彼はリスポーン地点に戻ったのか、それともログ・アウトして戦線離脱したのか。
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