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第12章 すべてを変える時
第208話 鎧袖一触 Opportunists
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《スエナの視点》
パティさん達との会話が終わってから数分後。ボクも、ボクの部隊のメンバーも、ようやく全員が復活した。
さっそくボクは部隊を再結成し、細心の注意を払いながら4階の通路を進みだした。
ボクたちが歩くたび、消し炭色の床に靴が当たり、小さな音を立てる。もしこの先に敵が潜んでいるなら、この音を聞きつけるかもしれない。
でも完全に音を消して歩くなんて無理だから、仕方ないことだ。それよりもステルスが使えないことのほうが辛い。ボクはチーム内チャットでぼやく。
(はぁ、ステルス状態で動けたらいいのにな~)
真面目な口調でアップルが返す。
(そんなの無理な注文でしょ。敵が基地のジャミング機能を使っている以上、どうにもできない)
(わかってるって。言ってみただけ)
(はぁ……。もっと緊張感を持ってよ)
(ごめん、なんか疲れちゃって)
(大丈夫?)
(こんくらい平気、平気! だって勝利まであと少しだもんね、へばってらんないよ!)
そう返事してボクは気を引き締める。そうだ、あと少しだ。パティさんが言ってた通り、今こそ正念場。頑張らないと!
(アップル、ボクの心配はいいから、それより☆のことを考えよう。ずっと探してるのになんで見つからないんだろ?)
(このフロアには無いのかもね)
(でもさ、この先の部屋にありそうじゃない? ここのことなんだけど……)
ボクは3Dマップを空中に映し出して、目標としている部屋を指でさし示し、言う。
(ここは金属タンクみたいな身を隠す障害物がたくさんある。それにすごく広いから、大人数で待ち伏せできる。ボクが敵の指揮官だったらここで☆を守るよ)
(なるほど……)
(ダメで元々、行ってみよう。もしそれでハズレなら、じゃあ5階に上がるってことで)
(了解)
(みんなもそれでいい? 反対がなかったらこの方針でいくよ)
反対意見はゼロだ。じゃあこのまま進もう。ボクたちは黙々と通路を歩いていく。
《白木/ホワイト・ウィッチの視点》
サーバーから時々刻々と送られてくるデータが、スエナ隊の接近をあたしに報せる。赤羽さんが言ってた通りってわけか。あたしはチーム内チャットを開いて言う。
(みんな、敵が近づいてるよ! 戦闘準備!)
仲間の誰かが質問してくる。
(どうして分かるんですか?)
(そんなんどうだっていいじゃん、早く支度して!)
緊張した空気が流れ、多くの人が武器を構えたりアイテムでバフをかけたりする。そういうあたしも左手首の腕時計型の機械を使い、バフ用の薬液を体に注入する。
よし、ひとまずこれでOK。後はスエナたちが来るのを待つだけだ。ワクワクするかも!
静かな雰囲気が訪れる。重低音の利いたBGMが場を支配し、あたしの鼓動が早まっていく。そろそろだ……そろそろ……3、2、1……来たっ!
部屋の扉が開いてスエナたちが現れ、その瞬間にあたしは命じる。
(戦闘開始! 撃ちまくれーっ!)
味方が猛射撃を始める。もちろんあたしも攻撃に加わる、隠れ場所の金属タンクから出てベクターR6を撃つ。スエナが自分の味方に命令する声が聞こえる。
「バリア展開! 散らばって突っこめ!」
ちっ、スエナのくせに的確な指示だ。それともアップルが入れ知恵したのかな? まぁどっちでもいい、こうなりゃとことん戦うだけよ!
前方めがけてありったけの弾丸を発射、敵のバリア・エナジーを大きく削り、弾切れになる直前にタンクの後ろへ引っこむ。
そうしている間に戦況が変わっていき、味方の怒号がチャット内に飛び交う。
(ダメです、ポイントA、突破されます!)
(やべぇ、敵が突っこんでくるぞ!)
(ポイントCに救援を!)
(はぁ~、これ負けじゃん。やってらんね。悪いけどログ・アウトするわ)
(あっ、お前やめんの? じゃあ俺もやめるわ)
(勝手なことするな! おい!)
(いいからお前もやめちまえよ。課金したのに勝てないクソゲーなんて、やる意味ねーだろ?)
(あのなぁ……!)
(俺は敗北画面なんて見たくねーんだよ。帰ってテレビでも見たほうがマシだわ。んじゃ、お疲れ様~)
(おつー。あたしも抜けるね)
レーダー画面から味方を示す光点が次々に消えていく。やれやれ、戦闘力ではこっちが優ってるのに、ちょっと苦戦するともうこれだ。根性無し!
なぁにがクソゲーだよ、お前らはすぐ諦めて逃げ出すクソゲーマーじゃん。札束で殴ることしかできんのか?
……まぁ、それしかできないんだろうなぁ。勝てない時はあれこれ工夫して、四苦八苦の試行錯誤の末に勝つ。そんな遊び方は時代遅れになってしまった。
苦労して困難に打ち勝つ喜びを味わいたいのではなく、楽して勝って成り上がり、思う存分に弱い者いじめする楽しみを味わいたい。それが今のゲーマーなのだ。
こんな抜け作たちに付き合う義理なんてあるものか。サボっちまえ。さっさとやられてリスポーン地点に行き、ぐ~たらしよっと。
あたしはベクターR6をアイテム・ボックスにしまい、かわりになまくらソードを取り出す。適当な奴と斬り合ってわざとやられて、今日の業務はそれで終わり!
パティさん達との会話が終わってから数分後。ボクも、ボクの部隊のメンバーも、ようやく全員が復活した。
さっそくボクは部隊を再結成し、細心の注意を払いながら4階の通路を進みだした。
ボクたちが歩くたび、消し炭色の床に靴が当たり、小さな音を立てる。もしこの先に敵が潜んでいるなら、この音を聞きつけるかもしれない。
でも完全に音を消して歩くなんて無理だから、仕方ないことだ。それよりもステルスが使えないことのほうが辛い。ボクはチーム内チャットでぼやく。
(はぁ、ステルス状態で動けたらいいのにな~)
真面目な口調でアップルが返す。
(そんなの無理な注文でしょ。敵が基地のジャミング機能を使っている以上、どうにもできない)
(わかってるって。言ってみただけ)
(はぁ……。もっと緊張感を持ってよ)
(ごめん、なんか疲れちゃって)
(大丈夫?)
(こんくらい平気、平気! だって勝利まであと少しだもんね、へばってらんないよ!)
そう返事してボクは気を引き締める。そうだ、あと少しだ。パティさんが言ってた通り、今こそ正念場。頑張らないと!
(アップル、ボクの心配はいいから、それより☆のことを考えよう。ずっと探してるのになんで見つからないんだろ?)
(このフロアには無いのかもね)
(でもさ、この先の部屋にありそうじゃない? ここのことなんだけど……)
ボクは3Dマップを空中に映し出して、目標としている部屋を指でさし示し、言う。
(ここは金属タンクみたいな身を隠す障害物がたくさんある。それにすごく広いから、大人数で待ち伏せできる。ボクが敵の指揮官だったらここで☆を守るよ)
(なるほど……)
(ダメで元々、行ってみよう。もしそれでハズレなら、じゃあ5階に上がるってことで)
(了解)
(みんなもそれでいい? 反対がなかったらこの方針でいくよ)
反対意見はゼロだ。じゃあこのまま進もう。ボクたちは黙々と通路を歩いていく。
《白木/ホワイト・ウィッチの視点》
サーバーから時々刻々と送られてくるデータが、スエナ隊の接近をあたしに報せる。赤羽さんが言ってた通りってわけか。あたしはチーム内チャットを開いて言う。
(みんな、敵が近づいてるよ! 戦闘準備!)
仲間の誰かが質問してくる。
(どうして分かるんですか?)
(そんなんどうだっていいじゃん、早く支度して!)
緊張した空気が流れ、多くの人が武器を構えたりアイテムでバフをかけたりする。そういうあたしも左手首の腕時計型の機械を使い、バフ用の薬液を体に注入する。
よし、ひとまずこれでOK。後はスエナたちが来るのを待つだけだ。ワクワクするかも!
静かな雰囲気が訪れる。重低音の利いたBGMが場を支配し、あたしの鼓動が早まっていく。そろそろだ……そろそろ……3、2、1……来たっ!
部屋の扉が開いてスエナたちが現れ、その瞬間にあたしは命じる。
(戦闘開始! 撃ちまくれーっ!)
味方が猛射撃を始める。もちろんあたしも攻撃に加わる、隠れ場所の金属タンクから出てベクターR6を撃つ。スエナが自分の味方に命令する声が聞こえる。
「バリア展開! 散らばって突っこめ!」
ちっ、スエナのくせに的確な指示だ。それともアップルが入れ知恵したのかな? まぁどっちでもいい、こうなりゃとことん戦うだけよ!
前方めがけてありったけの弾丸を発射、敵のバリア・エナジーを大きく削り、弾切れになる直前にタンクの後ろへ引っこむ。
そうしている間に戦況が変わっていき、味方の怒号がチャット内に飛び交う。
(ダメです、ポイントA、突破されます!)
(やべぇ、敵が突っこんでくるぞ!)
(ポイントCに救援を!)
(はぁ~、これ負けじゃん。やってらんね。悪いけどログ・アウトするわ)
(あっ、お前やめんの? じゃあ俺もやめるわ)
(勝手なことするな! おい!)
(いいからお前もやめちまえよ。課金したのに勝てないクソゲーなんて、やる意味ねーだろ?)
(あのなぁ……!)
(俺は敗北画面なんて見たくねーんだよ。帰ってテレビでも見たほうがマシだわ。んじゃ、お疲れ様~)
(おつー。あたしも抜けるね)
レーダー画面から味方を示す光点が次々に消えていく。やれやれ、戦闘力ではこっちが優ってるのに、ちょっと苦戦するともうこれだ。根性無し!
なぁにがクソゲーだよ、お前らはすぐ諦めて逃げ出すクソゲーマーじゃん。札束で殴ることしかできんのか?
……まぁ、それしかできないんだろうなぁ。勝てない時はあれこれ工夫して、四苦八苦の試行錯誤の末に勝つ。そんな遊び方は時代遅れになってしまった。
苦労して困難に打ち勝つ喜びを味わいたいのではなく、楽して勝って成り上がり、思う存分に弱い者いじめする楽しみを味わいたい。それが今のゲーマーなのだ。
こんな抜け作たちに付き合う義理なんてあるものか。サボっちまえ。さっさとやられてリスポーン地点に行き、ぐ~たらしよっと。
あたしはベクターR6をアイテム・ボックスにしまい、かわりになまくらソードを取り出す。適当な奴と斬り合ってわざとやられて、今日の業務はそれで終わり!
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