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第12章 すべてを変える時

第202話 戦況 Becoming turbid

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《レーヴェの視点》
 6階の防衛拠点に立てこもっている私は、クラン内チャットの回線を開き、仲間と共にグラッパーの報告を聞く。

(こちらレーヴェ。戦況は?)
(厳しいですよ。みんなの士気が下がってて……)

 あれだけ手ひどくやられたのだ。無理もない。励ましの言葉が必要だろう。

(諸君、聞こえるか。そんなに落ちこむな、勝ち目は充分にある。なるほど、我々は1つめの☆を失ったが、しかしイベントの残り時間はもう半分も無い。
 もし敵が今のペースで攻め続けるなら、全ての☆を壊す前に時間切れとなる。すなわち我々の勝利だ!)

 チャット内に小さな歓声が流れる。これでいくらか持ち直すといいのだが。そう願い、次の話に移る。

(さて、メセドナ。グラッパー隊と合流できたか?)
(ううん、まだ。でもすぐ来ると思う)
(了解。合流したら陣形を整え、引き続きその地下2階の☆を守れ)
(ラジャー。ところで、地上のフロアは今どうなってるの?)
(ベース内部の監視カメラによれば、パトリシアの部隊が3階を進撃中だ)
(そこってスレイヤーZが守ってるんだっけ? ねぇ、Z、準備できてる?)
(もちろん! 通路の途中に待ち伏せ部隊を配置した、そろそろパトリシアたちが踏みこむぜ。
 こうやって前座で弱らせておけば、後で俺のチームが楽に撃破できるってわけだ。そういうお前こそ、アンドリューに勝つ作戦はあんのか?)
(……まぁ頑張る)
(おいおい、そんな調子で大丈夫かよ?)

 嫌な雰囲気を消し飛ばすように、ホワイト・ウィッチの元気な声が響く。

(ほらほら、メゲてないでもっとアゲてこう! でしょ、レーヴェ?)
(あぁ)
(うんうん! でね、あたしの担当の4階だけどね。今のとこは何の異状もないよ)
(了解。だが気をつけてくれ、スエナたちが向かっている)
(このまま連中をほったらかしにするの?)
(まさか。遊撃部隊を出す、挟み撃ちでつぶしてやる)
(いいね!)
(とにかく君はそこの☆を守ってくれ。絶対に突破されるな)
(りょーかい!)
(頼むぞ)

 言って通信を終える。さて……事態はどう変化していく?


《スエナの視点》
 ボクはウサギ王国のみんなを引き連れ、アップルとお喋りしながら通路を歩いている。個人間チャットを使ってだ。
 チャットよりも声で会話する方が楽なんだけど、音を出すと敵に気づかれるかもしれない。だから仕方なくチャットだ。

(ねぇ、アップル。これだけ探しても☆が見つからないって、つまりこのフロアには無いんだよ)
(かもね……)
(もう5階に上がったほうがよくない? だって……)
(待って!)

 アップルはいきなり立ち止まり、回線をチーム内チャットへと切り替えて言う。

(みんな、よく聞いて。たぶん敵が近づいてる……)

 誰かが質問する。

(どうしてそう思うんです?)
(さっき、前と後ろの方から変な音がした。私は耳のスキルを鍛えてるから、小さな音でも聞こえるんだ。人間じゃ聞き取れない音でも犬なら聞こえるでしょ?)
(なるほど……)
(スエナ、どうする?)

 結論なんて一つに決まってるさ。ボクは指示を出す。

(もちろん迎撃だ! 後ろの人たちは振り返って戦闘準備、それ以外はボクと一緒に前の敵を担当して)

 ボクは意識を集中する。全滅するわけにはいかない……必ず勝つ!


《赤羽/レッド・マスクの視点》
 我がパトリシア隊は、3階のとある広い空間にいる。ここのあちこちには柱や貯蔵タンクが林立して、まるで金属のジャングルだ。
 味方はバラバラにわかれ、こういう障害物に身を隠している。もちろん俺も、柱の後ろに一人で隠れている。

 こうなった理由は簡単だ。さっき広間に踏みこんだ時、待ち伏せていたレイザーズの部隊に襲われて散り散りになったからだ。
 まったく……。ぼやいていると、前から敵の弾が飛んできてタンクに当たり、カン、カンッと高い音が響く。これじゃ身動きとれねぇぞ、クソッ。

 ひとまずサーバーからデータを取って状況を調べる。ふむ、敵の数は少ない。それに一人あたりのパワーも低い、たぶん足止め用の捨て駒だな。
 弱兵だらけで無理がきかないなら、積極的に攻めて来ないはず。じゃ、この隙に他の部隊の状況も確かめるとしよう。

 スエナ隊は……こっちも襲われてるのか。しかも挟み撃ち、これじゃあ生き残ってもボロボロになるだろうな。
 いよいよレイザーズも本気ってわけだ。で、肝心のアンドリュー隊は? げっ……もうメセドナのとこに着いたのか!

 さっきみたいな事件が起きなきゃいいが……。なぁ、あれだけ暴れりゃスッキリしただろ? だったら今後はおとなしく遊んでくれ、頼むぜ。


《アンドリューの視点》
 部隊を通路の曲がり角に控えさせ、俺はチーム内チャットを使う。

(全員、聞いてくれ。この先の倉庫にきっと☆がある、もちろん敵もな。そして倉庫の前にも敵がいるはずだ、まずはこれを叩く)

 そう言って俺はスパス12を構え、突入準備をするよう無言でうながす。味方が次々に武器を手に取る、だがアカネが文句を垂れる。

(また力攻めですか?)
(そんなに不満ならログ・アウトしろよ)
(別に不満なんて……。ただ、ひとつ言いたいだけです)
(なんだ?)
(みなさん、さっきみたいな乱暴はもうやめましょう。既に充分すぎるほど復讐したわけで、これ以上は無意味、何より時間の無駄です。
 さっさと敵を倒して☆を壊して、そしたら上のフロアにあがって味方を助けないと……)
(だとさ、みんな)

 ドライアイスのように冷たい笑い声がチャット内にこだまする。

(ヒヒッ……)
(ははははは……)
(ふぅーん……)

 俺はアカネに話す。

(ハッ! 俺からもひとつ言っておこう、我がネメシスは止まらない特急列車だ。最後の駅に着くまで走り続ける。
 そして、もし線路の上に邪魔なものがあれば、猛スピードで踏みつぶす。わかったか?)
(……)

 アカネは渋い顔を浮かべ、何も返答しない。まぁ好きにしろ、どうせ大したことはできない。気を取り直して俺は命令する。

(準備OKだな? では、いくぞ!)

 喜劇の第二幕を始めよう!
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