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第12章 すべてを変える時

第199話 フェスティバル Fearful feast

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《グラッパーの視点》
 俺は、巨大コンテナの後ろに身を隠し、そこから見える☆マークをながめている。
 これを守り抜くことが防衛部隊のリーダーたる俺の任務。だができるのか? 仲間から次々に届く連絡が、俺の不安をかき立てる。

(グラッパーさん、アンドリューです! 敵部隊のリーダーはアンドリュー!)
(援軍を! 早く!)

 突如、若い女の悲鳴がチャット回線にこだまする。

(助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)

 俺は必死に呼びかける。

(おい、どうした!?)

 返事はない。クソッ……何があった? もう一度よびかける。

(おい! どうしたんだ!)
(アンドリューと戦って……! あっ…! ひぃっ! 許して、助けてっ!)
(おい、おい!)
(やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!)


 あまりに恐ろし気な悲鳴に圧倒され、俺は黙ってしまう。少しの時間が経過……やがて、彼女のすすり泣く声が聞こえてくる。

(ひぐっ……ひっ……ひっ……)
(大丈夫か?)
(もうやだああああああああああああああああ! やめる!)

 ゲームからのメッセージがチャット回線に表示される。

(デーナがログ・アウトしました)

 争奪戦の最中にログ・アウトしたら、もうその戦いに戻れない。つまり彼女は勝負の途中で逃げたってことじゃないか!
 ただでさえ戦力不足でキツいんだぞ! 自分勝手にいなくなるな、クソッ! 俺は怒鳴り散らそうとする、だが新たな報告がそれを邪魔する。

(グラッパーさん! 敵部隊が突っこんできます!)
(だったらいったん下がれ! 全員、このコンテナに集合!)

 何人かが(はい!)(了解!)などと応える。だが普通の言葉ではなく悲鳴で応える奴らもいる。

(いやああああぁああああぁぁぁあああああぁ!)
(わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)

 単なる戦争イベントなのに、どうしてこんな騒ぎになる! 理由はなんだ!

(お前ら、何が起きてんだ! 教えろ!)
(アンドリューの部隊が乱暴するんです! こっちが死んだ後でも死体を撃ったり、顔を踏みつぶしたり、とにかくもう滅茶苦茶で……)
(マナー違反じゃねーか!)
(でもとにかくそうなんです! こんなの、ゲームじゃなくて暴力の嵐だ! 犯罪だ……!)

 俺の心に恐怖が忍び寄る。同時に理性が言う。こうなることは予想済み、レイザーズに対するネメシスの復讐心を考えれば、どんな惨事が起きても不思議じゃない。
 ちくしょう! アンドリューめ、なんでよりによって俺のところに! ここじゃなくて地上のフロアを攻めろよ! クソォーーーーーーーッ!


《姉川/アカネの視点》
 巨大コンテナを目指して走る私の視界に、地獄と化した戦場の様子が映る。
 例えばあるところでは、味方の1人が敵を羽交い絞めにし、別の味方1人がそれを殴り続けている。

「やめろ、やめてくれ!」
「うるせえッ!」
「頼む、許して……」
「うるせぇっつってんだろ、ボケッ!」

 私は暴行の現場へ割って入り、殴っている味方を止める。

「ちょっと! やめなさい!」
「誰だ!」
「アカネです! とにかくやめなさい、敵はとっくに死んでるでしょ!」
「ようやく手に入れた復讐のチャンスですよ! まだ殴り足りない!」
「そんなことをして何になる!?」
「理屈はどうでもいい、とにかくこの怒りをぶちまけたい、それだけです!」
「いいからもうやめなさい! 今は巨大コンテナを攻略しなくちゃいけないんだから、無駄なことをしてる暇は……」

 話の途中で敵の死体が消える。リスポーン地点へ戻ったのだろう。こうなっては暴行を続けるなんて出来ない、味方2人は不満そうな顔で言う。

「ちっ……」
「分かりましたよ、じゃあコンテナ行きますから!」

 あたりを見ると、これと同じようなことがいくつも繰り広げられている。吐き気に似た不快感がこみあげる、思わず秘密回線でボスに言う。

(梅下さん、こんなのひど過ぎます! どうしたらいいんですか!)
(まぁ落ち着きなさい。ネメシスが望んでいたのはこういう光景で、誰もがそのためにたくさん課金してきた。
 要するに、ネメシスはこの暴力のフェスティバルを購入したんです。だから存分に堪能させてあげなさい)
(でも……)
(いいから貴方は自分の仕事をしてください。速やかに☆を破壊せよ。そうすればここでの戦いが終わり、フェスティバルも終わります)
(……はい)

 私は通信を打ち切る。そしてため息をつき、思う。自分は何のためにゲームの仕事をやっている? 人を楽しませるため? いや、でも、現実は逆の……。
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