202 / 227
第12章 すべてを変える時
第199話 フェスティバル Fearful feast
しおりを挟む
《グラッパーの視点》
俺は、巨大コンテナの後ろに身を隠し、そこから見える☆マークをながめている。
これを守り抜くことが防衛部隊のリーダーたる俺の任務。だができるのか? 仲間から次々に届く連絡が、俺の不安をかき立てる。
(グラッパーさん、アンドリューです! 敵部隊のリーダーはアンドリュー!)
(援軍を! 早く!)
突如、若い女の悲鳴がチャット回線にこだまする。
(助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)
俺は必死に呼びかける。
(おい、どうした!?)
返事はない。クソッ……何があった? もう一度よびかける。
(おい! どうしたんだ!)
(アンドリューと戦って……! あっ…! ひぃっ! 許して、助けてっ!)
(おい、おい!)
(やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!)
あまりに恐ろし気な悲鳴に圧倒され、俺は黙ってしまう。少しの時間が経過……やがて、彼女のすすり泣く声が聞こえてくる。
(ひぐっ……ひっ……ひっ……)
(大丈夫か?)
(もうやだああああああああああああああああ! やめる!)
ゲームからのメッセージがチャット回線に表示される。
(デーナがログ・アウトしました)
争奪戦の最中にログ・アウトしたら、もうその戦いに戻れない。つまり彼女は勝負の途中で逃げたってことじゃないか!
ただでさえ戦力不足でキツいんだぞ! 自分勝手にいなくなるな、クソッ! 俺は怒鳴り散らそうとする、だが新たな報告がそれを邪魔する。
(グラッパーさん! 敵部隊が突っこんできます!)
(だったらいったん下がれ! 全員、このコンテナに集合!)
何人かが(はい!)(了解!)などと応える。だが普通の言葉ではなく悲鳴で応える奴らもいる。
(いやああああぁああああぁぁぁあああああぁ!)
(わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)
単なる戦争イベントなのに、どうしてこんな騒ぎになる! 理由はなんだ!
(お前ら、何が起きてんだ! 教えろ!)
(アンドリューの部隊が乱暴するんです! こっちが死んだ後でも死体を撃ったり、顔を踏みつぶしたり、とにかくもう滅茶苦茶で……)
(マナー違反じゃねーか!)
(でもとにかくそうなんです! こんなの、ゲームじゃなくて暴力の嵐だ! 犯罪だ……!)
俺の心に恐怖が忍び寄る。同時に理性が言う。こうなることは予想済み、レイザーズに対するネメシスの復讐心を考えれば、どんな惨事が起きても不思議じゃない。
ちくしょう! アンドリューめ、なんでよりによって俺のところに! ここじゃなくて地上のフロアを攻めろよ! クソォーーーーーーーッ!
《姉川/アカネの視点》
巨大コンテナを目指して走る私の視界に、地獄と化した戦場の様子が映る。
例えばあるところでは、味方の1人が敵を羽交い絞めにし、別の味方1人がそれを殴り続けている。
「やめろ、やめてくれ!」
「うるせえッ!」
「頼む、許して……」
「うるせぇっつってんだろ、ボケッ!」
私は暴行の現場へ割って入り、殴っている味方を止める。
「ちょっと! やめなさい!」
「誰だ!」
「アカネです! とにかくやめなさい、敵はとっくに死んでるでしょ!」
「ようやく手に入れた復讐のチャンスですよ! まだ殴り足りない!」
「そんなことをして何になる!?」
「理屈はどうでもいい、とにかくこの怒りをぶちまけたい、それだけです!」
「いいからもうやめなさい! 今は巨大コンテナを攻略しなくちゃいけないんだから、無駄なことをしてる暇は……」
話の途中で敵の死体が消える。リスポーン地点へ戻ったのだろう。こうなっては暴行を続けるなんて出来ない、味方2人は不満そうな顔で言う。
「ちっ……」
「分かりましたよ、じゃあコンテナ行きますから!」
あたりを見ると、これと同じようなことがいくつも繰り広げられている。吐き気に似た不快感がこみあげる、思わず秘密回線でボスに言う。
(梅下さん、こんなのひど過ぎます! どうしたらいいんですか!)
(まぁ落ち着きなさい。ネメシスが望んでいたのはこういう光景で、誰もがそのためにたくさん課金してきた。
要するに、ネメシスはこの暴力のフェスティバルを購入したんです。だから存分に堪能させてあげなさい)
(でも……)
(いいから貴方は自分の仕事をしてください。速やかに☆を破壊せよ。そうすればここでの戦いが終わり、フェスティバルも終わります)
(……はい)
私は通信を打ち切る。そしてため息をつき、思う。自分は何のためにゲームの仕事をやっている? 人を楽しませるため? いや、でも、現実は逆の……。
俺は、巨大コンテナの後ろに身を隠し、そこから見える☆マークをながめている。
これを守り抜くことが防衛部隊のリーダーたる俺の任務。だができるのか? 仲間から次々に届く連絡が、俺の不安をかき立てる。
(グラッパーさん、アンドリューです! 敵部隊のリーダーはアンドリュー!)
(援軍を! 早く!)
突如、若い女の悲鳴がチャット回線にこだまする。
(助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)
俺は必死に呼びかける。
(おい、どうした!?)
返事はない。クソッ……何があった? もう一度よびかける。
(おい! どうしたんだ!)
(アンドリューと戦って……! あっ…! ひぃっ! 許して、助けてっ!)
(おい、おい!)
(やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!)
あまりに恐ろし気な悲鳴に圧倒され、俺は黙ってしまう。少しの時間が経過……やがて、彼女のすすり泣く声が聞こえてくる。
(ひぐっ……ひっ……ひっ……)
(大丈夫か?)
(もうやだああああああああああああああああ! やめる!)
ゲームからのメッセージがチャット回線に表示される。
(デーナがログ・アウトしました)
争奪戦の最中にログ・アウトしたら、もうその戦いに戻れない。つまり彼女は勝負の途中で逃げたってことじゃないか!
ただでさえ戦力不足でキツいんだぞ! 自分勝手にいなくなるな、クソッ! 俺は怒鳴り散らそうとする、だが新たな報告がそれを邪魔する。
(グラッパーさん! 敵部隊が突っこんできます!)
(だったらいったん下がれ! 全員、このコンテナに集合!)
何人かが(はい!)(了解!)などと応える。だが普通の言葉ではなく悲鳴で応える奴らもいる。
(いやああああぁああああぁぁぁあああああぁ!)
(わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)
単なる戦争イベントなのに、どうしてこんな騒ぎになる! 理由はなんだ!
(お前ら、何が起きてんだ! 教えろ!)
(アンドリューの部隊が乱暴するんです! こっちが死んだ後でも死体を撃ったり、顔を踏みつぶしたり、とにかくもう滅茶苦茶で……)
(マナー違反じゃねーか!)
(でもとにかくそうなんです! こんなの、ゲームじゃなくて暴力の嵐だ! 犯罪だ……!)
俺の心に恐怖が忍び寄る。同時に理性が言う。こうなることは予想済み、レイザーズに対するネメシスの復讐心を考えれば、どんな惨事が起きても不思議じゃない。
ちくしょう! アンドリューめ、なんでよりによって俺のところに! ここじゃなくて地上のフロアを攻めろよ! クソォーーーーーーーッ!
《姉川/アカネの視点》
巨大コンテナを目指して走る私の視界に、地獄と化した戦場の様子が映る。
例えばあるところでは、味方の1人が敵を羽交い絞めにし、別の味方1人がそれを殴り続けている。
「やめろ、やめてくれ!」
「うるせえッ!」
「頼む、許して……」
「うるせぇっつってんだろ、ボケッ!」
私は暴行の現場へ割って入り、殴っている味方を止める。
「ちょっと! やめなさい!」
「誰だ!」
「アカネです! とにかくやめなさい、敵はとっくに死んでるでしょ!」
「ようやく手に入れた復讐のチャンスですよ! まだ殴り足りない!」
「そんなことをして何になる!?」
「理屈はどうでもいい、とにかくこの怒りをぶちまけたい、それだけです!」
「いいからもうやめなさい! 今は巨大コンテナを攻略しなくちゃいけないんだから、無駄なことをしてる暇は……」
話の途中で敵の死体が消える。リスポーン地点へ戻ったのだろう。こうなっては暴行を続けるなんて出来ない、味方2人は不満そうな顔で言う。
「ちっ……」
「分かりましたよ、じゃあコンテナ行きますから!」
あたりを見ると、これと同じようなことがいくつも繰り広げられている。吐き気に似た不快感がこみあげる、思わず秘密回線でボスに言う。
(梅下さん、こんなのひど過ぎます! どうしたらいいんですか!)
(まぁ落ち着きなさい。ネメシスが望んでいたのはこういう光景で、誰もがそのためにたくさん課金してきた。
要するに、ネメシスはこの暴力のフェスティバルを購入したんです。だから存分に堪能させてあげなさい)
(でも……)
(いいから貴方は自分の仕事をしてください。速やかに☆を破壊せよ。そうすればここでの戦いが終わり、フェスティバルも終わります)
(……はい)
私は通信を打ち切る。そしてため息をつき、思う。自分は何のためにゲームの仕事をやっている? 人を楽しませるため? いや、でも、現実は逆の……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ポイントセンサー
岡智 みみか
SF
人格の全てを数値で表される世界
個人の人格を総合的に評価し、数値で現す時代。そのポイントの管理・運営を司るパーソナルポイント管理運営事務局、略してPP局に勤める主人公の明穂は、同じ部署の仲間と共に日々自己のPPアップと局の仕事に邁進していた。
元SPの横田や、医師の資格を持つさくら、中性的な男の子の市山など、様々な個性あふれるメンバーとの交流を重ねながら、明穂はPPという制度の利点と矛盾に悩みつつも、やがて大きな事件へと巻き込まれてゆくーー。
遥かなるマインド・ウォー
弓チョコ
SF
西暦201X年。
遥かな宇宙から、ふたつの来訪者がやってきた。
ひとつは侵略者。人間のような知的生命体を主食とする怪人。
もうひとつは、侵略者から人間を守ろうと力を授ける守護者。
戦争が始まる。
※この物語はフィクションです。実在する、この世のあらゆる全てと一切の関係がありません。物語の展開やキャラクターの主張なども、何かを現実へ影響させるような意図のあるものではありません。
神水戦姫の妖精譚
小峰史乃
SF
切なる願いを胸に、神水を求め、彼らは戦姫による妖精譚を織りなす。
ある日、音山克樹に接触してきたのは、世界でも一個体しか存在しないとされる人工個性「エイナ」。彼女の誘いに応じ、克樹はある想いを胸に秘め、命の奇跡を起こすことができる水エリクサーを巡る戦い、エリキシルバトルへの参加を表明した。
克樹のことを「おにぃちゃん」と呼ぶ人工個性「リーリエ」と、彼女が操る二十センチのロボット「アリシア」とともに戦いに身を投じた彼を襲う敵。戦いの裏で暗躍する黒幕の影……。そして彼と彼の大切な存在だった人に関わる人々の助けを受け、克樹は自分の道を切り開いていく。
こちらの作品は小説家になろう、ハーメルン、カクヨムとのマルチ投稿となります。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
愛しのアリシア
京衛武百十
SF
彼女の名前は、<アリシア2234-LMN>。地球の日本をルーツに持つ複合企業体<|APAN-2(ジャパンセカンド)>のロボティクス部門が製造・販売するメイド型ホームヘルパーロボットの<アリシアシリーズ>の一体である。
しかし彼女は、他のアリシアシリーズとは違った、ユニークな機体だった。
まるで人間の少女のようにくるくると表情が変わり、仕草もそれこそ十代の少女そのものの、ロボットとしてはひどく落ち着きのないロボットなのである。
なぜなら彼女には、<心>としか思えないようなものがあるから。
人類が火星にまで生活圏を広げたこの時代でも、ロボットに搭載されるAIに<心>があることは確認されていなかった。それを再現することも、意図的に避けられていた。心を再現するためにリソースを割くことは、人間大の機体に内蔵できるサイズのAIではまったく合理的ではなかったからである。
けれど、<千堂アリシア>とパーソナルネームを与えられた彼女には、心としか思えないものがあるのだ。
ただしそれは、彼女が本来、運用が想定されていた条件下とは全く異なる過酷な運用が行われたことによって生じた<バグ>に過ぎないと見られていた。
それでも彼女は、主人である千堂京一を愛し、彼の役に立ちたいと奮闘するのであった。
絶命必死なポリフェニズム ――Welcome to Xanaduca――
屑歯九十九
SF
Welcome to Xanaduca!
《ザナドゥカ合衆国》は世界最大の経済圏。二度にわたる世界終末戦争、南北戦争、そして企業戦争を乗り越えて。サイバネティクス、宇宙工学、重力技術、科学、化学、哲学、娯楽、殖産興業、あらゆる分野が目覚ましい発展を遂げた。中でも目立つのは、そこら中にあふれる有機化学の結晶《ソリドゥスマトン》通称Sm〈エスエム、ソードマトン〉。一流企業ならば必ず自社ブランドで売り出してる。形は人型から動物、植物、化け物、機械部品、武器。見た目も種類も役目も様々、いま世界中で普及してる新時代産業革命の象徴。この国の基幹産業。
〔中略〕
ザナドゥカンドリームを求めて正規非正規を問わず入国するものは後を絶たず。他国の侵略もたまにあるし、企業や地域間の戦争もしばしば起こる。暇を持て余すことはもちろん眠ってる余裕もない。もしザナドゥカに足を踏み入れたなら、郷に入っては郷に従え。南部風に言えば『銃を持つ相手には無条件で従え。それか札束を持ってこい』
〔中略〕
同じザナドゥカでも場所が違えばルールも価値観も違ってくる。ある場所では人権が保障されたけど、隣の州では、いきなり人命が靴裏のガムほどの価値もなくなって、ティッシュに包まれゴミ箱に突っ込まれるのを目の当たりにする、かもしれない。それでも誰もがひきつけられて、理由はどうあれ去ってはいかない。この国でできないことはないし、果たせぬ夢もない。宇宙飛行士から廃人まで君の可能性が無限に広がるフロンティア。
――『ザナドゥカ観光局公式パンフレット』より一部抜粋
機動幻想戦機
神無月ナデシコ
SF
リストニア大陸に位置する超大国ヴァルキューレ帝国は人型強襲兵器HARBT(ハービット)の製造に成功し勢力を拡大他国の領土を侵略していった。各国はレジスタンス組織を結成し対抗するも軍事力の差に圧倒され次々と壊滅状態にされていった。
これはその戦火の中で戦う戦士達と友情と愛、そして苦悩と決断の物語である。
神無月ナデシコ新シリーズ始動、美しき戦士達が戦場を駆ける。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる