上 下
201 / 227
第12章 すべてを変える時

第198話 命乞いへの答え Never forgive you

しおりを挟む
《姉川/アカネの視点》
 私の属するアンドリュー隊は、地下1階の通路を歩いている。多くの金属パイプに囲まれたここは、薄暗くて見通しが悪く、おまけに狭い。
 こんな嫌なところはさっさとおさらばしたい、そう思っていると前方に大きな扉が見えてくる。

 全員が足を止め、様子をうかがう。見た限りでは何の異常もなさそうだ。じゃあ扉の向こう側は?
 私はベースのミニ・マップを呼び出し、構造を確かめる。この先は広間になっていて、身を隠せるような柱やコンテナがたくさん存在するらしい。

 今度はサーバーからデータを取ってきて読む。うわっ……☆と防衛部隊まで存在しているようだ。このまま進めば絶対に戦うことになる。
 横に立っているアンドリューの顔をそっとうかがう。ニヤニヤ笑いを浮かべている彼は、私に気づいて話しかけてくる。

「お前の言いたいことは分かるさ。この先は敵が待ち構えている、なのに踏みこむなんて賛成できない。そうだろ?」
「えぇ」
「ハハハハハハハハハハハ!」

 そうやって大声でアンドリューは笑い、怒鳴る。

「前進あるのみだ!」

 私が異論を挟む前に、彼は扉へ駆け寄って蹴り飛ばす。衝撃によって扉のスイッチがオンになり、少しずつ開いていく。アンドリューは叫ぶ。

「さぁ、お前たち! 俺についてこい!」

 扉が開ききる。スペクトラを手にしたアンドリューが入っていく。
 こうなってしまった以上、もう後には退けない。私は(どうにでもなれ!)とヤケッパチな気分になり、他の人たちと一緒にアンドリューを追いかける。

 広間に入る。途端、四方八方から敵の弾丸が飛んでくる。すぐにバリアで身を守り、全力で走って近くの柱の陰に飛びこむ。
 まったく! 作戦もなにもあったもんじゃない。どうしてアンドリューはこうも野蛮なんだろう? 付き合わされるこっちの都合も考えろ、クソ野郎!

 激しくイラつきながらデータを再確認する。敵と味方の位置、☆の所在地、そういったものを超特急で頭に流しこむ。
 敵の数はそんなに多くない、だがあちこちに散開して上手に連携し合い、守りを固めている。うかつに攻めると袋叩きだ。

 どうする? どう攻略する? あるいは、味方が全滅するように誘導して、いったんリスポーン地点に戻るべきか。
 アンドリューの考えを知りたい。それが分かれば彼に合わせて行動できるのに……。


《アンドリューの視点》
 突入した俺は、敵陣ド真ん中でスペクトラを射つ。前のザコ3人をすぐに殺し、銃の残弾を確認する。ちっ……かなり減ったな。
 敵の反撃で俺のHPも減ったし、いったん隠れて態勢を立て直そう。射撃を中断し、左側にあるコンテナの陰にかくれる。

 回復アイテムで傷を癒やして考える。☆はどこだ? 仲間の誰かが見つけてるといいんだが……。確認してみよう。

(おい! ☆は見つかったか?)
(アンドリューさん、奥です。奥の巨大コンテナの後ろに☆が見えます)
(よし!)
(どうしますか?)
(ふむ……)

 画面右隅のミニ・マップに視線をやり、戦場の様子を見て考える。敵の守りは確かに堅い、しかしこっちは頭数で優っている。
 犠牲を覚悟すれば力攻めで勝てるだろう。そして我がネメシスに、やられることを恐れる軟弱者など存在しない。ならば結論は一つ!

(全員よく聞け。俺が合図したら、隠れ場所から出て総攻撃だ。巨大コンテナへ走れ)

 即座にアカネが反論してくる。

(そんなの無謀すぎですよ! スモーク・グレネードで煙幕を張るとか、もっと慎重に……)
(のんびり攻めるヒマなどない)
(でも……)
(リーダーの俺に従え!)

 うるさいぞ、クソアマ! いつもいつも口答えして! この戦争が終わったらクランから追放してやる、俺はそう決心することで頭を冷やし、命令を出す。

(いくぞ! 突撃!)

 俺はコンテナの陰から飛び出し、左斜め前の敵2人を撃ち殺す。そうしている間に別の場所の敵1人が俺を攻撃してくる。
 うっとうしいハエめ! 俺は、重課金で鍛えた防御力に物を言わせ、強引に弾丸の嵐を突っ切る。相手を射程内にとらえ、撃つ!

「死ね!」

 一気に殺す。ここでスペクトラの弾がゼロになる、仕方ないので投げ捨てる。
 奥の左右の柱に隠れている敵2人が俺に気づく。奴らは柱から少しだけ体を出して攻撃態勢をとり、ハンドガンを撃ってくる。

 俺はバリアを張って防御、その間に右手で腰のナイフを抜く。敵へ向かって走り、間合いを詰めていく。
 力いっぱい跳んで右の柱へ。隠れている敵の眼前に立つ。アジア人の男だ。

「うおっ!?」

 驚くその顔を左拳で殴り、腹に膝蹴りをぶちこむ。そしてナイフで切り刻む。

「わあぁぁああぁぁーーーーーーーーーーっ!」
「ハハハハハハハハハハ!」

 爽快、爽快! 戦いはこうでなくっちゃな! ザコの悲鳴こそ俺の喜び、弱者の絶叫こそ俺の楽しみ!
 男のHPが尽きて死体となり、無様な声を出す。「ひぃっ……!」。こんなゴミはもういらん、俺はそれを放り捨てて後ろを向く。

 お次の敵は、もう一つの柱に隠れている黒人の女だ。彼女へ向かって大きくジャンプし、さらに空中ジャンプで距離を稼ぐ。接近戦の間合いに入った、処刑開始!
 落下の勢いを利用してナイフを強く振るい、女の顔を切り裂く。

「キャァァァァァァァァーーーーーーッ!」

 いいぞ、もっとわめけ! 大声で、みじめに、みっともなく! のたうち回れ!
 俺は女の服をつかんで力ずくで引き寄せ、頭突きをかます。女の手からハンドガンが滑り落ちる、気絶の状態異常になった証拠だ。もう抵抗できまい!

 女を地面に突き倒す。馬乗りになって押さえつけ、ナイフを逆手に握り直して顔へ刺す。

「助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 顔だけでなく他のところも刺していく。肩、胸、両腕! すべて潰す!

「やめて……許して……やめ……」

 女の泣き声が響く中、ふとあるアイデアを思いつく。俺はナイフを捨てて、自分の腰のベレッタ M92を抜き、女の顔に押し当てる。

「なぁ、お前。これからどうなると思う?」
「ひィッ……! 許して、助けてっ!」
「黙れ! いついかなる時も、何が起きようと、俺はレイザーズの人間を許さん! すべてぶっ殺す!」
「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 トリガーを引く。女が即死する。このゲームには残虐描写を抑える仕組みがあるから、頭蓋骨が砕け散るとかそういう事態は起きない。
 だが女の心は砕け散った。彼女はすすり泣く。

「ひぐっ……ひっ……ひっ……」

 俺は、女の体から立ち上がって満足げに見下ろす。顔へ向かってツバを吐き、最後のセリフをプレゼントする。

「今回はこれぐらいで勘弁してやる。失せろ、ド畜生!」

 女の体が消える。よし、一件落着! それでは☆攻略作戦を再開しよう。俺は気を取り直して巨大コンテナへ走り出す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遥かなるマインド・ウォー

弓チョコ
SF
西暦201X年。 遥かな宇宙から、ふたつの来訪者がやってきた。 ひとつは侵略者。人間のような知的生命体を主食とする怪人。 もうひとつは、侵略者から人間を守ろうと力を授ける守護者。 戦争が始まる。 ※この物語はフィクションです。実在する、この世のあらゆる全てと一切の関係がありません。物語の展開やキャラクターの主張なども、何かを現実へ影響させるような意図のあるものではありません。

ポイントセンサー

岡智 みみか
SF
人格の全てを数値で表される世界    個人の人格を総合的に評価し、数値で現す時代。そのポイントの管理・運営を司るパーソナルポイント管理運営事務局、略してPP局に勤める主人公の明穂は、同じ部署の仲間と共に日々自己のPPアップと局の仕事に邁進していた。  元SPの横田や、医師の資格を持つさくら、中性的な男の子の市山など、様々な個性あふれるメンバーとの交流を重ねながら、明穂はPPという制度の利点と矛盾に悩みつつも、やがて大きな事件へと巻き込まれてゆくーー。

Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei
SF
最新のVRゲームを手に入れた彼は早速プレイを開始した。

デリートマン

わいんだーずさかもと
SF
人を殺すわけではなく、消すこのできるサイト「デリートサイト」。 その会員となった田坂智は人を消す力を手に入れた。 (人を消すとはどういうことだ?人なんて消して良い訳がない) デリートサイトの会員となり、デリートマンとなった田坂智。彼は葛藤の中で、人々を消していく。。。

終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで

@midorimame
SF
ゾンビだらけになった終末の世界のはずなのに、まったくゾンビにあったことがない男がいた。名前は遠藤近頼22歳。彼女いない歴も22年。まもなく世界が滅びようとしているのにもかかわらず童貞だった。遠藤近頼は大量に食料を買いだめしてマンションに立てこもっていた。ある日隣の住人の女子大生、長尾栞と生き残りのため業務用食品スーパーにいくことになる。必死の思いで大量の食品を入手するが床には血が!終焉の世界だというのにまったくゾンビに会わない男の意外な結末とは?彼と彼をとりまく女たちのホラーファンタジーラブコメ。アルファポリス版

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

最強のVRMMOプレイヤーは、ウチの飼い猫でした ~ボクだけペットの言葉がわかる~

椎名 富比路
SF
 愛猫と冒険へ! → うわうちのコ強すぎ    ペットと一緒に冒険に出られるVRMMOという『ペット・ラン・ファクトリー』は、「ペットと一緒に仮想空間で遊べる」ことが売り。  愛猫ビビ(サビ猫で美人だから)とともに、主人公は冒険に。 ……と思ったが、ビビは「ネコ亜人キャラ」、「魔法攻撃職」を自分で勝手に選んだ。  飼い主を差し置いて、トッププレイヤーに。  意思疎通ができ、言葉まで話せるようになった。  他のプレイヤーはムリなのに。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

処理中です...