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第12章 すべてを変える時

第190話 すばらしいレヴェリー・プラネット Something wrong with our planet

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 これから戦いが始まるんだ、のん気にお喋りなどしてられない。しかし無視して後でトラブルになるのも嫌だ。とりあえず応じよう。

(こちらパトリシア)
(ハロー、どうも! スエナです!)
(……なんの用事ですか)
(ちょっとパティさんの様子が気になって。体調はどうですか?)
(問題ありません)
(じゃあ心の状態は?)
(そっちも大丈夫です。オールライトですよ)
(でも無理してそう言ってませんか? だって、さっきパティさんと話した時、どこか思いつめた表情だったから、それで心配になって……)
(ありがとう。けど、本当に大丈夫ですから)
(はい!)

 スエナにはいろいろと欠点がある。でも欠点ばかりではない、こういう優しさは彼女の長所だ。
 こんないい子を自分の目的のために都合よく利用するのは、もちろんいい気がしない。だが甘いことをいってたらレイザーズには勝てない。冷酷さも必要だ。

 人間関係や社会が、心理学者の主張するように、優しさとか思いやりとか助け合いを基礎としていたらよかったのに。時々そう思う。
 悲しいことに現実は逆だ。無慈悲に獲物を殺して食う肉食動物の論理、それと、隙あらば他人を犠牲にして己の利得を最大化しようとする生き方、これら2つが基礎だ。

 さらに嫌なことに、人間の世界では食う側と食われる側がしばしば入れ替わる。食われて憎しみを溜めた人は、復讐の牙を研ぎ、いつか食った相手に襲いかかる。
 今のわたしがまさにそうだ。かつてレイザーズに襲われ、激しく憎み、今はこうして逆にレイザーズに襲いかかる人間としてこの場にいる。

 クソッ! なにもかもクソだ! かつてのわたしは、どうしてこんな報復地獄を天国と思いこんでいたのだろう? それは愚かな錯覚だった……。

(あの、パティさん?)
(……うん?)
(ずーっと黙ってましたけど、どうしたんですか?)
(まぁ、ちょっとね……)
(困ってるなら言ってください、ボク、力になりますから!)
(ありがとう。でも、たいしたことじゃないから)
(すみません、失礼を承知で言わせてください。パティさん、何かをごまかそうとしてませんか? 言いたいことがあるのに黙ったままで済ますのは、よくないですよ)

 ……そこまで言われちゃ、さすがに、ね。

(じゃあ打ち明けるけど……。あのね、この戦いが終わった後、わたし……引退するから)
(引退? どうしてですか、何か理由でもあるんですか?)

 理由ねぇ。物は試しだ、言うだけ言ってみよう。

(このゲームに心底ウンザリした。それが引退の理由です。
 スエナさん、わたしはこのゲームを遊んで2つのことを理解しました。
 1つ、人間は弱い者いじめが大好きで、弱い者から財産を奪い、そして弱い者いじめでストレスやルサンチマンを発散するのが大好き、ということ。
 2つ、いじめられた人は復讐心によっていじめ返し、いじめ返された人はまた逆襲していじめ、つまり世の中はいじめと憎しみの連鎖になっている、ということ。
 そして今の社会は、こういう連鎖を利用して儲ける仕組みを発明した。レヴェリー・プラネットはその典型例。
 これは、みんなが思ってるような楽しいビデオ・ゲームなんかじゃない。むしろその実態は、憎しみを燃料にして動く集金装置、形容しがたい電子データのゴミ!)
(パティさん……)

 わたしは語気を強めて言う。

(このゲームには、わざとプレイヤーたちの憎しみを煽るカラクリがたくさん仕掛けてある。たとえばモンスターの横取りがそう。
 2000年代に作られた古いオンライン・ゲームですら、横取りを防止する機能がゲームに搭載されていた。じゃあなぜプラネットにはないのか?
 考えるまでもない簡単なクイズです。そう、ここの運営は横取りによって憎しみを発生させたいから、わざとその機能をつけなかった。
 運営は、プレイヤー同士が助け合うのではなく、むしろケンカや殺し合いをすることを、そして憎み合って争い合うことを望んでいる……。
 スエナさんはそう感じないの? わたしはいつだって、誰かにわたしの心を操作され、怒りや憎しみ、不安や恐怖を煽られているような、そんな気がする)
(それは……思いこみじゃないですか?)
(かもしれない。まぁ真相がなんであるにせよ、わたしはね、ウンザリ! もうこのゲームにはウンザリです! だからやめる。
 もちろんこの戦いには全力を尽くしますよ。だってわたしにはこれまでの恨みがある、気が済むまでとことんレイザーズを殺し、潰し、駆逐し、撃滅する。
 そしてそれが終わったら引退する。この憎しみのゲームから卒業して、二度と戻らない)
(……いいんですか、それで?)
(さぁね。わたしにはもう何も分からない、まぁ、復讐が達成できればそれで満足です。充分すぎるほど充分)

 そうだ、それで充分だ。それ以上なにを望む必要がある? 今のわたしは運営の手のひらで踊る、怒り狂った愚かなサルに過ぎない。そんなことは百も承知。
 承知の上であえて今回は踊る。運営が望む馬鹿踊りを披露して、金だって使ってやる。だからせめていいエンディングが見たい。ここまでやって敗北は絶対に嫌だ。

 そんなことを思った直後、運営からのアナウンスが機械音声で読み上げられる。

「これよりグレート・ベース争奪戦を開始します。参加者は行動を始めてください」

 会話を切り上げるにはちょうどいいタイミングだ。わたしは言う。

(スエナさん、とにかく今は目の前の戦いに集中しましょう。お喋りはまた後で)
(いや、でも……)
(武運を祈ります!)

 無理やりチャット回線を閉じる。そして気合いを入れて敵陣をにらむ。
 さぁ、すべてを清算する時だ!
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