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第11章 この社会の平和を守るために
第175話 勝利は金持ちの手中だけに存在する Are we goin' backwards, or forwards?
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ゴホン、ともったいぶった咳をして、デンマは語る。
「勝ち組が最初に考えた必勝法は、負け組から教育の機会を奪うことだ。金持ちは寄付を通じて名門校の仕組みを変更し、大金がなければ入学できないようにした。
そういうわけだから、貧乏人の子どもはいくら頭が良くても高学歴になれない。学歴が低ければいい仕事に就職できない、よっていつまでも貧乏な負け組のままだ。
金持ちはこの次に、負け組が努力して成果をだしても出世させないという方法を実行した。貧乏人に低い地位をずーっとあてがって、低い収入を強制する。
今の世の中じゃ、貧乏な家庭に生まれた時点でもう終わりなんだよ。どれだけ能力があろうと評価されず、死ぬまで底辺を這いずり回る」
「大昔の身分社会やカースト制度ですよ、こんなの……」
「実際お前の言う通り、身分社会だよ。カーストだよ。金をどれだけ持っているかによって身分が決まり、身分によって人生が決まる。
これじゃあ誰だってやる気をなくすわな。だっていわゆるアメリカン・ドリームの大逆転、努力による成り上がりが徹底的に否定されてんだから」
「なんでこんな事態になったんです?」
「言うまでもなく勝ち組のせいだよ。勝ち組は、負け組が逆転勝ちして下剋上することを絶対に認めない。負け組は永遠に負け組を続けてろって願ってる。
だから奴らはこんな古臭い身分社会を2084年にもなって復活させたんだ。そして現代の身分社会は過去のものよりタチが悪い。
だって今は監視社会でもあるんだ、世の中を変えようとする奴をすぐに見つけて排除する仕組みが出来上がってる。
革命を志す人間が出てきたら、情報局が速攻でぶち殺す。革命ではなくデモや抗議集会、署名活動で平和的に社会を変えようって人間もぶち殺す。
こうして現代日本は誰にも変更できない身分社会、格差の固定された社会になったのさ。めでたし、めでたし!」
まったくめでたくなさそうな、非常に毒々しい口調でデンマは言い捨て、理堂に問う。
「なぁ、これでいいと思うか? お前……」
「全然よくないですよ。だってこれじゃあ社会は衰退する、そうでしょう?」
「当ッたり前だ!」
「人々が努力を諦めたら、新しい発明や科学理論、芸術作品なんて生まれない。社会はいつまでも古い状態のままで、まったく進歩しない。
スポーツだってそうですよ。貧乏人という理由だけで才能ある新人がつぶされてしまったら、とっくに時代遅れのチャンピオンがいつまでも勝ち続ける。
そんなのおかしいっていうか、実力以外の部分、つまり金ですけど、金があるから弱くてもチャンピオンなんて、どう考えても間違ってますよ!」
「でも今はそういう風潮が支配的じゃねーか。いわゆるペイ・トゥ・ウィンだ、たくさん金を払う奴が優勝する。
勝利の栄光は、それを買えるだけの十分な金を持ったブルジョワのためにのみ存在してるってわけだ。そうだろ?」
「言いたいことは分かりますけど……」
「ふん! 社会そのものがペイ・トゥ・ウィンになっちまったのさ。結果、金がない奴は何のチャンスもないというつまらない現実が生まれた」
「はぁ……(ため息)」
「いくら頑張っても金がなけりゃ上に行けない、じゃあ頑張らない方が楽に生きられる分ずっとマシ。
誰もがそう考えるから、最終的には向上心を捨てて生きるようになる。こうして今の日本はグータラだらけの活気のない社会になったわけだ」
理堂は顔をデンマに向けてたずねる。
「デンマさんはそれでいいんですか? そんな世の中に納得してるんですか?」
「正直わかんねぇ。まぁあまり良くないだろうとは思ってる。だって今の日本は、進歩しているというよりむしろ後退し続けてる感じがするからな。
けどよ、じゃあどうしたら日本をやる気あふれる社会にできるか、そんな難しい問題は俺の頭じゃ解決できねぇ。
そのうちアインシュタインみたいな天才が出て、なんかすげー打開策を考えてくれるだろ。俺たちはそれまで自分の仕事に打ちこんでればいい。頭脳労働は学者の仕事だ」
遠くの空で雷鳴がとどろく。デンマは空を見上げ、愚痴る。
「くそっ、やべぇな。そろそろ降ってくるぜ」
「でも僕たちボウズですよ。せっかくの休みにこんだけ時間を使って、なのに手ぶらで帰るなんて……」
「しょうがねぇだろ。プロだっていつも釣れるわけじゃねぇんだし。いいから帰り支度を……」
デンマのズボンのスマホが何かのデータを受信し、無線によって彼の脳内へ転送する。デンマはそれの内容を確認し、嫌そうな顔で言う。
「クソッ、チーフから緊急連絡だ。今すぐオフィスに来い、だとよ」
「まさかこの恰好のままで行くんですか?」
「当然!」
「はぁ……」
「文句は後だ、支度しろ! チンタラしてっとチーフにどやされるぞ!」
「はい」
「嬉しい嬉しい休日出勤だ! せいぜい楽しもうぜ!」
言葉とは裏腹にぜんぜん嬉しくないことは言うまでもない。
「勝ち組が最初に考えた必勝法は、負け組から教育の機会を奪うことだ。金持ちは寄付を通じて名門校の仕組みを変更し、大金がなければ入学できないようにした。
そういうわけだから、貧乏人の子どもはいくら頭が良くても高学歴になれない。学歴が低ければいい仕事に就職できない、よっていつまでも貧乏な負け組のままだ。
金持ちはこの次に、負け組が努力して成果をだしても出世させないという方法を実行した。貧乏人に低い地位をずーっとあてがって、低い収入を強制する。
今の世の中じゃ、貧乏な家庭に生まれた時点でもう終わりなんだよ。どれだけ能力があろうと評価されず、死ぬまで底辺を這いずり回る」
「大昔の身分社会やカースト制度ですよ、こんなの……」
「実際お前の言う通り、身分社会だよ。カーストだよ。金をどれだけ持っているかによって身分が決まり、身分によって人生が決まる。
これじゃあ誰だってやる気をなくすわな。だっていわゆるアメリカン・ドリームの大逆転、努力による成り上がりが徹底的に否定されてんだから」
「なんでこんな事態になったんです?」
「言うまでもなく勝ち組のせいだよ。勝ち組は、負け組が逆転勝ちして下剋上することを絶対に認めない。負け組は永遠に負け組を続けてろって願ってる。
だから奴らはこんな古臭い身分社会を2084年にもなって復活させたんだ。そして現代の身分社会は過去のものよりタチが悪い。
だって今は監視社会でもあるんだ、世の中を変えようとする奴をすぐに見つけて排除する仕組みが出来上がってる。
革命を志す人間が出てきたら、情報局が速攻でぶち殺す。革命ではなくデモや抗議集会、署名活動で平和的に社会を変えようって人間もぶち殺す。
こうして現代日本は誰にも変更できない身分社会、格差の固定された社会になったのさ。めでたし、めでたし!」
まったくめでたくなさそうな、非常に毒々しい口調でデンマは言い捨て、理堂に問う。
「なぁ、これでいいと思うか? お前……」
「全然よくないですよ。だってこれじゃあ社会は衰退する、そうでしょう?」
「当ッたり前だ!」
「人々が努力を諦めたら、新しい発明や科学理論、芸術作品なんて生まれない。社会はいつまでも古い状態のままで、まったく進歩しない。
スポーツだってそうですよ。貧乏人という理由だけで才能ある新人がつぶされてしまったら、とっくに時代遅れのチャンピオンがいつまでも勝ち続ける。
そんなのおかしいっていうか、実力以外の部分、つまり金ですけど、金があるから弱くてもチャンピオンなんて、どう考えても間違ってますよ!」
「でも今はそういう風潮が支配的じゃねーか。いわゆるペイ・トゥ・ウィンだ、たくさん金を払う奴が優勝する。
勝利の栄光は、それを買えるだけの十分な金を持ったブルジョワのためにのみ存在してるってわけだ。そうだろ?」
「言いたいことは分かりますけど……」
「ふん! 社会そのものがペイ・トゥ・ウィンになっちまったのさ。結果、金がない奴は何のチャンスもないというつまらない現実が生まれた」
「はぁ……(ため息)」
「いくら頑張っても金がなけりゃ上に行けない、じゃあ頑張らない方が楽に生きられる分ずっとマシ。
誰もがそう考えるから、最終的には向上心を捨てて生きるようになる。こうして今の日本はグータラだらけの活気のない社会になったわけだ」
理堂は顔をデンマに向けてたずねる。
「デンマさんはそれでいいんですか? そんな世の中に納得してるんですか?」
「正直わかんねぇ。まぁあまり良くないだろうとは思ってる。だって今の日本は、進歩しているというよりむしろ後退し続けてる感じがするからな。
けどよ、じゃあどうしたら日本をやる気あふれる社会にできるか、そんな難しい問題は俺の頭じゃ解決できねぇ。
そのうちアインシュタインみたいな天才が出て、なんかすげー打開策を考えてくれるだろ。俺たちはそれまで自分の仕事に打ちこんでればいい。頭脳労働は学者の仕事だ」
遠くの空で雷鳴がとどろく。デンマは空を見上げ、愚痴る。
「くそっ、やべぇな。そろそろ降ってくるぜ」
「でも僕たちボウズですよ。せっかくの休みにこんだけ時間を使って、なのに手ぶらで帰るなんて……」
「しょうがねぇだろ。プロだっていつも釣れるわけじゃねぇんだし。いいから帰り支度を……」
デンマのズボンのスマホが何かのデータを受信し、無線によって彼の脳内へ転送する。デンマはそれの内容を確認し、嫌そうな顔で言う。
「クソッ、チーフから緊急連絡だ。今すぐオフィスに来い、だとよ」
「まさかこの恰好のままで行くんですか?」
「当然!」
「はぁ……」
「文句は後だ、支度しろ! チンタラしてっとチーフにどやされるぞ!」
「はい」
「嬉しい嬉しい休日出勤だ! せいぜい楽しもうぜ!」
言葉とは裏腹にぜんぜん嬉しくないことは言うまでもない。
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