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第10章 この社会を革命するために 後編

第170話 隠れ家へ走れ heavy weather

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 治たちはステルス機能を作動させ、透明な状態となる。一気に階段を駆け上がって改札を通り過ぎ、地上へ。荒廃した風景が視界に飛びこんでくる。
 そこはまさに焼け野原だ。太平洋戦争の時、大空襲によって徹底的に破壊された東京と同じような不毛の地だ。

 もっとも、いくらかは復興している部分も見受けられる。粗末ながらもいくつかの一軒家が建ち、中には個人商店らしきものも存在する。
 まばらな数とはいえ道を歩く人々もいるし、決して無人の荒野ではない。だからこそ、治たちは誰かにぶつからぬよう気をつけて進まなくてはならない。

 隠れ家までは十分程度。ほんの少しの距離だ。問題はやはり天候で、治は小走りを続けながら空を見上げる。
 色濃く垂れこめた雨雲は今にでも降り出しそうだ。治は(どうかもう少しだけ持ちこたえてくれ)と願う、その直後に遠くの空から一機のドローンがやって来る。

 それはゆっくりと飛びながら地上の映像データを集めていく。もしこのタイミングでステルスが解けたら、治たちの姿はただちにドローンの目に映るだろう。
 あと数分で隠れ家なのだ、そこに転がりこめば後はどれだけ降ろうと構わない。あと少し、あと本当にもう少しだけ持ちこたえてくれれば。

 治、シンゴ、カジキ、誰もがそう思う。彼らは必死に走る、隠れ家であるアパート型ホテルの姿が見えてくる。
 ついに雨が降り始める。滝のように激しい勢いだ。大量の雨粒が容赦なくステルス服を濡らしていく。10秒と経たずにステルス状態が強制解除される。

 シンゴが罵る。「クソッ!」。カジキが言う、「とにかく走れ!」。その時、水たまりに足を取られた治が転んでしまう。

「わっ!?」

 大急ぎでシンゴが駆け寄り、助け起こす。

「大丈夫か!?」
「ごめん!」
「謝るのは後だ、行くぞ!」

 この一連の騒ぎをドローンが見逃すわけがない。ドローンはすべての映像をしっかりと記録し、要注意データのタグを付けてから情報局のサーバーに送る。
 いずれ局員の誰かが異常に気づくだろう。逃走計画は残念ながら最後の最後で失敗した。速やかに挽回策を考えなければならない。



 ホテル3階の一室。普段着姿に戻った治たちはそこに集まり、カウチやベッドに腰をおろして休みながら相談している。
 左手のプラスチック・ボトルからミネラル・ウォーターをごくごくと飲み、シンゴが言う。

「さて、どうすっかねぇ……」

 カジキが返す。

「ドローンに見られた以上、いずれ情報局の特殊部隊が調査しに来る。それまでにここから逃げよう」
「しかしカジキさん、逃げるっつってもアテはあるんすか」
「今の段階ではゼロだ。誰かに連絡して、新しい隠れ家を手配してもらうしかない」
「手配が済むまではどうすんです?」
「もちろんここに潜伏するのさ。リスク覚悟でな」
「ふぅ……。やっぱりそうなりますか」

 おずおずと治が口を開く。

「すみません、僕のせいでこうなってしまって……」

 シンゴが慰める。

「別にお前が悪いわけじゃねぇさ。悪いのは雨だよ、雨! よりによってあのタイミングで降り出しやがってよ……。クソッ!」
「シンゴたちに文句を言うわけじゃないけど、無理して今日逃げなくてもよかったんじゃないか? いったん計画を延期して別の日にってやり方も……」
「お前はいつ情報局に捕まってもおかしくない状態で、だからどうしても今日やるしかなかった。そうだろ?」
「確かにその通りだけど……」
「いいから、とにかく自分を責めるのはやめとけ。んなことしたって何の得もねぇし、俺たちが抱えてるトラブルが解決されるわけでもねぇ。
 大事なのは未来だ。それについて考えようじゃねぇか」

 窓の外から聞こえてくる激しい雨音が場を支配し、沈鬱とした雰囲気を生み出す。誰もが黙りこんでしまう。
 いったいこれからどうなるのだろう?
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