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第10章 この社会を革命するために 後編
第169話 光の存在しない道 Exodus
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治は着替えをすませ、手荷物をリュックサックにしまって背負い、カジキに案内されるまま地下鉄に降り立つ。
そこは自分の手すら見えない漆黒の闇だ。頼りになるのは腰の命綱と、それに塗られた蓄光塗料が放つボンヤリとした明かりだけ。
治たちは、カジキ、治、シンゴの順に縦の隊列となって、線路の上を歩いていく。
先頭のカジキは懐中電灯を使って行く手を照らしているが、その明かりは闇に対してあまりに小さい。こんなことで大丈夫なのだろうか、治は話しかける。
「すみません、カジキさん。えらい真っ暗ですけど、僕たち本当に迷わずに目的地へ行けるんですか?」
「君が私を見失わない限り大丈夫さ。というのも、実は私は完全サイボーグで、色んな特殊能力を持っている。だから暗闇でもきちんと歩けて、こうして道案内もできる」
「どういうことですか?」
「コウモリには超音波を使って地形を把握する能力がある。おかげで奴らは闇の中でも思い通りに飛べる。それと同じような能力が私のボディにも搭載されているのさ」
「へぇ……」
「そんな感心されるような凄いものではないよ。私のボディは十年前の旧型、とっくに耐用年数を過ぎたオンボロ。壊れそうなのをだましだまし使っている有り様だ。
まぁそれより、今後の話をしよう。私は地下鉄を抜けた後のことを心配しているんだ」
シンゴが喋る。
「なにせあの荒れ模様でしたからねぇ。ヤバいかもしれませんよ」
治は「雨のことか?」とつぶやき、シンゴが返す。
「予定通りなら、地下鉄から隠れ家まではステルス状態で歩いていくだろ? でも俺たちが用意したステルス服は雨に弱いんだ。濡れるとステルスが解除される」
「おいおい、マジかよ」
「残念ながらマジ。さっきも言ったがなにせ旧型だ、どうしても水に弱い」
「映画に出てくるステルス服はそんな欠陥なんてないぞ」
「そりゃそうだろ。あぁいうのはみんな新型だ、ズブ濡れになろうと泥がつこうとへっちゃらさ」
「だったら新型を用意すればよかっただろ」
「無茶言うな、新型はすげぇ高いし、そもそもあんなん闇市に流れてこねぇ。あぁいうのは軍隊や警察のエリート部隊だけがゲットできるんだ」
「じゃあ映画を撮影する人たちはどうやって入手してくるんだよ」
「政府のお偉いさんに話つけてレンタルするんじゃねぇの? 俺もそのへんはよく知らん」
カジキが口を挟む。
「その話題はいったん終わりだ。口じゃなくて足を動かすんだ、前に進むことだけを考えよう」
シンゴと治は「はい」と返答し、歩くペースを速める。目的地はまだずっと遠い、今はとにかく急ぐしかないのだ。
いったいどれほど長い時間が過ぎたのだろう? 治の足がくたくたに疲れた頃、彼とシンゴたちは目的地に到着した。
線路からプラットフォームへと上がり、駅内の階段を登って踊り場にさしかかる。そのタイミングでカジキからの説明が入る。
「ここからは地上での行動だ。ロープを外したらステルス機能のスイッチを入れて、そのまま走っていくぞ」
シンゴが治に言う。
「おい、かなり疲れた顔してっけど大丈夫か?」
「正直あんま大丈夫じゃないよ。でも、あともうひと踏ん張りだろ? だったら頑張るさ」
「いい返事するじゃねーか。その心意気だぜ!」
「ありがとう」
カジキが自分の腰のロープを外しながら喋る。
「とにかく急ぐんだ。予定よりだいぶ遅れている。本来ならドローンの巡回が来ない時間に地上を歩くつもりだったんだ。
しかしもう無理、どう考えてもそろそろ奴らが飛んでくる」
治が「すみません、僕がノロマなせいで……」と謝る、カジキはそれに対して「別に君のせいじゃないさ」と言い、続ける。
「本当にあと少しで隠れ家なんだ。気合いを入れるぞ!」
無事にたどり着けるか、それともしくじるか。最後の正念場だ。
そこは自分の手すら見えない漆黒の闇だ。頼りになるのは腰の命綱と、それに塗られた蓄光塗料が放つボンヤリとした明かりだけ。
治たちは、カジキ、治、シンゴの順に縦の隊列となって、線路の上を歩いていく。
先頭のカジキは懐中電灯を使って行く手を照らしているが、その明かりは闇に対してあまりに小さい。こんなことで大丈夫なのだろうか、治は話しかける。
「すみません、カジキさん。えらい真っ暗ですけど、僕たち本当に迷わずに目的地へ行けるんですか?」
「君が私を見失わない限り大丈夫さ。というのも、実は私は完全サイボーグで、色んな特殊能力を持っている。だから暗闇でもきちんと歩けて、こうして道案内もできる」
「どういうことですか?」
「コウモリには超音波を使って地形を把握する能力がある。おかげで奴らは闇の中でも思い通りに飛べる。それと同じような能力が私のボディにも搭載されているのさ」
「へぇ……」
「そんな感心されるような凄いものではないよ。私のボディは十年前の旧型、とっくに耐用年数を過ぎたオンボロ。壊れそうなのをだましだまし使っている有り様だ。
まぁそれより、今後の話をしよう。私は地下鉄を抜けた後のことを心配しているんだ」
シンゴが喋る。
「なにせあの荒れ模様でしたからねぇ。ヤバいかもしれませんよ」
治は「雨のことか?」とつぶやき、シンゴが返す。
「予定通りなら、地下鉄から隠れ家まではステルス状態で歩いていくだろ? でも俺たちが用意したステルス服は雨に弱いんだ。濡れるとステルスが解除される」
「おいおい、マジかよ」
「残念ながらマジ。さっきも言ったがなにせ旧型だ、どうしても水に弱い」
「映画に出てくるステルス服はそんな欠陥なんてないぞ」
「そりゃそうだろ。あぁいうのはみんな新型だ、ズブ濡れになろうと泥がつこうとへっちゃらさ」
「だったら新型を用意すればよかっただろ」
「無茶言うな、新型はすげぇ高いし、そもそもあんなん闇市に流れてこねぇ。あぁいうのは軍隊や警察のエリート部隊だけがゲットできるんだ」
「じゃあ映画を撮影する人たちはどうやって入手してくるんだよ」
「政府のお偉いさんに話つけてレンタルするんじゃねぇの? 俺もそのへんはよく知らん」
カジキが口を挟む。
「その話題はいったん終わりだ。口じゃなくて足を動かすんだ、前に進むことだけを考えよう」
シンゴと治は「はい」と返答し、歩くペースを速める。目的地はまだずっと遠い、今はとにかく急ぐしかないのだ。
いったいどれほど長い時間が過ぎたのだろう? 治の足がくたくたに疲れた頃、彼とシンゴたちは目的地に到着した。
線路からプラットフォームへと上がり、駅内の階段を登って踊り場にさしかかる。そのタイミングでカジキからの説明が入る。
「ここからは地上での行動だ。ロープを外したらステルス機能のスイッチを入れて、そのまま走っていくぞ」
シンゴが治に言う。
「おい、かなり疲れた顔してっけど大丈夫か?」
「正直あんま大丈夫じゃないよ。でも、あともうひと踏ん張りだろ? だったら頑張るさ」
「いい返事するじゃねーか。その心意気だぜ!」
「ありがとう」
カジキが自分の腰のロープを外しながら喋る。
「とにかく急ぐんだ。予定よりだいぶ遅れている。本来ならドローンの巡回が来ない時間に地上を歩くつもりだったんだ。
しかしもう無理、どう考えてもそろそろ奴らが飛んでくる」
治が「すみません、僕がノロマなせいで……」と謝る、カジキはそれに対して「別に君のせいじゃないさ」と言い、続ける。
「本当にあと少しで隠れ家なんだ。気合いを入れるぞ!」
無事にたどり着けるか、それともしくじるか。最後の正念場だ。
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