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第10章 この社会を革命するために 後編
第156話 戦乱 The war has begun
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では、剣崎・ジョシュア・治の物語を再開しよう。
数週間前、スエナ率いる連合軍がヘル・レイザーズに宣戦を布告し、ついに12号サーバー全域を巻きこんだ戦争が始まった。
どちらの陣営も、暇さえあれば敵にPKやMPKを仕掛け、電子掲示板やSNSで罵り合う。このような事態の影に運営チームの暗躍があることは言うまでもない。
エージェントを通じて「怨敵に絶対に勝とう!」と呼びかけ、「そのために課金して強くなろう!」と勧めて回り、タイミングよく課金アイテムを安売りする。
おかげで売り上げは倍増し、梅下はホクホク顔だ。しかしそれとは対照的に、治の顔は憂うつに沈む。彼の心はストレスでつぶれる寸前なのだ。
そんな彼は果たしてこれからどんな選択をし、どんな道を歩むのだろう。
チェスナット社の会議室に何人かが集まっている。梅下謙子と治、彼の部下たちだ。
治は会議室のスクリーンの前に立っており、彼以外はみな着席している。そしてスクリーンにはいくつかの映像が表示されている。
それらの中でもっとも大きなものを指し示しながら治は話し出す。
「現在における連合軍とレイザーズの力関係は以下の通りです。この円グラフが示すように、クラン全体の総合戦闘力はどちらも五分五分、ほぼ互角。
しかしこちらの棒グラフを見てください。ご覧の通り、連合軍の全体課金額は毎日増加していく傾向にありますが、逆にレイザーズは伸び悩んでいます。
これの原因について、赤羽、説明を頼む」
待ってましたとばかりに赤羽は喋る。
「まぁ一言でいえば「やる気の低下」っすね。だって連合軍の勢いときたら、鬼か悪魔かってレベルですよ。レイザーズ・メンバーの大半はそれにビビって萎えてます」
「なぜ連合軍はそこまで暴れているんだ?」
「連合軍っつーか、ネメシスがとにかくブチギレてんすよ。前にも説明しましたけど、あそこは「レイザーズに復讐したい、ぶっ殺したい」って人間の集まりです。
奴らはこの戦争が始まる前からレイザーズと潰し合ってましたからねぇ。今回のことでその怒りの炎に油が注がれたわけで……」
梅下が割りこむ。
「私が聞きたいのはそこです。ネメシスの怒りです」
「はい」
「あなたの報告書を読んだ限りでは、ネメシスは歯止めのきかない暴走状態に陥りつつある、そんな印象を受けました。違いますか?」
「実際そんな感じっす。もし現実世界だったら殺し合いを始めそうな、そんくらい物騒なノリっすよ。
今は姉川を使ってどうにかコントロールできてますが、下手すりゃそれも効かなくなる可能性があるっすね」
「この問題の対策はなにか実行したのですか?」
「ネメシスを監視する特別AIを作って、24時間体制で見張ってます。もしメンバーが過激なことをすれば、即座にストップかけられます」
「なるほど……(やや苦い顔)」
弾み車の理論というのがあるが、憎悪も同じだ。最初はたいした勢いでなくても、加速を続けるうちに凄まじいものとなり、やがて誰にも止められない猛威となる。
もしレイザーズがそこまで狂暴になったなら、ではどうしたら止められるだろう? 誰かが言ったこのセリフを忘れてはいけない。
”困難な事態はなにかの犠牲を支払うことでようやく解決する。それがどれだけ重いコストでも、払うべき時は払わなくちゃいけない”
赤羽は、内心で(ヤバいことにならなきゃいいが……)と思う。今のネメシスはそれほど危険だ、とはいえあまり手のこんだ面倒な対策はやりたくない。
彼はこう考える。(いざとなったら姉川の責任にしちまえばいい。あいつがしくじったせいでネメシスを制御できなかった、梅下さんにそう報告して俺は逃げよう)。
自分としては給料がもらえさえすればそれでいいのだ。他のことなど知ったことか。解雇が嫌ならしっかり頑張るんだぜ、姉川。
数週間前、スエナ率いる連合軍がヘル・レイザーズに宣戦を布告し、ついに12号サーバー全域を巻きこんだ戦争が始まった。
どちらの陣営も、暇さえあれば敵にPKやMPKを仕掛け、電子掲示板やSNSで罵り合う。このような事態の影に運営チームの暗躍があることは言うまでもない。
エージェントを通じて「怨敵に絶対に勝とう!」と呼びかけ、「そのために課金して強くなろう!」と勧めて回り、タイミングよく課金アイテムを安売りする。
おかげで売り上げは倍増し、梅下はホクホク顔だ。しかしそれとは対照的に、治の顔は憂うつに沈む。彼の心はストレスでつぶれる寸前なのだ。
そんな彼は果たしてこれからどんな選択をし、どんな道を歩むのだろう。
チェスナット社の会議室に何人かが集まっている。梅下謙子と治、彼の部下たちだ。
治は会議室のスクリーンの前に立っており、彼以外はみな着席している。そしてスクリーンにはいくつかの映像が表示されている。
それらの中でもっとも大きなものを指し示しながら治は話し出す。
「現在における連合軍とレイザーズの力関係は以下の通りです。この円グラフが示すように、クラン全体の総合戦闘力はどちらも五分五分、ほぼ互角。
しかしこちらの棒グラフを見てください。ご覧の通り、連合軍の全体課金額は毎日増加していく傾向にありますが、逆にレイザーズは伸び悩んでいます。
これの原因について、赤羽、説明を頼む」
待ってましたとばかりに赤羽は喋る。
「まぁ一言でいえば「やる気の低下」っすね。だって連合軍の勢いときたら、鬼か悪魔かってレベルですよ。レイザーズ・メンバーの大半はそれにビビって萎えてます」
「なぜ連合軍はそこまで暴れているんだ?」
「連合軍っつーか、ネメシスがとにかくブチギレてんすよ。前にも説明しましたけど、あそこは「レイザーズに復讐したい、ぶっ殺したい」って人間の集まりです。
奴らはこの戦争が始まる前からレイザーズと潰し合ってましたからねぇ。今回のことでその怒りの炎に油が注がれたわけで……」
梅下が割りこむ。
「私が聞きたいのはそこです。ネメシスの怒りです」
「はい」
「あなたの報告書を読んだ限りでは、ネメシスは歯止めのきかない暴走状態に陥りつつある、そんな印象を受けました。違いますか?」
「実際そんな感じっす。もし現実世界だったら殺し合いを始めそうな、そんくらい物騒なノリっすよ。
今は姉川を使ってどうにかコントロールできてますが、下手すりゃそれも効かなくなる可能性があるっすね」
「この問題の対策はなにか実行したのですか?」
「ネメシスを監視する特別AIを作って、24時間体制で見張ってます。もしメンバーが過激なことをすれば、即座にストップかけられます」
「なるほど……(やや苦い顔)」
弾み車の理論というのがあるが、憎悪も同じだ。最初はたいした勢いでなくても、加速を続けるうちに凄まじいものとなり、やがて誰にも止められない猛威となる。
もしレイザーズがそこまで狂暴になったなら、ではどうしたら止められるだろう? 誰かが言ったこのセリフを忘れてはいけない。
”困難な事態はなにかの犠牲を支払うことでようやく解決する。それがどれだけ重いコストでも、払うべき時は払わなくちゃいけない”
赤羽は、内心で(ヤバいことにならなきゃいいが……)と思う。今のネメシスはそれほど危険だ、とはいえあまり手のこんだ面倒な対策はやりたくない。
彼はこう考える。(いざとなったら姉川の責任にしちまえばいい。あいつがしくじったせいでネメシスを制御できなかった、梅下さんにそう報告して俺は逃げよう)。
自分としては給料がもらえさえすればそれでいいのだ。他のことなど知ったことか。解雇が嫌ならしっかり頑張るんだぜ、姉川。
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