上 下
152 / 227
第9章 この社会を革命するために 前編

第149話 理由ある反抗 Why am I a fighting man

しおりを挟む
 言いたいことはたくさんあるが、長話をするだけの時間的余裕はない。じゃあこの程度を話しておくのが適当だろう。

「何年か前、俺の友達がひき逃げにあって死にました。小学生の頃から付き合ってきた古いダチです」

 倉間さんは「ふむ」と言い、うなずいた。俺は続きを話す。

「誰が犯人かはすぐ判明したんですよ。だって多くの人が事故の瞬間を目撃していたし、それに、民家の防犯カメラが一部始終を記録してました」
「なるほど」
「俺は期待しましたよ。すぐに犯人が捕まって、裁判でしかるべき刑を宣告されるんだと。しかしそうはならなかった」
「どうして?」
「犯人は電話会社の役員だったからです。倉間さんも、他のみなさんも、電話会社がどれだけリトル・マザーに愛されてるかよくご存知でしょう。
 だって奴らは客の個人情報を彼女に渡して、監視社会のお手伝いをしてるわけですからね。そのかわりに不祥事をあのクソビッチにもみ消してもらうわけだ」

 悲しそうな顔で倉間さんは「嫌な話ですね……」と言った。俺は続ける。

「えぇ、本当! だが実際に起きてしまった事実です。未だに認めたくない話ですが、でも本当にそうなんです」
「それからはどうなったんですか?」
「俺はすべてを明るみに出そうと、必死に頑張りました。事故を見た人たちの証言を集め、カメラの映像記録を手に入れようとしました。
 でもどちらも失敗に終わったんです。誰もが言いましたよ、事故なんて起きなかったと。映像記録はさらにひどい、誰かが消したせいで復元できなかった!」
「もし本当のことを言えばLMに暗殺されるかもしれない。その恐怖が人々を沈黙させ、映像を闇に葬ったんですね……」
「倉間さん、こんなのはインチキですよ! くだらない誤魔化しだ、違いますか!?」
「実際どう見てもインチキでしょう。そう思います」
「だから俺はリトル・マザーを憎むんです! 奴を殺したいと思うんです! だいたい、こんな世の中はとても受け入れられない!(バンと机を叩く)。
 力を持つ者がやりたい放題に振る舞って、都合の悪い話を暴力的に叩きつぶし、弱い者をしいたげる! そんなことにはウンザリなんです!」
「安心してください、久泉くん。ここにいる誰もが君と同じ気持ちですよ。誰もがLMの支配にうんざりし、彼女を倒そうと決意した。それを忘れないでください」
「はい」

 そうだ、俺は一人きりじゃない。仲間がいる。今までだって助け合ってきたんだ、きっとこれからも固い絆で結ばれ、運命を共にしていく。
 クソッ……それにしてもLMめ。すべてを監視するあのビッチがいる限り、言論の自由なんて存在しないも同然だ。

 どうして昔の人たちはこの自由をもっと大事にしなかったのだろう? 監視社会に反対し、それが成立しないように努力することをしなかったのだろう?
 自由というのは自然環境といっしょで、失われてしまったら回復に多くの時間とコストを要する。だから絶対に守らなくちゃいけなかった。なのに……。

 トントントン。いきなりドアが室外から叩かれる。全員いっせいに黙る。誰だ……リーダーか、それとも情報局のメンバーか。
 倉間さんが席を立ち、ドアへ行き、身分確認のために問いかける。

「雪を墨」

 すぐに答えが返ってくる。

「サギをカラス」

 いわゆる合言葉だ。真っ白い雪を見て「墨のように黒い」と詭弁を言う、それと同じように、真っ白いサギを「カラスのように黒い」と主張して言いくるめる。
 どちらもLMやその翼賛者たちが得意とする論法だ。だからこそ武装戦線は、唱えるたびに彼女の本性を思い出すため、合言葉に採用した。

 今回の受け答えは正解であり、よって倉間さんはドアの鍵を開ける。室外の人物が中に入ってくる。
 彼女こそ、この武装戦線のリーダーである柳さんだ。歳は四十代の半ばに思えるが、完全サイボーグなので本当にそうかは分からない。おそらくもっと上だろう。

 席に着くなり柳さんは言った。

「(軽く頭を下げ、)遅れてすみません。ドローンがいつもより多く飛んでいて、やり過ごすのに難儀しました」

 倉間さんが柳さんの横に座って質問した。

「ドローンが? なにかあったのですか」
「近所の大きなレストランが派手に燃えたんですよ。それが原因でしょうね」
「ふむ……」
「とにかく、申し訳ありません。リーダーとしての自覚が足りなかったと反省します」
「仕方ありませんよ、不可抗力じゃありませんか」
「そうはいっても倉間、私にはみなに規範を示す義務があります。こんな体たらくでは……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。それよりすぐ会議を始めましょう、時間がありません」
「確かに……。では、みなさん、よろしくお願いします」

 いよいよ本番だな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

絶命必死なポリフェニズム ――Welcome to Xanaduca――

屑歯九十九
SF
Welcome to Xanaduca! 《ザナドゥカ合衆国》は世界最大の経済圏。二度にわたる世界終末戦争、南北戦争、そして企業戦争を乗り越えて。サイバネティクス、宇宙工学、重力技術、科学、化学、哲学、娯楽、殖産興業、あらゆる分野が目覚ましい発展を遂げた。中でも目立つのは、そこら中にあふれる有機化学の結晶《ソリドゥスマトン》通称Sm〈エスエム、ソードマトン〉。一流企業ならば必ず自社ブランドで売り出してる。形は人型から動物、植物、化け物、機械部品、武器。見た目も種類も役目も様々、いま世界中で普及してる新時代産業革命の象徴。この国の基幹産業。 〔中略〕  ザナドゥカンドリームを求めて正規非正規を問わず入国するものは後を絶たず。他国の侵略もたまにあるし、企業や地域間の戦争もしばしば起こる。暇を持て余すことはもちろん眠ってる余裕もない。もしザナドゥカに足を踏み入れたなら、郷に入っては郷に従え。南部風に言えば『銃を持つ相手には無条件で従え。それか札束を持ってこい』 〔中略〕 同じザナドゥカでも場所が違えばルールも価値観も違ってくる。ある場所では人権が保障されたけど、隣の州では、いきなり人命が靴裏のガムほどの価値もなくなって、ティッシュに包まれゴミ箱に突っ込まれるのを目の当たりにする、かもしれない。それでも誰もがひきつけられて、理由はどうあれ去ってはいかない。この国でできないことはないし、果たせぬ夢もない。宇宙飛行士から廃人まで君の可能性が無限に広がるフロンティア。 ――『ザナドゥカ観光局公式パンフレット』より一部抜粋

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

創星のエクソダス

白銀一騎
SF
 宇宙の秩序を守るために造られたジーク=アプリコットは妹のルーシー=アプリコットと共に宇宙最強の戦闘集団アル=シオンに所属していた。ある日一人の幼い少女の命を救うため美少女型人工知能のパルタを連れて少女と一緒にアル=シオンから逃亡した。逃亡先での生活に慣れようとした矢先に突然宇宙海賊団に襲われたジークは圧倒的な力で宇宙海賊団を殲滅したが、海賊船にはある星の皇女様が囚われていた。  皇女様の頼みで異世界惑星に来たジーク達は、そこで自分たちを殺そうとしたアル=シオンが暗躍していることを知り、アル=シオンをぶっ潰すために行動を起こすのであった。 タイトルと物語の内容が合っていないのでタイトルを変更しました。 【第一章 完結しました】 ※異世界物語が好きな方は14話から読んで頂ければと思います。 ※この作品は「アルファポリス」「カクヨム」にも掲載しています。

神水戦姫の妖精譚

小峰史乃
SF
 切なる願いを胸に、神水を求め、彼らは戦姫による妖精譚を織りなす。  ある日、音山克樹に接触してきたのは、世界でも一個体しか存在しないとされる人工個性「エイナ」。彼女の誘いに応じ、克樹はある想いを胸に秘め、命の奇跡を起こすことができる水エリクサーを巡る戦い、エリキシルバトルへの参加を表明した。  克樹のことを「おにぃちゃん」と呼ぶ人工個性「リーリエ」と、彼女が操る二十センチのロボット「アリシア」とともに戦いに身を投じた彼を襲う敵。戦いの裏で暗躍する黒幕の影……。そして彼と彼の大切な存在だった人に関わる人々の助けを受け、克樹は自分の道を切り開いていく。  こちらの作品は小説家になろう、ハーメルン、カクヨムとのマルチ投稿となります。

マイホーム戦国

石崎楢
SF
何故、こんなことになったのだろうか? 我が家が囲まれている!! 戦国時代に家ごとタイムスリップしたごく普通の家族による戦国絵巻?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

コネクト・フロム・アイアン・エイジ

@p
SF
荒廃した世界を旅する2人。旅には理由があった。 片方は復讐のため、片方は自分を探すため。 片方は人間、片方は機械。 旅の中で2人は様々な人々に出会い、葛藤し、互いに変化していく。

愛しのアリシア

京衛武百十
SF
彼女の名前は、<アリシア2234-LMN>。地球の日本をルーツに持つ複合企業体<|APAN-2(ジャパンセカンド)>のロボティクス部門が製造・販売するメイド型ホームヘルパーロボットの<アリシアシリーズ>の一体である。 しかし彼女は、他のアリシアシリーズとは違った、ユニークな機体だった。 まるで人間の少女のようにくるくると表情が変わり、仕草もそれこそ十代の少女そのものの、ロボットとしてはひどく落ち着きのないロボットなのである。 なぜなら彼女には、<心>としか思えないようなものがあるから。 人類が火星にまで生活圏を広げたこの時代でも、ロボットに搭載されるAIに<心>があることは確認されていなかった。それを再現することも、意図的に避けられていた。心を再現するためにリソースを割くことは、人間大の機体に内蔵できるサイズのAIではまったく合理的ではなかったからである。 けれど、<千堂アリシア>とパーソナルネームを与えられた彼女には、心としか思えないものがあるのだ。 ただしそれは、彼女が本来、運用が想定されていた条件下とは全く異なる過酷な運用が行われたことによって生じた<バグ>に過ぎないと見られていた。 それでも彼女は、主人である千堂京一を愛し、彼の役に立ちたいと奮闘するのであった。

処理中です...