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第9章 この社会を革命するために 前編

第138話 ミイラ取り達はミイラとなる Fight fire with fire

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 俺は声がした方角を向く。3人の男たちだ。パティとテルの背後30メートルぐらいに立っている彼らは、アサルトライフルを連射して合唱する。

『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 凄まじい弾幕が展開される。ちくしょう、なんだ!? パニクっている俺の眼前でテルとガーベラがハチの巣にされて倒れる。

「テル!」
「PKです、シルバーさん……!」

 事態を把握したパティが即座にバリアを張る。彼女は身を隠すために手近な瓦礫へと走りながら怒鳴る。

「シルバー、逃げて!」
「クソッ!」

 俺も同じくバリアを張り、パティとは違う方向へ逃げる。敵の猛攻がバリア・エナジーを急速に減らしていく、ゼロになる寸前にやっとある瓦礫の陰に転がりこむ。
 こうしてどうにか安全を確保して一息ついた途端、この襲撃に関する記憶がハッキリと蘇ってくる。

 思い出した! 奴らはヘル・レイザーズのメンバーで、名前は確か、ゴーエンとサンドマン、残り1人は……わからん。モヒカン頭だからモヒカンと呼んでおこう。
 まぁモヒカンはどうでもいい。重要なのは前者2人だ。こいつらはPK大好きなワンダラーとして有名で、暇さえあればこうして誰かを殺して面白がる。

 奴らのパワーは平均1億5000万、俺や仲間たちを大きく上回る。だからステルス奇襲なんて面倒な作戦は選ばず、アリを踏みつぶすような力押しで攻めてきた。
 ジャマーに何の反応もなかったのはそのせいだ。ちくしょう、もっと注意深く行動していればこんなことには……!

 いや落ち着け、怒るのは後だ。まず状況を確かめなくては。俺やパティが逃げたことでひとまず敵の攻撃が止んだ。このチャンスを活かそう。

(おい、テル! 無事か!?)
(すみません、死にました)
(パティ!)
(こっちは大丈夫。ちょっとダメージを受けたけど、そんなひどいものじゃない)
(ガーベラは?)
(ごめん、死んじゃった……)

 ゴーエンの声がする。

「あっははははは! どうしたァ!? 殺されて悔しいか? バァァァァカ! 気を抜くからこうなるんだ!」

 敵意と怒りと憎しみが俺の心を燃え上がらせる。(ガーベラ、テル、俺が仇をとってやる!)。しかしパティが反対する。

(ちょっとちょっと! 本気!? 返り討ちにされるのがオチに決まってる!)
(さぁ……どうかな? パワーはあくまで目安に過ぎない、殺しの技術や知識がしょぼけりゃ、ハイ・パワーといえどもデクノボウさ)

 言いながら俺は自分のステータスを示すウィンドウを開く。仲間が殺されたことによって復讐ブーストが発生し、全能力値が大きく増加しているのを確認する。
 いける。敵と俺とのパワー差の半分はこのブーストが補ってくれる。残り半分は俺の殺意で埋め合わせればいい。

(俺は必ずゴーエンたちを殺す。みんな、待っててくれ)

 テルが(了解。ご武運を)と返してくれる。ガーベラも(OK!)と快く返事する。
 こうなってはパティも同意する以外に道がない。彼女は小さくため息をつき、(わかった、気をつけて)と言った。

 俺は(ありがとう)と答え、ソードとウージーをアイテム・ボックスにしまい、かわりにいくつかの道具を取り出す。
 まずは白地に青の模様が描かれたグローヴだ。右手に着ける。これはスタン・グローヴといって、殴打と共に電撃をぶちこんでマヒさせる特殊能力を持つ。

 続いて左の太ももに金属ナイフを装着する。次、単一乾電池のような形の発煙手りゅう弾を1つ、それと、自走式掃除機に似た丸い円盤1つを地面に置く。
 最後に銃だ。二丁のグロック18をボックスから取り出し、一丁を腰の左側に着け、残りを左手に装備する。

 手りゅう弾を右手で取り、握る。上部についているスイッチに親指をかける。全員に伝える。(ロックンロール・タイムだ!)。スイッチを押す。
 瓦礫の上を通り越すように手りゅう弾を放り投げ、ゴーエンたちのいる地点に転がす。それは大量の煙を吐き出して彼らの視界を覆いつくす。

 ゴーエンが「なんだ!?」と驚く中、俺は左足で円盤を軽く蹴って起動する。円盤は俺から見て左手方向へと走っていく。準備は終わりだ、突撃!
 右手方向へ走る。瓦礫から飛び出し、両目の暗視装置をオンにする。全身機械のサイボーグならではの機能だな。

 これは対象の遠赤外線をとらえる能力を持ち、相手が煙幕の中にいようと見つけ出せる。さて、奴らはどこだ……あそこか!
 グロック18を片手で構える。そのタイミングで例の円盤が俺と反対の位置に現れ、銃声のような音を立てる。

 バババババババババッ! サンドマンが「あっちか!?」と叫んで円盤のある方角へ銃を撃つ。残念、そいつァ単なる陽動だ!

「俺はここだ! バカども!」

 フル・オートで発射! 現実なら数秒で弾切れになってしまうところだが、なにせゲームだ、毎秒五十発の勢いで最低二十秒間は連射できる。
 最も近い距離にいるモヒカンに照準を合わせ、バリアを張る前に火力を集中させる。「うわぁッ!」。殺害。これは仇討ちによるPKだから指名手配は行われない。

 ゴーエンが俺の居所に気づく。「あっちだ! あっちを撃て!」。奴の反撃の弾丸が来る。俺は射撃をやめてバリアを張り、さっきいた瓦礫とは別の瓦礫へ走る。
 遠隔操作で円盤に指示を送る。(敵に突っこんで自爆せよ)。円盤は忠実に命令に従い、ゴーエンたちへ向かって走る。

 完全にパニックとなったゴーエンが叫んでいる。「なんか来るぞ!?」。俺が瓦礫に隠れると同時に、円盤が目標地点に着いて爆発する。ドォォォォォォォォォォン!
 死亡寸前の大ダメージに違いない。あとはトドメを刺すだけだ。俺は弾切れとなったグロック18を捨て、かわりに腰のグロック18を左手に持つ。パティに連絡。

(南に向かって射撃してくれ。とにかく音を立ててくれればそれでいい)
(わかった!)

 彼女の発砲音が響く。ダダダダダ! 俺はそれと真逆の位置へ走り、ゴーエンたちを見つける。煙幕が薄れたおかげで暗視装置なしでも位置がわかる。
 サンドマンの背中が都合よくガラ空きだ。盛大に撃つ。Baaaaaaaaaaang!

 まったく防御できなかった彼は呪詛をまき散らして倒れていく。「クソが、クソッ、後ろだ、おい!」。ゴーエンが俺へ振り向く。「そこか!」。奴が銃を構える。
 俺はすぐにステルスで姿を消し、左斜め前へ走り出す。ゴーエンが撃ってくるが当たらない。走りながら銃を捨て、空になった左手を太ももへ伸ばして金属ナイフを抜く。

 ゴーエンに接近して右手のスタン・グローヴで殴りかかる。

「おらぁーッ!」

 命中。彼は「ぐっ……」とうめき、電撃のショックでマヒする。もはや身動きできまい。もっとも、できたところで不可視の俺からの攻撃はよけられないだろうがな。
 とにかくお前はもう終わりだ。テルたちを殺した報いを受けろ! ナイフを振るう、奴の顔面にそのまま真っ直ぐ。ぶち抜く!

「くたばれぇッ!」
「わぁぁぁああぁああぁぁぁぁああぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁああぁああああぁぁぁぁぁあああぁぁっ!?」
 
 悲鳴を残してゴーエンは死亡する。地面に倒れこむ。復讐完了だ。みんな……仇をとったぜ。
 それにしても、1億5000万の重課金3人が1億の俺1人に皆殺しにされるとは。札束で殴って勝つことすらできないなんて、ゲームが下手にも程があるぜ。
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