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第6章 レヴェリー・プラネット運営方針
第109話 憎悪の養殖 Hate farming
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梅下が喋り出す。
「では、次の話題に移りましょう。掲示板工作の担当は誰ですか?」
ショートカットの女性が手を挙げる。
「はい。私です」
「基本的にはいつも通りで構いません。匿名掲示板を利用し、連合軍とレイザーズの罵倒合戦を煽る書きこみをする」
「実はそれなんですが……。どこの掲示板も既に大荒れで、危険すら感じます」
「だったら逆に、オーバーヒートしないよう、なだめなさい。
憎しみは競争を激化させ、課金欲に火を着ける。しかし、ウンザリして引退する人が出ては無意味です。
そうならないよう、ほどほどの憎しみを持続させる。上手にコントロールしてください」
何がコントロールだ、クソアマ、ヘルキャット! それってつまり、憎悪の養殖じゃないか!
「では次。攻略サイトの担当は……」
アフリカ系の長身な男性が手を挙げる。
「私です」
「よく聞いてください。後でリストを渡します、レイザーズと連合軍の全プレイヤーのデータです」
「はい」
「何人かにマークがついています。その人たちの情報をサイトの秘密掲示板に書き、敵から狙われるようにするんです」
いったいこれは何か? 端的に言えば、殺しやすいカモの情報を垂れ流すということだ……運営自らの手で。
運営はプラネットの情報を知りつくしている、だからザコ・プレイヤーを見つけ出すなど朝飯前だ、それを暴露することも。
多くのプレイヤーが、「いったい誰が秘密掲示板に情報を書くのだろう」という疑問を持っている。その答えの一つはこれだ。
もちろん、全ての情報が運営によって投稿されているわけではない。個人的な恨みから投稿する一般プレイヤーもいる。
だが運営がバラす場合があるのは事実だ。これほど不快な話はそうそうあるもんじゃない、治は怒りに震える。ボス、もう黙ってくれ!
そんな願いもむなしく、梅下は話し続ける。
「ところで剣崎くん。エージェントたちはどうなっているんですか?」
「あ……。はい」
「いったいさっきからどうしたんです?」
「いや、大したことじゃなくて……」
「体調が悪いなら、医務室に行ってください!」
「はい」
「もう一度ききますが、エージェントはどうなっているんですか」
エージェント。ざっくりいえば、社員でありながら一般プレイヤーのふりをしてゲームに参加している者のことだ。
悪くいうなら運営のスパイ。その仕事は、不正をしているプレイヤーの摘発といった真っ当なものがメインだが、裏工作を行う時もしばしばある。
むしろプラネットにおいては、裏工作のほうが主目的かもしれない。
たとえば、LMから受け取った個人情報……職業や収入といったデータをもとに、ターゲットに近づいて課金を煽ったり、PKを手伝ったり。
治はこのエージェントが大嫌いであり、話題にするだけで吐き気がする。そういう事情を知っているエージェント班のリーダー、赤羽は、空気を読んで挙手する。
「ボス、エージェントのことは俺に聞いてください」
「では……。最近の成果について報告をお願いします」
梅下の機嫌を損ねないように話すのは面倒だ、しかしやらねばならない。赤羽は覚悟を決める。
「では、次の話題に移りましょう。掲示板工作の担当は誰ですか?」
ショートカットの女性が手を挙げる。
「はい。私です」
「基本的にはいつも通りで構いません。匿名掲示板を利用し、連合軍とレイザーズの罵倒合戦を煽る書きこみをする」
「実はそれなんですが……。どこの掲示板も既に大荒れで、危険すら感じます」
「だったら逆に、オーバーヒートしないよう、なだめなさい。
憎しみは競争を激化させ、課金欲に火を着ける。しかし、ウンザリして引退する人が出ては無意味です。
そうならないよう、ほどほどの憎しみを持続させる。上手にコントロールしてください」
何がコントロールだ、クソアマ、ヘルキャット! それってつまり、憎悪の養殖じゃないか!
「では次。攻略サイトの担当は……」
アフリカ系の長身な男性が手を挙げる。
「私です」
「よく聞いてください。後でリストを渡します、レイザーズと連合軍の全プレイヤーのデータです」
「はい」
「何人かにマークがついています。その人たちの情報をサイトの秘密掲示板に書き、敵から狙われるようにするんです」
いったいこれは何か? 端的に言えば、殺しやすいカモの情報を垂れ流すということだ……運営自らの手で。
運営はプラネットの情報を知りつくしている、だからザコ・プレイヤーを見つけ出すなど朝飯前だ、それを暴露することも。
多くのプレイヤーが、「いったい誰が秘密掲示板に情報を書くのだろう」という疑問を持っている。その答えの一つはこれだ。
もちろん、全ての情報が運営によって投稿されているわけではない。個人的な恨みから投稿する一般プレイヤーもいる。
だが運営がバラす場合があるのは事実だ。これほど不快な話はそうそうあるもんじゃない、治は怒りに震える。ボス、もう黙ってくれ!
そんな願いもむなしく、梅下は話し続ける。
「ところで剣崎くん。エージェントたちはどうなっているんですか?」
「あ……。はい」
「いったいさっきからどうしたんです?」
「いや、大したことじゃなくて……」
「体調が悪いなら、医務室に行ってください!」
「はい」
「もう一度ききますが、エージェントはどうなっているんですか」
エージェント。ざっくりいえば、社員でありながら一般プレイヤーのふりをしてゲームに参加している者のことだ。
悪くいうなら運営のスパイ。その仕事は、不正をしているプレイヤーの摘発といった真っ当なものがメインだが、裏工作を行う時もしばしばある。
むしろプラネットにおいては、裏工作のほうが主目的かもしれない。
たとえば、LMから受け取った個人情報……職業や収入といったデータをもとに、ターゲットに近づいて課金を煽ったり、PKを手伝ったり。
治はこのエージェントが大嫌いであり、話題にするだけで吐き気がする。そういう事情を知っているエージェント班のリーダー、赤羽は、空気を読んで挙手する。
「ボス、エージェントのことは俺に聞いてください」
「では……。最近の成果について報告をお願いします」
梅下の機嫌を損ねないように話すのは面倒だ、しかしやらねばならない。赤羽は覚悟を決める。
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