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第5章 上流階級の優雅で華麗な日々

第84話 渡る世間は危険だらけ Feel like walking the tightrope

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 現実世界に戻り、どうやってパパの会社まで行くかを考える。そうだな……。車で海沿いの道をドライブしていこう。
 あそこは景色がいい。道の大部分が崖のそばにあって、眼下に広がる海を見渡すことができる。

 それに、なかなかスリリングなのがいい。道幅が狭いから、対向車とすれ違うだけで緊張する。特にカーブは危険だ、滑りやすい雨の日はマジで事故りやすい。
 もっとも、俺には無縁な話だけど。こちとら子どもの頃から運転教育を受けてるんだ、18歳でようやく免許を取るような貧乏人とはワケが違う。

 いざとなったら自動運転機能を使えばいいし、不安要素はどこにもない。じゃ、さっそく行くとしよう!



 俺は、長年にわたって愛用しているスポーツ・カーを飛ばし、例の崖沿いの道へ乗りこむ。
 たらたら走りながら海を眺める。いつ見てもきれいだ。とはいえちょっと恐ろしい、だって事故ったらこの海へ落ちるんだ。まず助からない。

 大ケガしたってサイボーグ技術で生き延びられる世の中になったが、さすがに脳がやられちまったらどうしようもない。
 油断しないで安全運転を心がけないとな。そう思った直後にあくびが出る。やれやれ……ちょっと疲れてるのかな?

 少し休むことにして、自動運転モードに切り替える。BGMがわりにカー・ラジオをつける、男性ニュース・キャスターの声が聞こえてくる。

「ただいまより、国民安全保障特別委員会からの緊急発表が行われます。ご清聴をお願いします」

 なんだよ、急に。どうせ嫌な話だろ? せっかくいい気分だってのに、やめろよ。
 俺はラジオを止めようと思う。しかし考え直す、だってパパも今ごろこの発表を聞いてるかもしれない。

 後で面会した時、ニュースを聞かなかったことがバレて「勉強不足!」などと怒られるのはごめんだ。しょうがない、ご清聴してやろうじゃないの。
 ラジオから議長の声が流れだす。まったく冴えない、色気もクソも無いババアの声だ。つまんない!

「国民の皆様、こんにちは。今日はデモについてお話いたします。
 先日に発生した、3人の死者が出たデモは、実にいたましいものでした。また、これがきっかけとなって次々に暴力的なデモが起きております。
 それだけではありません。この社会的混乱に便乗し、各種テロ組織の動きも活発になっています。
 この前の、日本革命解放軍による事件を思い出してください。
 インフラ会社の社員を誘拐し、料金値下げの要求を聞かなければ殺害するなど、絶対に許されない鬼畜の所業です」

 なぁーにが革命解放軍だよ。ルサンチマンをこじらした、底辺のクズの集まりのくせに。革命なんて偉そうなこといっても、やってることは野蛮なテロじゃん。
 もしこれがプラネットだったら、解放軍なんて速攻でぶち殺してるところだ。社会に迷惑かける落ちこぼれ集団め!

「また、これ以外のテロについても思い出してください。特に、10人もの命が失われた、新宿のあのテロを!
 これの実行組織は武装戦線ですが、なるほど、武装の名前が示す通りに暴力的で過激です。こんな組織の存在を許していいのでしょうか?」

 そうなんだよなぁ、武装戦線は解放軍よりもクズなんだ。どちらがマシかと聞かれたら、俺は迷わず解放軍と答えるね。
 世間じゃ「テロ組織にはそれぞれ違いがある」なんてほざく奴もいるけど、俺に言わせてもらえばどれも似たり寄ったりだね。みんなゴミカスさ。

「情報局の調査によれば、武装戦線は次のテロを計画中とのことです。近いうちに犯行予告が行われるでしょう。
 しかしどうか安心してください。われわれ安全保障委員会は、国民という子どもたちを守る、頼れるお母さんです。
 リトル・マザーは今度こそテロを防ぎ、武装戦線を壊滅します。必ず、必ずです!」

 へぇ、そいつはすごいや。だからなんだってんだ、バーカ! 何を言い訳したところで、新宿のテロを防げなかったのは事実だろ! クソババア!
 俺みたいな上流階級は、最初からあんたなんて信用してないぜ。頼りになるのは大金で雇ったボディーガードや防弾車だ。

 自分の身は自分で守る、これが常識。そして、他人の力をアテにして、アテが外れてテロでくたばるのは貧乏人と相場は決まってんだ。
 そうでなきゃ、警備の隙を突かれた間抜けぐらいだな。ま、どっちにせよ俺には無縁の話だ。対岸の火事みたいなもんだね。
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