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第4章 現代の監視社会における具体的な監視方法とその運用の実態について
第81話 大規模掃除 Pay to win
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やがて”大規模掃除”の日が訪れた。
特調のサーバー内に設置された電脳会議室に多くのメンバーが集まっている。森も大伝馬も理堂もだ。
彼女たちの前に立っている冬川が作戦説明を終え、言う。
「段取りについては以上です。質問のある方は挙手をお願いします」
即座に大伝馬が手を挙げる。
「室長! 前に聞いた作戦内容とぜんぜん違うぞ!」
「わかっていますよ。あなたはこう言いたいんでしょう、スケルトンは自分が操縦する予定だったのに、なぜチーフに変更されたのか、と……」
「そうだ!」
「いろいろと事情があるのです。理解してください」
「でもよ……」
森がなだめる。
「次にスケルトンを使う時は、必ずお前の担当にする。だから今回は勘弁してくれ」
「絶対だぞ!」
「任せておけ」
「まったく……」
いまだ不満げな大伝馬の顔をながめ、森は心労を感じ、ぼやく。
彼のこういう性格は本当に困ったものだ。しかし、この欠点がなくなると大伝馬らしさは無くなる。
あって七癖、なくて七癖。多少の欠点はゆるしてやるのが人間関係をうまく乗り切るコツだ。問題点を受け入れ、寛容になろう。
一方、同じタイミングで理堂は別のことを考えている。
解放軍の人たちはなぜ何も気づかないのだろう? なぜ大山や猫谷を信じ、従い、テロをするのだろう?
理堂は解放軍を哀れに思う。局の操り人形と化して殺しを行い、最後はその局によって殺される彼ら彼女らは可哀想だ。
連中はきっと、最後の瞬間まで「自分たちは正義をなした」と信じながら死んでいくだろう。
それは完全な過ちや思い違いとはいえない、だが、若海のような志の高い人間をも殺すのは正義といえるのか?
もちろん理堂は知っている。2084年の日本において、企業に害を与える人物は誰であろうと悪人なのだ。抹殺しなくてはならない。
どこからどう見てもディストピア。しかし、今さら嘆いて何になる? 状況は固定されてしまった、もはや変えられない。
理堂は、以前はこう思っていた。もし世の中がおかしくなったなら、民衆が立ち上がってそれを変えるはずだと。
だが、情報局に勤めるようになってわかった。世界は一握りの強者のためにあり、強者はすべてを自分たちに都合がいいように作り替える。
弱者は強者のエサにすぎない。弱肉強食の四文字が真実だ。
ならば、せいぜい強者の味方をして、長いものに巻かれて生きればいい。悪に立ち向かって惨殺されるより、悪を受け入れて平穏に暮らすほうがマシだ。
給料さえもらえれば、この社会がどうなろうと知ったことではない。革命でも何でも、勝手にやっていろ。俺は先に降りる。
……ちくしょう。
作戦当日。革命軍のメンバーが到着予定の倉庫の前に、ステルス起動状態の試作スケルトンがあり、その周囲を同じくステルスで隠れている隊員たちが固める。
スケルトンに搭乗中の森は、倉庫の一室にいる猫谷へ秘密無線通信を送る。
(マロン、そっちはどう?)
(奴らをバッチリ連れてきた。後は倉庫へ送り出すだけ)
(了解)
(あたしはいつも通り隠れてるから、終わったら連絡よろしく)
(わかっているさ)
(しかしこいつらは本当に馬鹿だな。ちゃちな拳銃しか持ってないのに、いざとなったらそれで身を守れると思ってる)
(奴らは真実を知らないんだ。のぼせ上がるのは当然だろ)
(ねぇ、ときどきこんなことを思ったりしない? 結局この世はペイ・トゥ・ウィン(pay to win)だって)
(ペイ・トゥ・ウィン?)
(ゲームなんかで使う言葉だ。ペイ、すなわち課金する。すればするほど楽にゲームに勝てる)
(あぁ、それね……。知ってる)
(世間じゃレヴェリー・プラネットとか流行ってるけど、あんなゲーム、要は金さえあれば勝てるわけでしょ。
作戦だのテクニックだの、そんなのはおまけ程度。とにかく金だ、金があれば勝てる)
(現実と同じだな。金を持つ者が力を持ち、持たない貧乏人をぶちのめして支配する)
(ねぇ。そのスケルトンって、何億するんだっけ?)
(確か十億円)
(十億! その十億のスケルトンが、たかだか五万、六万の拳銃で武装した解放軍を皆殺しにする。まさにペイ・トゥ・ウィンってわけだ)
(なるほどねぇ)
(さて、準備完了。これから馬鹿どもを送り出すから、後始末、よろしく)
(了解。任せろ)
しばらくすると猫谷が倉庫内の照明をつけ、解放軍の姿を見やすくするはずだ。これには目くらましの効果もある、暗い地下にいた解放軍は光の変化に対応できない。
やがて倉庫出入口のシャッターが巻き上がるだろう。後は簡単、スケルトンで解放軍を虐殺し、自動マルチ・ロックオンのデータをとって作戦完了。
極悪といえば極悪な作戦だ。しかし、私たちは法によって守られている。法に基づいて行動する限り、いくら人を殺そうと問題は無い。
人質を取って立てこもる強盗犯を撃ち殺しても、普通は罪にならない。それどころか、人質を救うために努力したとみなされ、褒められる。
そう、法に守られている限り、何をしようとゆるされるのだ。正義は法と共にある、それが森の信念。
ならば迷うことなくスケルトンを動かし、解放軍というゴミクズ、社会に巣くうダニどもを抹殺してやる。
ついにシャッターが動き出す。森はスケルトンの操縦桿を握りしめる。燃料切れを防ぐためにステルスを解いて、いよいよ殺戮開始だ。
一方。倉庫内の七寺たちは、何も知らない。これから訪れる未来についても、自分たちの最期についても。
シャッターが開き切り、照明がまばゆく灯される……。
特調のサーバー内に設置された電脳会議室に多くのメンバーが集まっている。森も大伝馬も理堂もだ。
彼女たちの前に立っている冬川が作戦説明を終え、言う。
「段取りについては以上です。質問のある方は挙手をお願いします」
即座に大伝馬が手を挙げる。
「室長! 前に聞いた作戦内容とぜんぜん違うぞ!」
「わかっていますよ。あなたはこう言いたいんでしょう、スケルトンは自分が操縦する予定だったのに、なぜチーフに変更されたのか、と……」
「そうだ!」
「いろいろと事情があるのです。理解してください」
「でもよ……」
森がなだめる。
「次にスケルトンを使う時は、必ずお前の担当にする。だから今回は勘弁してくれ」
「絶対だぞ!」
「任せておけ」
「まったく……」
いまだ不満げな大伝馬の顔をながめ、森は心労を感じ、ぼやく。
彼のこういう性格は本当に困ったものだ。しかし、この欠点がなくなると大伝馬らしさは無くなる。
あって七癖、なくて七癖。多少の欠点はゆるしてやるのが人間関係をうまく乗り切るコツだ。問題点を受け入れ、寛容になろう。
一方、同じタイミングで理堂は別のことを考えている。
解放軍の人たちはなぜ何も気づかないのだろう? なぜ大山や猫谷を信じ、従い、テロをするのだろう?
理堂は解放軍を哀れに思う。局の操り人形と化して殺しを行い、最後はその局によって殺される彼ら彼女らは可哀想だ。
連中はきっと、最後の瞬間まで「自分たちは正義をなした」と信じながら死んでいくだろう。
それは完全な過ちや思い違いとはいえない、だが、若海のような志の高い人間をも殺すのは正義といえるのか?
もちろん理堂は知っている。2084年の日本において、企業に害を与える人物は誰であろうと悪人なのだ。抹殺しなくてはならない。
どこからどう見てもディストピア。しかし、今さら嘆いて何になる? 状況は固定されてしまった、もはや変えられない。
理堂は、以前はこう思っていた。もし世の中がおかしくなったなら、民衆が立ち上がってそれを変えるはずだと。
だが、情報局に勤めるようになってわかった。世界は一握りの強者のためにあり、強者はすべてを自分たちに都合がいいように作り替える。
弱者は強者のエサにすぎない。弱肉強食の四文字が真実だ。
ならば、せいぜい強者の味方をして、長いものに巻かれて生きればいい。悪に立ち向かって惨殺されるより、悪を受け入れて平穏に暮らすほうがマシだ。
給料さえもらえれば、この社会がどうなろうと知ったことではない。革命でも何でも、勝手にやっていろ。俺は先に降りる。
……ちくしょう。
作戦当日。革命軍のメンバーが到着予定の倉庫の前に、ステルス起動状態の試作スケルトンがあり、その周囲を同じくステルスで隠れている隊員たちが固める。
スケルトンに搭乗中の森は、倉庫の一室にいる猫谷へ秘密無線通信を送る。
(マロン、そっちはどう?)
(奴らをバッチリ連れてきた。後は倉庫へ送り出すだけ)
(了解)
(あたしはいつも通り隠れてるから、終わったら連絡よろしく)
(わかっているさ)
(しかしこいつらは本当に馬鹿だな。ちゃちな拳銃しか持ってないのに、いざとなったらそれで身を守れると思ってる)
(奴らは真実を知らないんだ。のぼせ上がるのは当然だろ)
(ねぇ、ときどきこんなことを思ったりしない? 結局この世はペイ・トゥ・ウィン(pay to win)だって)
(ペイ・トゥ・ウィン?)
(ゲームなんかで使う言葉だ。ペイ、すなわち課金する。すればするほど楽にゲームに勝てる)
(あぁ、それね……。知ってる)
(世間じゃレヴェリー・プラネットとか流行ってるけど、あんなゲーム、要は金さえあれば勝てるわけでしょ。
作戦だのテクニックだの、そんなのはおまけ程度。とにかく金だ、金があれば勝てる)
(現実と同じだな。金を持つ者が力を持ち、持たない貧乏人をぶちのめして支配する)
(ねぇ。そのスケルトンって、何億するんだっけ?)
(確か十億円)
(十億! その十億のスケルトンが、たかだか五万、六万の拳銃で武装した解放軍を皆殺しにする。まさにペイ・トゥ・ウィンってわけだ)
(なるほどねぇ)
(さて、準備完了。これから馬鹿どもを送り出すから、後始末、よろしく)
(了解。任せろ)
しばらくすると猫谷が倉庫内の照明をつけ、解放軍の姿を見やすくするはずだ。これには目くらましの効果もある、暗い地下にいた解放軍は光の変化に対応できない。
やがて倉庫出入口のシャッターが巻き上がるだろう。後は簡単、スケルトンで解放軍を虐殺し、自動マルチ・ロックオンのデータをとって作戦完了。
極悪といえば極悪な作戦だ。しかし、私たちは法によって守られている。法に基づいて行動する限り、いくら人を殺そうと問題は無い。
人質を取って立てこもる強盗犯を撃ち殺しても、普通は罪にならない。それどころか、人質を救うために努力したとみなされ、褒められる。
そう、法に守られている限り、何をしようとゆるされるのだ。正義は法と共にある、それが森の信念。
ならば迷うことなくスケルトンを動かし、解放軍というゴミクズ、社会に巣くうダニどもを抹殺してやる。
ついにシャッターが動き出す。森はスケルトンの操縦桿を握りしめる。燃料切れを防ぐためにステルスを解いて、いよいよ殺戮開始だ。
一方。倉庫内の七寺たちは、何も知らない。これから訪れる未来についても、自分たちの最期についても。
シャッターが開き切り、照明がまばゆく灯される……。
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