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第3章 七寺英太の革命日記

第55話 コピーするだけの簡単なお仕事 Father, forgive him

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 結局、この世は金がすべてだ。金がなければどうにもならない。だから常に問題となるのは、いかにして金を稼ぐかだ。
 今の仕事は薄給じゃない。しかし、プラネットに思うぞんぶん課金するにはまるで足りない。

 装備品は毎月どんどん新作が出るし、回復アイテムみたいな消耗品だって買いこむ必要がある。
 じゃあどうするか? サイド・ビジネスで儲ければいいのさ。



 街の郊外に一軒の酒場がある。そこには地下フロアがあって、店主に認められた特別メンバーだけが入れる仕組みだ。
 いま俺は、そこのカウンター席に座っている。右隣の席には白人の女。ストロベリー・ブロンドの髪を肩まで伸ばしている。

 何歳くらいだろう? 化粧で若作りの可能性を考慮すると、おそらく二十後半か。
 いや、そんなこと考えてどうする。もし彼女が全身サイボーグなら、好きな見た目を作れるんだぞ。

 それに、金さえあれば、闇市場で軍事用のサイボーグ部品を仕入れることすらできる。
 プラネットで見かけるような、熱光学ステルス機能つきのサイボーグとなって生きていくことすら可能だ。

 こいつの正体はなんなんだろう、そう思って女の顔に視線をやる。彼女は気づいて話し出す。

「今日はどれくらい?」
「いつも程度……」

 俺は上着のポケットから棒状のフラッシュ・ドライブを取り出し、カウンターに置く。
 彼女はそれを取って自分の左耳後ろのソケットに差しこむ。中のデータの確認作業ってわけだ。

 しばらくして彼女は言う。

「もう少し欲しいけど、まぁ問題ありません。それじゃぁどうぞ……」

 カウンターに封筒が置かれる。俺はそいつをポケットにしっかり仕舞い、その分厚さに感動する。
 こいつの中身はもちろん金、札束だ。さっきのドライブ(の中のデータ)を売り渡した代金というわけ。

 いつも通りの額が入ってるなら、こないだ発売されたプラネットの新型ソードが買えるだろう。ありがたい。
 しかし、俺も悪い男になったもんだ。なぜなら、あのデータはうちの警備会社の顧客名簿。そんなものを第三者に売るのは、明らかに犯罪だ。

 でも、クレジット・カードの暗証番号とかならともかく、名簿ごときじゃたいした事件にならねぇだろ。
 それに、誰だって少しは悪いことして生きてんだ。じゃあ俺だってやらせてもらおうじゃねーか。

 へへ……実においしいビジネスだぜ。宝石みたいな実体のあるものを盗めば、すぐに事が露見する。だってブツそのものがなくなるんだ、現場を見れば誰でも気づく。
 でも、データは違う。こいつをコピーして盗んでも、データは持ち主の手元にしっかり残る。つまり簡単にはバレない。

 もちろん、コピーした痕跡からバレるリスクはある。でも、この女からもらった機械を使ってコピーすれば、痕跡なんて残らない。
 実際、今まで何十回とやってきたけどバレてねぇ。警察は意外と間抜けだ、そしてLMも同じくらい間抜けだ。

 なにが監視社会だよ。こんな初歩の盗みを監視網から逃すなんて、LMもたいしたことねぇぜ。
 ま、あのビッチのことはどうでもいい。用事が済んだんだ、とっと店を出よう。お別れの挨拶だ。

「いつもありがとうよ。じゃあ行くぜ」
「またよろしくね……」

 さっさと帰宅して課金しよう。ははっ、想像するだけでワクワクしてくる!
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