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第2章 2084年

第35話 陽気にやろうぜ Trifling happiness

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 ベアたちは坂を降りていく。隊形は、タイガーが先頭、その後ろにベアとポールだ。
 モンスターに気づかれないようにするため、会話をチャットに切り替えてベアが話す。

(ポール。どんな敵がいると思う?)
(たぶん小型のやつが大量に……)

 タイガーの足が止まり、聞き耳を立てる。やがてゆっくりと言う。

(おい。お前の予想通り、かなりいるみたいだぜ……)

 全員に緊張が走り、それぞれ銃を構える。ベアはグロック22、ポールはS&WのM29。タイガーは赤く塗られたFN P90だ。
 現実世界ではこんな目立つ塗装をする人間などいないが、しかしこれはゲーム。カッコよさ重視で好きなことをしていい。

 タイガーが二人へ指示を飛ばす。

(確認するぞ。俺が突っこんで撃ちまくり、モンスターの体力を削る。トドメはベアが担当、撃ち漏らしは個別にポールが仕留める。オーケー?)

 どちらも声を合わせて(オーケー)と返答する。タイガーはうなずき、先導するために歩き出す。
 やがて全員が大部屋のそばに着く。タイガーがくの字に曲がる戦闘用ミラーを出し、それで部屋の中を確認する。

(ハニワだらけだ……)

 ハニワの名はあくまで通称だ。公式にはクレイ・ドール(clay doll)という。[
 通称通りにハニワの外見をしているが、顔がガイ・フォークスの仮面に似ているせいで不気味な印象がある。
 
 戦闘力は低く、特技といえば指先から小さな土の玉を撃つ程度。典型的なザコだ。
 これなら簡単に勝てる。そう判断したタイガーはミラーをしまい、ハンドサインを出して言う。

(いくぞ!)

 全員が同時に部屋にとびこみ、撃ち始める。大量のハニワが破壊されていく。
 だが生き残った数匹がベアたちへ走り出し、他の数匹が土の玉を撃って援護する。

 玉は次々にベアたちに当たり、彼らのHPを減らしていく。また、突撃役のハニワたちも少しずつ距離を縮めていく。
 危険な状況だ。急いで全滅させなければならない。しかし突然タイガーの射撃が止まり、彼は悪態をつく。

「くそっ、ジャムった!」

 ハニワはもう目前だ。このままでは手痛い打撃を受けてしまう。
 ピンチと悟ってベアが飛び出す。銃を素早く左足のホルスターにしまい、空いた右手で腰のソードを抜く。ハニワの群れに飛びこむ。

 眼前の一体を唐竹割りで殺し、体をひねりつつ複数体の胴を薙ぐ。
 トンボ返りの要領で背後の一体を飛び越して着地、即座にその一体へダッシュして斬り捨てる。タイガーが礼を述べる。

「すまねぇ、ベア!」
「問題ない! 任せろ!」

 大暴れの快感がベアを酔わせ、フラストレーションを吹き飛ばしていく。主導権を握った彼は叫ぶ。

「ポールさん! 右の敵を!」
「ベアさんはどうするんです!?」
「このまま左をつぶす! タイガー、状態は!?」
「もう銃は仕舞った! ここからは俺も接近戦だ!」

 タイガーの両手の甲から長いカギ爪が飛び出す。まるでアメリカ漫画のヒーローだ。
 彼は勢いよく突進してカギ爪を振るい、次々にハニワを壊していく。

 二人に負けじとポールも奮戦する。手にしているM29は象をも殺せる代物、しかも火力を限界まで改造してある。ハニワなど一撃だ。
 こうしてベアたちは一丸となって戦い、数分後、敵を全滅させる。満足そうな顔でタイガーは言う。

「思ったよりも稼げたな! ドロップもたんまりゲットできたしよ、上出来だ」

 ベアが興奮した声で返す。

「でもまだ戦えるだろ? 別のとこにいこう!」

 タイガーは笑って答える。

「へへ……。調子出てきたじゃねーか、ベア。そうやって思い切り楽しめ。
 カメラだろうと仕事だろうと、悩みなんて忘れるんだ。陽気にいこうぜ!」

 何か警告めいたものがベアの胸中を走り抜ける。だが熱っぽい感情がそれを忘れさせてしまう。
 意気揚々とベアは言う。

「オーケー、オーケー! じゃんじゃんやろう!」

 仮想世界での宴はこれからが本番だ。
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