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第四章 ファルコンズ最高!(Falcons rules!)
第20話-7 フラグやめようよ
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山阪はゆっくりと一塁、二塁、三塁とベースを踏んでいって、最後に本塁を踏み、チームの全員から拍手と歓迎を受けながらベンチに帰っていく。
ネクスト・バッターの谷下が右打席に入り、小荷田に話しかける。
「さて、小荷田さん。試合時間の方はどうなんです?」
「……何のことだ?」
「とぼけても無駄ですよ。時間切れ寸前でしょう」
「あんた……」
「時間を稼がせてもらいますよ」
「汚いことを……」
「遅延行為で勝とうなんて、先にやったのはそちらでしょう。やられたらお返しするのが礼儀というものです」
「クソッ!」
小荷田は寄川に大声で伝える。
「マジで時間がない! 速攻で頼む!」
「了解!」
寄川は投球姿勢に入る。
無駄なボール球を出していい状況ではない。さっさとストライクをとって追い込んでいく必要がある。ならば速球だ、一球目はそれを投げる。
「ストライク!」
小荷田は内角低めを指示する。頷き、寄川はそれを投げる。
「ストライク・ツー!」
もたもたせずに三振を奪いにいく。スライダーで勝負だ。
しっかり足を踏ん張りながら右腕を振って、それを外角低めへ放り込む。谷下が打つ。
「ファール!」
どうやら彼は本気で粘るつもりらしい。小荷田はスライダーをもう一回要求し、今度こそ空振りを奪おうとする。
時速八十キロほどのスライダーが投げられる。少しコントロールがおかしい、それはゾーンの外へいく。
「ボール!」
ワン・ツーとなった。小荷田は思う。
(こうなりゃ速球で力押しだ!)
寄川にサインを送る。寄川は頷く、五球目を投じる。
外角高めに球が向かっていく。谷下はあっさり打ち返す。
「ファール!」
スパローズのベンチから柿内が叫ぶ。
「ビビんな、押しこめ! ねじ伏せろ!」
寄川、「うっす!」と大声で返し、今度こそトドメを刺すべく速球を投げる。
九十七キロ、なかなかの球が内角低めへ突進する。差し込まれてしまったか、谷下は少し遅いタイミングでバットを振る。
カーンと音がして打球が飛ぶ。方向は三遊間、ボテボテのゴロだ。ショートの宮崎がしっかり捕球する、一塁へ送り、ファースト五十鈴がしっかりキャッチする
「アウト!」
小荷田は審判にたずねる。
「すみません、時間は!?」
「ギリギリですが、大丈夫ですよ。五回の裏にいけます」
首の皮一枚ではあるが、スパローズの逆転の希望はどうにか繋がった。
運のいいことに、次のスパローズの攻撃は一番から始まる。四番の小荷田までにチャンスを作ることが出来れば二点差をひっくり返せるかもしれない。なにせ彼は今日の初打席でスリーランを打ったのだから。
ここからが西詰の踏ん張りどころ、勝負どころだ。見事に抑えきって勝利投手となるか、それとも打たれて敗北するか。
ファルコンズの選手たちがベンチからフィールドへ出ていく。もちろん西詰もだ。その彼に声をかけ、テイターは言う。
「どう、調子は?」
「まだまだ元気だよ。心配すんな、ちゃんと最後までやれる」
「でもこの暑さでしょ。ほんとは疲れてるんじゃない?」
「そんなんあり得ねぇよ」
「強がり言っちゃって……」
「信じろよ、マジで大丈夫だって」
「だったらいいけどさ。ねぇ、いつも監督が言ってるでしょ。野球はみんなでやるものだって」
「あぁ」
「自分一人で何でもかんでも背負いこまないでさ。ピンチの時はみんなを頼んなよ」
「言われなくても分かってるって。なーに、三者連続で凡打凡退、パパっとケリつけて終わらせるから」
「はぁ……。こういうの、日本じゃ死亡フラグっていうんでしょ。自分から立てちゃって……」
「そんなん剛速球でへし折ってやるよ! いいから行こうぜ、向こうを待たせちゃ悪いだろ」
「はいよ!」
二人は仲良く歩き出す。
いよいよスパローズの攻撃が始まる。先頭打者の一番稲川が左の打席に入ってバットを構える。
谷下が西詰に大声で話しかける。
「締まっていこう!」
「はい!」
「よし、いつでもどうぞ!」
一球目が投げられる。外角低め、速球、結果は?
「ストライク!」
まずまずの滑り出しだ。続いて二球目、これも速球。
「ストライク・ツー!」
追い込んだら即座にトドメ、チーム方針に従って決め球のドロップを内角へ放り込む。
ストライクになると見せかけてボール球になるコースだ。これで空振り三振を奪えるか。
「ボール!」
この程度の揺さぶりは、稲川には通じない。一番打者を務めるだけあって、流石に選球眼がいい。
谷下がサインを出す。西詰は読み取る。
(外角高め、ボール球、速球……)
対角線の配球で攻める腹積もりらしい。西詰としても異存はない、頷いて賛同する。
セット・ポジションから第四球目を投げ込む。
「ボール・ツー!」
カウントはこれでツー・ツー、少し苦しくなってきた。だがまだ余裕がある、何より、西詰は追い込んでいるのだ。リスク覚悟で勝負していける。
(相手はさっきの速球に意識がいってるはず……。そこに遅球のドロップを投げて空振り三振、これでいきたいとこだよな)
だが谷下のサインは内角低めの速球を指示している。首を振って拒否、何回かサインのやり取りが行われ、西詰の主張が最終的に認められる。内角から外角へ滑り抜けるボール球のドロップ、これだ。
しっかり球を握り、西詰はそれを投げる。稲川はバットを動かさない。
「ボール・スリー!」
理由は不明だが、稲川はドロップにまったく反応しない。あくまでも直球だけを狙うつもりなのか、それとも……。
西詰の心中に嫌な色の雷光が閃く。
(まさか、俺がドロップを投げる時の癖がバレてる……?)
あり得ない話とは言い切れない。西詰たちだって藤ノ原の癖を見抜いたのだ。スパローズ陣営が似たようなことをする可能性はそれなりにある。
(クソッ……!)
バレているのか、いないのか。疑心暗鬼なまま、谷下の指示に従って六球目となるファスト・ボールを投じる。
心の動揺が出てしまったのだろうか。その一球はコントロール失敗でゾーンから大きく外れたところにいってしまう。
「ボール・フォー!」
バットを地面に置いて、稲川は一塁へウォークしていく。
いきなりの無死一塁。どうやら、立ててしまったフラグの毒が回り始めているらしい。一体どうなっていくのか、それはきっと西詰次第だ。
ネクスト・バッターの谷下が右打席に入り、小荷田に話しかける。
「さて、小荷田さん。試合時間の方はどうなんです?」
「……何のことだ?」
「とぼけても無駄ですよ。時間切れ寸前でしょう」
「あんた……」
「時間を稼がせてもらいますよ」
「汚いことを……」
「遅延行為で勝とうなんて、先にやったのはそちらでしょう。やられたらお返しするのが礼儀というものです」
「クソッ!」
小荷田は寄川に大声で伝える。
「マジで時間がない! 速攻で頼む!」
「了解!」
寄川は投球姿勢に入る。
無駄なボール球を出していい状況ではない。さっさとストライクをとって追い込んでいく必要がある。ならば速球だ、一球目はそれを投げる。
「ストライク!」
小荷田は内角低めを指示する。頷き、寄川はそれを投げる。
「ストライク・ツー!」
もたもたせずに三振を奪いにいく。スライダーで勝負だ。
しっかり足を踏ん張りながら右腕を振って、それを外角低めへ放り込む。谷下が打つ。
「ファール!」
どうやら彼は本気で粘るつもりらしい。小荷田はスライダーをもう一回要求し、今度こそ空振りを奪おうとする。
時速八十キロほどのスライダーが投げられる。少しコントロールがおかしい、それはゾーンの外へいく。
「ボール!」
ワン・ツーとなった。小荷田は思う。
(こうなりゃ速球で力押しだ!)
寄川にサインを送る。寄川は頷く、五球目を投じる。
外角高めに球が向かっていく。谷下はあっさり打ち返す。
「ファール!」
スパローズのベンチから柿内が叫ぶ。
「ビビんな、押しこめ! ねじ伏せろ!」
寄川、「うっす!」と大声で返し、今度こそトドメを刺すべく速球を投げる。
九十七キロ、なかなかの球が内角低めへ突進する。差し込まれてしまったか、谷下は少し遅いタイミングでバットを振る。
カーンと音がして打球が飛ぶ。方向は三遊間、ボテボテのゴロだ。ショートの宮崎がしっかり捕球する、一塁へ送り、ファースト五十鈴がしっかりキャッチする
「アウト!」
小荷田は審判にたずねる。
「すみません、時間は!?」
「ギリギリですが、大丈夫ですよ。五回の裏にいけます」
首の皮一枚ではあるが、スパローズの逆転の希望はどうにか繋がった。
運のいいことに、次のスパローズの攻撃は一番から始まる。四番の小荷田までにチャンスを作ることが出来れば二点差をひっくり返せるかもしれない。なにせ彼は今日の初打席でスリーランを打ったのだから。
ここからが西詰の踏ん張りどころ、勝負どころだ。見事に抑えきって勝利投手となるか、それとも打たれて敗北するか。
ファルコンズの選手たちがベンチからフィールドへ出ていく。もちろん西詰もだ。その彼に声をかけ、テイターは言う。
「どう、調子は?」
「まだまだ元気だよ。心配すんな、ちゃんと最後までやれる」
「でもこの暑さでしょ。ほんとは疲れてるんじゃない?」
「そんなんあり得ねぇよ」
「強がり言っちゃって……」
「信じろよ、マジで大丈夫だって」
「だったらいいけどさ。ねぇ、いつも監督が言ってるでしょ。野球はみんなでやるものだって」
「あぁ」
「自分一人で何でもかんでも背負いこまないでさ。ピンチの時はみんなを頼んなよ」
「言われなくても分かってるって。なーに、三者連続で凡打凡退、パパっとケリつけて終わらせるから」
「はぁ……。こういうの、日本じゃ死亡フラグっていうんでしょ。自分から立てちゃって……」
「そんなん剛速球でへし折ってやるよ! いいから行こうぜ、向こうを待たせちゃ悪いだろ」
「はいよ!」
二人は仲良く歩き出す。
いよいよスパローズの攻撃が始まる。先頭打者の一番稲川が左の打席に入ってバットを構える。
谷下が西詰に大声で話しかける。
「締まっていこう!」
「はい!」
「よし、いつでもどうぞ!」
一球目が投げられる。外角低め、速球、結果は?
「ストライク!」
まずまずの滑り出しだ。続いて二球目、これも速球。
「ストライク・ツー!」
追い込んだら即座にトドメ、チーム方針に従って決め球のドロップを内角へ放り込む。
ストライクになると見せかけてボール球になるコースだ。これで空振り三振を奪えるか。
「ボール!」
この程度の揺さぶりは、稲川には通じない。一番打者を務めるだけあって、流石に選球眼がいい。
谷下がサインを出す。西詰は読み取る。
(外角高め、ボール球、速球……)
対角線の配球で攻める腹積もりらしい。西詰としても異存はない、頷いて賛同する。
セット・ポジションから第四球目を投げ込む。
「ボール・ツー!」
カウントはこれでツー・ツー、少し苦しくなってきた。だがまだ余裕がある、何より、西詰は追い込んでいるのだ。リスク覚悟で勝負していける。
(相手はさっきの速球に意識がいってるはず……。そこに遅球のドロップを投げて空振り三振、これでいきたいとこだよな)
だが谷下のサインは内角低めの速球を指示している。首を振って拒否、何回かサインのやり取りが行われ、西詰の主張が最終的に認められる。内角から外角へ滑り抜けるボール球のドロップ、これだ。
しっかり球を握り、西詰はそれを投げる。稲川はバットを動かさない。
「ボール・スリー!」
理由は不明だが、稲川はドロップにまったく反応しない。あくまでも直球だけを狙うつもりなのか、それとも……。
西詰の心中に嫌な色の雷光が閃く。
(まさか、俺がドロップを投げる時の癖がバレてる……?)
あり得ない話とは言い切れない。西詰たちだって藤ノ原の癖を見抜いたのだ。スパローズ陣営が似たようなことをする可能性はそれなりにある。
(クソッ……!)
バレているのか、いないのか。疑心暗鬼なまま、谷下の指示に従って六球目となるファスト・ボールを投じる。
心の動揺が出てしまったのだろうか。その一球はコントロール失敗でゾーンから大きく外れたところにいってしまう。
「ボール・フォー!」
バットを地面に置いて、稲川は一塁へウォークしていく。
いきなりの無死一塁。どうやら、立ててしまったフラグの毒が回り始めているらしい。一体どうなっていくのか、それはきっと西詰次第だ。
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