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第四章 ファルコンズ最高!(Falcons rules!)
第20話-6 信じろ、諦めるな。おっさんよ神話になれ
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テイターはバットを高々と掲げて神主打法の構えをとり、歌舞伎役者が見得を切るように言う。
「さぁ、どこからでもかかってこい!」
冷やかすように寄川が返す。
「それって堂林翔太のつもり?」
「いや、落合博満」
「ひょっとして中日ファン?」
「ドラゴンズの話は山阪さんとお願いします!」
ベンチの西詰が「俺もドラファンなんだけど……」と愚痴る。
そんな会話の後にテイターと寄川の戦いが始まる。寄川は九十キロほどの直球を投げる。
「ストライク!」
テンポ良く二球目。先ほどと同じような直球が内角やや高めに入る。
「ストライク・ツー!」
そこから恒例の遊び球が投じられる。
「ボール!」
カウントを数えてみよう、ワン・ツーだ。おそらく次はとどめの一球が来るだろう、テイターは気を引き締める。
寄川が四球目を投げる。九十一キロの真っ直ぐ、外角、高さはゾーンの中間くらい。好球とみたテイターは球の上部を引っぱたくように打ち、それを地面に叩きつける。
打球は大きく弾んで高く飛びあがる。全ランナーが走り出す。寄川が素早く動いてボールの落下地点に入り、捕球態勢に入る。
三塁ランナーの西詰は必死にホームへ突き進むが、彼がまだ本塁のずっと手前にいる時に寄川がボールを捕り、素早くホームへ投げる。
小荷田は何の苦も無く送球を受け取り、ホーム・プレートを踏む。
「アウト!」
直後、もう一つのアウトを狙って彼は一塁に投げる。ファースト稲川のミットへ向かって球が飛んでいく、彼が捕球するのとほぼ同時にテイターが一塁を駆け抜ける。
審判がセーフかどうかの判定をコールする。
「セーフ!」
ダブル・プレー失敗だ。寄川が舌打ちして言う。
「ったく、あと少しだったが!」
小荷田が慰める。
「失点せずに済んだんだ、OKだろ。それに、これでツーアウトだ。次の山阪を打ち取れば勝ったも同然だぜ」
「マジかよ?」
「試合時間は殆ど残ってない。どう考えたって次の俺たちの攻撃で試合終了になる。つまりだな、この五回表っていうのはプロ野球でいうと九回表なんだ。最後なんだよ」
「成る程……。なら、気合入れてくか!」
「三球三振で有終の美といこうぜ!」
そんな会話をしている二人の姿を眺めながら、山阪が右打席に入る。
目を閉じ、心を鎮め、ジム・モリスの姿を思い浮かべ、心中で彼に語り掛ける。
(ツーアウト満塁。ここで俺がホームラン打てば、満塁弾で逆転なんです。最近の俺はぜんぜん打ててない、でも、今こそ一発かっ飛ばさなくちゃいけないんです。ミスター・モリス、俺は出来るでしょうか。打てるでしょうか……?)
優しい笑顔を浮かべ、モリスは山阪を見ている。モリスの口がゆっくりと動いていく。
それは無音の音声だ。言語によるコミュニケーションではなく、ハートによるコミュニケーションだ。
山阪は英語ができない。けれど、彼はモリスからのメッセージを理解する。
(信じろ、諦めるな。夢はきっと叶う……)
モリスの姿が消えていく。まるで映画がフェード・アウトで終わっていくように。
けれど現実は続いている。それはそこにあって、確かに存在し続けている。
ツーアウト満塁。そういう状況で四番が打席に立ったなら、やるべき仕事はただ一つしかないのだ。
(今こそ俺はジム・モリスになる……!)
目を開き、心を奮い立たせ、家で朗報を待っている妻と娘の姿を思い浮かべ、ファルコンズの全員に聞こえるように叫ぶ。
「かっ飛ばす! やり遂げるぜ!」
バットを構える。
「寄川! 投げてこい!」
「おう!」
「やってやる!」
「仕留める!」
一騎討ちが始まる。試合の勝敗をかけた決闘が始まる。
最初の球はストライクで、次はボール球。三球目もボール球、四球目に真っ直ぐがきて打つ。
「ファール!」
ツー・ツー。追い込まれた。決着をつけるため、寄川が全力で速球を投げてくる。
(負けねぇ!)
打ち返す。
「ファール!」
小荷田から寄川にボールが投げ返される。カウントは依然としてツー・ツー、寄川、六球目となる真っ直ぐを投げる。
「ボール!」
フル・カウントだ。バッター、ピッチャー、どちらにも逃げ場がない。相手を倒すしかないのだ。
小荷田がサインを出す。寄川、しっかりと頷く。投球姿勢をとって……投げ込む!
(スライダー!)
魂をこめて山阪はバットを振るう。バットはスライダーを的確にとらえ、強烈な大飛球を打ち上げる。
カーーーーーーーン!
ボールは宇宙へ飛び立つロケットのようにぐんぐん飛んでいく。伸びる、伸びる、伸びる伸びる、左翼手が追うのを諦める、外野席に……入る!
逆転満塁ホームラン。得点は二対四から六対四に変わる。
山阪はやり遂げたのだ。
「さぁ、どこからでもかかってこい!」
冷やかすように寄川が返す。
「それって堂林翔太のつもり?」
「いや、落合博満」
「ひょっとして中日ファン?」
「ドラゴンズの話は山阪さんとお願いします!」
ベンチの西詰が「俺もドラファンなんだけど……」と愚痴る。
そんな会話の後にテイターと寄川の戦いが始まる。寄川は九十キロほどの直球を投げる。
「ストライク!」
テンポ良く二球目。先ほどと同じような直球が内角やや高めに入る。
「ストライク・ツー!」
そこから恒例の遊び球が投じられる。
「ボール!」
カウントを数えてみよう、ワン・ツーだ。おそらく次はとどめの一球が来るだろう、テイターは気を引き締める。
寄川が四球目を投げる。九十一キロの真っ直ぐ、外角、高さはゾーンの中間くらい。好球とみたテイターは球の上部を引っぱたくように打ち、それを地面に叩きつける。
打球は大きく弾んで高く飛びあがる。全ランナーが走り出す。寄川が素早く動いてボールの落下地点に入り、捕球態勢に入る。
三塁ランナーの西詰は必死にホームへ突き進むが、彼がまだ本塁のずっと手前にいる時に寄川がボールを捕り、素早くホームへ投げる。
小荷田は何の苦も無く送球を受け取り、ホーム・プレートを踏む。
「アウト!」
直後、もう一つのアウトを狙って彼は一塁に投げる。ファースト稲川のミットへ向かって球が飛んでいく、彼が捕球するのとほぼ同時にテイターが一塁を駆け抜ける。
審判がセーフかどうかの判定をコールする。
「セーフ!」
ダブル・プレー失敗だ。寄川が舌打ちして言う。
「ったく、あと少しだったが!」
小荷田が慰める。
「失点せずに済んだんだ、OKだろ。それに、これでツーアウトだ。次の山阪を打ち取れば勝ったも同然だぜ」
「マジかよ?」
「試合時間は殆ど残ってない。どう考えたって次の俺たちの攻撃で試合終了になる。つまりだな、この五回表っていうのはプロ野球でいうと九回表なんだ。最後なんだよ」
「成る程……。なら、気合入れてくか!」
「三球三振で有終の美といこうぜ!」
そんな会話をしている二人の姿を眺めながら、山阪が右打席に入る。
目を閉じ、心を鎮め、ジム・モリスの姿を思い浮かべ、心中で彼に語り掛ける。
(ツーアウト満塁。ここで俺がホームラン打てば、満塁弾で逆転なんです。最近の俺はぜんぜん打ててない、でも、今こそ一発かっ飛ばさなくちゃいけないんです。ミスター・モリス、俺は出来るでしょうか。打てるでしょうか……?)
優しい笑顔を浮かべ、モリスは山阪を見ている。モリスの口がゆっくりと動いていく。
それは無音の音声だ。言語によるコミュニケーションではなく、ハートによるコミュニケーションだ。
山阪は英語ができない。けれど、彼はモリスからのメッセージを理解する。
(信じろ、諦めるな。夢はきっと叶う……)
モリスの姿が消えていく。まるで映画がフェード・アウトで終わっていくように。
けれど現実は続いている。それはそこにあって、確かに存在し続けている。
ツーアウト満塁。そういう状況で四番が打席に立ったなら、やるべき仕事はただ一つしかないのだ。
(今こそ俺はジム・モリスになる……!)
目を開き、心を奮い立たせ、家で朗報を待っている妻と娘の姿を思い浮かべ、ファルコンズの全員に聞こえるように叫ぶ。
「かっ飛ばす! やり遂げるぜ!」
バットを構える。
「寄川! 投げてこい!」
「おう!」
「やってやる!」
「仕留める!」
一騎討ちが始まる。試合の勝敗をかけた決闘が始まる。
最初の球はストライクで、次はボール球。三球目もボール球、四球目に真っ直ぐがきて打つ。
「ファール!」
ツー・ツー。追い込まれた。決着をつけるため、寄川が全力で速球を投げてくる。
(負けねぇ!)
打ち返す。
「ファール!」
小荷田から寄川にボールが投げ返される。カウントは依然としてツー・ツー、寄川、六球目となる真っ直ぐを投げる。
「ボール!」
フル・カウントだ。バッター、ピッチャー、どちらにも逃げ場がない。相手を倒すしかないのだ。
小荷田がサインを出す。寄川、しっかりと頷く。投球姿勢をとって……投げ込む!
(スライダー!)
魂をこめて山阪はバットを振るう。バットはスライダーを的確にとらえ、強烈な大飛球を打ち上げる。
カーーーーーーーン!
ボールは宇宙へ飛び立つロケットのようにぐんぐん飛んでいく。伸びる、伸びる、伸びる伸びる、左翼手が追うのを諦める、外野席に……入る!
逆転満塁ホームラン。得点は二対四から六対四に変わる。
山阪はやり遂げたのだ。
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