いいぞ頑張れファルコンズ 燃やせ草野球スピリット

夏野かろ

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第四章 ファルコンズ最高!(Falcons rules!)

第20話-2 藤ノ原の癖

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 四回表、ファルコンズの攻撃が始まる。先頭バッターは山阪、バットを手に藤ノ原へ叫ぶ。

「見てろよ、ここから逆転してやるぜ!」
「なら、まずは俺から打ってみろ!」

 第一球目が投げられる。外角高めに飛んでくるファスト・ボール、山阪は打ちにいこうとする。

(いや……この試合だけは初球打ちしねぇって決めたんだから!)

 自分に言い聞かせ、見送る。

「ボール!」

 なかなか際どいところだったが、打たなくて正解だった。もし手を出していればポップ・フライに終わっていただろう。
 藤ノ原は二球目を投げる。

(スライダー!)

「ストライク!」

 これでボール・ワン、ストライク・ワン。その次の速球は内角に決まってワン・ツーとなる。
 四球目はお決まりの遊び球、ボール球で、カウントはツー・ツーに進む。ここで藤ノ原が勝負に出る、思いっきり腕を振って速球を投じる。

 百キロの球がストライク・ゾーンの外角やや高めへ向かっていく。見逃すわけにはいかない、山阪のバットが動く。
 それは空を鋭く斬り裂いてボールに襲いかかる、結果は?

「ストライク・スリー!」

 空振り三振だ。山阪、「くそっ……」と言い捨て、首筋を掻きながらベンチへ帰っていく。
 ネクスト・バッターは五番の谷下だ。彼は静かに藤ノ原へ言う。

「調子良さそうじゃないですか?」
「そりゃどうも。小荷田が来てくれたんでね」
「なら、さっさと攻めてきたらいい」

 対戦が始まる。一球目は直球でボール球、二球目も直球でこれはストライクとなり、ワン・ワン。三球目でスライダーが来る、谷下は見送る。

「ストライク・ツー!」

 今のでボール・ワン、ストライク・ツーだ。そして四球目が投げられ、百二キロの速球が外角高めに飛ぶ。

「ボール・ツー!」

 これは遊び球のボール球だったのか、それともストライク狙いが逸れたのか。いずれにしろツー・ツー、次はトドメの一球が来る可能性が高い。
 谷下、構えを解いて深呼吸し、左肩を軽く回した後に構え直す。藤ノ原が投球姿勢に入り、五球目を投げる。

(内角やや高め、速球……!)

 谷下は迷わず打ちにいく。打球が一塁方向へ飛び、地面に落ち、審判が叫ぶ。

「ファウル!」

 あれはどう見てもストライクになる一球であり、もし見逃せば三振となっていた。しかし、差し込まれそうになりつつも何とか打った。出塁できる希望はまだ失われていない。
 藤ノ原、六球目を投げる。谷下はそれも打つ。

「ファウル!」

 藤ノ原が渋い顔つきをする。自慢の速球を粘り打ちされて不愉快らしい。だが気を取り直して七球目を投じる。
 それは内角へ切れ込んでくるようなスライダーだ。打つか、それとも見送り? 谷下は後者の決断を選ぶ。

「ボール・スリー!」

 ついにフル・カウントとなった。藤ノ原はキャッチャーから投げ返された球を受け取り、ロジン・バッグを使った後、サインのやり取りを始める。
 それをベンチから見ているめぐみが呟く。

「スライダーだ……」

 テイターが聞き返す。

「えっ、なんで?」
「私、気づいたかも。藤ノ原さんのピッチング、癖っていうのかな、そのおかげでサインが読める……」
「マジ?」

 矢井場がたずねる。

「もし本当ならありがたい話だがよ、なんだ、癖って?」
「あのですね、あの人、キャッチャーのサインに首を振る時がありますよね。その時、何回振るかっていうのは関係ないんです。サインを読む手掛かりはその後の頷きです」
「ほぅ……」
「真っ直ぐを投げるつもりなら一回だけ頷きます。そうじゃない、つまり、スライダーを投げるなら小さく二回です」
「しかし、それだけじゃなぁ……」
「まだあるんです。スライダーが来る時は、いつもより長くボールをグラブの中に入れてます。多分、しっかり握るために時間をかけてるんです」
「でもそういうのはお前の気のせいじゃないか?」
「なら、予言します。あの人さっき頷いてましたが、あれは二回でした。だから次はきっとスライダーです」
「おいおい、フル・カウントだぜ?」
「だからこそですよ。普通ならフォアボールを嫌がって直球勝負でくるはず、そういうバッターの読みを裏切ってのスライダーです」

 八球目が投げられる。それは明らかにスライダーで、内角へ動きつつストライク・ゾーンへ迫っていく。
 谷下はフォアボールに期待して、打たない。

「ストライク・スリー!」

 審判の声を聞き、谷下は思わず「はぁ……」と大きなため息をつく。藤ノ原は勝ち誇る。

「残念だったな!」

 そんな彼を見ながらめぐみは言う。

「監督、次に打つのは六番の中西さんですよね? 私、そこでも予言しますよ。当ててみせます」
「ずいぶん自信あるなぁ……」
「だって、前回の試合の時からずーっと観察してますから……」

 中西、右の打席に入り、バットを構える。それを見て藤ノ原は投球姿勢をとる。
 最初はボール球、次はストライク、その次もストライク。ワン・ツー、ここから遊び球を一つ投げてボール球、ツー・ツー。

 ここで藤ノ原はキャッチャーのサインに対して首を振る。キャッチャーは二度目のサインを送る、彼はまた首を振り、三度目のサインが送られ、そこでやっと二回小さく頷く。
 めぐみがしっかりとした声で言う。

「二回頷きました、それに、さっきより長くボールをグラブに入れてます。とどめにスライダーを投げるつもりなんです……」

 藤ノ原は四球目を放つ。スライダーだ。中西、打とうとするがバットが当たらない。

「ストライク・スリー!」

 西詰が驚いた声で言う。

「当たった……。凄い、江草さん……」
「ありがとう。でも、大事なのはここからだよ。チャンスでこれを活かして、しっかり結果に繋げないと」

 矢井場が話をまとめにかかる。

「チャンスはいずれやって来る、絶対にな。その時、痛い目にあわせてやろうぜ。とりあえずみんなにこれ教えてよ、次の攻撃で活用してこうぜ!」

 ベンチの一同は「はい!」と返事をする。
 先ほどの中西の空振り三振によってアウトが三つになり、この回は終わりだ。そして試合は四回の裏へ進む。
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