49 / 56
第四章 ファルコンズ最高!(Falcons rules!)
第20話-2 藤ノ原の癖
しおりを挟む
四回表、ファルコンズの攻撃が始まる。先頭バッターは山阪、バットを手に藤ノ原へ叫ぶ。
「見てろよ、ここから逆転してやるぜ!」
「なら、まずは俺から打ってみろ!」
第一球目が投げられる。外角高めに飛んでくるファスト・ボール、山阪は打ちにいこうとする。
(いや……この試合だけは初球打ちしねぇって決めたんだから!)
自分に言い聞かせ、見送る。
「ボール!」
なかなか際どいところだったが、打たなくて正解だった。もし手を出していればポップ・フライに終わっていただろう。
藤ノ原は二球目を投げる。
(スライダー!)
「ストライク!」
これでボール・ワン、ストライク・ワン。その次の速球は内角に決まってワン・ツーとなる。
四球目はお決まりの遊び球、ボール球で、カウントはツー・ツーに進む。ここで藤ノ原が勝負に出る、思いっきり腕を振って速球を投じる。
百キロの球がストライク・ゾーンの外角やや高めへ向かっていく。見逃すわけにはいかない、山阪のバットが動く。
それは空を鋭く斬り裂いてボールに襲いかかる、結果は?
「ストライク・スリー!」
空振り三振だ。山阪、「くそっ……」と言い捨て、首筋を掻きながらベンチへ帰っていく。
ネクスト・バッターは五番の谷下だ。彼は静かに藤ノ原へ言う。
「調子良さそうじゃないですか?」
「そりゃどうも。小荷田が来てくれたんでね」
「なら、さっさと攻めてきたらいい」
対戦が始まる。一球目は直球でボール球、二球目も直球でこれはストライクとなり、ワン・ワン。三球目でスライダーが来る、谷下は見送る。
「ストライク・ツー!」
今のでボール・ワン、ストライク・ツーだ。そして四球目が投げられ、百二キロの速球が外角高めに飛ぶ。
「ボール・ツー!」
これは遊び球のボール球だったのか、それともストライク狙いが逸れたのか。いずれにしろツー・ツー、次はトドメの一球が来る可能性が高い。
谷下、構えを解いて深呼吸し、左肩を軽く回した後に構え直す。藤ノ原が投球姿勢に入り、五球目を投げる。
(内角やや高め、速球……!)
谷下は迷わず打ちにいく。打球が一塁方向へ飛び、地面に落ち、審判が叫ぶ。
「ファウル!」
あれはどう見てもストライクになる一球であり、もし見逃せば三振となっていた。しかし、差し込まれそうになりつつも何とか打った。出塁できる希望はまだ失われていない。
藤ノ原、六球目を投げる。谷下はそれも打つ。
「ファウル!」
藤ノ原が渋い顔つきをする。自慢の速球を粘り打ちされて不愉快らしい。だが気を取り直して七球目を投じる。
それは内角へ切れ込んでくるようなスライダーだ。打つか、それとも見送り? 谷下は後者の決断を選ぶ。
「ボール・スリー!」
ついにフル・カウントとなった。藤ノ原はキャッチャーから投げ返された球を受け取り、ロジン・バッグを使った後、サインのやり取りを始める。
それをベンチから見ているめぐみが呟く。
「スライダーだ……」
テイターが聞き返す。
「えっ、なんで?」
「私、気づいたかも。藤ノ原さんのピッチング、癖っていうのかな、そのおかげでサインが読める……」
「マジ?」
矢井場がたずねる。
「もし本当ならありがたい話だがよ、なんだ、癖って?」
「あのですね、あの人、キャッチャーのサインに首を振る時がありますよね。その時、何回振るかっていうのは関係ないんです。サインを読む手掛かりはその後の頷きです」
「ほぅ……」
「真っ直ぐを投げるつもりなら一回だけ頷きます。そうじゃない、つまり、スライダーを投げるなら小さく二回です」
「しかし、それだけじゃなぁ……」
「まだあるんです。スライダーが来る時は、いつもより長くボールをグラブの中に入れてます。多分、しっかり握るために時間をかけてるんです」
「でもそういうのはお前の気のせいじゃないか?」
「なら、予言します。あの人さっき頷いてましたが、あれは二回でした。だから次はきっとスライダーです」
「おいおい、フル・カウントだぜ?」
「だからこそですよ。普通ならフォアボールを嫌がって直球勝負でくるはず、そういうバッターの読みを裏切ってのスライダーです」
八球目が投げられる。それは明らかにスライダーで、内角へ動きつつストライク・ゾーンへ迫っていく。
谷下はフォアボールに期待して、打たない。
「ストライク・スリー!」
審判の声を聞き、谷下は思わず「はぁ……」と大きなため息をつく。藤ノ原は勝ち誇る。
「残念だったな!」
そんな彼を見ながらめぐみは言う。
「監督、次に打つのは六番の中西さんですよね? 私、そこでも予言しますよ。当ててみせます」
「ずいぶん自信あるなぁ……」
「だって、前回の試合の時からずーっと観察してますから……」
中西、右の打席に入り、バットを構える。それを見て藤ノ原は投球姿勢をとる。
最初はボール球、次はストライク、その次もストライク。ワン・ツー、ここから遊び球を一つ投げてボール球、ツー・ツー。
ここで藤ノ原はキャッチャーのサインに対して首を振る。キャッチャーは二度目のサインを送る、彼はまた首を振り、三度目のサインが送られ、そこでやっと二回小さく頷く。
めぐみがしっかりとした声で言う。
「二回頷きました、それに、さっきより長くボールをグラブに入れてます。とどめにスライダーを投げるつもりなんです……」
藤ノ原は四球目を放つ。スライダーだ。中西、打とうとするがバットが当たらない。
「ストライク・スリー!」
西詰が驚いた声で言う。
「当たった……。凄い、江草さん……」
「ありがとう。でも、大事なのはここからだよ。チャンスでこれを活かして、しっかり結果に繋げないと」
矢井場が話をまとめにかかる。
「チャンスはいずれやって来る、絶対にな。その時、痛い目にあわせてやろうぜ。とりあえずみんなにこれ教えてよ、次の攻撃で活用してこうぜ!」
ベンチの一同は「はい!」と返事をする。
先ほどの中西の空振り三振によってアウトが三つになり、この回は終わりだ。そして試合は四回の裏へ進む。
「見てろよ、ここから逆転してやるぜ!」
「なら、まずは俺から打ってみろ!」
第一球目が投げられる。外角高めに飛んでくるファスト・ボール、山阪は打ちにいこうとする。
(いや……この試合だけは初球打ちしねぇって決めたんだから!)
自分に言い聞かせ、見送る。
「ボール!」
なかなか際どいところだったが、打たなくて正解だった。もし手を出していればポップ・フライに終わっていただろう。
藤ノ原は二球目を投げる。
(スライダー!)
「ストライク!」
これでボール・ワン、ストライク・ワン。その次の速球は内角に決まってワン・ツーとなる。
四球目はお決まりの遊び球、ボール球で、カウントはツー・ツーに進む。ここで藤ノ原が勝負に出る、思いっきり腕を振って速球を投じる。
百キロの球がストライク・ゾーンの外角やや高めへ向かっていく。見逃すわけにはいかない、山阪のバットが動く。
それは空を鋭く斬り裂いてボールに襲いかかる、結果は?
「ストライク・スリー!」
空振り三振だ。山阪、「くそっ……」と言い捨て、首筋を掻きながらベンチへ帰っていく。
ネクスト・バッターは五番の谷下だ。彼は静かに藤ノ原へ言う。
「調子良さそうじゃないですか?」
「そりゃどうも。小荷田が来てくれたんでね」
「なら、さっさと攻めてきたらいい」
対戦が始まる。一球目は直球でボール球、二球目も直球でこれはストライクとなり、ワン・ワン。三球目でスライダーが来る、谷下は見送る。
「ストライク・ツー!」
今のでボール・ワン、ストライク・ツーだ。そして四球目が投げられ、百二キロの速球が外角高めに飛ぶ。
「ボール・ツー!」
これは遊び球のボール球だったのか、それともストライク狙いが逸れたのか。いずれにしろツー・ツー、次はトドメの一球が来る可能性が高い。
谷下、構えを解いて深呼吸し、左肩を軽く回した後に構え直す。藤ノ原が投球姿勢に入り、五球目を投げる。
(内角やや高め、速球……!)
谷下は迷わず打ちにいく。打球が一塁方向へ飛び、地面に落ち、審判が叫ぶ。
「ファウル!」
あれはどう見てもストライクになる一球であり、もし見逃せば三振となっていた。しかし、差し込まれそうになりつつも何とか打った。出塁できる希望はまだ失われていない。
藤ノ原、六球目を投げる。谷下はそれも打つ。
「ファウル!」
藤ノ原が渋い顔つきをする。自慢の速球を粘り打ちされて不愉快らしい。だが気を取り直して七球目を投じる。
それは内角へ切れ込んでくるようなスライダーだ。打つか、それとも見送り? 谷下は後者の決断を選ぶ。
「ボール・スリー!」
ついにフル・カウントとなった。藤ノ原はキャッチャーから投げ返された球を受け取り、ロジン・バッグを使った後、サインのやり取りを始める。
それをベンチから見ているめぐみが呟く。
「スライダーだ……」
テイターが聞き返す。
「えっ、なんで?」
「私、気づいたかも。藤ノ原さんのピッチング、癖っていうのかな、そのおかげでサインが読める……」
「マジ?」
矢井場がたずねる。
「もし本当ならありがたい話だがよ、なんだ、癖って?」
「あのですね、あの人、キャッチャーのサインに首を振る時がありますよね。その時、何回振るかっていうのは関係ないんです。サインを読む手掛かりはその後の頷きです」
「ほぅ……」
「真っ直ぐを投げるつもりなら一回だけ頷きます。そうじゃない、つまり、スライダーを投げるなら小さく二回です」
「しかし、それだけじゃなぁ……」
「まだあるんです。スライダーが来る時は、いつもより長くボールをグラブの中に入れてます。多分、しっかり握るために時間をかけてるんです」
「でもそういうのはお前の気のせいじゃないか?」
「なら、予言します。あの人さっき頷いてましたが、あれは二回でした。だから次はきっとスライダーです」
「おいおい、フル・カウントだぜ?」
「だからこそですよ。普通ならフォアボールを嫌がって直球勝負でくるはず、そういうバッターの読みを裏切ってのスライダーです」
八球目が投げられる。それは明らかにスライダーで、内角へ動きつつストライク・ゾーンへ迫っていく。
谷下はフォアボールに期待して、打たない。
「ストライク・スリー!」
審判の声を聞き、谷下は思わず「はぁ……」と大きなため息をつく。藤ノ原は勝ち誇る。
「残念だったな!」
そんな彼を見ながらめぐみは言う。
「監督、次に打つのは六番の中西さんですよね? 私、そこでも予言しますよ。当ててみせます」
「ずいぶん自信あるなぁ……」
「だって、前回の試合の時からずーっと観察してますから……」
中西、右の打席に入り、バットを構える。それを見て藤ノ原は投球姿勢をとる。
最初はボール球、次はストライク、その次もストライク。ワン・ツー、ここから遊び球を一つ投げてボール球、ツー・ツー。
ここで藤ノ原はキャッチャーのサインに対して首を振る。キャッチャーは二度目のサインを送る、彼はまた首を振り、三度目のサインが送られ、そこでやっと二回小さく頷く。
めぐみがしっかりとした声で言う。
「二回頷きました、それに、さっきより長くボールをグラブに入れてます。とどめにスライダーを投げるつもりなんです……」
藤ノ原は四球目を放つ。スライダーだ。中西、打とうとするがバットが当たらない。
「ストライク・スリー!」
西詰が驚いた声で言う。
「当たった……。凄い、江草さん……」
「ありがとう。でも、大事なのはここからだよ。チャンスでこれを活かして、しっかり結果に繋げないと」
矢井場が話をまとめにかかる。
「チャンスはいずれやって来る、絶対にな。その時、痛い目にあわせてやろうぜ。とりあえずみんなにこれ教えてよ、次の攻撃で活用してこうぜ!」
ベンチの一同は「はい!」と返事をする。
先ほどの中西の空振り三振によってアウトが三つになり、この回は終わりだ。そして試合は四回の裏へ進む。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる