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第四章 ファルコンズ最高!(Falcons rules!)

第13話 実力が足りないから負けるのだ

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 雨天と遅延行為の合わせ技による引き分け。あんまりといえばあんまりな結果である。
 試合終了後、矢井場は柿内に猛抗議したものの、「これも作戦のうち」と一蹴されて相手にされず、ファルコンズの一同は涙味のしょっぱい思いをするしかなかった。

 こうなった背景には柿内や藤ノ原の事情が関係している。柿内たちはある人間と賭けをしており、負ければ大金を支払わなければならかったのだ。故に、なりふり構わず勝ちにいった。
 とはいえ柿内たちにも良心がある。彼らだって、やらずに済めばそれが一番だったと思っていたのだ。

 そういうわけで、矢井場からの抗議の際、柿内は罪滅ぼしのつもりで後日の再試合を提案し、結果、両チームは翌月である七月にまた勝負することになった。



 その日の水曜練習は室内練習場で行うことになっていた。といっても、天気が悪かったわけではない。練習場にはミーティングに使える部屋があり、練習後、西詰たちはそこで今後のことを相談しあう予定を立てていたのだ。
 部屋にはホワイトボードやDVDを再生する機器などが備え付けられており、様々なことが出来るようになっている。そして今、部屋の中には、西詰、テイター、めぐみ、デイビッド、山阪、谷下、矢井場の七人が揃っている。

 みんな、学業や仕事の都合を無理矢理つけて集まったのだ。そういうわけだから、会社勤めの月屋などは参加していない。
 もちろん矢井場としては来て欲しかったのだが、無理なものは仕方ない。とりあえず集まれる人間だけでも集まって話し合う、そういうことで彼は納得した。

 さて、ミーティングである。ホワイトボード前の矢井場が話を始める。

「みんな、この間はお疲れ様だ。ったく、どうしようもねぇ試合だったな……。でもまぁ、俺だって納得してるわけじゃねぇけど、勝てなかったのは俺たちの実力不足って面もあるだろう」

 早速テイターが挙手する。

「でもあいつらがモタモタしたのが根本的な原因じゃないですか!」
「そりゃそうだ。しかしよ、そもそもの話、俺たちがもっと得点すりゃあ勝てたんじゃねぇか?」
「それは……そうですけど……」
「結局よぉ、勝てる勝てないは俺たち自身の問題よ。あぁいう小細工されても余裕で勝つ、本当に強いチームってのはそうだろう」

 谷下が手を挙げる。

「監督は何が敗北の原因と思っているんですか?」
「そら色々あるけどよ。まずは守備だろう」

 守備。それを聞いた山阪は、申し訳なさそうな顔と声で言う。

「すんません、あんなとこでヘディングしちまって……」
「それはもういいじゃねぇか。そら勿論、エラーしないのがベストだがよ。本当に大事なのは普段のプレイだと思うぜ」

 谷下がまた手を挙げる。

「キャッチャーとしてみんなを見ていて思うんですが、無駄な動きを減らしていけるともっといいんじゃないでしょうか」
「たとえば?」
「たとえば、ゴロを捕る時は前進しながらにする。球がバウンドする高さに自分から合わせていくわけです。球が来るのを待っていると、その時間が無駄になります」
「実際そういう細かいことが大事だよな。じゃあまずそれだ」

 矢井場はホワイトボードに「無駄な動きを減らす」と書く。
 山阪が谷下に突っ込みを入れる。

「そういうお前はどうなんだよ、自分の守備は?」
「僕だってまだまだ未熟だし、もっと頑張ろうって思うよ。この前だって、キャッチャー・フライを捕り損なったせいで守備が長引いて、それで比良さんに迷惑かけたわけだし」
「あそこでお前が捕ってりゃあスリー・アウトだったもんな……」

 話が一部の参加者たちの間だけで回るのはいいことではない。若年層の意見も聞くべく、矢井場はまずテイターに水を向ける。

「テイター、お前は何か意見ねぇのか?」
「あたしですか? 個人的な意見ですけど、もっと得点力があればなぁって思います」
「得点力か……」
「もう少し爆発力が欲しいって感じる時があるんです」
「なるほどな」

 ホワイトボードに「得点力の強化」という言葉が書かれる。その後、矢井場は言う。

「江草は意見あるか?」
「あの、私思うんですけど……。得点するためには、相手ピッチャーを疲れさせることが必要じゃないでしょうか」
「どういうことだ?」
「私、この間からセイバーメトリクスっていうの勉強してるんですけど、あっ、ご存知ですか?」
「少しだけな。難しいことは分かんねぇぞ」
「はい。本によると、とにかく相手に投げさせる、無駄な球を使わせるってことが大事なんだそうです」
「そりゃそうだが、具体的にどうすりゃいいんだ?」
「たとえば、初球打ちを控える。野球ってツー・ストライクまでは大丈夫なわけです。仮に見逃し三振としても、ピッチャーはそれまでに三球投げてる。でも初球打ちでアウトになったら一球のみ、差し引き二球も違う」
「なるほどな……」

 山阪が異論を唱える。

「しかしよぉ、最初からガンガン振っていってプレッシャーかけるってのも大事だろう」
「それもあると思います。だからその、時と場合によるというか、チャンスと思ったら初球打ちでもいいわけで……」

 デイビッドが山阪に自論を述べる。

「試合の序盤、なるべく初球打ちしない。後半、相手が疲れてる、そこで積極的にいく。それはいいことではないですか?」
「でもなぁ、何か弱気というかよぉ……」
「相手にたくさん投げさせる、いいことあります。球の動き、投げる時の癖、理解できる。私はそれが好きなのです、だから私は初球打ちしない。相手が理解できた時、そこから打ちにいきます」
「そういうやり方も分かるが、俺としてはなぁ……」

 メンバー同士が衝突しそうな時、それをどうにかするのは監督の仕事の一つである。矢井場は言う。

「その問題はとりあえずそこまでだ。難しい問題だからよ、今後みんなでじっくり考えてこうぜ」

 めぐみが申し訳なさそうに言う。

「すみません、私の発言のせいで……」
「別にお前のせいじゃねぇよ。人それぞれ意見があるし、場合によっちゃあ対立する。大事なのはよ、話し合ってお互い理解することだからよ。兎に角この話はいったん終わり、それで、西詰は意見あるか?」

 彼は口を開く。

「俺はその、特に意見とかはないです。練習頑張って上手くなって、今度こそスパローズを倒す。それだけです」
「気合入ってるじゃねぇか」
「俺、後悔してるんですよ。俺がもっと強かったら三者連続三振で攻守交替、そしたらみんなが攻める時間もっと作れた。そう思ってるんです」
「まぁそう思い詰めるなよ。お前だけで野球してるわけじゃねぇんだからよ。負けたのは誰か一人の責任じゃなく、俺も含めたチームみんなの責任なんだ。それを忘れんなよ」
「はい」

 ミーティングはそれからも続き、様々なことが話題に上った。
 そして約一時間後、施設の利用可能時間も終わりに近づき、西詰たちはいったんそこでお開きにすることにした。

 矢井場が締めくくりの言葉を言う。

「兎に角よ、頑張ってこうぜ。再試合までまだ時間あるんだしよ、たっぷり練習しようじゃねぇか。それとな、さっき外野の話が出たけど、さやちゃん復帰するぞ」

 さやちゃん。西詰は、(どこかで聞いたことあるような名前だな)と思い、質問する。

「すみません、その人ってどういう人なんですか?」
「城さや子っていうんだが、うちの頼れるレフトだよ。骨折で休んでたんだが、めでたく治ってリハビリも済んでよ。今度の日曜練習から参加だぜ」
「分かりました」
「すげぇ美人だからよ、会ったら腰抜かすぜ、おめぇ! でもみんなのアイドルだからな、惚れるんじゃねぇぞ?」

 言って、矢井場はガハハと笑う。同時に、めぐみが憂鬱そうな表情を浮かべる。
 もっとも、誰もめぐみのそれに気づかなかったが……。
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