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第三章 倒せ大川スパローズ
第12話-4 ユー・バスタード!(You bastard!)
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二番の中西が右打席に入る。今日は二打席ゼロ安打、四球も死球もないが、ここは何かの活躍を見せられるのか。
藤ノ原が第一球目を投げる。時間稼ぎが目的の露骨な遅球だ。
「ボール!」
その次は一塁にけん制球、その次もけん制。そんなことが行われている間、風は少しずつ強くなり、雨雲はますます広がっていく。
矢井場が吐き捨てるように言う。
「なんだよあいつ、鬱陶しい!」
谷下が答える。
「でも、悪いことばかりじゃない。ボール球が増えるのは相手にとってマイナスだし、これだけ風が吹けばコントロール失敗でフォアボールの可能性もある」
二球目が投げられる。今度はストライクになる。ボール・ワン、ストライク・ワン。またけん制して、それから遅い直球を内角高めに投げる。ストライクを狙ったそれは少しコントロールがズレてボール球になる。ツー・ワンだ。
さすがにボール三つはまずい。藤ノ原は直球でストライクを取りにいく、だがそれは風に流されてゾーンの外へいく。
「ボール・スリー!」
球がキャッチャーから藤ノ原に投げ返される。彼は、ここでまたけん制球、さらにけん制球で時間を稼ぐ。それから改めて投球姿勢をとり、直球でストライクを取りにいく。
だが、時速百キロほどのそれは、投げそこなったせいでゾーンのずっと上にそれてしまう。
「ボール・フォー!」
審判のコールを聞き、中西が一塁へ歩いていく。一塁ランナーのデイビッドも押し出される形で二塁へ進む。
笑いながら山阪が言う。
「ざまぁみろ、せこいことするからだぜ!」
無死一塁二塁、大チャンスが訪れた。ここで登場するのは三番のテイター、彼女の打力なら得点できるかもしれない。
彼女は左打席に入り、堂々と神主打法の構えを取って藤ノ原に叫ぶ。
「よっしゃ! かっ飛ばす!」
「できねぇよ!」
「出来る!」
「できねぇ!」
「出来る!」
「うるせぇ!」
藤ノ原は少し焦っている。まさかここまで悪い状況を作ってしまうとは思っていなかったからだ。
それに、三回の裏、彼はテイターに打たれて一点を失っている。もしかするとまた打たれるかもしれない、それが嫌なのだ。
不安を振り払うかのように彼は投げ始める。一塁にけん制球、さらにもう一球。やたら緩慢なその動きに怒ったテイターが大声を出す。
「ちょっとー! いつまでそれやってんの!」
「いいだろ別に! 俺の勝手だ!」
ファルコン陣営からも抗議の声があがる。「汚ねぇぞ!」「あんた、正々堂々やんなさいよ!」。藤ノ原はそれら全てを無視し、投球姿勢に入る。
最初の球は直球、これはボール球になる。彼は次も直球を投げ、今度はストライクを取る。カウントはワン・ワン、ここからまた一塁にけん制球を投げる。
テイターから彼に怒声が浴びせられる。
「卑怯者ー!」
「あぁ!? なんだって!?」
「You bastard!(ユー・バスタード!)」
矢井場は西詰に質問する。
「今あいつ何て言ったんだ?」
歯切れ悪く彼は答える。
「まぁ、その、日本語で言うと「馬鹿野郎!」みたいな、そんな感じで……」
馬鹿野郎、かなりキツい表現だが、西詰としてはこれでもかなり穏やかな翻訳をしたつもりである。
バスタードの元々の意味は「私生児」だが、これは欧米だと非常に軽蔑される存在であり、そういった事情も含めてきちんと翻訳するなら「ゴミクズ!」「妾のクソガキ!」「人間の出来損ない!」ぐらいがぴったりだろうか。
もし英語圏の人間にこれを言ったら殺し合いになってもおかしくないというどぎつい罵倒である。それを口にしたのだから、テイターの心中がどうなっているかは想像するに余りある。
藤ノ原は英語ができる人間ではない。だが、非常に侮辱的な発言をされたことだけは理解できた。言語や文化や国が違っていても、こういうことはすぐ伝わるものなのだ。怒りに震えながら藤ノ原は三球目を投げる。
力任せの真っ直ぐは百二キロのスピードで内角に決まる。
「ストライク!」
これでワン・ツーだ。後はとどめを刺すだけ、彼は渾身の力をこめて四球目を外角へ投げこむ。
なるほど球は速い、今度は百五キロは出ていそうだ。しかし乱暴に投げたせいでコントロールが甘い、思いっきり高いところに入っている。それを見逃すテイターではない、差し込まれつつも強引に打ち返す。
打球は二遊間へ飛んでゴロになる。中堅手が処理に行く、その間に一塁ランナーも二塁ランナーもそれぞれ次の塁に進む。打ったテイターは一塁でストップだ。
まさかの失態に腹を立て、藤ノ原は言い捨てる。
「クソッタレ!」
ここにきてノー・アウトの満塁という大チャンスが出現した。そして、次に打つのは四番山阪だ。
今度こそ彼は四番らしい長打を放てるのか、それとも、馬鹿らしいゲッツーやトリプル・プレーで終わってしまうのか。
藤ノ原が第一球目を投げる。時間稼ぎが目的の露骨な遅球だ。
「ボール!」
その次は一塁にけん制球、その次もけん制。そんなことが行われている間、風は少しずつ強くなり、雨雲はますます広がっていく。
矢井場が吐き捨てるように言う。
「なんだよあいつ、鬱陶しい!」
谷下が答える。
「でも、悪いことばかりじゃない。ボール球が増えるのは相手にとってマイナスだし、これだけ風が吹けばコントロール失敗でフォアボールの可能性もある」
二球目が投げられる。今度はストライクになる。ボール・ワン、ストライク・ワン。またけん制して、それから遅い直球を内角高めに投げる。ストライクを狙ったそれは少しコントロールがズレてボール球になる。ツー・ワンだ。
さすがにボール三つはまずい。藤ノ原は直球でストライクを取りにいく、だがそれは風に流されてゾーンの外へいく。
「ボール・スリー!」
球がキャッチャーから藤ノ原に投げ返される。彼は、ここでまたけん制球、さらにけん制球で時間を稼ぐ。それから改めて投球姿勢をとり、直球でストライクを取りにいく。
だが、時速百キロほどのそれは、投げそこなったせいでゾーンのずっと上にそれてしまう。
「ボール・フォー!」
審判のコールを聞き、中西が一塁へ歩いていく。一塁ランナーのデイビッドも押し出される形で二塁へ進む。
笑いながら山阪が言う。
「ざまぁみろ、せこいことするからだぜ!」
無死一塁二塁、大チャンスが訪れた。ここで登場するのは三番のテイター、彼女の打力なら得点できるかもしれない。
彼女は左打席に入り、堂々と神主打法の構えを取って藤ノ原に叫ぶ。
「よっしゃ! かっ飛ばす!」
「できねぇよ!」
「出来る!」
「できねぇ!」
「出来る!」
「うるせぇ!」
藤ノ原は少し焦っている。まさかここまで悪い状況を作ってしまうとは思っていなかったからだ。
それに、三回の裏、彼はテイターに打たれて一点を失っている。もしかするとまた打たれるかもしれない、それが嫌なのだ。
不安を振り払うかのように彼は投げ始める。一塁にけん制球、さらにもう一球。やたら緩慢なその動きに怒ったテイターが大声を出す。
「ちょっとー! いつまでそれやってんの!」
「いいだろ別に! 俺の勝手だ!」
ファルコン陣営からも抗議の声があがる。「汚ねぇぞ!」「あんた、正々堂々やんなさいよ!」。藤ノ原はそれら全てを無視し、投球姿勢に入る。
最初の球は直球、これはボール球になる。彼は次も直球を投げ、今度はストライクを取る。カウントはワン・ワン、ここからまた一塁にけん制球を投げる。
テイターから彼に怒声が浴びせられる。
「卑怯者ー!」
「あぁ!? なんだって!?」
「You bastard!(ユー・バスタード!)」
矢井場は西詰に質問する。
「今あいつ何て言ったんだ?」
歯切れ悪く彼は答える。
「まぁ、その、日本語で言うと「馬鹿野郎!」みたいな、そんな感じで……」
馬鹿野郎、かなりキツい表現だが、西詰としてはこれでもかなり穏やかな翻訳をしたつもりである。
バスタードの元々の意味は「私生児」だが、これは欧米だと非常に軽蔑される存在であり、そういった事情も含めてきちんと翻訳するなら「ゴミクズ!」「妾のクソガキ!」「人間の出来損ない!」ぐらいがぴったりだろうか。
もし英語圏の人間にこれを言ったら殺し合いになってもおかしくないというどぎつい罵倒である。それを口にしたのだから、テイターの心中がどうなっているかは想像するに余りある。
藤ノ原は英語ができる人間ではない。だが、非常に侮辱的な発言をされたことだけは理解できた。言語や文化や国が違っていても、こういうことはすぐ伝わるものなのだ。怒りに震えながら藤ノ原は三球目を投げる。
力任せの真っ直ぐは百二キロのスピードで内角に決まる。
「ストライク!」
これでワン・ツーだ。後はとどめを刺すだけ、彼は渾身の力をこめて四球目を外角へ投げこむ。
なるほど球は速い、今度は百五キロは出ていそうだ。しかし乱暴に投げたせいでコントロールが甘い、思いっきり高いところに入っている。それを見逃すテイターではない、差し込まれつつも強引に打ち返す。
打球は二遊間へ飛んでゴロになる。中堅手が処理に行く、その間に一塁ランナーも二塁ランナーもそれぞれ次の塁に進む。打ったテイターは一塁でストップだ。
まさかの失態に腹を立て、藤ノ原は言い捨てる。
「クソッタレ!」
ここにきてノー・アウトの満塁という大チャンスが出現した。そして、次に打つのは四番山阪だ。
今度こそ彼は四番らしい長打を放てるのか、それとも、馬鹿らしいゲッツーやトリプル・プレーで終わってしまうのか。
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