上 下
19 / 56
第二章 フレンズ(Friends)

第7話-4 自販機ナード

しおりを挟む
 今、西詰とテイターはバッティングセンター内にあるベンチに座り、どちらもアルミ缶入りの飲み物を飲んでいる。西詰か手にしているのは紅茶で、テイターのはコーラだ。
 不満そうな口調でテイターは言う。

「まったく、ムキになって戦ってさ。ちょっとは手加減してよ……」
「やだよ、勝負の世界は情け無用だろ」
「もぉ……」

 コーラを一口飲み、彼女は話を続ける。

「それにしてもさー、日本って自動販売機いっぱいあるよねー。ねぇねぇ、なんで?」
「そんなん俺に言われたってさ……」
「アメリカじゃこんなに沢山なかったよー。そりゃ、学校とかには置いてあったけど、日本みたいに街中にたくさんあるなんて、そんなん珍しかったよ」
「なんでさ?」
「だって壊されたり中身盗まれたりするもん」
「治安悪っ……」
「しょうがないよ、日本と文化違うもん。にしても、ほんと自販機って面白いよねー。あたしこれ結構好きでさぁ、新しい商品見るととつい買っちゃうんだ」
「お気に入りとかあんの?」
「あれあれ。お汁粉」
「おしるこ……?」
「お汁粉。おいしいよ?」
「はは……」
「他にもねー、好きなの色々あるよ。あの、炭酸入ってるオレンジの……オレンジーノだっけ? あれ好きー。あとあと、ナタデココ入ってる薄味カルピスみたいなのも好き」
「なんでそんな詳しいの……。お前、もしかして自販機マニア?」
「……まにあ?」

 困惑した顔をするテイター。

「どうした、テイター?」
「うーん、その、 mania (マニア)っていうのはそういう意味とちょっと違うんだよ。そもそも発音が違う、 mania を無理やり日本語っぽく言うとメィニィアかなぁ」
「へぇ……。日本語のマニアって、じゃあ英語だとなんて言うの?」
「うーん、なんだろ……。 メィニィアック(maniac)かなぁ? いや、ちょっと違う……。まぁ nerd(ナード)とかそのあたりじゃない? うん、だからあたしは自販機ナードだな」
「でもさ、ナードって、日本語で言ったらアキバ系のオタクみたいな意味なんでしょ。そんくらいは知ってるよ」
「実際そうなんだけど、適切な言葉が思い浮かばなくて……。」

 テイターはごくごくとコーラを飲み、話を続ける。

「ぷはー、炭酸はこのしゅわしゅわがいいよねー」
「よくそんな一気に飲めるな……」
「海外は炭酸飲料ばっかだからね。そこで暮らしてりゃ、体が慣れてがぶがぶ飲めるようになるよ。まぁそれはそれとしてさ、今度の試合の話しよーよ」
「鎌崎ジャイアンツって実際どうなんだろうな。山阪さんは大したことないって言ってたけど」
「あはは、あの人らしいコメントだねー。あたしは戦ったことあるから分かるけどさ、強いか弱いかは相手のメンバー次第だよ。あっちの先発が上木原って人だとやばいかもね。カーブ投げてくるから」
「やっぱ変化球打てる人って少ないの?」
「うん。あたしもちょっと苦手だなー、まぁ、気合い入れれば打てるけどね!」
「テイター以外だと誰が打てんの?」
「そうだなぁ、山阪さんや谷下さんなら大丈夫じゃない? 後は分かんないなー……。デイビットは厳しいかも」
「なるほどね……。じゃあ得点はあんまり期待できないわけか。打ち合いよりも投手戦になりそうだな」
「まぁそうなるって決まったわけじゃないけど、覚悟しとく必要はあるかもね、ちなみに、投手戦を英語で言うと pitcher's duel (ピッチャーズ・デュエル)だよ」
「カッコいいな、それ」
「そうかも。まぁ攻撃はあたしや他の人たちに任せてさ、歩はどーんと相手打線をやっつけてよ! あたし、期待してるから!」
「了解……」

 言って、西詰は紅茶を飲み、話を続ける。

「相手のバッターは誰がやばい?」
「んー、四番の玉橋さんかな。ポジションは外野、右投げ左打ち。とにかくバットに当ててくるからね、気をつけて」
「足は速いの?」
「うん、割と。でも安心して、ショートゴロだったらあたしが捕って、バシッと送球してアウトにするから!」
「お前、いつも自信満々だよな……」
「だってさぁ、人生は強気強気でいかないと! 弱気になったら勝負事に負けちゃうからね、歩もあたしを見習って気合い入れてこう!」

 テイターは歩の肩をどーんと叩き、にこにこ笑って励ます。その笑顔は心の底から明るく、それを見た歩は少し勇気づけられた。
 後は試合に出陣するのを待つだけである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...